ep.03 手合わせ

「――っ」


 直上から振り下ろされた竹刀を佐藤は何とか弾き返す。そのまま追撃が来る前に安全圏へと距離を取った。

 呼吸を1つ。スポーツ剣術用の防護ヘルメットに籠った空気は熱く、焼けるような感覚が肺を襲った。

 正直、ヘルメットも体の各所につけたプロテクターも熱くて仕方がない。今すぐにでも脱いでしまいたいくらいだが、脱ぐわけにはいかない。絶対に。

 相対する相手は太東恭介――〈風刃烈波〉サブライ・浪の転生者なのだから。

 神代最強の剣客。勇者と魔王とはまた異なる頂点に立つ存在。人格を伴っていないとはいえ、太東が継承した技能は本物だ。力の担い手が本人ではない以上、その技能を100%再現できるわけではない。だが、それでも何の力も持たない何処にでもいそうな少年なぞ簡単にひねりつぶすことが出来る。骨折ではすまない怪我を負わせることなんて彼の技能では朝飯前だろう。

 ごくりと喉を鳴らした佐藤は、改めて竹刀の柄を握りしめて正面に立つ相手を見据える。

 太東の構えは右手を柄に添え、左に刀を佩く居合の構え。伝承に伝え聞くサブライ・浪の基本の構えだった。

 佐藤は竹刀に添えられている太東の右手に視線を集中させる。

 

(剣を抜く直後に一撃入れられれば……!)


 そして、直後にそれが来た。太東の右手に竹刀を抜かんと力が入る。

 右手の動きを見逃す佐藤ではない。弾かれたように踏み込むと、右手めがけて己が竹刀を振り下ろす。


(とっ――?!)


 勝利の確信は、しかし抱いた瞬間から零れ落ちて行った。

 太東は竹刀を抜かなかった。

 すなわちフェイント。佐藤の狙いを悟った太東は、わざと佐藤の策に乗り大振りの攻撃を誘ったのだ。

 しまった。そう思ってももう遅い。もう体は右手を狙い、真っすぐに剣を振り下ろしている。

 太東の口の端が吊り上がるのが得意げに上がるのが見えた。素人相手に勝ったところで喜ばないで欲しい、なんて負け惜しみ染みた感想が佐藤の胸に湧き上がる。

 そうして。太東は佐藤の竹刀の切っ先をひらりと右に避けて交わした。踏み込みを止めることが出来ない佐藤が自身の背面へ行ってしまうのを見逃すと、そのまま剣を佐藤の後頭部へ向けて振りぬく。

 スパーーン!! 痛快な音が響き渡る。と同時に、2人のものではない第3者の声があった。


「そこまで!」

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転生者学園オーネスト~誰でもない誰かが誰かになるために~ 御都米ライハ @raiha8325

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