アイなんて、どうにかなる

りん(くるゆう)

1

彼女と別れた。

まだ付き合って半年ではあったがとてもぞっこんであったのに振られてしまった。

何が悪かったのだろうか


「なあ、本当に何が悪かったんだろうな」

「んなもん知るかよ」

「もうその番組見ないでくれ…」

「あぁーこのMCの武蔵くんのいるアイドルグループが好きな彼女だったけ?」

「そうだよ」


こいつは小学校からの幼馴染で彼女と同じアイドルグループが好きなやつ

それに、そのグループと同じ事務所に入ってる新木。

振られた俺を慰めに来てもらった

寂しいから電話して俺ん家に呼び出した

それに今出てるのは彼女が好きだったグループの人気者のえくぼくんで彼女の担当というやつだった

もうアイドルは懲り懲りだと思ったらそうなのだが、こいつはちょっと違う。


「俺、映画に出てたやつの方が好きだけどな」

「…緑のやつ?」

「そーそ、緒川くんだよ、つかお前が振られた理由って何?」

「えぇ…それは…なんか"思ってたのと違う。西島くんみたいだと思ってたけど違かった"って…」

「なにそれ、くそウケる」

「ウケねえよ、意味わかんねえし」

「全く似てないのに西島くんね…やっぱりウケる」


うるさい、と言えばもっと笑うこいつは顔がいいから憎めない。

正直、腹立つ。でも、それを言わずに酒と一緒に飲み込む。

そもそも顔も悪くないからアイドルにいるわけで、こいつを憎めばきっと、ファンに殺される。

それはごめんだ。ただでさえ俺の職場である会社にもこいつのファンがいるので仕事で勝手に面倒事を押し付けられるのがもしかしたらあるかもしれない。

感情的になった時の人間は怖いからな


「西島くんと違うって言うのはきっと番組で言ってた発言からだろうね」

「そんな小ネタ入れてくるとか…」

「まあまあ、そんぐらい先輩が好きなんだよ」

「俺とっては先輩でもなんでもねえよ」


お前にとっては先輩だが、俺にとってはただのテレビの向こう側の人、遠い存在なのだ。

なのに、俺に合わせず『先輩』だなんて業界人ぶるのは今の俺ではイライラするだけだった


「俺もう彼女作るのやめようかな〜」

「え、どうしてそうなるのさ」

「もうなんか、大学卒業して、入社して、慣れてきたしなんならちょっと有能で少しだけ給料も多い24でさ、こんなに短い付き合いで別れを告げられるんだよ?もう俺無理じゃん…」

「無理じゃねえよ、頑張れよ」

「もう無理、俺もう嫌だ」

「早いってば、まだまだあるんだから」


昔からこいつはそうだ

何故か俺の恋愛を続けさせたり、始めさせたりといたせりつくせりな行動ばっかりとる

謎がすぎる

もしかしてあれか?自分が今アイドルで、中学生の時からやってて彼女作れない分の代わりで俺を使ってんのか?

確かに、考えてみればこいつは中学校の頃周りがみんな女子と付き合い始めるのに付き合ってなかったなと、誰一人もずっと友達と一緒で、一時期学年の美女と一緒に生徒会に入ってた時は噂になったがそこまでで、事実ではなかった。


あれ?やっぱりその時から応援ばっかりって、そんなの俺がただ操られてるだけじゃねえか



「お前、俺のこと代わりにしてんじゃねえの?」

「は?そんなわけねえだろ」

「そうだろ」

「ちげえよ、何考えてんの?飲みすぎ?」

「だって、毎回、ずっと昔から俺の恋愛を応援するじゃねえか」

「それは純粋にお前の魅力がみんなに伝わればいいなと思って…」

「お前に俺の魅力とかなんとかわかるわけないだろ」

「わかってんだって」

「はぁ…だいたいお前なぁ…アイドルなんだからモデルの1人や2人と付き合えよ」

「無理だよ」


なんで?

いや、つてはあるだろ、そういうもんじゃねえの?

わかんねえけど、なんでそんなすぐ真っ直ぐと俺を見て無理だ、なんて言うんだ


「なあ、佐々木?」


名前を呼ばれドキッとする

真っ直ぐと見てきながら名前を呼ぶなんて行動は俺なんかには勿体ないほど整った顔をしている。

だから人気者なんだなと

それに、最近デビューできるとかなんとかニュースで見たし、女子のたまり場を通った時にそんな話を聞いた。

その時嬉しかった感情を思い出してしまって、今ドキドキが止まらない。

なぜ嬉しかったのか、少しだけ分かるような、分からないような

感情と記憶の糸を手繰るが触れることは出来てもよく分からない。


「あ、新木…?なんだよ」

「俺がお前のこと好きって言ったらどうする?」

「今?」

「いや、ずっと」


ずっと…ずっと…!?

今の言葉で手繰った糸が赤色というのは理解した

いや、しかし、そんなのはありえないというか、いや、いや、違う

そんなこと絶対に違う

俺は彼女がいたんだ

お酒が回った頭ではちゃんと考えようと思ったとしてもハッキリちゃんと動いてくれない

ゆっくりと回る頭ではこの状況はやばいのではというのしか出てこない

そう、やばい

俺の家はワンルーム、玄関の方は新木が居る

つまりは塞がれている

そんな状況

やばい以外ないだろう


「好き…だからどうしたいんだよ」

「付き合って欲しいんだけど、ダメ?」


こてん、と頭を傾げる姿はさすがアイドル

可愛くこんなこと女がされたらイチコロだろう

全員落ちる。確実に

そんな感じだ

それに最近は髪を染めたらしくかっこよく仕上がっている

ように見える

この空気感がそう見えさせるのかもしれない。赤い糸が思考にチラついてしまうとそうなってしまう


「…いいよ」

「え、あ」

「なんだよ、その反応」

「いや、思ったよりあっさりだなと」

「不満かよ」


不満じゃないけど…と言いながら微笑む姿はまさに天使と言われるべきものだった

たしか、こいつのイメカラは黄色だったなと思い出すとひまわりかと思いもした

だが、アイドルと付き合うって具体的に他とは何が違うのだろうか、そもそも男同志のカップルってなにをするのか、そういうのは全くわからんのだが、それでいいのか


「佐々木と付き合えたら俺も嬉しいし、ファンも喜ぶよ」

「は!?公表する気かよ?!」

「違うよ、変な噂が出ないでしょ?」

「お前はどうせ俺に飽きて浮気すんだよ」


自分で言って少しだけ傷がついた気がした

浮気はされたくねえな

してもいいけど、されたくねえな

どっちだよ

わかんねえ

モヤモヤしたのを残りの酒と共に流し込み

とにかく今は飲むことにした


「なあ、本当に俺でいいのか?」

「じゃなかったらここに居ないって」


そう笑顔を見たのは初めてではなかったが新鮮さを感じた

アイドルって本当にすごいんだな

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アイなんて、どうにかなる りん(くるゆう) @aphrina

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