第4話 猫の名付け②

「とにかく移動しましょう。ここにいる理由もないですし」

 

 猫はそう言うと、尻尾をパタパタさせながら催促するようにビルの方へと肉球を向けた。

 移動するのには賛成だが、それよりもまず、この猫の名前を決めないとそわそわする。


「オレ、いや僕でいいか。僕の名前はビンゴでいいとして、お前の名前も決めておきたい」

「名前にすごく拘りますねぇ……」


 猫は眉間に皺を寄せるような、理解に苦しむといった顔をしている。


「まぁいいでしょう。私に似合う可愛くてクールな名前を付けてください」

「うーん……」


 猫の名前ならシンプルなものでいい気もするが、この猫は喋るんだよな。

 ペット感覚でクロとかヨルとか安易なものにすると怒られそうだし……

 かといって人間のような名前ってのも「普通ですね」とか言われそう。


「すごく悩みますね」

「大事な名前だからね。僕を助けてくれる大事なパートナーなんだからちゃんとした名前を付けてあげたいんだよ」

「…そうですか」

 猫は少し目線を外しながら尻尾を小さく揺らす。


 喋る猫って感じの名前がいいよな。いや、猫ってことに誇りを持っている気もする。じゃあ猫っぽい方が気にいるのか?でも待てよ……

 

 


 分かった。迷い過ぎて決まらないパターンに入ったことは確実だ。

 こうなったらシンプルなやつが一番いいって相場は決まってる。

 簡単なイメージでいい。そうだな……

 夢に出てきた黒猫だから夢黒……ムクロにしよう!



「決まったぞ!お前の名前はムクロでどうだ?」

「ムクロ……死体みたいな名前ですね。まぁなんでもいいですけど」

「死体……あ、骸か…いやちがっ…」

「分かってます。夢に出てきた黒猫。ですよね?いいですよ。割と好きです」


 ムクロはそう言いながら目を合わさないが小さく尻尾を振っている。

 どうやら少しは気に入ってもらえたようだ。全くもって素直ではないなこの猫……


「ではビンゴ。早く行きましょう。ムクロが案内してあげますから」


 腕の中で変わらず腹を向けながら満更でもない表情をしてビルの方向を向くムクロ。

 なんだクールかと思ったらそんなことないな……


「うん。分かった、行こう」

 

 僕は思っていることを悟られないように短く返事をして、促されるままビルの方へと歩き出す。

 

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夢の中での旅。今回から本番だそうで 朝日乃陽 @asahinobi

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