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 俺がデスクで仕事を片付けていると、見沼が電話を掛けて来た。死体と笹崎大海の親子関係が立証されたと報告する為だったらしい。俺はそんなこと忘れかけていたが、一応の礼儀として話に付き合った。


「矢岸さんと中峰さんには、いくらお礼を言っても足りません。これで、事件は解決しそうです」

「そうですか。ところで結局、どうして見沼さんは俺に情報を流していたんです?」

「それはですね、霊視して貰いたかったというのが一つと、実は一部の刑事の間で、矢岸さんが有名だと、後から知ったというのが一つです。拝み屋としてと言うより、探偵としてですが」

「俺は、探偵ではない。事件の真実を追い求めるのは、柄じゃないんです」

「そうでしょうか。今回の事件では、乗り気だったように見えましたが」

「気のせいでしょう。俺だって、拝み屋としての仕事が無い訳じゃない」


 見沼は笑うようにしながら話を続けたが、俺はその半分も聞いていなかった。気が付くと、電話は切られていた。

 結局、あの事件は何だったのか。

 もう数日そんなことを考えている。

 シオンはまた浮気調査に追われ、俺は都内を中心に呪いやら悪霊やらの調査を再開した。失踪人探しの仕事も依頼されるが、俺はそれを断っている。

 翠からはあの後どうなったかと聞かれたが、俺はよく知らないと言ってその追及を乗り切った。翠は納得していない様子だったが、しつこく聞いてくることもなかった。

 荻窪の殺人事件は、大きく報道されることも無く、人々の忘却の彼方へと去って行った。警察はまだ捜査を続けるというが、俺に出来ることはもう無い。

 最初から、出来ることなど無かったのではないか。

 俺は、他者から与えられた仕事を全うさせられただけなのかも知れない。

 結局、事件を解決したところで、事件の当事者にはなれない。

 垣内星那に会ったのは、小屋で発見したのが最初で最後だった。会ったと言えるかも怪しいが、あのとき、星那はどこまで計画の成功を確信していたのか。

 十四日に雨が降ったのは、星那にとっては不幸なことだったのか。

 事件は解決された。

 俺の中では、もう終わったことだった。

 友人を助けようとした二人の少女。

 二人は互いに信じあっていたのか。

 俺には、その心の底を覗き込むことは出来ない。

 デスクの椅子に座ったまま、事務所の出入り口を見る。

 ドアはひしゃげたまま、傍らの壁に凭れ掛かっていた。

 壁には四角い空洞が開いている。

 そこから現れた制服姿を思い出す。

 友達を疑ってしまったと言って零した涙を思い出す。

 握った手の小ささを思い出す。

 俺は、あのとき伝わってきた僅かな体温を逃さないように、手を握り締めた。

 いつかまた会えることを信じて。

 

――終――

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embotellado 朝野鳩 @srkw

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