憂鬱のリズム

ねこK・T

憂鬱のリズム

 たたん、たたん。たたん、たたん。

 昼下がりの白い陽の光が車内を照らす。規則的な体の揺れは私を微睡へと引きずり込む。次の駅名を告げるアナウンスに、私は無理矢理目をこじ開けた。三度目の上野駅が見える。もう見慣れてしまった光景だ。


 たたん、たたん。たたん、たたん。

 ふらりと乗った山手線。何処へ行くでもなく、ただ、あのぐるぐると回り続ける電車に気が引かれた。始まりも終わりもなく、ずっと回り続ける列車。ぼうっとした今の私に、何故だか一番合っている気がした。


 たたん、たたん。たたん、たたん。

 ふと、昨日の夜に見たテレビの映像が私の脳裏を過ぎる。旅番組だろうか、映し出されていたのは渦潮の流れ。二つの潮がぶつかって、ぐるぐる回って、いつか消えてゆく。その向こうで、また新たな渦潮が起こり――……。


 たたん、たたん。たたん、たたん。

 渦潮の流れが私の心に重なる。とりとめのない考えがぶつかって、渦をつくり、何時か消えてゆく。その向こうでまた新たな渦が生まれる。けれど何処か満たされない。渦は確かに起こっているのに、飲み込まれず冷静に見ている私がいる。


 たたん、たたん。たたん、たたん。

 空虚な心につける薬などもちろん見つからず、何かを求めてきたはずのここでも、何時もと同じことを繰り返しているだけだ。渦潮の心を抱え、山手線に乗ったまま、ただただ時は過ぎてゆく。終わりなど見えないままに。



 たたん、たたん。たたん、たたん。

 私は薄く開いていた目をもう一度閉じた。次は池袋、と告げるアナウンスが聞こえる。次に目を開く時は、何度目の何の駅になっているのだろう。もしかしたら、ラッシュで人が一杯になっているのかもしれない。


 たたん、たたん。たたん、たたん。

 その時に私は、ここから降りることが出来ているのだろうか。



 たたん、たたん。たたん、たたん。

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