第3話 神様のミス
私は死んだ....はずだよね?
確かにビルから飛び降りた。
だけどいつまでたっても体に衝撃を感じなかった。
私は恐る恐る目を開く。
そこにいたのは────
真っ白な衣服を纏った、人の良さそうなおじいさんだった。
おじいさんは、私を見ると悲しげな表情で微笑んだ。
「 井上 綾さんで間違いないかね?」
おじいさんは何故か私の名前を知っていた。
「 はい...私は確かに井上 綾ですが...貴方は? 」
恐る恐る尋ねるとおじいさんはいきなり土下座をした。
「すまなかった。君がツライ人生を歩んでしまったのはワシのミスのせいなんじゃ...本当にすまなかった。謝って許してもらえるとは思っておらんがワシの責任なんじゃ...本当に本当にすまなかった。」
驚いておじいさんに土下座はやめてほしいとお願いすると、おじいさんは申し訳なさそうに頭を下げた。
おじいさんはどうやら、この世界でいう神様らしい。
神様のお話を聞くと、どうやら私と真紀は本当は1つの魂だったらしい。
だけど悪魔のイタズラで1つの魂が2つに別れてしまった。
それに気付かずに真紀にだけ祝福や加護が与えられた。
そして私達の魂を裂いた悪魔は、あろうことか私には呪いを与えた。
そしてイタズラがバレないように、悪魔は姿を消したらしい。
そしてその悪魔は、神々が探しているが...いまだに行方がわからないそうだ。
話を聞いて納得した。
自分の人生の運の悪さは、すべて呪いのせいだったと分かり自分が悪かった訳じゃなかったことに息をつく。
そうか...愛されなかったのは、私のせいではなくて呪いを受けてしまったからなのね。
「 呪いを解いて元の世界に戻してやりたかったのじゃが...呪いが完全に肉体と結合しておってな...。」
神様は、申し訳なさそうにこちらを見た。
「呪いを解くには肉体は諦めるしかなかったんじゃ..。だから元の世界には戻してあげれない...力不足ですまなかった。」
神様はまた頭を下げた。
「 もう終わったことです。なのでもう謝らなくて大丈夫です。神様は...私の為に色々尽くして下さったのですから。ありがとうございました。」
じゃが...と神様はまだ謝ろうとしていたが、私は理由が分かり気持ちも穏やかだった。
「 それにいくらやり直せても...ツライ思い出が詰まったあの場所に戻るのは怖いのです。なので...私は戻れなくて構いません。」
私がそう言い切ると神様は悲しげに私を見つめた。
「本当にすまなかった。ワシのせいであんな思いをしたのに...君は恨み言1つ言わん...優しすぎる娘なのに...。本当に戻らなくてもいいんじゃな?」
私が頷くと、神様は元の世界に戻そうとするのは諦めたようだ。
「 ここで提案なんじゃが...新しい世界で人生を一からやり直さんかね?所謂転生というヤツじゃ。君の人生があんな悲しい思いで終わってしまったのはワシも悲しいんじゃ...。ワシが言うのもなんじゃが...新しい世界で人生を一からやり直して幸せになるというのはどうかのぅ?」
神様は私の最後をとても気にしてくれているようだ。
このまま断ったらきっと神様はずっとその後悔を引きずってしまうかもしれない。
それに...確かにあの最後はつらかった。
やり直せるのなら新しい人生を生きるのもいいかもしれない。今度こそは生きることを楽しみたい。
断る必要はなかった。
「 はい。お願いします...私も次の人生は生きることを楽しみたいです!!」
私が笑顔でそう答えると、神様はよし決まりじゃな!と嬉しそうに笑った。
確かに神様のミスなのかもしれないけど...私は神様にそれを引きずってほしくないし、誰しもが笑ってくれている方がいい。誰にもツライ思いはしてほしくない。
私も笑って次の人生は幸せに生きよう。
「 それで新しい世界への転生なんじゃが...次の世界は魔法が存在する世界。文明的に言うと中世のヨーロッパくらいかのぅ。危険な魔獣とかもおるが、妖精や精霊や神獣なんかもおる世界じゃ。どうかね?」
神様は心配そうに言うが、私は少しワクワクした。
魔法!それに魔獣に妖精...ファンタジーの世界は昔から憧れがあった。
それに中世ヨーロッパかぁ...なんか素敵!
「ぜひ行きたいです!私魔法に憧れがあったので嬉しいです。」
私が興奮気味に話すと神様も嬉しそうに笑ってくれた。
「 新たな世界で君が幸せに生きる為に何か力を授けよう。何か要望はあるかね? 」
神様は今までのお詫びに私に力を授けてくれるそうだ。
「 私は、人を傷つけることには抵抗があるので、剣や格闘系の力はいりません。そのかわりに傷ついた人を癒す力をいただけませんか?病気やケガを治す力がほしいです。後は力ない人を守れるような力とか...。そして魔獣とかもいるそうなので...出来れば魔獣と遭遇しても生き残れる様に魔法特化にしてもらえると助かります...。」
私の要望を聞くと神様は、君は欲がないのぅ...じゃが君らしい。と私の要望はすべて叶えてくれるようだ。良かった。
「最後に前の世界での“記憶”はどうするかね?」
と聞かれたけど...知識だけは生きる上で役に立ちそうだからほしいとお願いした。
ただ...“記憶”は持っていても楽しく過ごせなくなるかもしれない。それくらいツライものばかりだったから“記憶”は消してほしいとお願いした。
そういうと神様は悲しげに笑った。
「 向こうの世界に行ったら、今度こそ幸せになりなさい。君を大事にしてくれる存在が現れたら大事にするんじゃぞ。綾...君が幸せになれるように見守っているよ。」
そして神様は、私にたくさんの加護や祝福を与えてくれたみたい。
そして可愛いお供をつけてくれた。
タツノオトシゴ?みたいな小さな動物だ。
懐っこい性格なのかすぐ仲良くなれた。
「 神様...本当にありがとう。私...絶対に次は幸せに、楽しく生きます。本当に、こんなにたくさん尽くして下さりありがとうございました。」
神様は微笑むと持っていた杖を掲げた。
そして私の体は眩い光に包まれた。
そして遠のく意識の中「今度こそは絶対に幸せになりなさい」と声が聞こえた。
神様のせいで不運を被った少女は異世界で幸せになります! 海野すじこ @uni080
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