アウターホワイト・ドリーム

@Nasuno_kouta

第1話

 秋穂あいお桜海おうかい市のとある埠頭。そこに大勢の人間が集まっていた。あるものはスマホをいじっていたり、あるものは近くにいる他の人に話しかけたり、またあるものは周囲をせわしなく見渡していた。

 そして、僕、神呪かんのたけるは周りの人間の声に耳を傾けていた。

”なあ、おまえさ、もし賞金もらえたらどうする?”

”都心に家を買う! こういう機会がなきゃ都心に家なんて買えないからな!”

”あなたは、どうする?”

”あの人との結婚式の資金にする! すごく豪勢な式にするんだー!”

 皆がこれからのことに期待を胸を膨らませ、夢を語る。中には顔を青くしながら、

”お、俺はここで賞金を手にして、人生を変えるんだ……!”

などと呟く切羽詰まった人もいた。

 皆が期待する賞金、その額3億円。

その大金を手にするチャンスを求めて、人々は夢へと導く船を待ちわびていたのだった。


(みんな、たのしそうだなぁ~)

 周りの人間の声を聴いてそう思った。カバンから一通の封書を手に取る。

封書の差出人のところには「株式会社エノクル総合研究所」と書かれていた。

 エノクル総合研究所は、多岐にわたる研究・開発を行っているが、主に医療分野へ注力しているところである。

 そこから送られてきた封書には、エノクル研究所で行う実験に参加してほしいとのことだった。実験とはいっても半分はレクリエーションのようなもので、エノクル研究所が用意したゲームを行うだけらしい。封書にはゲームの内容が簡単に説明されたパンフレットが入っていた。いわゆるサバイバルゲームに近いものだった。僕たち参加者とエノクル研究所所属の人間で50対50のチーム戦を行うらしい。そして、参加者が勝てば全員に賞金3億円が配られるという。

 随分と気前のいい実験であった。これだけの大金をはたいてエノクル研究所はなんの実験をしているのだろうか。

 そんなことを考えていたら、隣から話しかけてくる声があった。

「おい、あんちゃん。あんちゃんもエノクルの実験に行くのかい?」

 横を見るとそこには、少し傷んだキャップをかぶり、よれよれのTシャツにチノパンというファッションの男性がいた。おおよそ50代から60代と思われる。

「えーっと、そうですね。おじさんもですか?」

 僕がそう答えると男性は楽しそうに笑いながら言った。

「おうよ。エノクルも気前のいいことをするよな」

「賞金3億円ですからねぇ」

「いひひ。しかも勝ったら参加したやつ全員にだぜ? 俺も歳だしあんまりくたびれることはしたくねぇんだ。せっかくのチーム戦だし楽させてもらおうと思ってよ。あんちゃん、俺の分まで頑張ってくれよな?」

 男性はいひひと笑った。

 僕はあははと笑い返した。

「まあ、いけるとこまでは頑張ってみますよ」

 僕がそう言うと男性は、

「おぉい、しっかりしてくれよぉ」

 と言って僕の肩をいひひと笑いながら叩いた。そして、じゃあなと言って、また近くの人に話しかけていた。

(愉快な人だな~)

 それが僕が男性に抱いた印象だった。

 キャップを被った男性が去ってしばらくした後、また僕に話しかけてきた人がいた。

 今度は僕より少し年上っぽい人だった。

「やあ、こんにちは。少しいいですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。私は原田玄幸はらだくろゆきと申します」

 原田と名乗った人物は参加者たちに声をかけて、参加者達で連携をとろうと動いているようだった。

「参加者全員が協力してくれるわけじゃないけど、それでもある程度の人間が連携をとりあって勝負したほうが勝てる確率も上がるんじゃないかなって思うんだ。君も欲しいだろ? 3億円!」

 原田は語気を強める。原田の熱が僕にも伝わってきた。

 僕には原田の案に断る理由もなかったので、彼に協力することにした。

「ありがとう! この勝負、絶対勝ちましょう!」

 彼は僕に握手を求めた。僕はそれに応える。

 僕と原田が手を離したとき、大きな豪華客船が埠頭に到着した。

 あの船が僕たちを賞金がかかった実験に連れていく夢の船だ。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る