僕は怪物を許さない

シュンジュウ

僕は怪物を許さない

 この山にはおぞましい怪物が何年にも渡って住み着いているという。僕が山で昼寝をしていたところそんな話を小耳に挟んだ。僕はこの山に住んでいるけど、そんな怪物を見たことがない。


 もしその話が迷信でなければ、僕がこうやって生きているのはとても運が良いことなんだと思う。でも僕と同じように山の中に住んでいる人もいる。その人たちもまだ生きている。ということは僕らが住む場所よりもっと奥にその怪物は住んでいることになる。


 その怪物は一体どんな姿形をしているのだろう?


 ついつい気になってしまう。話に聞くと、ゾッとするような恐ろしくて醜い姿をしているという。僕はどうにかその怪物の姿を一目拝んで見たいと思った。


 でも、その好奇心を何とか抑え込む。


 やめよう。危ない。下手に怪物に見つかったら僕は食われてしまうかもしれない。


 そう思うと震えが止まらない。冗談でも山の奥には行こうとは思わなかった。


 その噂を聞いてから安らかに眠れた日はない。もしその怪物が突然山を下ってきたら? 僕は間違いなく食われてしまうのだろう。だから夜は神経を研ぎ澄まして、眠ることが出来ないのだ。


 本当にその怪物のせいで迷惑している。山の麓には小さな村がある。でもみんな怪物を怖がってこの山には入らない。だから僕には友達がいない。山の中でいつもひとりぼっちだ。


 本当に怪物のせいだ。怪物のせいで僕はいつも一人だ。友達も出来ない。許せない。その怪物を倒せるものなら倒してやりたいと思った。




 それからというもの退屈な日々が続いた。一体いつになったら怪物はいなくなってくれるのだろうか?


( 誰かと遊びたいなぁ~ )


 僕は落ち葉の上に寝っ転がりながらそう考えていると、何だか悲しい気分になってくる。怪物がいる限りその願いは叶わないように思えた。


「あっ、そうだ!」


 僕は勢い良く体を起こし上げた。みんながこの山に来ないなら僕から村に遊びにいけば良いじゃないか!




 太陽が西に傾いた頃に、僕は鼻歌交じりに山を下る。体がいつもより軽やかになっている気がする。だってこんなにも高くジャンプ出来るんだ。


 村に着いたけど、何だか様子がおかしい。村は静まり返っている。村の中を歩き回ってみるけど人っ子一人いない。一体何があったんだろう?


 村の中を歩き回っていると小さな広場を見つけた。


 そこには汚いボールが転がっていた。村の子供たちがついさっきまでここで遊んでいたに違いない。でも、そんな子供たちはどこにもいない。


( 村の人たちはどこに行ったんだろう? )


 そう思いながら僕は小さなブランコに腰かける。


 その時、僕の中に最悪な考えが浮かんできた。


 もしかしたら、あの怪物が村の人たちをみんな食べてしまったのかもしれない。殺してしまったのかもしれない。


 もし、そうならまた怪物のせいだ。ひどいよ……本当にひどいよ……どうして怪物はそんなことをするんだ?


 自然と涙が僕の頬を伝ってきた。胸が痛む。


( いや、きっと村の人たちは生きてる! )


 僕は自分の涙を力強く拭った。


 今まで生きてきたんだ。今回だって死んだはずはない。きっと怪物が山を下って来て村に現れたから、村から遠いところへみんなで逃げたんだ。


 そう思うと何だか不思議と心が落ち着いてきた。


 もう少し待ってみよう。僕はひとりぼっちなんかじゃない。怪物だろうとなんだろうと僕は怯まないぞ!






 日は西の方へ向かって、辺りは少し寒くなる。寒くて鼻水が流れてきそうになる。僕はブランコを少しだけ揺らしてみた。みんなに会えると思うと嬉しくて胸が踊る。



( みんなはまだ帰って来ないのかなぁ~。でも、会えるのが楽しみだなぁ! 友達になれるかなぁ。 )




 そう思いながら、右手で緑色のゴツゴツの鼻を擦った。


(まだかなぁ。まだかなぁ。)



 日が暮れる中、僕は待ち続けた。

 ずっと、ずっと――――――――

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