第14話 メルカトル・ワールドを生きる

 あれから半年。その間にキズキを含めて、僕は運営関係者とは一切会っていない。戦国大名の人事といった細かい作業をしていた地球の運営にとって、アトランティスの登場や地球平面化は、キャパシティの上限を超えた課題であって、僕の相手をしている暇などないから仕方がない。


 公園のドイツ料理店は、店名はそのままだが、オーナーが代わってしまった。

 弟は無事高校を卒業できたが、大学受験に失敗し、浪人中だ。例のごとくあまり勉強していない。竹本清美について聞いても、よく覚えていないという。美人だったような気がするが、顔がはっきりとは思い出せないそうだ。


 今回はキズキは一切登場せず、地球の運営だけで事が運ばれた感がある。彼女の役割といえば、運営に頼まれてA星との合併に手を貸したくらいで、地球に立ち寄ることもなく、A星あるいは別の天体から合併処理を行ったのだろう。

 合併そのものは大したことはなかったが、その副産物ともいえる地球平面化は、アトランティス復活以上のすさまじい衝撃を世界に与えた。

 失われた大陸の復活も平面化も、言ってしまえば以前の状態に戻るだけなのだが、前者は社会的知識を書き換えるだけなのに、後者は世の中の法則そのものが変化したようなものだ。

 生きているうちに、これほどの変化を体験した世代は存在しない。生物史上、いや地球史上最大の変化だ。はっきりしているのは、今後、地球にはここまでの大きな変化は起きないということだ。だからこのメルカトルワールドにうまく適合し、日常生活を送っていかなくてはいけない。

 などと口で言うのは簡単だが、何もかもが変わってしまっているので、意識の切り替えは相当困難だ。


 ほんの少し前まで地球は丸く、世界のリーダーはアメリカだった。

 いま、世界は長方形で、幻の大陸だったアトランティスが仕切っている。人口と面積はアメリカとほぼ一緒だが、企業の世界ランキングの上位をアトランティスの企業が占め、GDPで倍以上の差をつけている。古代の因縁でアトランティスの属国になったギリシャまで威張りだすから、始末が悪い。


 以前に較べ、明らかに広くなった国はカナダやロシア、北欧などそれほど多くはない。

そのなかでも特に大きくなったデンマーク領グリーンランドは、いまやアメリカやアトランティスと同じくらいの面積で、そのくせ人口は十万人以下。南極に至ってはユーラシア大陸より大きい。

 これらの地域はもともとあまり人が住んでいない。だから人類のほとんどは、地理的変化をさほど経験せずにすんだ。

 分割された数カ国を除いて。


 面積はあまり変わらないものの、日本社会の変化はすさまじい。ちょうど中心の中心で真っ二つになり、世界の東と西の端まで離れてしまったのだから当然だ。

 日本独自の気候をもたらしてきた黒潮の流れも変わり、年間を通して気温が下がった。

 東経138度を越えて風が移動できないため、台風の襲来が減り、プレートの関係で地震も減ると予想されている。


 地理上の別離だけでなく、政治文化などあらゆる面で東西日本の隔たりは大きくなっている。急激な中央政府離れが進む西日本では、日本語以外にも英語や中国語を公用語にしようとする動きが見られる。その日本語も関西弁が目に付く。文化的には大阪などの関西主流だが、政策としては山陽地方を政治経済の中心に据え、富士山に代わり瀬戸内海がアイデンティティとなった。 

 東日本の日本政府は、西日本独自の動きを牽制しようと躍起になっているが、本音ではもう一つの国としては無理だとわかっているようで、西オーストラリア(旧オーストラリアの東から三分の一程度)やパプアニューギニアとの関係を強め、生き残りに必死だ。  



 僕自身の心境の変化も著しい。

 以前は絶対だと思っていた宇宙が、不安定な頼りない、一種のまやかしのようなもので、刹那の存在だと思っていた自分が、時間的には宇宙よりも長く、妖怪にも宇宙人にもなれる可能性を秘めていることを実感した。

 そう考えると、地球が丸だろうが四角だろうがどうでもいいのかもしれない。どんな宇宙にいてもいつかは去ることになるが、自分とは永遠のつきあいなのだから。


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 キズキヨーコの思考には、プロテクトがかけられていて、外部からはその内容をうかがい知ることができない。

 最近、地球と他の宇宙の併合を成し遂げたばかりの彼女だったが、すでに次のプロジェクトに向けて動いていた。というより、アトランティスを除くと、地球の最初の合併相手はこちらになるはずだった。A星の件は地球のことわざでいう棚からぼた餅にすぎない。だから、一切立ち寄ることもなく、事がなされた。

 といっても運営の中に協力者がいなければ、それも無理だったろう。協力者は彼女のほうから探し出したわけではなく、相手側から彼女に接近してきた。最初に連絡してきたのは、その運営の部下のほうだった。温暖化解決の目処が立たず、力を貸して欲しいという。

 これは予想もしない展開だった。


 たしかに前回の合併が温暖化の原因で、彼女にも責任があるといえばあるのだが、彼らに解決できないとは思えない。どうやら合併直後の運営間のいざこざが絡んでいるらしい。

 地上の人間に毛が生えた程度の部下では話し相手にならず、上司が出てきた。感情に乏しく、余計な詮索はしないタイプで、信頼できる。向こうから相談をもちかけたのに、上司は合併を提案してきた。こいつは使えるとすぐにわかった。すぐに適切な合併先を見つけ、詳細は彼らに任せた。地球代表の承諾もとりつけ、マルチバース史上初の分裂元以外の合併に成功した。

 ところが、処理能力が足りなくなる事態が予想されることになった。その上司が仕組んだものだとすぐにわかった。

 能力不足は平面化という単純な手法で収めた。だが、それは次の新たな問題を引き起こすための、布石だった。

 誰が見てもブロンソン図法が適切なのに、全体の面積が広がるメルカトル図法が選択された。すでに平面化した地球の海の底には、裏側までつながるルートができている。海底人という冒険にふさわしい種族も用意され、遠からずして再び処理能力不足の問題が起きるはずだ。

 そのとき、もう一件合併をすることになる。


 今、彼女の手がけているプロジェクトは、膨大な計算力を必要とする。そのため悪戦苦闘している最中だが、二件も予定外の合併が行われ、地球側の能力が高まることは、合併をスムーズに行う上で随分助かる。

 あの上司には褒美として、彼女の留守の間、地球の余剰計算力を使用できる権利を与えた。すでに海底にドリルで穴をうがつ際に使っていて、そのパワーのすごさを痛感したはずだ。わずかな資料から物質化したロボットを巨大な魔物と戦わせながら、極めて難易度の高い工事を成し遂げたのだから。

 あのぐだぐだな演出では、人類の応援はあまり得られない。応援目的ではなく、海底に穴を開けるためのカムフラージュに海の魔物との戦闘が利用された。すでに時間帯によっては、他者の応援など必要ないほど、今の地球の余剰計算力は大きいのだ。


 地球の運営や代表は勘違いしているが、A星の計算力は、アトランティスと合併後の地球より大きい。あんな単純な世界のどこに計算力を必要としているかというと、地球の運営がハナミミナシと名付けたあの生き物だ。あの単純な世界であのような動物が発生するはずがない。かなり前に彼女が、他の宇宙からA星に移植した生き物だ。

 そのときはわずか数匹にすぎなかったが、数百万匹にまで増やすことができた。

 地球の人間の百倍を越えるデータ処理力を持つあの生き物は、外部から見れば単純な動物に見えるが、他の宇宙と通信が可能であり、時間の大半を異宇宙との交流に費やしている。

 A星のような単純な世界では、ハナミミナシの能力は実際の処理に対し常にプラスだが、地球のような複雑な環境では、処理負荷が増え若干のマイナスになる。地球にA星と同じ数のハナミミナシを持ってくるには、その負荷に注意しないといけない。


 地球の動物は睡眠という行為で、身体や精神の活動を減らし、計算力に余裕を作り出す。その間、記憶の整理、細胞の修復などを行っている。ハナミミナシを夜行性にしたのは、人間と処理負荷のピーク時をずらすためだ。

 今のところハナミミナシの生息域は、太平洋の島に限定されている。その地域が日中の間は大半のハナミミナシが眠っていて、地球全体の余剰能力は相当高まっている。掘削のタイミングをあの時間帯にしたのは、そういう理由だ。掘削だけでなく、地球代表を一瞬のうちに自宅まで送り届けることまでできた。


 地球代表のもとに、ハナミミナシを一匹送り込んだが、彼女がイメージ化したものではなく、もちろん本物だ。まるで彼女が遠隔操作しているかのごとく振る舞えるだけの知的能力を備え、かつ彼女と通信できるので、今後も役に立つはずだ。

 うまい具合にペットになることに成功し、定期的に地球代表の状況を報告してくる。自国が分裂したことにショックを受けているようだが、宇宙と同じで、分裂することもあれば合併することもある。合併先が分裂した相手とは限らないが。

 彼に限らず、地球の今後の変化は人類にとって耐え難いものとなるだろう。温暖化で騒いでいた頃が懐かしく感じられるくらいに。


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 メルカトル・ワールド


 このところ、よく聞く言葉だ。最初にその言葉を使ったのはおそらく僕だけど、だれがどう見ても今の地球はメルカトル図法そのものなのだから、そう呼ばれて当然だ。

 メルカトル・ワールドの原因となったミラーエッグがいまも増え続けている一方、ハナミミナシの情報はほとんど入ってこない。今うちで一匹飼っているが、こいつは例外中の例外で、ハナミミナシ型ロボットかもしれないし、キズキがイメージを物質化した存在かもしれない。


 最近、久しぶりにハミナがしゃべった。

「毎日退屈だから、世界の端に連れて行け」だそうだ。

 写真や映像などで何度も見たが、僕自身はまだ行ったことがない。

 飛行機を使わずにいける場所にいるのだから、一度、体験してみるのも悪くないと思う。


 北極から南極までが分断されたので、候補地は無数にあるが、交通の便を考えるとかなり限定される。日本以外ではロシア、オーストラリア、ニューギニア。もともと人が少ない。オーストラリアには数少ない100万都市アデレードは、138度のわずかに東側だ。人口密度の高い日本には、分断された街が多くありそうだが、分断線は長野の主要都市である松本、塩尻、伊那、諏訪、飯田などを見事なくらい巧妙に外れており、唯一分割された市街地が静岡県掛川市だ。


 人口は十万を越える程度だが、東京と京都の中間、つまり東海道のど真ん中で、もともと交通の便は良い。茶の一大産地ということもあって、外国人受けもいいはずだ。東西合わせて、先月一ヶ月の観光客数1400万。日本のインバウンド需要のおよそ半年分。しかも、まだまだ増加中という。誰だって、危険を冒さずに世界の終わる場所に行けるなら、行ってみたくなるはずだ。

 掛川市は、分断の最大の被災地で、一番得をした地域といえる。

 東掛川、西掛川双方で、「世界の終わりは世界の始まり 掛川」という一大キャンペーンを開催している。


 僕はハミナを鞄に入れ、西部東海道新幹線の終着駅西掛川を目指す。

 東海道の途中までしか行けないくせに、車内は客が多い。特に名古屋からは外国人観光客が増え、満員だ。

 掛川駅は分断線の東側にあり、西側に新しい駅が急遽作られ、西掛川駅という駅名になった。市役所の百メートルほど南に位置し、世界の東端からほんの二百メートルほどしか離れていない。

 線路沿いに狭い道路が続いている場所に、運良く広い駐車場があり、突貫工事で狭い駅舎を建てた。もともと新幹線が停まるような場所ではなく、予想以上に観光客が多いので、駅周辺は大混雑。

 僕が駅に到着した今も、ホームまで人で一杯だ。駅の外も人がびっしりで、駅舎から外に出るのに時間がかかる。だから、列車が駅に着いても、車内からなかなか客が降りていかない。


 なんとか列車から降りられたが、改札口まで一苦労だ。

 ハミナも待ちくたびれたようで、

「僕だけ先にいってくるね」

「それはまずい。迷子になる」

 といって僕は止めたが、ハミナは鞄から飛び出すと、交通渋滞時のバイクのように、人の間をすり抜けていった。


 取り残された僕は、少しずつしか動かない人混みに身を任せるしかなかった。

 改札口を越えても、狭い駅舎の中で立ち往生。駅から出る人の流れと駅に入って来る人の流れがぶつかり、駅員が調整しようにも外国人が多くなかなか前に進まない。特に階段が大変だった。

 途中、ハミナが戻ってきたので、僕は、「どうだった?」と聞いた。

「つまんなかった」

 それが彼の感想だった。

「先に帰るね」

 ハミナはそう言うと、群衆の足下をすり抜けて、下りのホームに向かった。チケットもないくせに新幹線で帰るつもりらしい。人の言葉がわかるくらいだから、一人で自宅までたどり着けるだろう。


 結局、駅舎から出たのは列車が到着してから、三十分近く経った頃だ。ここからがまた苦労しそうだ。

 そのまま東に進めば、世界の端に行けるが、大勢の人間で埋まっていて辿り着けそうにない。

 そこで駅舎からの人の流れは、市役所のある北へ向かっている。僕もそれに従った。一応、二車線の道だが、各自がばらばらに動くので効率が悪い。それでも駅舎の中よりはましだ。


 この辺りはアパート、戸建て、空き地で構成される住宅街だったが、ホテルやマンションなどの大きな建物が建設中だ。

 百メートルほど進むと、信号機のある交差点だ。車はもちろん通れず、誰も信号機の色など気にしていない。右に曲がれば市役所の入り口がある。その辺りに警官がいて、交通整理をしているようだが、この状況では出来ることは少ないだろう。

 分断線が市役所のすぐ東側だったため、当然市役所の敷地は観光スポットになる。世界各地からの観光客で人があふれ、職員や市民が市役所に入れず、今は別の場所に市役所機能を移してあるという。


 ここから右に曲がる猛者もいたが、まだまだ混んでいるので、僕はまっすぐ市役所の西側を北へ進んだ。

 その先は下り坂になっている。駅前に較べれば多少楽になったが、まだまだ人が多い。この辺りの住人にとっては見物人の群れは大迷惑に違いない。二階建ての賃貸アパートが工事中で、おそらく騒音や混雑に耐えきれず、住民が出ていってしまったので、今のうちに窓や外壁の遮音性を高めているのだろう。施工業者名が東極建設というのは、地元のゼネコンや工務店が最近社名を変えたと思われる。この辺りなら、東極という言葉にふさわしい。 


 橋のところの交差点も素通りし、突き当たりまで来てしまった。少し右に行けば、天竜浜名湖鉄道の西掛川駅がある。本来は終点掛川駅の二個手前の駅なのだが、掛川市役所前駅がホームの途中で切断され、今はこの小さな駅が終着駅になっている。

 ここの駅舎も真新しい。やはり人の出入りが多いようだが、さきほどの駅に較べればかなり空いている。

 この路線は、たしか浜名湖の西辺りでJRの駅につながる。このまま帰ってしまおうか。


 世界の端まで無事たどり着けても、そこから戻るのに時間がかかり、日が暮れてしまう。世界の端に行きたかったのはハミナであって、僕は同伴者にすぎない。

 第一、僕は地球全権大使だ。これまであまたの冒険を体験してきた。極小の地球でたった一人にされた時にも、世界の端を体験している。ついこの間も、UFOの中で宇宙人達に人質にされたばかりではないか。誰でも体験できるこの程度のイベントになんで参加しなければいけないんだ。


 迷うことなく、僕はその駅発の列車に乗った。ここも混雑していて、車内は満員だ。

 数万の費用をかけ、丸一日つぶしてしたことといえば、JR西掛川駅から天竜浜名湖鉄道の同名の駅まで、およそ五百メートルを異常に遅いスピードで歩いたことくらいだ。

 その点では、ハミナに軍配が上がる。一円も使わず、駅で待つこともなく、世界の端まで行って、目的をすますと僕より先にさっさと帰ったのだから。

 さすが、よその宇宙から来ただけのことはある。 

 そういえば、最近ハミナについてよく思うのだが、キズキが操っているのか、自分の意志で行動しているのかよくわからなくなった。

 可能性として高いのは、最初はキズキに操られていて、インコや九官鳥みたいに、その時の声色を習得して、彼女の声で今はハミナ本人がしゃべっているケース。だとしたら、凄く賢い生き物ということになる。たぶん、ハナミミナシ全部が知能が高いわけでなく、この一匹だけ特別に改良されたのだろう。

 それはそうと、耳がないのに聞こえるのはどうなっているのだろう?


 そう思った瞬間、キズキの声がした。

「心の耳で聴くから耳はいらない。心の鼻で嗅ぐから鼻もいらない。具体的には、身体の周りを飛んでいる粒子が音や匂いの情報を送ってきている」


 僕は周りを見回した。すぐ傍に立つ乗客は無反応だ。

 空間に彼女の声が響いたのではなく、僕の頭に直接語りかけたようだ。

それならこちらも心の声で対応する。

「おまえはキズキなのか?」

「いいえ」

「ハミナがキズキの声で話していたのか?」

「はい」

「キズキしか知り得ないことを話していたのは?」

「あれは僕ではなく、彼女が作り出した一時的存在です」


 ハミナの偽物か。たとえあれが偽物でも、本物のほうも随分おかしい。


「運営みたいに僕の心に話しかけるなんて、そういう君もキズキに改造された特別な存在だろう?」

「僕の種族は皆、このくらいのことはできます」

「地球に移植される際に、そう設定されたのか?」

「いえ、A星にいたときからです」

「あんな何にもない星の生き物に、通信機能なんかいらないはずだ」

「僕たちは、他の空間に感覚センサーなどを持つ粒子を送り、そこと情報をやりとりできます。A星の前にいた宇宙で習得した能力です。そこには音や匂いはありました。音も匂いもないA星に移植されるときも、その能力は引き継がれました」

「A星みたいな単調な世界で使うことあるのか?」

「前の宇宙に残してきた粒子との間で情報をやりとりしていました。粒子は振動して音を出せます。そこにいないのに声がするので、前の宇宙では幽霊的存在になっていました。この声もあなたの脳に直接働きかけたのではなく、耳の近くの粒子が音を出しているのです。これまで僕は口から声を出していたのではなく、粒子が空気を振動させていたのです」

「粒子が音を出してそちらの声を届けるのはわかったが、僕の考えてることをどうやって読み取っているんだ?」

「脳で考えていることは、頭の周囲の磁場に表れます。その磁場の変化を粒子が読み取っているのです」


 それが本当なら、この猫のような生き物は地球の運営を越えているかもしれない。

 ハナミミナシのほとんどは太平洋の島にいるが、よその宇宙でも通信できる粒子なら世界中どこでもいけるはずだ。運営が全部で何人いるのか教えてもらえないが、ハナミミナシよりずっと少ないはずだ。人類を監視することくらいたやすくできる。キズキの本当の狙いは、温暖化対策のためのミラーエッグではなく、こっちのほうだったとは。


 僕の考えにハミナは異論を唱えた。

「特にそういうわけではないと思います。僕の種族に対し、彼女から特別な指示は出ていません」

「君が聞いてないだけじゃないのか」

「それはありえません」

「何故、そう言い切れる」

「僕が特別な存在だからです」

「さっき特別じゃないようなこと言ってたよな」

 僕は相手の嘘を責めた。

「あれは、改良された特別な存在ではないという意味です。僕は改良されてない特別な存在です」

「どういう意味だ?」

「あなたと同じです」

「?」

「A星代表。全権大使なのです」


「え~」


 僕は驚きのあまり、車内で大声を出してしまった。右にいた外国人が僕のほうを見た。僕はこの状況を取り繕うため、右手の掌で口を隠し、会話をしている振りをした。


「アトランティスの携帯は小さくていい。手の中に隠れる。こっちじゃ作れない。それから言いたいことはわかったから、詳しいことは後で。それじゃまた、ハミナ」


 僕はそう言うと、携帯をズボンのポケットに仕舞ったように装った。



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天動説の彼女3 メルカトル・ワールド @kkb

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