第20話


「ぁ、ガァぁ…… が……」



全体重を乗せたアポカリプスの一撃は、ヤツの掌と心臓付近を突き抜けていた。まるで地面へと拘束するかのように楔を打ち込んでいた


裂けた口からゴポリと溢れ出る血液と、長い舌がダラリと垂れ下がると動きを停止させる


幾度となくササラの斬撃を受けた体は、既に機能を停止させていても不思議では無かったほどのものだった…… しかし完全に動きを止めているヤツの表情は、歪に笑みを浮かべていた


「はぁ…… はぁ……」


足で押さえつける様に強引にアポカリプスを引き抜いて行く。


ズブッ…… 


生々しい音を耳に残しながら、 引き抜かれたアポカリプスは真紅に染まっていた。

命を奪ってしまったなどと言う罪悪感は、俺の中で既に薄れつつあった……


極度の緊張感の中で感じた疲労度は激しく

重い体を引きずる様に、3人の元へと急ぐ俺の足は酷く重く感じてしまう


俺の視界に映ったササラは、疲労の為地面へとヘタリ込んでしまっていた。 光の衝撃波での攻撃を何度も続けたんだ。無理もないだろう……



「良くやったなササラ」


「ハク様もご無事で良かったです……」



ササラの手を取りゆっくり引き起こすと、疲労感でフラつくササラの体をそっと支えていく。 こんな状況で、安全な場所などあるのだろうか……


不安を感じながらも周りの建物を見渡すが、 視界に入る建物は無残に半壊しているものや、炎上してしまっているものが殆どだった


問題は俺達で何とか倒したこの化物二体だけでは、これほどの破壊は出来ないだろう。

深く考えていくほど絶望感に飲まれてしまうのだった



「アリス、リム! 直ぐにこの場所から離れるぞ!」



重い足を無理矢理動かしながら、一歩一歩踏みしめるように歩いていく。未だに俺の両肩から生暖かい血が流れていたようで、 腕を伝ってササラの服を赤く染めてしまっていたようだ



「ハク様!傷が悪化します!? 私は大丈夫ですから……」



心配して駆け寄ってくるアリスとリムは、傷口を見るなり動揺しているように思えた。多分、骨まで到達している深さだろうな……



「かなり深いね…… 早く治療しないと!」


「私なら治療…… 出来る。でも…… 体に触れられない……」



3人は焦りの表情を浮かべていた。ササラならともかく、 確かにいつ襲われるか分からないこの状況で、治療に時間をかけるのは危険な事だ。



「リムは治療ができるのか? 触れないって…… あぁ、そうか。 発情だな?」



リムはコクリと頷く。 レッドネームになったササラはある程度だが俺への耐性が出来ているが、 アリスとリムの2人は俺に対しての耐性が皆無と言える。 手に触れただけでも発情してしまうほどに……



「発情か…… 困った……な…… そ、そうか!

でかしたぞリム! 発情だったんだ!?」



俺の言葉を理解出来ずに3人共首を傾げていた。俺は視線をヤツへと向ける…… 地面に横たわるソイツは、 目を見開き死んでもなお歪な笑みを浮かべ続けている



「確かソイツは俺の血が付いた指を舐めていた。 確信はないが、その後直ぐに狂った様にも見えた……」


「発情したと言う事ですか……?

私達と同じホムンクルスならわかりますが…… まさか!」



確信は無いが…… 仮にそうだとしたら、俺の考えは理に適ってるはずだ。



「ヤツがもしササラ達と同じように、ホムンクルスなら全て理に適っていないか……?」



異形な生き物に視線が集まる



「とても信じられません……でも、ハク様の血を舐めてから、確かに発情の様な症状が発生したようにも思えます……」



何かの原因で体が変異したのかまでは分からないが、 もし仮にそうであればこの最悪な状況を抜け出す事ができるかもしれないんだ



「今はまだ確信はないが、少なからず生き残れる可能性が見えたかもしれない」



3人は静かに頷くのだった

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