第32話 語らい

シャアルへのプレゼントを買い終えたアリシア達は、

いつか行ってみようと約束していた話題のレストランを訪れた。

ランチの時間は大きなお皿に、ちょっとずつ色々な種類の

アペリティフがたくさん乗り、メインがなくても

充分にお腹いっぱいになると評判になったのだ。

シャロンだけ、メインのお肉を頼んでいた。彼女の訓練の時間は

毎日2、3時間に及ぶ。食べても食べても、足りないくらいだった。


オシャレなアペリティフに皆の気持ちは、さらに華やいだ。

話も弾みやすい。アリシアは2人の職場に興味があった。

「シャロン、訓練は厳しくないの?」

「え?厳しいわよ」

シャロンは笑いながら言った。

「でも弱音も吐かずに続けていられるなんて、すごいわね」

「希望していた所だしね。厳しいのは知っていたから」

「警備にも行くんでしょ?」

「うん。見習いだけどね」

今度はシャロンがロゼッタに聞く。

「図書館の司書って何をするの?」

「私?私はね、まだ見習いだから本の返却と分類。

まず、どんな本があって、どこに納められるのか覚えなきゃ」

ロゼッタも笑いながら答えた。シャロンはアリシアへも質問した。

「ね、アリー?前から疑問に思ってたんだけど、

人族の書いた文献は残ってないの?」

アリシアは一瞬ポカンとした表情になると、そういえばと話し出した。

「……毎日、色々な時代の物を読むけど、そういえば1回も

見た事はないわ」

「人族でも宰相もいたし、魔法省の大臣もいたでしょう?

人族の研究家がいてもおかしくないのにって思ってたのよ」

「そうね……、あるかもしれないわね。私達、今の時代に合う物や

問い合わせのあることを調べるから、見たことがないのかも」

「機会があったら、調べられたら良いわよね。アリシアの

役に立てば、人族皆の役にたつかもしれないもの」

ロゼッタも感心したようだった。


シャロンはメインを食べながら、ニヤッとした。

「アリー、それで? 彼とはどうなの?」

アリシアは少し赤くなりながら言った。

「やあね、シャロンまで。ニコラと同じこと聞くんだもの」

シャロンは笑いながら

「さすがニコラ。もう聞いていたのね。でもね、ロゼッタも

聞きたいと思うわよ」

ロゼッタも笑いながら、言った。

「アリー、もちろんよ。ここで聞かないなんて、あるわけないでしょう?」

アリシアは、いまだにシャアルの話をするのに慣れない。

普通に話せることだと思うのだが、恥ずかしくなるのだ。

「あの……、そうね、尊敬できるところを見つけられたわ」

「確かに、彼の自制心ときたら、前代未聞だものね」

「尊敬だけ?」

2人は矢継ぎ早に質問を重ねる。

しばらくアリシアは考えて、答えた。

「恋なのかどうかは、別として……」

「別にするの?!」

2人が同時にツッコム。

「もう〜、2人ともニコラと同じ事を言って

からかわないで」

ふくれるアリシアに2人が笑った。

「ごめん、でも正直、別にしちゃうんだと思ったのよ」

「彼はお優しいのでしょう?」

「そうね、自分でも、それはもう大切にされていると思うわ」

「どこを尊敬してるの?」

「……そうね、……うまく言えないんだけど、

今日も私を1人で行動できるように、お父様とお兄様を

説得してくださったの。私が私の為に自分で判断したり

行動したりする事を、尊重してくださるの」

それを聞いたシャロンは、嬉しそうに言った。

「それって……とても大事にされてるのね……」

ロゼッタは目をキラキラさせて、相変わらず悶えていた。

「アリー……!!あなた、とても愛されているのよ……!!」

「そうなのよね……」

そんなアリシアを見て、シャロンが首を傾げた。

「アリーは何か不満があるの?」

「不満?! そんな、こんなに大切にしていただいて不満なんてないわ」

「でも、手放しで喜んでいるようには見えないわよ」

「時々、怖くなるの。この気持ちに返せるだけの気持ちを

自分が持てるかどうかに。シャアル様は、

そんな事は気にしなくて良いっておっしゃるけど……」

ロゼッタは、笑い出した。

「アリー、真面目に考え過ぎよ。ああ、真面目なことが悪いんじゃないわ。

誤解しないでね。あなたが彼に真面目に考えて答えるのは

素晴らしい事よ。でもね、恋の話で真面目に考えすぎると

すぐに煮詰まっちゃうわ」

「ロゼッタだったら、どうするの?」

「楽しむことも加えるの。ドキドキする事も」

シャロンはそれを聞いて笑い出した。

「さすがロゼッタ、恋をしたことがないのに

恋の達人みたいだわ」

「やあね、シャロン。読書の賜物って言ってちょうだい」

2人は穏やかに笑っていた。

「ね、アリー?人の気持ちって同じ重さになるのかしら?

考えたら難しいと思わない?誠実であれば、それだけで

大丈夫だと思うのよ」

ロゼッタは、ほがらかに言った。

「だってね、私達、彼が積んできた経験には、どうやっても

追いつかないもの。そうでしょう?以前、シャロンが言ったじゃない?

結局、アリーが好きになれるか、そうじゃないかだけだって」

「そうね、そうだったわね」

「シンプルに考えるのが一番よ。愛の重さなんて考えなくても良いわよ」

「そうなのかしら?」

「少なくとも、彼に好意は持っているんでしょう?

問題は、それが恋愛の好きかどうかよ」

ロゼッタはいつも友人の気持ちを軽くすることができた。

アドバイスの名人なのだ。

「今度は彼とお出かけなのでしょう?

あまり考え込まずに

またたくさんお話ししてきたら良いわよ」

ロゼッタにそう言われて、アリシアの気持ちは少し軽くなった。

「そうね、そうするわ。

……、そういえば話は変わるけど、私の同僚に人族の方がいるの。

本が好きなんですって。機会があればお茶でもってなっているから、

2人とも良かったらきてね」

コナーと話した事も思い出して、2人を誘ってみた。

2人とも、人族が身近にいたことにビックリし、

ぜひ会いたいと言ってくれた。

こうしてアリシア達のおしゃべりと、楽しい笑い声は

一日中続いたのだった。

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森の賢者の優しい恋のお話 テディ @Teddy1000

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