第19話


突然不気味な笑い声がピタリと止まったかと思うと、異形な生き物は指の隙間から俺達を品定めでもする様に視線を泳がせていた。


ピタリと止まった視線は、俺へと向けられているようだった。ニタリと絡みつく様な奴の崩れた笑みに背筋が凍りつくのを感じてしまう……


「あなたニきめたぁあアーー!!イヒヒヒっ!!」


何が起こったかもわからずに、俺の景色は一転したかと思うと、視界に空を映すのだった


遅れて両方の肩に激痛が走りながらも、必死に状況を理解しようと俺の脳がフル回転して行く


「な、何が……!? ぐぁぁぁあ!!」


背中に伝わる冷んやりとした感覚は、地面のそれだと気がつくのに時間はかからなかった。俺は両肩を鷲掴みにされながら地面へと押し倒されていたんだ


「ハ、ハク様ぁぁあ!?」


ササラの焦りの声が聞こえる……


直ぐに体を捻りながらも奴から抜け出す為に抗うが、踠けば踠くほどにあり得ないほどの力で掴まれた両肩へと、指先は食い込んでしまう。ギシギシと骨が軋む音が徐々に大きさを増していた。同時に奴の腕から覗く筋肉が肥大して行くのがわかった


「ぐぅ……うぁぁああ……!」


痛みに歪む俺の顔を見つめるヤツの表情は満悦感を楽しんでいるかの様に顔が崩れるほどの醜い笑顔を見せると、おもむろに肩に食い込ませた指を強引に引き抜いていく……


指先から滴る血をゆっくりと長い舌で舐め回すと、体を振るわせながら奇声を発するのだった


「ひぁうアあアぁあアーーッ!さいこウぅ……あなタいイわぁァ……!おいシいわァぁあーー!?さいコ……うッ?……う?

……アひっッ!?げッヒ……!?」


突然ヤツの目はグルリと白目へと変わった瞬間、一瞬だがもう片方の肩に食い込むヤツの指先の力が緩んだのだ。俺はアポカリプスで態勢の悪い中で無理矢理片腕で斬りつけるとその場を脱出する事に成功する


ササラ、アリス、リムの3人は俺の元へと急いで駆けつけるのだった



「ハク様!!大丈夫ですか!!」


「動き……速すぎる。反応できない……」


「肩大丈夫なの!?ひどい怪我だよ!」



俺は3人を庇うように前に立つとすぐにヤツを確認するが、斬られた状態のまま地面をジタバタと転がりながら、全身を掻き毟り奇声を撒き散らす姿にひたすら恐怖を覚えるのだった


「あひッっッイーーー!イヒヒヒッ……ひひヒッ!げっヒッ……ヒィぃいいーー!」


地面へと放たれた魚の様にバタバタと跳ね上がる姿は恐怖だったが、このチャンスを逃すわけにはいかない。そう判断した俺は一気に勝負を決める事を決断し3人へと声をかけていく



「ササラ……今のうちにアイツを仕留めるぞ! アリスとリムは周りを注意して何かあればすぐに教えてくれ。それと出来るだけアイツから離れておいてほしい!」



アリスとリムは頷く。再びあのスピードで襲われたら間違いなく2人の命はないだろう。



「ハク様……無理しないで!」


「周辺の警戒……了解した。信じてる……」



俺も2人に頷き返す。



今動かれたら俺達に勝ち目はない、それにヤツの動きは速すぎるんだ。2m以上もある巨体が消えて見えるぐらいに…… 今まで経験したことのない、肩の痛みに耐えながらもアポカリプスを強く握り締めていく



「ササラ!光の衝撃波をアイツへ叩き込んでくれ!一気にカタをつけるぞっ!」


「はい!!」



光の衝撃波は砂塵を巻き上げながら異形の者へと衝突し爆風を巻き上げていた。砂埃の中で今もなお不気味な笑い声がこだましていた……



「ササラまだだ!!」


「はあぁぁっー!!」



ササラは何度も何度もセラフィムから強力な光の衝撃波を連続して繰り出すと、地面を抉りながらも異形の者へ直撃し、轟音を辺りへと響かせていく…… 視界は衝撃により砂埃で完全に奪われていた



「ヴ……ひッぃィひイヒヒィーーー!」



止まることの無い不快な金切り声……


俺は駆け出すと金切り声の元凶に飛躍する

日本に居た時では考えられない跳躍力だ……


最高地点に到達すると、地面へとアポカリプスの切っ先を向けそのまま一気に下降して行くのだった



「これで…… 終わりだぁぁあ!!」


「あびぃッ!?ぐがァァぁッーーーー!?」



肉を突き刺す感触を感じた瞬間、地面へと到達したであろう激しい衝撃が腕や両肩へと伝わってくる。着地と同時に発生した風圧は砂塵を吹き飛ばし視界が嘘のようにクリアになっていた。

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