第3話 猫の名付け
目がまんまるの黒の子猫。
突拍子もない出来事に戸惑いつつも、かわいいという感情には抗えない。
撫でようとしたら目を閉じて頭を差し出してきた。
どうやら撫でて欲しいようだ。
何もない荒野を1人歩くのは寂しかったのもあって、すぐに抱き寄せた。
喉をぐるぐる鳴らしながら目を閉じて額をこすりつけてくる。
かわいすぎる……
子猫を抱いて荒野を歩くのはかなり違和感があるが、当たりと書かれた紙が崩れ落ちたとこに現れたから、今回の夢の中で何か特別な意味を持った猫なのかもしれない。
「お前、名前は何にしようか」
語りかけても無反応で毛繕いしている。
そんなに無防備にお腹を見せていると顔をうずめるぞ。
何がいいかな。クロってのも安易過ぎるけど、呼びやすしいいよな。なんて考えていると
「なんでもいいですよ」
「えっ」
喋った。
猫が喋るのはアニメや漫画などで何度も目にしたことはあるが、実際自分の身に起こるとひどく混乱する。
「なんでもいいです。名前は。呼びやすいのでいいです」
「いやー…へへ……」
突然喋った猫に対してどう対応したらいいか分からず笑うことで誤魔化す。
「まぁ考えておいて下さい。そんなことより今回の夢は少し危ないので私がお供することになりました」
「お供……」
腕の中でお腹を見せたまま、まるい目を少し細めて猫は話を続ける。
「はい。今まではそこまで危険値が高くなかったので私たちは見ているだけで良かったのですが、今回はそうもいかなさそうです。ビルに向かうのはいいですがこのままだと死にます」
「死ぬ……」
淡々と語られるよく分からない話。
風が起こす砂埃が目に入り右目の瞼を閉じる。
こちらも目を細めて猫を見る。
「死ぬ……ってことは、夢から覚めるってことでいいのかな?」
「いえ、今回は目覚めません。本当に死にます。終わりです」
「でも、いつもしばらく時間が経つと夢から覚めるけど」
「今までは。です。今回は11回目、もう本番です」
「本番……」
本番もなにもただの夢なのに。
夢から覚めて明日も仕事に——
———あれ
仕事?
なんの?
てか名前
あれ?
荒野の真ん中で慌てる男と冷静な猫。
「名前……自分の名前が思い出せない!!」
「そこからですね。なんでもいいって言ったでしょう。名前は。どうせ毎回忘れるのですから」
「忘れる……」
「では私があなたに名前を付けてあげましょう」
呆然と立ち尽くす男の腕の中でペロペロと自分の手を舐めて顔を洗い始める猫。
「そうですね。あなたが当たりの私を引いたので、ビンゴ。ビンゴにしましょう。あなたは今からビンゴと名乗って下さい」
「ビンゴ……」
僕、いやオレ、いや自分、、
自分自身をどう呼んでいたかすら忘れてしまった男の名前はビンゴに決定した。
まだ全く状況は掴めていない男と、男の腕の中で淡々と喋る猫。
風に煽られ、丸くなった枯れ草が男たちの足元を通過する。
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