第5話 彼女のいない世界で
四季病。
症例数1。
唯一の患者は12歳の若さで死亡。
名前は、川原ゆり。
大矢の親友であり、初恋の人物だった。
メディアはこの不思議な病を嗅ぎつけ、世間を騒ぎ立て、身内の心をさらに傷つけた。
四季病で亡くなった彼女は、小学校5年生の年、2月4日、立春にその病を発症させ、小学校6年の2月4日亡くなった。
そして、
2月4日は、季節が戻った日になった。
四季病は、彼女の体を忽然と蝕み始めた。
春には、桜のような発疹をだし、夏には40度以上の熱を毎日出した。秋には、熱がさらりとなくなり、その代わりに骨に皮がついただけの体にどんどん近づいていった。
そして、冬が深まるに連れ、体温の下がった彼女の体は、暦に従うように立春の日、溶けてなくなった。
あまりにも、非現実的な物語だった。
しかし、彼女が亡くなったその日に土の中で深い眠りについていた桜の木が花びらを散らせ始めたことで、なんとなく説明がついてしまった気がした。
夏には、真夏日という言葉が2世紀ぶりに復活し、秋には紅葉狩りというレジャーが観光産業を盛り上げた。冬には、今まで経験したことのないような寒さが押し寄せた。大矢はこの寒さはある種の罰だという心持ちで降りしきる雪の中をただ呆然と歩いた。
ねぇ、教えて。
ゆり。
僕は、君が好きだったのに、どうして君は死んでしまったの。
涙がボロボロと出てくる。
冷えた体に熱い液体が妙に心地よい。
ねぇ。
僕は、
季節なんていらなかったよ。
立春、そしてさようなら 磐座うみ @iwakuraumi
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