第2話
船は大きなクルーズ船だった。その大きさに周囲の人は感嘆の声を漏らす。
船に乗る際、スマホや携帯ゲーム機など撮影機能がついているものはエノクルの社員に回収された。機密保持のためだという。
金属探知機のゲートをくぐり、船に乗船し、最初に案内されたのは大きな広間だった。円形のテーブルと椅子が並べられ、パーティ会場のようであった。壁際には小規模のステージが設けられていた。
僕たち参加者はそれぞれの椅子に案内された。他の参加者が全員席に座ったところで、エノクルの社員からアナウンスがはいる。
「皆様、この度は我が社の実験企画に参加していただき誠にありがとうございます。当船は間もなく出航いたします。実験会場である我が社が保有する無人島へ到着するまでに、この実験の責任者の
アナウンスが終わり、船内は
僕も目の前に運ばれてきた料理を食べ始める。おそらく高級な料理なのだろうが、僕にはどんな料理でどんな素材が使われているのか全く分からなかった。ただ、味はいいことだけは分かった。
「ねえねえ、お兄さん」
黙々と料理を食べていると、右隣から声をかけられた。僕の右隣に座っていたのは、若い女の人だった。
「ねえ、さっき、原田さんと話してたでしょ?」
「えーと、はい」
「原田さんに協力するようにお願いされた?」
「されましたね」
「やっぱり~。私もね、原田さんに誘われてね、私は協力することにしたけど、お兄さんはどうする?」
「僕も協力することにしました。特に断る理由もなかったんで」
僕がそういうと彼女は嬉しそうに笑った。
「やった~。仲間仲間~。よろしくね、お兄さん! 私、小林
「僕は神呪尊っていいます」
よろしくお願いしますと、僕は軽く頭を下げた。
暫く、彼女と話しながら料理を食べた。彼女は快活でよく喋る女性だった。賞金は都会のマンションに暮らすための資金にするといっていた。
彼女の他にも、同じテーブルに座っている人や違うテーブルから話をしに来た人もいる。皆、楽しそうに賞金の使い道を話していた。
「そういえば、神呪くんって賞金は何に使うつもりなの?」
瑠理香が僕の賞金の使い道を尋ねてきた。
「決めてないですけど、多分、生活費になるんじゃないですかね~。父親と二人暮らしですけど、3億円あったら普通に暮らしていく分には十分だろうな~」
「うわ、すごい夢がない!」
「あはは、僕にとっては夢の暮らしですよ」
「へー、お父さん大好き?」
「はい、本人にいうと気持ち悪いって言いますけど」
僕はあの人の顔を思い浮かべながら苦笑する。
「なにそれ、ひっどい!」
「そういう人なんですよ~」
あの人は自分が誰かの父親になれるとは思っていない。だから父親と呼ばれることに抵抗がある。慕われることはないと思っている。
「それなのに、お父さんのこと好きなんだ」
「はい」
彼は僕が彼のことを『お父さん』と呼ぶことを嫌がるけど、それを止めさせたりはしなかった。僕が何者であるか理解しながらも。
船が埠頭を出発して大分時間が経った頃、にわかに広間が暗くなった。それまで発生していた音が、すうっと全て無くなった。
やがて、照明はステージを照らすもののみとなった。
ステージの脇にスッとスーツ姿の男が立つ。
「参加者の皆様、此度は我が社の実験企画に参加していただき、誠にありがとうございます。さて、皆様におかれましては、ご歓談の真っ最中のことと思いますが、これよりこの企画の責任者である白皇愛花主任よりゲームのルール説明がございます」
それでは白皇主任お願いします、とスーツの男が言う。
その後、こつ、こつ、という足音と共に一人の女性がステージの上に立った。
アウターホワイト・ドリーム @Nasuno_kouta
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