第21話


周囲に警戒しつつ被害の少ない建物へと歩みを進めていく、 幸いにもあれから異形の生き物に遭遇する事も無く、 目指していた建物は俺達の目前に見えてくる


「あと少しだよ! ハク様!」


同じように安全な場所を求め集まってくる人混みを避けるよう、アリスはしっかりと先導してくれていた。俺が誰かと接触するだけで要らぬ混乱を招いてしまうんだ。正直助かる


「あそこに…… 皆んな…… 集まってる。」


リムが見ていた場所には、 武器を所持している者が数名確認できた。


「ハク様あの人達は自警団です。此処で正解だったみたいですね、 良かった……」


自警団。 治安を維持する為に組織化された行政で学園に入学するも、レッドネームになれなかった者達が主に所属しており、街の見回りや治安維持などを目的としている団体らしい。俺の世界で言う、消防団や自警団みたいな存在だろうか


俺は咄嗟に着ていた服を少し破くと、 ササラの左手の紋様にグルグルと巻きつけて行く


「ササラ念の為だ…… 汚れていて済まないが、我慢してくれ」


「そ、そんな事ありません…… ありがとうございます!」



ササラは嬉しそうに左手をギュッと抱きしめていた。ようやく建物の敷地内へと移動する事ができたものの、 かなり敷地内は広く怪我人やそこら中に座り込む人々が見てとれる


ひとまず空いてる場所を確保した俺とササラは、 ようやく腰を下ろし休憩する事ができた。 



「ちょっと何が起きてるか聞いてくる!

行こリム!」


「アリスちゃん。待って~……」



そう言うと、アリスとリムは自警団の元に情報を聞きに駆け出していく。 アリスを見送った俺は辺りを見回す…… かなりの人数が助けを求めて今も、この場所に雪崩れ込んでいる。



「かなりの人数ですね…… それに怪我をした人も多い……」


「ああ、 崩壊に巻きこまれたのかもしくは……」



きっとあの異形な生き物に遭遇した人は怪我程度では済まないだろう。俺はヤツを想像すると身震いをする……



「ハク様、これから私達はどうなってしまうのでしょうか……」



こんな状況だ。不安にもなるよな……


俺はササラを優しく引き寄せると、ササラの手を優しく握っていた。


「正直言って俺にもわからない。ただササラが側に居てくれれば、 何とかなりそうかなって思えるよ……」


俺はササラに微笑む


「ハク様…… なんだか私もそう思えます」



ササラはそう言うと、微笑んでいた。しばらくすると、 情報を得た2人が俺とササラの元に戻って来るのだった。


「やっぱり変なバケモノがこの周辺で3体確認されているんだって! あと…… 自警団の人が何人もやられたみたいだよ……」



アリスは歯切れ悪く話していた。さっきの化物がまだ3体も目撃されているんだ、 例え自警団が数十人居たとしても此処を守りきる事は難しいかもしれない…… ランカーのササラでさえ苦戦していたんだ。


此処も決して安全ではない。せめて、俺の傷が癒えてくれれば……

ササラに応急処置を施してもらってはいるが

この体で、 再び戦闘になると守りきる自信が俺にはなかった。 俺が負ければ…… ササラやアリス、リムは…… いや、ここに居る全員…… そう思うと体が震えてしまう



「きゃああああ!!!!」




突然敷地内から叫び声が上がる!




反射的に声へと振り返った俺の心は、その光景に音を立てて崩れていく


「う、 嘘だろ……」


まだ距離はあるが確実に此処へと歩みを進める異形な生き物…… 


数は…… 7体……


絶望感が俺を支配していく


その光景を俺はただ、呆然と眺めていた……



「ハク様……」



ササラは呟くように俺を呼んでいた。俺は何も応えてやれなかった。 せめて…… 3人だけでも此処から逃がさないと



「俺が囮になる…… その間にササラ達だけでも逃げてくれ! ここは俺が死んでも時間を稼いで……!?」



パァン!!



突然頬に痛みがはしった……



「そんなこと! そんなこと言わないで下さい!! 命ある限り、私はハク様のお側に居るって言いました…… 私を…… 私を1人にしないで下さい……」



ササラの瞳から流れる涙


俺は此処にいる全員を守り抜く事なんて出来ないかもしれない。もしも神様がいるのならせめて、ササラ、アリス、リム……

3人だけでも助けてやってくれよ。


頼むよ……


俺に力があれば守ってやれるのに


俺はなんて非力な王なんだ!?




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剣と魔法と発情女子 水の中 @mizunonakaM

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