無双!令嬢

ユニ

無双!令嬢


彼女はハンナ・ターチィバーナ。敗戦国から人質としてこの国に送り込まれた。かの王族の長女。

我が国の王太子が王になったら、彼女は側室に入ることになっている。今はまだ若いので、この我が貴族学院に入れられた。

当然嫌がらせをかなり受けている。

僕はこの上級貴族クラスの委員長なので、本当は彼女を守らねばならない、というか、、

本音をぶっちゃけりゃ、美しくも可憐で聡明な彼女を守ってあげたいっ!!

だがしかし、

現実は僕を阻止する。


僕は公爵家の嫡男、と言えども、、王子しかも王太子つまり次期王に逆らうことなど、してはならない。実家が取り潰されてしまう。

そう、王太子が筆頭になって彼女をいじめているのだ。


今日も一日中ひっきりなしに数々の嫌がらせを受けていた。





「はぁ、、ここまでレベルが低いとは、、、韜晦するのも疲れます、、、」ハンナ

「お嬢様、今は雌伏のときです。どうか、時が満ちるまで、、、」

「わかっているわ。でも、、、もう少しレベルの高い嫌がらせとかしてもらいたいものですね。」


ものを隠すとか、汚すとか、破壊するとか、ゴミ箱に捨てるとか、黒板に悪口を書いておくとか、

そう、5,6才くらいの子供が喜んでやるようなことばかりしかされていない。

もっとこう、巧妙に、あとあとに気づくとか、、仕掛けた者に感心してしまうようなこととか、そういうレベルの高い嫌がらせを受ける、と、無意識に思い込んでいたのだ。

が、

蓋を空けたら「子供かよ!!」


学業の内容も推して知るべきであり、やはり程度がかなり低い。

「我が国の子どもたちに教える程度でしかないわ。」


実技は、本来は貴族子弟、特に男子は戦場で自分の部隊を率い、先頭に立って敵を蹴散らせなければならないハズである。

が、

「いくら手を抜いても勝ちそうになってしまうので、毎回ひやひやものです。」


華・セッティ・アーク・橘は、唯一自国から連れてきた側付侍女ミレアーヌに愚痴た。

華(hana)はよくハンナと間違われる。間違うような失礼なやつにはそのまま間違わせている。



華の母国「東の大地国」は、多くの民族、小国を統合してできた国だ。だからよく言えばおおらか。

多様な文化を統合など国を破壊する意味しか無いので、お互いがお互いの文化を容認し、受け入れ、そこから始まる、ということが無意識レベルに浸透していた。

だから複数言語を話すのも当然だし、そのくらいの能力は全国民が持つくらいまでになっている。


よって、中央の核になる国も、支配下の国を強引に支配しようとせず、ある程度を吸い上げるだけで、あとは問題が無い限り放置だ。

なので軍隊も戦士は多様化しており、その集合体である中央軍は、各部隊の得意な戦法を効果的に使うことにより、相乗効果がかなり高まっている。


上記文化が浸透しているので、自国側から侵略を求める者などいないし、たまにそういうものが現れても「変わり者」として相手にされない。


基本的には国民資質が「戦争など面倒くさく、無駄なだけ。ふつうに付き合えばいいじゃん?」なのだ。それが国内でできてしまっているので、国外ともそれでいいじゃん、という思考になってしまっている。

それが数百年続いていた。


なので、

「侵略軍」という意味を「知って」てはいても、概念で自分のものとしてはいない。実感することができなかったから。


中央王国政府は、隣国ホースディアがいきなり侵攻してきたとき、

「とりあえず様子見。まともなら付き合ってみよう。そうでなければ国境を閉じるか、それが敵わぬと成れば、面倒くさいが、滅ぼそう。」

という、、、幼児が殴り掛かってきたときの大人のような、結論を出した。


今は

「一旦停戦し、様子見」というつもりの東の大地の中央王国政府。つまり華のお父さん、王様の意向だ。

「勝った!敵は降伏した!!」と思い込んでいるホースディア王国


東の大地王国は、表向きは、友好という意味合いで長女をホースディア王太子の后にする、という前提で、ホースディアに送った。

華が父(王)から受けた任務は、内情調査であった。


東の大地国は基本的に国内で全て帰結させてしまっている。なので国外と付き合う必要は無い。

国交はほとんどないのだ。

経済が国内で帰結できてしまっているので、他国からの輸入に食指を示す者は少なく、よって商人達が国内に持ち込んでもあまり売れない。

そんな国、国民たちだから、必要以上に金儲けをしようとも思わない。贅沢しても意味がないと思うとかではなく、贅沢しようと欲しない、のだ。美味しいものを食べたことはあるだろうし、高い品物を見たこともあるし使ったこともある。が、日常的にあってよいものではなく、特別な日に食べるから美味しいのであり、贈りたい人におくるべく物が、良い物であるべくものだろう。という思考があたりまえの社会だった。


これほど商人たちにとってやり難い一般マーケットは他にはなく、よって

「東の大地に行くくらいなら、他の国に行くほうがボロ儲けとすら思えるわ」

となっている。


だから商人たちからの他国の一般情報というものも、ほとんど東の大地には入っていない。


今存在している「東の大地国国内各国全自治政府」の中で、初めての国外調査、を受けた唯一の存在、が、

華だった。


ホースディアが華の伴のものは1人しか受け入れない、と強硬姿勢だったので、調査チーム派遣は無理だった。

ホースディアは自分たちが戦勝国だと、全員が思い込んでいるのだから、それは当然の姿勢だったかもしれない。






華の外出は自由みたいで、学院帰りにはほぼ毎日、街で馬車を停め、華はミレを連れて街を歩く。

華の国中央国王族子弟は皆幼い頃から王の地方視察に同行させられている。国を知らねば纏めることなどできるわけがないからだ。


このホースディアは、東の大地の中のもっとも寂れた国並に見えた。経済が疲弊しているのがよくわかる。人々の活気は、その程度しかなかった。

もっとも、東の大地のその国は、今では活気が溢れている。疲弊には原因がある。それを逆に利用できれば、うまくいくものだ。中央国現王にはその才能が高かった。

そのモノの見方、考え方、なども、現地視察でほうぼうを見て回り、王から毎回聞かせられていた。

子どもたちが「自らが環境から学ぶ資質」を作り上げられたのは、そういう現王の方針からだろう。


先日から華は一軒の茶屋(喫茶店)を贔屓にしていた。

「ここは居心地いいですね」

と、ミラも同意している。

店主がよいのだろうか。所作にどことなく品格を感じるときがある。押さえ込んでいる品位が、たまに出てきてしまう。という感じだった。

訳ありなのだろう、と華もミラも口には出さずとも思っていた。


人は似たような者達を自然に呼び寄せる。

この店の客たちも、身なりこそ普通であるが、この国一般の者達よりも落ちついていて、知性や理性を感じさせる存在だった。

だからこそ、華とミラには「居心地が良い」。



一ヶ月後、華は小さな邸を与えられた。

今までは王城の奥の一室であった。

特に問題もなさそうだと思われたのか、敗戦国の者を王城に居させたくないと思ったのかは不明。

王城よりも学院に近い、貴族街の下の方の小さな敷地の小さな邸。

「使用人は国から連れてきてはならない。この街で探すように。警備は王城から派遣する。」

と命令されている。

内部には連絡員さえ不要と思われたということでもある。警備が「逃亡阻止」だけすればいい、と。


「かと言って、この街に知人も信用できる者もおりませんし、、」

ミラも思案顔。

「茶屋のご主人に聞いてみましょうか、、、」

ミラが提案。


「そうね、今はそれが唯一ね。」


家具調度品は揃っているが、人が2人だけだとどうしても空虚になっている邸。

現状、華もミラと一緒に邸の仕事をしている。

「王族と言えども、大本は一般人。一人になっても困らぬ程度にはできるようになっていて一人前だ。」

と子どもたちに言うのが王の口癖であり、そう育った華だったから。


翌日、学院帰りに茶屋に寄り、注文品を持ってきた主人の女性に

「あの、少しお時間よいですか?」ミラ

「はい、もう手が開いていますので大丈夫です」

華とミラは名乗り、わけが在り遠くから来て急にこの土地に住まねばならなくなったと説明した。

「親しい間柄でもないのに、失礼を承知で、、当家では今使用人を探しているのです。この土地には知人がおりませんので、どうしようかと。」

「そうですね、仕事内容や雇用条件などはありますか?」

勿論ミラは用意しているので渡す。

同時にミラは余っている椅子を引いて腰を下ろすことを促す。

主人は会釈し腰をおろして更に内容を検討している様子。


「賃金が少々低い気もしますが、、これだとあまり良い技量を持つ者達は、、、」

ホースディア王城から支給される額が低すぎ、実際はこれでも持ち出しなのだが、、

「言い遅れましたが、仕事の仕込みはこちらでしますので。」

「では、人品に関わるところが、」

「はい、でも出身階層とかはこだわりません。読み書き計算程度もこちらで教えられますので、おっしゃるとおりの”人物”が最大の評価点にしたいところです」

ミラが華を見る。華はうなずき、

「ミラの話の通りです。どうか、手助けいただければ嬉しいです。よろしくお願いいたします。」


「少々お待ち願いますか?」

女主人は奥に引っ込んだ。話声が僅かに聞こえる。


「おまたせしました。タカとユリアです。男手も必要でしょうから、まだ子供ですが力強いですよ。この店の雑用全般と買い出し同行、荷物持ちですが。それと厨房の補助もしています。うちに5年います。人物は私が保証できます。

ユリアはうちでは厨房専門、うちの買い出しはユリアにまかせていました。ユリア、あと、あなたは何ができるの?」

「はじめまして。ユリアと申します。わたしは、他に裁縫、洗濯、掃除等、街の一般の人達がやる程度のことなら自分でやっています。」

タカ、と女主人が促す。

「タカです。はじめまして。力はとうちゃんほどにはまだだけど、女の人には負けない。多分、庭の手入れとかもできると思う。父ちゃんは大工なので、子供の頃から現場には遊びに行っていた。すこしくらいは大工の真似事くらいはできると思う。」


「・・え、いいのですか? それじゃこの店が、、」

「大丈夫ですよ。この子達が来るまでは私一人でやっていました。それに、、あなた達の妹弟達が、そろそろいい歳よね?あとで呼んできなさい。」

「「はいっ!!」」 嬉しそうな2人。


華もミラも返事はしていないが、決定となっていた。


それはそうだろう、他に選択肢があろうはずもない。女主人は虎の子を出したのだから。

と華とミラは思った。


明朝、二人を邸に行かせるとなった。



ーーーー



半年が経ち、学院でのこの国の貴族子弟達による華への嫌がらせもほどほどになった。

王太子が華へのいやがらせを続けることに飽きたので、コバンザメ共が自分の憂さ晴らしにやる程度になったのだ。

他の生徒や教師たちの無視は続いていたが。


それでも華は学院にいくのがそれなりの楽しみにはなっていた。

周囲の話を耳にするだけで、貴族連中の動向などがそれなりに収集できる。

また、帰りに喫茶店に寄るもの楽しみの1つになっていた。


王都の住民は、王都に「敗戦国の王女」が来ていることを知っている。

聡明なあの女主人のことだ、うすうす感づいていることだろう。華もミラもそう思っていたが、今の所自らバラす理由がないのでそのままだ。

ただ、華もミラも女主人が感づいているのではないか?と感づいていることを、女主人はわかっていた。

その、わかていた、ということも華とミラはわかっている。

「言わなくとも、双方、わかった状態」

になれたのだ。

華とミラには、今はこれで充分であった。


5ヶ月もミラの元で使用人修行を続けた2人はもう”ホースディア基準では”一人前、になっていた。

なので、女主人にも言ってから、タカとユリアに一人づつ候補を見つけてもらっていた。先月からその新しい2人は働き初めている。邸が小さいので、新人2人が一人前になれば、人手不足は解消されるだう。

タカとユリアはもう”先輩”をしている。一対一なので、タカとユリアがミラから教わったとおりに、丁寧に教えている。真面目さがよく見えるタカとユリアだった。



「さて、そろそろお父様に報告を上げなければ、、」

華とミラは華の執務室に居る。

会議用のテーブルと椅子もあるが、2人は応接セットに座って茶を飲み、くつろぎながら話している。


「我が国に脅威になるものは、今の所気が付きませんでした」ミラ

「そうね、私も何も、、、学院での貴族子弟達の噂話も取るに足りないものばかりで、国外どころか国内を揺るがしそうなものの気配も、今の所無かったわ。今後の気配も全く無いくらい。」


「お父様の方になにか情報があるかもしれませんね。では、今から行きますけどいい?」

「はい、使用人たちは言いつけてあるので大丈夫です」

その言葉を聞き、華は口の中で僅かに何かをとなえた。


次の瞬間、華とミラの2人は、東の大地中央王国王城華の部屋に立っていた。


転移魔法を使えるものはそう多くは居ない。しかも自分以外にも同行者を連れられる者はもっと限られる。

更に長距離までできうるものは、まずいないだろう、と誰もが思っていた。

華は魔法資質の高い中央王族の中でも前例がないほど秀でていたからできたこと。

だからこそ、王は安心して娘を送り出せたのだ。





「魔法を使っている様子も現地では見たことがありません。隠している様子ではなく、一般的ではないように見えました。少数の現地人達に接触していますが、魔法を使える者はいませんでした。彼ら彼女らも魔法使用者を見たことがないとのことです。」


「ふむ、、経済は疲弊、一朝一夕にどうにかなるレベルではなく、魔法も一般的になっていないどころか、ほとんど見る機会すらない。居ないのかもしれない、と思う程。

で、そのくせに、兵を挙げたのか、、いったい何を考えているのか?、、、どう思う?」

王はその場に居る者達を見回した。


王、華、宰相(王妃)陶子、外務・軍務大臣スガ、内務大臣ナイセ。ミラ。


質問よろしいでしょうか?と華。

「ホースディアもしくはその軍は、その後なにかいたしましたか?、私達が国を出た以降の情報を持っていません」

王はスガを見た。


「はい、では私めが。 ホースディアの軍は、国境地帯に広がる荒れ地の端の森側に駐屯しました。その後、その荒れ地を所望するとのことでしたので、ありがたく進呈しました。荒れ地を向こうの国として、国境線を改めました。その際、彼らがこちらに逃げてくることもあるでしょうから、荒れ地の国境線のこちらに入ってこれないようにと、長距離になりましたが、術士を多く使い、防壁をもうけました。

我が方は、当然あの荒れ地になど行くものはおりませんので、その後のホースディア側の様子を知る者はおりません。」

・・・・


「多分、、、ホースディアの王たちも、国民たちも、、領土を割譲させた、と思い込んでいると思います、、、」

「「「「は?」」」」

ミラを見る華。ミラに出番を与えようというのだ。


「僭越ながら私が。彼らは、・・姫様のホースディア滞在も”敗戦国から人質を得た”と彼らは認識しています。あちらに帰ったら確認してみますが、多分、姫様のおっしゃる事で間違いはないでしょう。」


「国家規模の盛大なる、、なんだ、、、アレだな、、

どうする姫?もう、お前の好きにしてもいいが、、滅ぼしとくか?」

いいつつ、王はスガを見る。

「中央軍の一個旅団だけで過剰戦力になりますが、、演習代わりに良いかも、とも。」

華は渋い顔をしている

「なんだ姫はいやか?」

「いえ、、とくに、、」

「いや、何か言いたいことがあるんだろう?今言っておけ」


「はい。では、、。

まず、あの国の国民は我が国にふさわしくありません。

他者を見下すことを無意識に行い、少しでも迫害できる機会を常に探し求め、欲深く、嘘をもって他者を貶め、その嘘を嘘だとしっておりながら便乗して貶める。

これがかの国民の大半です。

ですが、ほんの僅かですが、正直で素直で勤勉な者達もおります。

どうですか?我が国があの国を支配下に置いた時、

それを選別できますか?」

・・・・・・・

「・・・難しいですな、、」と軍務大臣

・・・

「華、お前は、どうにかできるかもしれない、と僅かには思っている、のだろう?」

「・・・・・・私が推薦する者達が、多分、ある程度なら、良き者達を集めることができるかもしれません。」


どうだ?というようにサガを見る王

「はぁ、、手間暇かけることになります。その成果が見合うかどうか、、」

続けろ、と王

「今の話から、基本的には我が国はかの地を併合しません。危険すぎます。病原菌が国内に持ち込まれるようなものですので。」王を見る

「うむ」


続けるサガ

「なので、姫様が選別した者達によって、ゴミを処理してもらう。この方向しかないでしょう。全てを焼き尽くす方法以外では。

更に、その人品の酷さは民族性の可能性が最も高いですが、低い可能性として土地の何かが理由かもしれません。もしかしたら、あの荒れ地が関係している可能性も考えられるでしょう。なので、もし全てを焼き尽くし土地だけ得ても、我が国のものにしないほうが無難でしょう。我が国の土地はまだまだ際限ないと言えるほど未開拓です。

本音を言えば、国境を固く閉じ、永遠にかの国からは一人たりとも我が国に入れないようにする、だけにとどめて起きたいところです。」


どうだ?という目で華を見る王

「何もせず、私が国に帰国して終いにするのが、最も良いのでしょうね」

「そうだな」





ーーーー



と、ここで話が終わってしまっては物語にならない。

まったく出番が無かったこの僕委員長があとを引き継ごう。


あの姫様は王都から消えてしまった。

小さな邸の使用人たちも邸には残っていない。人一人いなかった。

王城は騒ぎになった。


同時に、王都の小さい茶店は、店を閉じたまま、以降開くことはなかった。


「なんとしてでも見つけ出せ!!人質に逃げられたとあっては各国から笑いものだ!!」

「警備は何をしていた!?見張りのためにつけたんだろうがっ!!」

「裏門は固く閉じ、塗り固めており、出入りは不可能です。棘を埋め込んだ高い塀にも、出た痕跡は全くありません」

「転移魔法では?」

「そんなものを使えるものかっ!!あの何もできなさそうな小娘だぞ?!!」

合理的理由全くなしに否定されてしまう真実。


結局、

「敗戦国のくせに人質を盗み出した」

ということで

再度侵攻することになった。

「今度はあの国すべてを蹂躙してやる!!」と意気込む王と王太子達。


税は極限まで高められ、更に男手は10才ほどから老人まで徴兵された。


街道は、他国に逃げる者達で埋まった。

その街道の者達を兵士たちが襲い、罰金と称し奪い尽くし蹂躙した。


学院に来る生徒もほとんどいなくなり、皆領地に帰らされた。

「戦果は早いものがちだ!帰って一人でも多く兵を集め、一日でも早く国境に着くのだ!」

と意気込む男子は多かった。




王は奪い取った(と思い込んでいる)荒れ地の様子を偵察隊に見に行かせた。

侵略のための拠点として砦を築きたいのだ。


偵察隊は帰ってこなかった。

それから順次送り出した第二次から第五次偵察隊も。


怒り狂った王は、僕(委員長)の父の領軍を先陣として現地に駐屯し、砦を築けと命令を出した。

僕は父に同行した。



ーーーー




僕は父の軍では斥候隊を任されている。武技に秀でているわけではないからね。父はよくわかっている。しかも父は僕が賢いと認めてくれているので、斥候なのだ。後方の物資関係でもよかったのだが。


荒れ地に入り始めた頃から違和感を感じ始めた。

それが極限に近くなり、

「転進!!早く!すぐに戻るんだ!!」

大半の部下が理解したが、数人が理解できずにもたもたしていた。

直後、

地中からなにか黒い霧様なものが湧き出てそのもの達を包んだ、

「全速で逃げろー!!!!!」命令した。

皆僕の後ろに必死に付いてきている。自慢じゃないが、馬術は得意なんだ!


森の入り口付近ではその嫌な感じは感じなかった。なのでそこで一旦停止。

もたもたしていた数人とその馬は消えていた。馬具、剣や鎧など、だけが残っていた。

もしかしたら、あの残った”物”は罠の餌のつもりなのだろうか?


僕らは父のもとに引き返した。


話を聞いた父は開口一番

「わはっはっ!!流石俺!!いやな、お前はそういう気配に気づくの早いと思ってたんだ。なんの予兆もないときから察知するときもあったしなぁ、、神がかっているなーとは思っていたんだ。流石だっ!!!」

・・・・・・・・

ぐーでなぐっていいですか?って、こういう気持なのではないだろうか?、と僕はうまれて初めて感じる気持に一種感動をしていた。


「で、どーすんですか?」

「あ?迂回するしかないだろう?」

すなおさんですか!!!


荒れ地を迂回し、東の大地との境界が見えるところに出た。

「あれま、すごいなぁ、、怪獣でも相手にするのかな?、、」

父が感動するほどの、高くて厚い、上に馬車道を余裕でつくれるような、しかも王城のてっぺんくらいの高さのものすごい土塁が延々と見えなくなる先まで続いていた。


「もしかして、、」僕

「もしかせんでも、そのお前らが見た危ない何か、を防備するものだろうな」父、

僕の部隊の兵士たちは皆納得顔で頷いていた。


「つまり、、」僕

「そういうことだ、何が戦勝で割譲?、世界でも有数の危険地帯を押し付けられただけじゃねーか」父

「なんだ、、あれだ、、あの姫も、向こうにすりゃ政略結婚のつもりだったんじゃねーのか?それをバカどもが”人質”と勝手にほざき始めたんが実情じゃねーかなぁ?これを見ると」

むう、、僕もそう思う。


「・・・・で、、」僕

「ああ、、、もどっても良いことないわな、あるわけない、、んじゃ、目の前の奴等のとこに行くか、

皆、武器は全部ここにあつめておいとけ、ウマも降りろ、そこらに繋いでおけ、歩いていくぞ」


馬さえも降りて、、とは完全降伏の意味がある。剣と馬は引き渡すつもりなのだろう。


「あー、お前らの家族とかな、どうにかできるよう、話を付けて見るから、まぁ、そう心配するな。うちにも何人か大事な者たち残してきているからなぁ、、どうにかするべ」

相変わらずな父上である。

だが、皆頼りにし、忠誠している。


ーーーー


僕と父は砦の結構良い部屋に、

兵たち達は鎧を全て廃棄し、身軽になって、空いている兵の宿舎1棟を全部与えられた。食材等必要なものはやるから全部自分たちで行ってね!って。

「捕虜というよりは、、」

「難民扱いだなこりゃ」

・・・・


今中央国王都に連絡を入れているという。

「一週間や二週間、へたすりゃひと月はかかるだろうなぁ、、」と父。


と、僕達は思っていましたとも、当たり前に。


で、翌々日。

砦の防衛隊長に呼ばれた。

「君たちの処遇が王都で決まった。王直々の決定だ」

「「はっ?????」」

「うん?、、そうか、、我が国ではもう早馬はつかっていない。だから連絡は早いのだ。

さて、問題は君たち全員の家族、だったな。

どうやって呼び寄せる?考えてあるんだろう?」

父を見る。僕にはその手立ては考えつかなかった。

父は僕を見てニヤッと。

「実はもう連絡を飛ばしてある。あの荒れ地に着く前日の野営のときに、嫌な予感がしてな、もうこりゃ駄目だろう、と強く感じた。なので全員避難を発令した。わしがこの司令を出すと、我が部隊全員の家族および、事前に決めていた者たち全員を、国から、避難させる。」


「、、、い、一体、いつのま に 、・・・」僕はあきれた

はははっ、

「若い頃だ。この国、駄目だなこりゃ、って思っててなぁ、、やっとだなー」

とのんきっぽく言う父


隊長は最初、「ほう!」という顔を、そしてニタニタしていた。


「やはり我が王は、、、」とつぶやくと、


「あなた達には、ホースディア側国境内部の国境沿いにちょっとばかり細長く領地を持ってもらいます。今は森と原野のみです。

開拓が済むまで我が国が全面援助します。

軍も駐留させ、ホースディアからの攻撃は全て退けるので、軍備に関しては完全に安心して良いでしょう。

私の領地軍の一部隊を差し向けます。それだけでも対ホースディア全軍に過剰戦力になります。

こんなこと言っちゃなんだが、ホースディア軍は、、二,三世代前の軍です。今時それに負ける国はない。

・・

そして、貴方方の領地となる場所は、この砦と結構近いですよ。我が領地も貴方方の場所のすぐ東方だ。何かあったら遠慮などせずに頼ってください。

なぜなら、貴方方の領地が、ホースディアとの最前線になり、我が国を守ることになるからです。

王陛下が直接その旨を配下皆に言い渡しています。堂々と領地を設営してください。」


ここまでとは予想だにできなかった父。

驚愕を隠せず、

「なぜ、そこまで・・・・」

「それが我が国の国王なのです。いつも我々も驚くことですが、先読み、見通し、その才は神がかりです。」


「我は、王陛下に、忠誠を誓いたい、、、」

ぼくもそう思った。

この人達は、この国の人達は、皆同じ気持ちなのだろう、、、、


「領地を安寧させてください。そうすれば、王陛下から、直接お言葉を賜る機会が必ず来ます。」


ーーーーー


僕達の新らしい居住地に、家族達が来た。

それまでには丸太でつくられた小さな仮の家がいくつもでいていた。


田畑の計画通り用水路を引き、道路や下水などインフラは砦部隊の工兵達がやってくれた。

技術が僕らの国と全く違うのだ。僕らにはとてもできない。

「できないことは無理することはない。おいおい覚えていけばいい。最初は全て我々がやるから」と砦の隊長。


食料は砦から貰うが、基本穀物と野菜。肉と魚は「採れ(獲れる)るものは自分たちでやってくださいね」と。

川に養殖用いけすを作った。

鴨なども生け捕りにした。羽の筋を切って飛べなくし、増やす。そうすりゃ卵も手に入る。

開墾は徐々に進み、早いところではもう芽がではじめた。


父は毎日狩り部隊を引き連れ、森の猛獣や魔獣討伐を兼ねた肉獲得に頑張っている。


ある程度になった頃、砦の隊長さんがなんかもってきてくれた。

「風呂釜だ」という。

結構でかい。

工兵部隊が「大浴場」を建ててくれた。男女別に、でっかい浴槽があり、お湯!のお風呂!!

しかも、熱湯を注ぎ込むだけ、という僕らの国にあった方式ではなく、どういうことかよくわからないが、

湯の温度を熱いまま保てるようにする「釜」が、その風呂釜だということだ。

「毎日入れるぞ?沸かす手間も少ない、誰でもできるほどだ。子どもたちにまかせればいい」隊長

なんと!!


トイレも僕らの国とちがい、臭くない、危険も無いきれいなトイレだ。

更に、

水もいちいち井戸に汲みに行くこともなく、

水車を組み合わせ、大きな塔の上に水を汲み上げ、そこから落ちる勢いを利用し、各家に水パイプを引いている。


「俺らの国は、逆立ちしたって、絶対勝てねえなぁ、、、」

「うん、最初からこっちに産まれてればなー」

「ああ、心底そう思う、、」


ーーーー


その頃のホースディア


全兵力を荒れ地に投入し、全て失った。

全兵力、それは一般人の全ての男手を含む。

農業、漁業、林業、など、壊滅。

年貢以前の問題。

残った一般人の半数は国外に逃げた。

国内に残った者たちは、逃れる手段すら無かった者たち。

ほぼ餓死した。

放置される腐乱死体は病気を発生させる。

国内には疫病が蔓延した。

幸いなのは、もう国内にさほど生きている人間がいなかったこと、なのか、、、


周辺各国は難民流入発生直後、国境規制をし始めた。貴族など「働き手になりそうもない無駄飯食い」を入国させる国はない。

働き手とその家族だけだ、入国が許されるのは。


貴族どもは財宝を差し出すが、国境の衛兵達はそれを奪って貴族共を追い返した。

まぁ、当然そうなるだろう。あたりまえのことである。

衛兵のいくらかは、その財宝を利用して難民たちに食事を与えていた。



周辺各国は

「今後10年や20年はあの国に入れないな、疫病が恐ろしい」

という認識だ。





あの喫茶店店主と客達は?


「姫様、お茶が入りました。」

「ええ、ありがとう。」

本棚から戻りテーブルに着く。


王都にある喫茶店だ。

店主は勿論ホースディアの店と同人。


客の顔ぶれも変わらない。


実は、あの客達はほぼ学者や音楽家達などであった。

店主が、ほぼあの客達と懇意にしていたのだ。店主の前の素性が、そっち関係だったと。

なので、多分、今後ためになるんじゃないかなー?という気がしたので、皆一緒に連れて来ちゃえ!

と。

で、

国境の新しい領地が安定し始めたら、そっちに移って活躍してもらおうということになっている。

が、

華は

「やっぱりずっと王都で喫茶店やっていてほしい」とかわがまま言い出した、






その華


姫様、そろそろ頃合いかと

いや、、今少し雌伏は必要だろう、

姫様

雌伏はあとわずかだな

うん、まだ

(いやー「雌伏の時」っていいなー、はでにやらなくっていいんで楽ちん♪ このままずーーーっと雌伏ってよー!)


と、何かにつけて雌伏を使えばサボる理由になると思っているようだ

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