第2話 すれ違い


俺はボーッと窓の外にいる綾の妹を見て考えこんでいた。


みんなから好かれる双子の妹...。


アイツは姉の綾の事をどう思っている?


たった一人の双子の姉なのに、どうして姉が冷遇されているのに、庇ってやったり助けたりしないんだ?


綾の家族はみんな異常だ。

いくら妹が優れていようが、娘の片方ばかりを溺愛し、片方ばかりを冷遇する...。


まるで綾が存在しないかのように。


普通は双子の娘だ。両方可愛いものではないのか?


確かに真紀は、見た目も美しく優秀なのだろう。



しかし綾だって儚げで、笑えば花が咲き誇るように可愛い。


俺が初めて綾に会った時...俺は綾の美しさに見惚れた。

今にも消えてしまいそうに儚くて、俯いたその横顔は、この世の者とは思えないくらい綺麗だった。


俺だけしか気づいてないのかもしれないけど、綾もかなり綺麗だと思う。それもかなりのレベルで。


なのに、何故家族は見向きもしないんだ?


それに、妹は綾の事をどう思っているんだろう。

双子の姉妹なんだから、お互いの存在って大事なもんじゃないのか?


綾が反論したり、親に何も言い返さないのは、きっと妹を大事に思っているからだ。


妹への妬みや羨望もあるだろうが、それ以上に大事な家族だから反論もせず、今までずっとひとりぼっちで寂しさやつらさに堪えてきたんだ。


綾は優しすぎると思う。

俺だったら、そんな家族に見切りをつけるし、すぐにでも家を飛び出して二度と帰らないだろう。


家族にも反論する。


なのに綾は...。


初めて会った時の綾は、感情という感情を失くしていた。


笑うことも出来ずにただ無だった。

俺は、そんな綾が放っては置けなくて一生懸命話しかけた。


やっと綾は、ポツリポツリと自分の事を語りだした。

彼女の話を聞いて涙が止まらなくなった。


綾が感情を失くしたのは、生まれてからずっと、彼女の家族が、彼女の存在を否定し続けて、冷遇していたせいだった。


笑うことが出来なくなるくらいずっと。

彼女は誰も味方がいない中...1人堪えてきたのだ。


綾の今までを考えると、どれだけつらく寂しかったか..誰かに自分を認めて貰いたかったか甘えたかったか。


理不尽な程に冷遇されて...。


どうして綾の家族は、彼女にそんな仕打ちができるのか...血を分けた家族だろう?


俺には、綾の家族が悪魔か何かにしか思えなかった。


こんなに笑えなくなるほど堪えて...つらかっただろう、悲しかっただろう、悔しかっただろう...。


どうしてもっと早く出会えなかったのだろう。


俺は、綾が隣に住んでいたのに全く気づかなかった。

公園で出会って、初めて彼女が隣に住んでいたことを知った。


妹の真紀と両親しか見かけたことがなかったから。

隣には、家族3人しか住んでいないと思っていた。


もっと早くに気づいていたら...綾は感情を失くしてしまうことなく笑えていただろうか?


それからは、暇さえあれば綾に話しかけた。

綾は、いつも遅くまで公園で一人でいた。


両親に相談して家に招き、綾が居たいだけ居なさいと両親も綾を暖かく迎え入れた。


そんな日常が当たり前になった。

綾が側にいる日常が。


やっと心を開いてくれたのか、俺の前でだけは、綾も笑顔を見せるようになった。


最初はぎこちない笑みではあったけど...綾の笑顔は花が咲き誇るように美しく可愛いかった。


俺の前でだけ見せる綾の笑顔がすごく嬉しかった。

そんな綾が可愛いくて可愛いくてしかたがなかった。


だから俺は綾がどうしたら幸せになれるのか...常に考えていた。


その日も、朝からずっと綾の家族の事を考えていた。

綾が本当に幸せになるには、綾の家族をなんとかしないと、きっと綾は幸せになれないのではないか?と。


たまたま休憩時間の時、窓の外に綾の妹がいた。

真紀は、女子や男子に囲まれて楽しそうに笑っていた。


あれだけ外面はいいのに、学校ですら綾と話している姿を見たことがなかった。


そうして考え事をしていたら、クラスの仲の良い友達が俺に話しかけていた。


俺は上の空で曖昧にうん、そうだな...と中途半端に返事を返していた。


頭の中は、綾がどうしたら幸せになれるのかを考えていて、会話どころではなかったから...真剣に友達の話を聞くべきだった。


まさか、その会話で綾が傷つくとは思ってもいなかったから...。


友達がまさか、真紀の話をしていたとは思ってもいなかった。


そして...その話を綾が聞いていたとは思わなかったから。


友達の「ヤベェ!聞かれた?」って焦った声に、我に返った俺が見たのは、涙を浮かべた綾の姿だった。


友達が、何の話をしていたのかも聞いていなかった俺は、友達の顔を見るが、友達は気まずそうに目を反らす。


綾に関する何かマズイ会話をしていたことを察して、綾に駆け寄ろうと声をかけようとしたら...綾が走り去った。


友達に、今何の会話をしてたのか聞いて俺は後悔した。

何でちゃんと話を聞かなかったのか...どうして曖昧に返事を返してしまったのか...絶対に誤解された。


俺が真紀の事を好きな訳がないのに...。

俺は慌てて綾の後を追いかけたが、綾はもうすでにその場にはいなかった。


早く綾を見つけて誤解を解かなければ...。

半日探しても綾はどこにもいなかった。


綾...どこに行ったんだ?


学校にも、いつもの公園にも綾はいなかった。

町中思い浮かぶ場所を探し回ったけど綾はいない。


早く綾の誤解を解かなければと、焦れば焦るほど時間は過ぎて行く。


もしかしたら家に帰っているかもしれない...。


俺は慌てて家に向かうと、玄関の前に俺の母親が待っていた。


こんな切羽詰まった母さんの顔を始めて見た。


嫌な予感がする...。


「彰...落ち着いて聞いてね?綾ちゃんが...」


聞きたくない。

俺は直感でそう思った。


「綾ちゃんが...2丁目の廃ビルの屋上から飛び降り自殺をしたみたいなの...。即死だったみたい。」


母さんの顔が悲しみに揺れた。


俺は絶望し、その場に立ち尽くした。





──────




綾の葬儀の日、初めて真紀が話しかけて来た。


「やっと目障りな姉が消えてくれた。」


と真紀は微笑んでいた。


やっぱり悪魔だった。


綾は...一体なぜこんな奴の為に堪えてきたんだ?

姉の葬儀で微笑んでいる奴だぞ?


綾は....綾は...。


そんな俺の気持ちを知らない真紀は、さらに笑顔で毒を吐く。


「 私ずっと彰が好きだったの。だからお姉ちゃんが邪魔で邪魔でしかたがなかったんだ。邪魔者が消えた事だし私と付き合って?」


と俺に手を伸ばしてくる。


俺は真紀の手を叩き落とした。


「俺に気安く触るな。俺はお前が大嫌いだ!お前のせいで綾は....。目障りだ...二度と俺に話しかけるな。」


俺はその場から離れた。


本当は真紀のせいだけじゃない。


俺のせいだ。


綾....綾...。

どうして....。


あの時...どうして俺は...。

今頃悔やんでももう遅い。


綾はもう二度と帰って来ない...。


最後にもう一度でいい...綾に会いたい。

会って誤解を解きたい。


そして謝りたい。


どうして俺は...いざという時に役に立たないのだろう。


あの時も上の空で曖昧に返事なんてしなければ...。


綾...ごめん。


あの時すぐに追いかけていたら間に合っただろうか?


綾.....。

ひとりぼっちにしないって誓ったのに...。


守れなくてごめん。


綾....何で死なんて選んだんだよバカ野郎。

死んじまったら誤解を解く所か、謝ることもできないじゃねぇか...。


綾...。


綾...もう一度会いたい。


俺のせいで悲しい思いをさせてごめん。


なぁ神様....俺の命で良ければいくらでも奪っていいから...綾を返してくれよ。


こんなことで死んでいいヤツじゃないんだよ...。


頼むから綾を生き返らせてくれよ...。









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