第6話 白い花の都にて

「さて、今回から全員が揃うな」


 いつも通りの陰気な部屋。

 三人分のキャラクターシートを見ながら、頷くGM。

 ハンドアウトをそろえ、予告を仕上げる。

 6回目のセッションにして、ようやく3人分のプレイヤーが揃うのだ、感慨もひとしおである。

 このセッションのために、いきなりレベルを1から6まで上げる(他のキャラクターにあわせる)行為をさせてしまったが、後悔はしていない。

 サガシリーズのリプレイは、1レベルではじめるものもあるが大体は成長が早く調整される。

 激動の大陸を生き抜くには、強くなるしかないからだ。


 けして、ボスデータにあわせて成長させたわけではない。はずだ。





GM:今回から三人のセッションとなります。

リオ:今までは仲間集め、だったという事なのですね。

GM:これでストーリーが動かせます(苦笑)

ミカ:(なんとか6レベルになるまでの成長を終わらせる)……ふぅ。

エリシア:わたくしも、なんとか終わりましたわ。


 データとにらめっこしつつ、データを完成させるプレイヤー達。

 それを確認してから、GMは今回の予告を読み上げるのだった。





「グラスウェルズがメルトランドに攻め込むつもりだ」

ーーそんな情報が、もたらされたアイドル達。

急いで向かった先にあったのは、大国の間に生きる人々とーーある一つの出会いであった。

黒鋼の城、ノルウィッチに眠る「マスターピース」。

メルトランド国民はーーその音色をまだ知らない。



リオ:なんかシリアスが始まりそうな……

エリシア:立地的に、どうあがいてもですわ。

GM:ではハンドアウト見せつつ、プリプレイに入っていきましょう。




エイリスツィア・グラスウェルズ(エリシア)の場合


エリシア:今回は6レベルに成長しましたわ!立派な騎士に少しずつ近づいていますの。

GM:(データを見る)大分硬くなったな……。

エリシア:《ステップ・アース》と《バッシュ》を伸ばして《ディフェンダー》をとって、地道に強くなりましたわ。

リオ:あと、《パフォーマンス》があるんだ……お金にそんなに困って……。

エリシア:それは《バックアップダンス》のためですわね。『マスターピース』を歌うリオさんを助けるためですわ。

リオ:ありがたい……。

エリシア:命中は少々不安ですが、がんばります!

GM:では、そんなエリシアのハンドアウトはこちらです。


ハンドアウト エイリスツィア

シナリオコネクション:エレイシア

メルトランドにたどり着いた君の前にーー金髪の女性。グラスウェルズに居るはずの母が現れた。

「武者修行の成果を見たい」と不敵に笑う彼女は何かを隠しているようだが……。


エリシア:ついにお母様との邂逅ですわね。

リオ:どんな母親なんだ……。

エリシア:素敵な騎士ですわ。

リオ:(前に岩投げ試練とか言っていたような……)




春川莉雄(リオ)の場合


リオ:今回はクラスチェンジをしてセージにしました!

GM:ついに歌う事を放棄したか……。

リオ:違うからね!? と、とにかくクラスチェンジ前に《アレグロ》と《ジョイフルジョイフル》。クラスチェンジしてから《エフィシエント》と《アドバイス》《ウィークポイント》をとって色々支援の幅を広げました。

GM:ふむふむ、出来る支援が増えましたな。

リオ:相変わらず僕一人じゃ何もできないんだけどね……。


ハンドアウト リオ

コネクション:アベル

メルトランドに訪れた君達は圧倒的な無理解にさらされていた。グラスウェルズが攻めてくることも、平和を作りたいと言うことも。最早この大陸では夢物語に過ぎなかったーーしかし、君の話をちゃんと聞いてくれた王族が一人だけ居た。それがアベルだった。

「世界を平和に導くのであればーー」と彼が提示した条件は……


リオ:今回はメルトランドの王族なんですね。

エリシア:アベルというと……たしか……。


 アベル。

 メルトランドの王族であり、デスマーチシリーズ、ゲッタウェイシリーズで黒幕として暗躍する男性である。

 彼の活躍に関してはデスマーチシリーズに詳しい。


リオ:……えっと、エリシアさんがアンリで、ミカさんがヒューバードで、僕がアベル……?

ミカ:私の場合グリンダともかかわりがあるわね。

エリシア:……

リオ:悪役大集合じゃないかっ……!?

GM:GMの趣味ともいいます。

リオ:……。



シュピーゲル ミカ・ノーザンゲート(ミカ)の場合。


ミカ:安定を重視して《ブラッドパクト》を修得したわ。あとは《フォースブリンガー》と《マジシャンズマイト》《マジックフォージ》を順当に伸ばした感じよ。

GM:《ファミリア》や《サモンアラクネ》《アニマルパクト》あたりを取らないあたり渋いですな。

ミカ:まだ、隣になにかを置くというのが想像できないから……。これで《サモン・ファーブニル》の回数は増やせます。

GM:なるほど。了解です。


ハンドアウト ミカ

コネクション:グリンダ

君の元にグリンダから連絡が来た。

……マスターピースの次のありかはノルウィッチだと言うこと。そして

「あなたのライブが見てみたい」

というものだった。



ミカ:……グリンダ。

リオ:こういう願いって大体フラグ……。

エリシア:す、ストップですわ!?




※ ※ ※



GM:さて、3人そろってデータが出そろいましたので--ひとつ、決めて欲しい事があります。

リオ:ふむ?

GM:プレイヤー3人が揃いましたから、改めてユニット名--もといギルド名を決めていただこうかと。「エリシアさん、ミカさん、そしてハルカさん」とタケウチさんが呼び出す感じです。

リオ:「は、はい」

GM:「あなた達には、これからユニットを結成していただきます」

エリシア:「とうとうこの時が……」

リオ:「ユニット名をつける必要がある、ということですね」

ミカ:「……リーダーも、ですか」

リオ:「じゃあ、エリシアさんを推したいです」僕は異世界人だし、そういう役はやらないほうがいいと思ってる。

ミカ:「……同じく」

エリシア:え、えっと……

リオ:「最初っからこの事務所を引っ張ってくれた、エリシアさんなら。リーダーに、ぴったりだと思います!!」

エリシア:「わたくしもアイドルですし、皆様の機体にはこたえたいところなのですが……」最近、おつむの方の自信がないのです……。

ミカ:「自信を持ってください」

エリシア:……たしかに、わたくしはアンリお父様の娘ですわ……、しり込みなんて、できません。

ミカ:「私たちが、支えますから」

エリシア:「ええ……引き受けさせていただきます。一世一代の勝負ですわ!」

リオ:「はい、頑張りましょう!」

GM:「あとは--ユニット名が必要ですね」

ミカ:「……集団の名前には、口ずさみやすく、覚えやすい、且つ私達が何を目指しているかをそれとなくほのめかす物とすると……」

エリシア:「わたくしたちが求めているもの……?マスターピースでしょうか」

ミカ:「私たちの名前、というには少し違うイメージがありますね……」

リオ:「うーん……難しいなあ名前を付けるのって……」

ミカ:近しい花ことばで探しても、語呂があまり良くないのですよ。

リオ:……うーん、いっそのこと全員の名前をつなげて『ハルミシア』とかどうでしょ。

エリシア:「たしかに、口ずさみやすいですわね」

ミカ:「ええ、ではこれで……決定という事で」

リオ:「よしっ……!」(ちょっと恥ずかしいけど、嬉しいかな……)


かくして、ギルド、もといユニット名『ハルミシア』が決定したんだ。

「リオさん、ミカさん。プロデューサー……ハルミシオン!始動ですわ!」

……エリシアさんがちょっと間違えてたような気がするけど、問題ないだろう。


GM:では、ギルドスキルですね。

リオ:《蘇生》《祝福》

エリシア:《陣形》や《限界突破》も欲しいですわね。

ミカ:《ギルドハウス》と《研究施設》のセットも、ライブが楽になると思う。

GM:では、そろそろセッションに入っていくとしましょう。




※ ※ ※



GM:まずはエリシアのシーンです。

エリシア:わかりましたわ! 手紙をもらうシーンでしょうか?

GM:はい、前回のシナリオ中にあったシーンと言う感じです。



 昼下がりの事務所。

 エリシアの元には一通の手紙が届いていた。

 封蝋の出来からしても、明らかにグラスウェルズ王家がかかわるものだと分かるものだった。


GM:「確かに、届けましたよ」アンリのところに居た従者さん--名前はルイーズさんとしよう。が届けてくれるよ。ちなみに差出人は流石に変名となっているが、君には父親だという事が分かる。

エリシア:「ふふ、ありがとうございます。ルイーズ」郵便や隊商を利用して届けないということは、かなり機密の内容ですわね……貴族の場合食糧事情ひとつで大変なことになりますが……。

GM:「では、私はこれで」

エリシア:「あら、ゆっくりしていかれないのです?」

GM:「ええ、少しばかり大変なことが始まりそうですから」そう言ってルイーズさんは、竜にのってグラスウェルズへと飛んでいくよ。

エリシア:わたくしも、いつか竜騎士になりたいですわね……。ペーパーナイフを使って封を開きますわ。

GM:さて、時候の挨拶もそこそこに、内容を言っていきますね。


『エイリスツィア、マスターピース集めは順調のようだね。

 君の父親として、鼻が高い』


エリシア:ふふ、ありがとうございますわ。

ミカ:何故知っているのか……いえ、王女であれば監視が付いていてもおかしくはない……。


『次に集めるべきマスターピースは、メルトランドのものだ。

 ノルウィッチ(メルトランドの首都)に待ち人が居る、彼女と話すのもいい』


エリシア:待ち人……お母様ですわね、ハンドアウト的に……。


『ここから先の内容が、一番大切なことだ。

 グラスウェルズと、メルトランドはグラスウェルズの奇襲と言う形で、近いうちに開戦するだろう。

 内政を先にすべしとゴーダ伯を牽制したが、聞く耳を持たなかった。国力の差もある、メルトランドは滅ぶだろう』


エリシア:ゴーダ伯は陰謀家ではありますが、シャルル前国王陛下からの懐刀であり、フィリップ陛下やレアノール王大后の信頼篤い方であったと記憶しておりますが……。強硬手段に出ましたのね……。


『正直、彼と友人であった者たちの祖国を襲撃する理由は、私には理解しがたいものだ。

 彼なりの計算は、あるのだろうが……。

 エイリスツィア、メルトランドに赴くときは、長期間の滞在は絶対に避けるように』


エリシア:わかりましたわ……しかし、タケウチさんにどう伝えたものかしら。


 しばし思考するエリシア。

 そのまま伝えたところで、信頼されるのは難しい。

 とはいえ、すぐに向かわなければ戦争は始まってしまう。


エリシア:「兎も角、メルトランドに早急に向かうようタケウチさんに掛け合ってみましょう。昨今の情勢から『似たような答えを出した』とすれば……なんとか……」


 父の手紙の内容を何度か反芻したのち、火をつける。

 父の筆跡は懐かしく、大切だと思う反面。情報漏洩の物証が見つかれば、それこそゴーダ伯に咎められた際、父が追い詰められることとなることをエリシアは理解していた。


『PS:手紙には小さいが宝石をつけておいた。路銀に困ったら使用するように』


エリシア:ふふ……お父様ったら、心配性なんだから。これで新しい槍が買えますわ。

リオ:……また、貧乏に……。

エリシア:戦力の拡充は生存性を高めますわ。「兎も角、メルトランドに向かう算段を立てないといけませんわね……一歩間違えば、戦火に巻き込むことになると思いますが……」


 一人、プロデューサーの方へ戻るエリシア。

 彼女の訴えにより、すぐにメルトランドへと一同は向かうことになるのだった。




※ ※ ※




GM:さて、今度はミカのシーンです。

ミカ:……似たような手紙をもらっているシーンですね?

GM:はい、前回のエンディングから繋がっています……それと、もう一つ急の連絡がやってきている。

ミカ:短時間で連絡を連続して送らないといけない事態、というわけですか……。


『レイウォールの王女、ピアニィがヒューバード様を裏切り、レイウォールの領土、旧アヴェルジアの地を切り取り『フェリタニア』を建国しました』


ミカ:「っ……!?『フェリタニア』…!?」かつての統一帝国の名であることも併せて震えています。ピアニィ様は、覇王にでもなる気なのか……?

リオ:……原作無印、一話の話か……。


『その影響で、グラスウェルズはメルトランドに攻め込む理由が増えてしまいました』


リオ:えっ、どういう……。

エリシア:緩衝地帯、ですわね。


『メルトランドが生きてこられたのは、レイウォールとグラスウェルズ、二つの大国に挟まれていたからこそ。緩衝地帯と言う側面があったためです』


エリシア:ですからグラスウェルズが侵略を多く行う国家であったとしても、小競り合い程度だったのですわ。直接国境を接するというのは愚行ですから。

ミカ:……フェリタニアの位置を考えれば、メルトランドを緩衝地帯とする必要はありませんね。「なんて……事を」


『そして、メルトランドにマスターピースの断章があることは判明しています。早急な回収をお願いします』



ミカ:「落ち着け……落ち着くんだ、私。あの方……ピアニィ様は任務の外、任務の外です……今やらなければならないことは--」


 静かに考えながら、ミカはメルトランドに向かう準備をする。

 自らの上司の事も、グリンダの事も、ピアニィの事も、考えたいことはたくさんある。

 だが、一番に行わなければならないことは、メルトランドへ向かう事だ。

 思考を行いながらも、彼女はすぐに準備を行っていたのだった。




※ ※ ※



GM:では3人のOPになります。

リオ:僕の個別シーンなし!?

GM:どんなシーンをすればいいのか思いつかなかったので。


 --いつもと変わらない、アイドル事務所。

 名前は聞こえがいいけど、小さい建物の中で、僕たちは準備をしていた。

 ……最近は少し設備が出来て、歌の練習もできるようになったのは嬉しいけど……。


リオ:『ギルドハウス』の効果で歌が上手くなる……!

GM:さて、練習もそこそこに、タケウチさんが君たちを呼び出します。

リオ:はいっ、そろそろライブ、ですよね。

GM:「ええ、次のライブが決まりました……我々はメルトランドに向かいます。おそらく『マスターピース』もかの地に存在するかと」

エリシア:「……ええ、頑張りましょう!」

ミカ:(動揺を隠しつつ)「分かりました」

リオ:「そういえば、メルトランドってどんな国なんですか……?」

エリシア:「簡単に言えば、サンドイッチの中身のような国でしょうか……」

リオ:「サンドイッチ……美味しい国なのかな」

ミカ:「二つの大きな国に囲まれた小国ということですね--ライブ開始予定は何日後の予定ですか?」

GM:「おおよそ、二週間と言ったところでしょうか」

エリシア:……フェリタニア建国やファントムレイダーズの投入という事実から考えると、ギリギリですわね。

GM:「ほかに、何か質問はございますか?」

リオ:「マスターピースがメルトランドのどの辺にあるか、っていうのは……」

GM:「そこまでは、まだつかめておりません……」頭を下げるタケウチさん。

リオ:つまりミドルフェイズに頑張る必要があるってことね。

ミカ:「セットリストはどうしますか?」

GM:「おそらく小国であり、国威発揚の機会として音楽を使用してきた国です。アップテンポの曲が良いでしょう」

エリシア:(国威発揚のための音楽……グラスウェルズとは、かわりませんのね)

リオ:「つまり、ダンスが映えるエリシアさんの見せ場ってことですね!お願いします、リーダー!」

エリシア:「っ、え、ええ。頑張りましょう!」

ミカ:ならば、移動中にも準備しましょうか。

GM:「はい、わかりました」


 こうして、急だけど。

 僕たちはメルトランドに向かうことになったんだ。

 ミカさんも、エリシアさんも。どこか暗い顔をしてたから。

 せめて僕だけでもがんばって明るくしようって、顔を一度叩いて気合を入れて。

 僕は旅へと向かったんだ。




※ ※ ※




GM:では、それから一週間ほどの旅程を経て、メルトランド中央、ノルウィッチにたどり着く感じですね。

ミカ:(歌詞と足の進め方を何度も確認している)

エリシア:「ここが、ノルウィッチですのね」……ただの武者修行で来られたのであれば、観光もしたかったですわ。

リオ:「電車とか飛行機がないと、ほぼ徒歩なのがきついなあ……馬は使えたけど。お尻が……」

エリシア:「ふふ、そのうち慣れてきますわ」

ミカ:「……ええ」(馬車で酔ったのを誤魔化すように)


 ノルウィッチにたどり着いたら、一番に見えたのは、おっきな御城だった。

 黒鉄の城と呼ばれるだけあって、凄い大きさで。堅牢さが、見ただけでわかるような代物なんだ。

 ……ちょっと立って戦いそうな気配もありそうで、そういう意味でも、僕の中の男の子がわくわくしてしまう。


GM:ちなみにこの城、立って戦えます。

リオ:マジでっ!?

GM:無印参照です。

エリシア:「この北には、大陸最強といわれるファリストル城まで存在します……独立を保っている理由が良く分かりますわ」

ミカ:(山に囲まれた立地も含めて、確かにこれは難儀するわね)

GM:「ええ、領主であるイザベラ様が城の強化に執心していますから。もっとも堅牢な地の一つであると言えるでしょう」

リオ:それだけ聞くとフラグっぽい……。

エリシア:実際、城の強さと兵の強さを合わせたものが戦力となりますわね。平時と籠城時でも戦い方は違いますし、山地に建てた城であれば防御力は上がりますが、平時の執政に差支えが出ますわ。

ミカ:兵の強さで言うとメルトランドは悪くないですね。最強はレイウォールでしょうが。

エリシア:我らがグラスウェルズは強国ですが弱兵ですわね。併呑を繰り返した影響もありますから練度、士気のバランスがあまり良くないですわ。ほぼ属国のゴルフォードを足せば強いですが。

ミカ:そして、最弱は建国直後のフェリタニア……なのですが。あの地には、女王が居ますからね。兵が弱くとも戦略を整えれば物量で蹂躙可能なのが現実です。

リオ:(全然わからないぞ……)「と、とにかくライブの準備しましょうか!」

ミカ:「並行して、マスターピースの情報も集めなければなりませんね」

エリシア:「さあ、頑張りますわ!」


 お話もそこそこに、街中を歩いていく僕たち。

 たまに鎧を着た兵士さん達とすれ違ったりするけれど、その表情はそこまで剣呑な感じはしない。

 戦火に包まれるなんて雰囲気はなかったんだ。


 ……それでこそ。奇襲の意味があるんだけど。



※ ※ ※



 

GM:では、ミドルシーン、情報収集やライブの準備のためのフェイズですね。エリシアから。何かすることはございますか?

エリシア:そうですわね。待ち人に会いに行くのもありますが、情報が出そろってからの方が良いでしょう。しかし、わたくしの知力は……。

リオ:あはは……。

エリシア:なので、筋力を使う『ライブ会場の準備』から始めますわ!設営ならまかせてくださいまし!《ダンシングヒーロー》を使いつつ(ダイスを振る)22ですわ!

ミカ:すごい……。

GM:余裕で成功ですね。

エリシア:「さあ、スタッフの皆様。頑張りましょう!」

GM:「は、はいっ」

エリシア:身の丈より高い丸太を持ち上げて積み上げていきますわ。

ミカ:……アンリって、非力な王族でしたよね?

エリシア:お母様の鍛錬の賜物ですわ。

リオ:お母様の謎が、深まる……。

ミカ:いや……むしろピアニィやベルフトも王族でしたし……?(考え始める)

GM:「俺たちより強いかも、あのお嬢様……」

エリシア:「ふふ、慌てると危険ですわ。持ち上げられないようなものがあればわたくしを呼んでくださいまし」

GM:「は、はい……っ!」では、次はリオ君に参りますか。




※ ※ ※



リオ:次は僕だね。《アンプロンプチュ》があるから選び放題だけど……。

ミカ:できれば失敗したくないので、マスターピースあたりをお願いします。

リオ:うん、それがいいかな。では『マスターピース』の在りかを調べます。《アンプロンプチュ》で(ダイスを振る)よし、27。

GM:余裕ですね。

ミカ:……すごい。

リオ:前回はあんまり見せられなかったけど、これが僕の本領だからね。

GM:では、歌を歌って耳目をあつめることで情報を集めていった感じですね。

リオ:「マスターピースって歌について、何か知っていることとかありませんか?」

GM:その言葉には適当な市民が反応したことにします「そうだなあ、メルトランドの王族って大体収集癖があるんだよ」

リオ:「収集癖?」

GM:「ああ、何かに熱中するとそればっかりになるっていってもいいかな。ほら、あの城とかはイザベラ様がすべてを注ぎ込んで作ったわけで」

リオ:(黒鉄の城を見ながら)「成程……」

GM:「俺たちは『マスターピース』っていうのが歌劇だってことも分からないけど。多分あの城の中じゃないかな。確か数代前に歌曲について集めていた人間がいたからな」

リオ:「ありがとうございます」……またダンジョンかとおもったら、そうか。城の中か……。

エリシア:忍び込むにしても堅牢ですわね。

ミカ:見つかった場合、その場だけではなく今後の活動にも差支えが出るわ。

リオ:「……あの中に、入らないといけないのか」


 城を見上げながら、僕は小さく呟く。

 さっきまでの情報収集で分かったのは。この国の人達が『マスターピース』について、全然知らなかったという事だ。

 ……平和なんて信じられないくらい、あんなに強い城が必要な情勢で生きてきたからなのだろうか。

 それとも、『マスターピース』を抹消しようとした人が居るのか。

 僕には、まだ答えは出せなかった。


リオ:誰も、知らないなんて……不気味だな……。

GM:では、このイベントをこなすことで王族への謁見を行うことが出来るようになります。

一同:はーい



※ ※ ※



ミカ:では、最後は私ね。「王族謁見」は間違いなく高難易度ですし。まずは『グラスウェルズ軍の動向』を調べるわ。

GM:了解です。では知力判定です。難易度は12。

ミカ:(ダイスを振る)……12。

リオ:あ、あぶな……っ!?

エリシア:成功すればよいのですわ。

ミカ:では、ノルウィッチの裏通りにある酒場で、聞き耳を立てながら情報を集めるわ。おそらくグラスウェルズの訛りがある、すでにある程度潜入している人材がいるでしょうし。

GM:ええ、その予想は的中します。影の方で二人の男性が飲んでいるのを見かけますね。

ミカ:聞き耳をします。



「この国も、もう終わりか」

「ああ、偉大なるヒースを盗む計画、だろう?」

「ゴーダ伯も良く考えたものだ、国の象徴であるヒースが無ければメルトランドの心の支えはなくなる。その上、現女王のスリスは幼い、国を持たせることは出来ん」

「……それにしても、ヒースも耄碌したものだ」

「守護のかなめである兵を辺境に送ったんだろ? 攻めてくださいって言ってるようなもんだよな……」


 グラスウェルズ訛りが強く、聞き取りづらい会話を解析しながらミカはため息をつく。

 このような会話が可能なほどに、すでにメルトランドは落ちている。

 メルトランドは、エクスマキナ(機械人間)に対する差別主義政策をとっているがゆえに、こうしたエクスマキナ主体の反政府組織が外患を誘致する。

 そして、そうしたエクスマキナたちを見て、さらなる差別が産まれる。

 実質的な国家運営を行う『偉大なるヒース』がそれを容認しているのであれば、だれも国民は疑問に思う事すらないだろう。

 滅ぶのは早いか、遅いかの違いでしかない。


ミカ:「マスター、あちらの方々にエールを」そう言って金を渡して立ち去ります。そして、店を出るふりをしながら、外で音を集める。

GM:「グラスウェルズ開戦の準備は整ってて、後はゴーダ伯が行けば終わりだ。--それに今回は『バルムンク』の手も入っている」

ミカ:……バルムンクですか、成程。

エリシア:病巣はグラスウェルズだけではありませんわね。

ミカ:人が人である限り、どんな国でも反政府主義というのは産まれるものよ。露骨な差別を行っているような国は、特にね。

GM:では、情報を集め終えたところでシーンを切りましょう。次のシーンはトリガーシーンです。



※ ※ ※




エリシア:シーンプレイヤーにわたくしを指定した、ということはハンドアウトの……。

GM:ええ、ご想像の通りです。


 夕焼けをバックに作業をするエリシア。

 すでに他の作業員は家路に帰らせ、彼女は一人で作業を続行していた。

 ライブを行うのが自分なのであれば、自分が最も働くべき。

 それが、彼女の考えであった。

 丸太を運び、くみ上げ。一つのステージの形へとしていく。


「エイリスツィア、ここにいたか」

「っ、その声は。お母様……?」


 黙々と作業を行うエリシアの動きを止めたのは。

 凛とした女性の声だった。

 首を向ければ、鋭い瞳をした女性騎士が立っていた。


 一本の剣の様な女性だった。

 透き通った紫水晶の瞳、さらりと風になびく金色の髪、整った顔立ち。

 肢体を覆う鎧は華美さこそないものの、幾多の戦いによってできた傷が、戦化粧として独特の美しさを放っている。

 そして、自然体でいながら。全く隙を感じさせない立ち姿。


エリシア:間違いありません、この佇まい。お母様ですわ。


 それが、エイリスツィアの母。エレイシア・グラスウェルズの姿だった。


GM:「ああ。エイリスツィア。見ていない間に大きくなったな」

エリシア:「お母様もお変わりなく。お会いできてうれしいですわ!」

GM:「私もだ。……アンリから娘がアイドルになったと聞いて驚いたがな」

リオ:驚いたで済ますんだ……。

エリシア:「そ、それは。成り行きと言うか……」

GM:「成り行きであれなんであれ、息災であればいい」

エリシア:「ええ。お母様とお父様の娘ですから、とっても元気ですわ。お母様は変わらず剣士ですの?」

GM:「剣士として過ごすことが、一番落ち着くからな。……惚れた男に剣をもった姿が美しいと言われれば、是非もないさ」

エリシア:「ふふ、仲睦まじいのがなによりですわ」

GM:「--さて、と。無事も確認したところで本題の話をするとしよう」


「エイリスツィア、貴女は今『マスターピース』を探しているのであったな。この世界情勢の中で」

「ええ、手紙でも話した通りですわ」

「……不安ではないか? このまま戻っても、アンリも私も何も言いはしないだろう」

「それ、は」


 少し顔を下げるエリシア。

 確かに、今の世界はどこまでも危うい。

 祖国はメルトランドを併呑しようと動き、レイウォールではフェリタニアという極大の火種が産まれている。

 いつ旅路が火に包まれても、巻き込まれても。

 おかしくはないのだ。


「怖い--ですわ。確かにわたくしはお母様のように強くはなく、お父様のように理知的な政を成せるわけでもありません」

「……」

「ですが--」


 それでも、と顔を上げるエリシア。

 まっすぐに、母の紫の瞳を見つめる。


「わたくしは、旅を続けたいと思いますわ。素晴らしい仲間に恵まれ、世界を知り。そして、この大陸に存在した祈りを知る。挫けて、泣きそうになったとしても。旅をした時間は、きっと未来を明るく照らしてくれますから」


 そんな、強い瞳の娘に。


「……若い頃の私を見ているようだな」


 母は、はじめて強い表情を崩して笑って見せたのだった。


GM:「……とはいえ、装備品もそろえたほうがいいだろう。私のお古だが持っていくといい」と、彼女が槍を渡してくれるよ。元からプレゼントするつもりだったのだろう。

エリシア:「で、でもこれはお母様の……」

GM:「使われるべきものの手に渡ったほうがいいだろう。私にはこいつらがいるからな」彼女は苦笑しつつ腰にさした二本の両手剣を見せる。

エリシア:「お母様……」

リオ:両手剣二本を使い分けてるのかな……。

ミカ:おそらく両手剣二刀流かと。パワーを使えば可能ではあります。

リオ:……そのレベルなのか、エリシアさんのお母様って……いや、納得だけど。

GM:エリシアの手に槍を握らせた後、彼女は幾度かせき込む。「……っ、げほっ……」

エリシア:「お母様っ!?」

GM:「ただせき込んだだけだ。気にするな--この国のマスターピースは。王族が保管している。貴女たちの力をもって、日の下にさらすといい。歌は、みなの記憶に残るものだ。貴女の、成長した姿をみせるのだ」

エリシア:「え、ええ……!」

GM:「……エイリスツィア。貴女は貴女の思うがままに生きるといい。それが、私の望みだ」そう言って、踵を返す彼女。

エリシア:「……お母様」


「わたくしは、今とっても--自由に生きていますわ!」


 母の背中に、ありったけの声をかけるエリシア。


「……ありがとう」


 小さく呟く母の袖口からちらりと見える肌には--。

 蛇の様な、黒い文様が暴れていたのだった。


エリシア:……っ!?

ミカ:呪い……蛇、バルムンク……!?

GM:さて、どうでしょう。ただ普通につくようなものではないだろうね。

エリシア:お母様の文様について……聴けませんでしたわ……。

リオ:エリシアさん……。




※ ※ ※





リオ:では、僕が王城に向かって許可を取りましょう。難易度はどのくらいです?

GM:【精神】で25です。

リオ:っ……たっか。

ミカ:【精神】……また難しいところですね。

GM:国民皆兵国家で、ライブに興味のない人たちの集まりにおもむろにやってきて宝物この中身を貸せと言ってるようなものですからね。むしろ興味がない物品じゃなかったらもっと危なかった。

ミカ:探索系の特技、私もとっておくべきでしたか。

リオ:いや。そのための僕だ。《アンプロンプチュ》で行きます……シーン1回しか使えないけどこういう時は便利だ。(ダイスを振る)26!

エリシア:見事ですわ!

リオ:消費MPでしおしおになるけどね……。とにかく、歌を歌って、それでアピールしていきます!


 ノルウィッチにある御城。

 その中は、見た目にたがわない、豪華な構造だった。

 分厚い扉や、兵士のための隠し通路。

 見てるだけで気おされそうになる。


「……僕たちが求めるライブのために、歌いたいんです。その、平和のための歌を」

「ううむ……」


 今、僕の話を聞いてくれているのは、イザベラと言う人で。ここの城主様だった。

 あまり乗り気な感じがしなかったけど……。


「城を強化する話ではないのだな……」

「ふふ、面白いではないですか、イザベラ様」


 話を聞いてくれなそうだ、そう諦めかける僕。

 そんなときに横やりを入れたのは、黒髪の少年だった。


「この時代に平和なんて突拍子もない話だし、何より竜輝石にかかわらないのが良いね」

「……竜輝石」

「ああ、アルディオンで大きな話なんてほとんどそれがらみだろう?」


 竜輝石。

 存在は、エリシアさんやミカさんからちょっとだけ聞いたことがある。

 各国に一つずつある、凄い力を持った石。

 その力と権威で、国を治めているのだと。


GM:「ああ、怪訝な顔をさせてしまったね。僕はアベル。ただの王族だよ。イザベラ様は興味なさそうだから僕が話を聞かせてもらうね」

リオ:「……僕たちにマスターピースを歌わせてください。かつて、名もなき歌姫が、平和のために歌った歌を。僕たちは再演したいんです」

GM:「うん、いいよ」

リオ:えっ、そんな簡単な……。

GM:「ただ、そうだね。条件がある」

リオ:「条件、ですか……」国宝ではあるだろうし、そう簡単にはいかないか。

GM:「本当にマスターピースを歌いこなすことが出来るのか、歌って見せること。が条件かな。」

リオ:「『マスターピース』を、歌う事が条件ですか」

GM:「ああ、そうじゃないなら。せっかくの面白いものを奪われるだけじゃないか。それに--この大陸で平和なんて言い出した人の歌なんて、聴いてみたくなるじゃないか」

リオ:「分かりました……お引き受けしましょう」筋は通ってるから。受けるしかないか。どっちにしろ歌う予定はあったからわたりに船だ。



「よし、契約成立だ」


 アベルと名乗った少年はにっこりと笑うと、僕を地下の宝物庫へと案内してくれた。

 埃被ってた物品が、たくさん転がっていて古い歴史を感じさせる場所だった。


「けほっ、けほっ……」

「すまないね。ここの人は興味のあるものを集めるのは好きなんだけど、他の人が集めていたものに関してはあんまり興味がないからこうなっちゃうのさ」

「そ、そうなんですか」


 アベルさんに連れられるままに、僕は宝物庫の奥へと向かう。

 見たことないような宝石や、盾。

 他には人が振るえるとは到底思えないような大きな武器。

 そんな中に紛れて、僕の探し物が。そこにはあったんだ。

 黒い布地の服。

 それがどんな意味を持った服か。僕にはわかったから。


リオ:「……学生服……だ……」

GM:はい、君が通っていた高校の。女子制服だった。


「これが、かつて歌姫が着た事のある服って言われてる服だよ。よくわからない材質だよね」

「は、はい……」


 アベルさんの言葉に、やっとのことで答える。

 異世界で、また見ることになるなんて……思っていなかったから。 



リオ:……触れてみます。

GM:では、学生服に触れた瞬間。影の様な人影が現れます。--以前も見た、歌姫の姿だ。


「……マスターピースを求めるものよ」


 そこに居たのは、ベルリールに居た歌姫と。同じ姿をした女の人だった。

 声の美しさも、整った顔立ちも。

 すべて変わらないままだ。


「……驚いたな、君は何者なんだい? あくまでこれは、マスターピースを産みだした歌姫の遺跡の奥にあった物品ってだけなのに」

「わ、私はただのアイドルですよ」


 アベルさんの言葉に答えながら。僕は歌姫に向き合う。


「僕の、何かを試すつもりだったら。また後でお願いします。--僕は、戦う力を持ちませんから」

「……大丈夫。私は……歌を継承させるだけの存在に過ぎませんから」


 ゆっくりと歩み寄って来る歌姫。

 翼じゃないのは分かっている。

 よしんば歌姫が翼だったとしても、ここにいるのはコピーに過ぎない。

 それでも……どきりとしてしまった。


「……」


 やさしく、抱きしめられる。

 けれど……触れられた感触はなかった。

 体温すら感じられそうなのに、感覚が、ない。


 代わりに、僕の中に流れ込んできたのは。優しいメロディ。


「……さようなら、貴女に託すことが出来て良かった」


 そして、空気に解けるように。歌姫の姿は消えていた。



リオ:……僕は、絶対に君に会わないと……だめだ。この体の為にも。

GM:さて、その様子を見ながらアベルは微笑みます。

リオ:「……アベルさん?」

GM:「いや、いいものが見られた。と思ってね。こうして宝物庫に案内した甲斐があるよ」

リオ:「そ、そうですか……」

GM:「何せ、その服は収集したご先祖様の死後、『偉大なるヒース』が直々にこの死蔵品の宝物庫に封印をするように言ってたからね」

リオ:「『偉大なるヒース』と、歌姫がかかわりがあったって事ですか?」

GM:「うん、まあかかわりがあると言えばあるんだろうね。あの様子で言うと、ヒースは歌姫の事を随分と嫌っていたみたいだけど」

リオ:「……っ」

エリシア:セインとして共に戦ったはずでは……一体、何が。

GM:「ま。理由は分からないけどね」

リオ:「そう……ですね。とはいえ、こうして服が残っていて、継承できたことに感謝します」アベルに頭を下げます。

GM:「僕に感謝することじゃないさ。単純に僕は--『マスターピース』がどんな歌なのか、聴いてみたいだけだからね」

リオ:「それなら、お礼に。とびっきりの歌を聞かせてあげますね」

GM:「ふふ、頼んだよ。正直ヒースを讃えるだけの歌は聞き飽きてるからね」

エリシア:ずばっといいますわねこのお方……。

リオ:「あはは、それは中々大変そうですね」

GM:「本当に大変なんだよ? 本来だったら僕や他の王族が王座に座るところなのに、『ヒースが定めた女王でなければ駄目だ』なんて言われて、5歳の女の子を王座に座らせちゃうんだから」

リオ:「あはは……」

ミカ:5歳の女の子を、王座に座らせるのは。言われてみれば正気の沙汰ではないですね。非常時であれば、特に。

エリシア:傀儡なら問題はありませんわ。……そうした意味でも、少し悲しくなりますが。

GM:「じゃあ、楽しみに待っているよ。僕は少し夜風に当たって来るからさ」そう言って宝物庫から出ながらアベルは微笑む。

リオ:「はい、ありがとうございました。--失礼いたします……」


 黒鉄の城を抜けて、外へと出る。

 すでに、日は暮れてて。夜風がほてった体に心地よかった。

 受け継いだメロディを忘れないように。

 僕は、一人ノルウィッチの街を歩いて行った。




※ ※ ※



GM/海月くらげ:さて、次はシュピーゲルのトリガーシーンが処理されます。

”シュピーゲル”:了解です。


「シュピ―ゲル。報告があります」


 情報を集め終えたミカが街を歩いていると。静かな声がミカの耳朶を叩く。

 自分をその名で呼んだ時点で、正体は分かっている。


「……グリンダ」

「少し場所を変えて話しましょう。ここで話すことではありませんから」

「ええ、了承しました」


GM:では、裏路地にたどり着いたところで、君の前に仮面の女性が現れる。

ミカ:「報告……それも、貴女が現れたということは」

GM:「ええ、グラスウェルズへの停戦工作を出来る限りやりつくしました」

ミカ:「芳しい結果ではない。ということ?」

GM:「はい、貴族に対する根回しなので。調整はしましたが……ゴーダ伯は手持ちの兵だけで『やる』つもりです」

エリシア:さらっと言われてますが祖国の話なので頭痛しかしませんわ……。

ミカ:「その手持ちの兵、が厄介そうね」

GM:「ええ、『ファントムレイダーズ』がすでにメルトランド入りしており、城を一つ。数日で落としています」

ミカ:「……」

GM:「シュピーゲル。ライブを終了させ、この国の『マスターピース』を手に入れたらすぐに離脱すべきです」

ミカ:「それは、仮に彼女らを置いていくことになっても、ですか?」

GM:「私は、貴女に生きていてほしいのです」

リオ:僕の知らないところで、事態が動くぅ……。

GM:「エルウォーデン王もすでに、この奇襲を認めています。戦争の調停者たる彼らが侵略を認めた時点で、すでに外部による協力は不可能でしょう」

ミカ:「……はい。……」

GM:「そして、もう一つ--そのエストネルからの指令がありました」



「この国のマスターピースを求めるものを、始末せよ、と」

「……!!」


 グリンダからの言葉に、一瞬だけよろめくミカ。

 エストネルの王、エルウォーデンが『マスターピース』を求めたエリシアに対して試練を課したことは知っている。

 ベルリールでも、セインが試練に現れたという。

 何故か。という理由は分からない。

 だが、試練を課すという事は、集めることを妨害するため。と見ることもできる。

 その流れは--確かに理解できる。

 世界の調停者を名乗る存在が、自らたちを否定しようとしていることを。


ミカ:「……この後確実に事を構える、ということですね」

GM:「組織の敵でもあるがゆえに妨害は行いますが、それでも……現れるかと」

ミカ:「ええ」


「それでは、行きますね。私も、良いライブが見られることを祈っています」

「……ええ」

「血に濡れた私でも、そのくらいは許されると思いますから」

「……」


 夜の闇に溶けるように消えるグリンダ。

 彼女の持つ魔道具の力だ。

 すでに影一つ残っていない。


ミカ:「--許す、許されないではなく……ただ、楽しみに眺めるだけ。それすらも望めないことなの--?グリンダ」

GM:ミカの声が、ノルウィッチの裏路地に残ったところで--シーンを切りましょう。

リオ:……シリアスだなあ。



※ ※ ※



GM:さて、情報収集項目は残り1つなわけですが

ミカ:……ちょうどいいし私が振るわ。能力もあっています。

リオ:『メルトランドの現状』……。

ミカ:1ゾロ以外(ダイスを振る)成功ね。--グリンダから話を聞いた内容と、町をふらついて情報を集めた分をすり合わせます。

GM:--大体はミカの調べた内容の焼き直しですね。まず--兵がグラスウェルズ方面をあまり重点に置いていないということです。

ミカ:それは酒場で聴いた内容ね。

GM:城を過信していることから、戦争が起きると思ってないこと。

エリシア:普通であれば間違った判断ではありませんわ。城攻めを行うにあたって必要な兵力は、グラスウェルズから出すとして、とんでもない遠征強行軍になりますから。

ミカ:--とはいえ、盲点と言うのは常に弱点になりうるわね。

GM:さて、それらの要素に--『偉大なるヒース』が絡んでいるのは。という事が分かる。

ミカ:国政はヒースの神託を受ける巫女が行う……とすると、『偉大なるヒース』に原因がある。ともいえる、か。

GM:こうでもしないと『ブレイク』1巻の敵が強くなりすぎますし。

リオ:ぶっちゃけたなっ!?

エリシア:(苦笑する)

ミカ:国民皆兵国家ですからね、メルトランド……。


 メルトランドの落日を描いたアリアンロッドリプレイ・ブレイク1巻は電子書籍により好評発売中。


GM:と言う感じの情報が集まります。

ミカ:……成程。ヒースを過信しているということも良く分かりました。

リオ:ぶっちゃけたな……。

ミカ:「この国難の時期に何故……」

GM:では、ミカがつぶやいたところでシーンを切ります。



※ ※ ※



GM:--さて、ライブの準備も終わり、情報も集め終えたところで。

リオ:トリガーシーンですね?

GM:はい、ミドル最後のシーンとなります。


 色々あったけれど、ライブの準備は終わった。

 エリシアさんが用意してくれた舞台は綺麗で、いつの間にかミカさんも色々飾り付けたりしてくれたんだ。

 僕はひたすら歌の練習をして、メルトランドの分のマスターピースを頑張ってマスターした。

 プロデューサーも随分と回って、お客さんを集めたりしてくれたらしい。

 ……そういう日の中、リハーサルを終えた僕は疲れ切っていたんだ。


「--むにゃ、もう食べられないや……」


 昔食べたご飯の夢を見てたくらい。

 そんなだらけ切った僕を起こしたのは--。


GM:全員が寝静まった夜中。【感知】で振ってください。目標値は12。

一同:(ダイスを振る)

ミカ:《サーチリスク》混みで……12!

GM:では、ミカは気が付く。黒装束を着た一団が部屋に入ってこようとしているところを。

ミカ:敵襲!……グリンダが言ってた刺客……!こんな早く来るなんて!

GM:音もなく入ってきた彼らは全員が剣を振りかぶり--。



「ハルカッ!エリシアッ!!敵襲です!構えて!!」


 夜のしじまを破ったのは、ミカさんの声だった。


「--ッ、こんな時に来るなんて! お母様の教えが足りてなかったようですわ……っ!」

「へっ…‥?て、敵っ!?」


 跳ね起きるエリシアさん(いつの間にか鎧まで着こんでた!)の次に、なんとか目を凝らす僕。

 瞳に映ったのは、冷たい殺意のこもった目だった。



GM:では戦闘に入ります。敵は『ノーデンス(劣化版)』と『暗殺者』×3ですね。これがシナリオ最後の戦闘になります。

エリシア:レベルを考えると手ごわいですわね……!

リオ:ライブもあるから、フェイトは温存したい……僕は特に『マスターピース』を歌わなきゃいけないから。

ミカ:その分のカバーはするわ。


 行動順はノーデンス→暗殺者→ミカ→リオ→エリシアとなっている。

 実際レベル的にはノーデンスはかなりの強敵だ。防御を低くするなどの調整はしているがそれでもGMの背中からもいやな汗が出るたぐいのモンスターである。


エリシア:セットアップに《ステップ:アース》ですわ!

ミカ:あとは限界突破を--お願いします。

エリシア:承認ですわ!あらゆる判定に+1dですわね。

リオ:ギルドサポートは流石に強力だな……!

GM:ではセットアップが終わったところでノーデンスから動きます。《ピンポイントアタック》から《ファニング》!(ダイスを振る)対象はミカで--(ダイスを振る)命中は23!

ミカ:回避のダイスは増えているとはいえその値は……!(ダイスを振る)失敗です。

エリシア:《カバーリング》ですわ!割り込みます!

リオ:さらにエリシアさんに《プロテクション》!

GM:ではダメージは(ダイスを振る)57点!さらに防御力無視。

ミカ:っ、固定値40!?しかも防御無視……!

エリシア:「ミカさん!危ないですわ!」HPは76ありますわ!

リオ:「ぷ、プロテクション……!」(ダイスを振る)24点軽減!

エリシア:「リオさん、助かりましたわ!ミカさんは大丈夫でしたか?」33ダメージ。まだまだいけますわ!

ミカ:「ありがとうございます……」

GM:では暗殺者がさらに動きます。マイナーで《ディスアピア》、メジャーで《サプライザル》!死角からの短剣がリオの咽喉を抉ろうと飛んでくる!(ダイスを振る)命中はあまり良くない、23。

リオ:そ、それで良くないのか……。とにかく《アンプロンプチュ》で回避します!(ダイスを振る)っ、同値回避!


「え--」


 銃弾をエリシアさんが受け止めた直後の事だった。

 僕に向けて、短剣が飛んできてたのに、僕は殆ど気づけなかった。

 ただ、偶然。

 歌姫さんと戦ったときの経験で、距離をとろうとしただけ。

 そうしたら。一歩下がった僕の鼻先、髪の毛を切り飛ばしながら短剣がかすめていったんだ。


「ひっ……!?」


 何が起きたのか気が付いて、全身から流れる冷や汗。


リオ:避けられたのは……偶然だ……っ!

GM:ではリオが戦慄したところで、こんどは(ダイスを振る)エリシアを狙う。命中は(ダイスを振る)振るわない19。

エリシア:わたくしの回避は0ですわ!(ダイスを振る)避けられませんわね。

GM:(ダイスを振る)63点。装甲は有効です。

ミカ:ちょ、ちょっと待ってください。エリシアさん大丈夫ですか!?

エリシア:《プロテクション》があればまだ耐えますわ!

リオ:「防ぐ!プロテクション……!」24点軽減!

エリシア:「ありがとうございますわ!」防御も込みで18までダメージは減りましたわ!まだ戦えます!

GM:3人目はミカ狙いで……(ダイスを振る)命中28!

ミカ:行きます!(ダイスを振る)……う、失敗。

エリシア:《カバーリング》ですわ!

GM:ダメージは(ダイスを振る)48点。

エリシア:このままだと倒れますわ……。

ミカ:《蘇生》を使いますか?

リオ:いや、《プロテクション》で何とかする……!(ダイスを振る)21点軽減!

エリシア:それなら……10点で立っていますわ!

GM:「ち、耐えたか」舌打ちする暗殺者。

リオ:「大丈夫ですか!?エリシアさん!」

エリシア:「大丈夫ですわ。わたくしは--頑丈ですもの」

ミカ:今度は--こちらの番です「――『十二今日超えて、果ては夢か幻か――』」《マジックサークル》から《サモン:ファブニール》を敵全体に。さらに《マジックフォージ》込みで。命中は--(ダイスを振る)低い!フェイトで振りなおして(ダイスを振る)19。

GM:(ダイスを振る)……最高で18。全員当たってしまうか……。

ミカ:「『――さぁさ、得手も不得手も手を叩け、ああ楽しや、花の宴――』!!」16d+25で--(ダイスを振る)1が6個に2が3つに3が4つ?……63ダメージです。

リオ:く、腐ってる……。

ミカ;腐る時は、腐りますから……ダイス目は……。

リオ:……次は僕だ。ヒールだとジリ貧だから、《限界突破》が生きてるうちにもう一度ミカさんに頑張ってもらう!《ジョイフル・ジョイフル》で対象はミカさん!(ダイスを振る)成功!

ミカ:「『――湖面の月さえ捉う――』!!」マイナーで《マジックサークル》からもう一度サモン・ファーブニル!命中21!

GM:(ダイスを振る)……暗殺者が一人だけ避ける。残りは命中!

ミカ:(ダイスを振る)今度の出目は良いぞ!61点魔法ダメージ!

リオ:ミカさん、カッコいい……!

エリシア:「すごい……これがミカさんの力なのですのね……」

ミカ:「――っはぁ……はぁ……!」

エリシア:今度は、わたくしの番ですわ。マイナーで《スマッシュ》からメジャーで《バッシュ》に《ボルテクスアタック》!狙うはノーデンスですわ!お母様の槍(ラウールの槍の相当品)があるので命中5個振れますのよ(ダイスを振る)--クリティカルですわ!

GM:クリティカルは流石に……(ダイスを振る)無理!

エリシア:ダメージは112点ですわ!

GM:ぐ、かなり痛いが立ってる。

エリシア:「これを受けて倒れないとは--流石に強いですわね」

GM:ノーデンスはプロなので話しませんが、鋭い目でエリシアを見ます。--ではクリンナップを終えて次のラウンドに入りましょう。

リオ:--ならここで《ファイトソング》を使ってエリシアさんの《ボルテクスアタック》を復活させます!

エリシア:ありがとうございますわ!

リオ:ここで《蘇生》も切ります?

エリシア:いつでも使えるものなので一旦とっておいた方がいいと思いますわ。わたくししかダメージを受けておりませんし。

GM:ではセットアップも終わったところでこちらのターン。《デスターゲット》から《ピンポイントアタック》、《ファニング》でエリシアを狙う!(ダイスを振る)命中25!

エリシア:《限界突破》の切れたわたくしに回避などありませんわ……失敗です。

GM:ダメージに《デスブレイド》を入れて83点、防御無視!

エリシア:っ……そのダメージはHPフルで喰らっても……次にかばえませんわ……!

リオ:ならここで《アフェクション》!「はじき返す!」光の壁でダメージを0にします!

GM:む、そうなると……暗殺者はマイナーで移動してメジャーで『隠密』を宣言。範囲攻撃に巻き込まれないよう逃げておきます。

ミカ:「ならば--『――御伽噺は、さっき死んだみたい――』」どうせ単体になるなら《リゼントメント》をここで切ります!

リオ:さらに《アドバイス》も入れますよ!「あそこにお願いします!!」

ミカ:《マジックサークル》から《サモン:ファーブニル》《リゼントメント》を唱えて(ダイスを振る)命中は25!

GM:その回避は難しいな……(ダイスを振る)っ、よし、クリティカル!

ミカ:!?

リオ:……っ、悔しい……!

ミカ:……。

リオ:な、ならもう一度ミカさんお願いします《ジョイフル・ジョイフル》!

ミカ:《リゼントメント》がない分火力がガタ落ちしますが……もう一度……。

リオ:「まだ、ミカさんの番は終わってません!そうでしょう!」

ミカ:……《マジックサークル》から《サモン・ファーブニル》!「ファーブニルよ。その咢を下ろせ!!」命中にフェイトを使います!(ダイスを振る)命中22!

GM:(ダイスを振る)回避は、失敗!

ミカ:「『――この体を受け入れ、共に逝こう――』」ダメージは55点、魔法ダメージ!

GM:……残りHPは100!

リオ:えっ、100!?

ミカ:あそこでクリティカルが出ずに《リゼントメント》が入っていれば倒せたんですけどね……。

エリシア:ドンマイですわ!《スマッシュ》《バッシュ》に《ボルテクスアタック》!お母様の槍のおかげで相手の回避-1dがありますわ!(ダイスを振る)命中21!

GM:(ダイスを振る)ぐ、回避デバフが無ければ避けられるんだが……。

エリシア:「お母様から授かった槍を--喰らいなさいな!」(ダイスを振る)103ダメージですわ!

GM:……彼の防御は3。HPは100。

ミカ:……ぴったし?

GM:はい、ぴったり倒れます。

リオ:っ……良かった……!《ボルテクスアタック》復活させて良かった……!

GM:「ぐ、そんな……!?」という言葉と共に刺客が崩れ落ちる。

ミカ:あとは暗殺者の動きですが……。

GM:一人では戦えないので戦闘から離脱します。報告をする係も必要ですからね。

ミカ:逃がさないようにしたいのですが……。

GM:《感知不能》持ちですからね。

エリシア:諜報員としては正しい行動ですわね……。

リオ:敵方に情報が入るのは嫌ですね。

エリシア:「……ミカさん、貴女が知らせてくれなければ。危ないところでしたわ」

ミカ:「皆を……ハルミシアの皆を殺されたく、なかったですから……」

リオ:と、とにかく勝利のポーズでも決めますか!ピースとか!

エリシア:今度考えておきますわね……ところでGM。ノーデンスって推奨レベルがもう少し上のモンスターだった気がしたのですが。

GM:大体推奨レベル+10くらいのエネミーですね。

リオ:(白目)

エリシア:……。

GM:では、撃退も終えたところでシーンを切りましょう。




※ ※ ※



GM/海月くらげ:さて、次はクライマックス前のマスターシーンです。


「ーーはぁ、はぁ、はぁ……」


 夜の街を走る暗殺者。

 ただの小娘を殺すだけの話だったというのに、話が違う。

 心の中で叫びつつも彼は夜の街を走る。

 この大陸に平和は訪れてはいけないのだ、それがエストネルの意志だ。

 バルムンクのように人類を疲弊させるためではなく、人類に新たな進化をもたらし。そして、魔族と戦うための槍を産みだす。

 それが、エストネルだ。

 故に、普通の冒険者などには負けないほどの力を、そなえてなければならない。

 秘具である角笛の力を使えば、一国の王城すらも沈黙させられるのだ。


 だが、角笛の力も、何らかの力によって妨害されてしまい。

 そして、実力行使に出てみれば。予想外の能力で止められてしまった。


「救援を呼ばなければ……!」


 報告する内容をまとめつつ、息を整える。

 冒険者としてはそれなりだが、セインクラスであれば太刀打ちはできまい。

 暗殺者が報告のための鳩に手紙をくくりつけようとした、その時だった。


「……ああ、そこに居たんですね。ノーデンス」


 冷たい女の声がした。

 振り返る暗殺者。彼の瞳に移るのは、氷の魔力にあふれた杖を構えた仮面の女性の姿だった。


「貴様、バルムッ……!?」


 彼が、言葉を言い終えることはなかった。

 そして、それが彼の遺言となった。


「死になさい。ヒューバード様のために。そして私の仲間を傷つけた罰として」


 即席の氷像が砕け散る。

 残された女--グリンダは静かにかぶりを振った。


GM:では、ここでシーンを切ります。

ミカ:……グリンダさん、ありがとうございます。

リオ:本当に、悪役なんだ、グリンダさん。……信じられない。

ミカ:悪や正義は立場によって変わるものにすぎませんから。



※ ※ ※


GM:では、クライマックスフェイズ。ライブのシーンとなります。


 メルトランドでは、あまり歌というのは流行っていなくて。

 小さな広場に集まったのは、300人くらいの人だった。

 それでも、最初のライブよりは、人が多いんだけどね。

 ライブに上がる前のルーティーンをこなして、僕は深呼吸をしたんだ。

 客席にいるであろう、アベルさんにも。ちゃんと聞こえる歌を歌うために。


「たとえ少なくとも、集まってくれた人の為に、歌いますわよ!ハルミシア、初の出番ですわ!」

「ええ……」

「行きましょう、これが私たちの初陣です!」


 リオから、アイドルとしてのハルカになる。

 全力で、僕は歌を歌うんだ。



GM:さて、目標値12。目標ターン2でFS判定となります。

リオ:皆さんに温存してもらったフェイトをガンガン使いますよ!

GM:最初の判定は『魔術による演出で心をつかめ」となります。難易度は14。

ミカ:その判定は私が行きます。……達成値20。「まずは星をみっつ……灼けるような光で灯します」

リオ:「ミカさん、凄く綺麗です!」

エリシア:「ええ、綺麗……貴女の魔法。確かに見届けましたわ」

ミカ:これで進行値は+4ですね。

GM:次は光に見とれている観客たちに歌を聴かせる判定です。目標値は20の【呪歌】。

リオ:さっきフェイトをガンガン使うって言ってたけど、多分マスターピースにフェイトは取っておきたいので……そのまま振ります(ダイスを振る)達成値23。

GM:では進行値+2です。

エリシア:「天にも届きそうな声ですわ……リオ。貴女は、どこでその歌を……」

GM:次はダンスの判定です。難易度は14。

エリシア:ええ、わたくしの出番ですわね!フェイトをすべて入れてさらに《ダンシングヒーロー》を使いますわ!達成値25!これで進行値+4ですわ!

GM:軽やかなステップでエリシアが舞う。--客席の後ろで、一人の女性が舞台上を見つめている。「--成長したな、エイリスツィア。アンリが見たら……きっと喜ぶだろう」

エリシア:お母様の前で、粗相などできませんわ!アップテンポの歌に合わせて踊って見せます。

GM:--さて、残り進行値2となったところで、さらに判定の種類が変わります。



「君たちの力、よくわかった--けどさ、まだ見てないよ。君が持っている。あの歌を」


 舞台上で輝く三人の少女を見て、アベルはつぶやく。

 メルトランドにおいて、死蔵されていたその歌を。

 世界に平和をなんて、途方もない夢を見てしまった歌姫の歌を。

 彼は、聞き逃すまいと舞台をみつめていた。


GM:難易度は【呪歌】で35です。

リオ:……ここで全部つぎ込みます。フェイトも《アーシアン:召喚》も!

エリシア:さらに《バックアップダンス》で輝かせますわ!+2d!

ミカ:私はなにもありませんが、せめて輝けるように光の色を変えたりしています。

リオ:(ダイスを振る)クリティカルはしない!……けど、達成値は51!


 その瞬間、静寂が訪れた。

 いや、静寂じゃなくて、たしかに僕の歌は響いていたんだ。

 けれど、僕の歌しか。もう響いていなかったんだ。

 その瞬間だけは。だれもが『ハルカ』を……見ていたのが、分かったんだ。


エリシア:「……」言葉が、出ませんわね。

GM:広場の遠くにいた人も、「その歌を聴いた」と表現するほどの、清冽な歌だった。

リオ:これが、僕の歌。……いつの日か巡り合えるまで、忘れないでほしい。僕の音色。


「へぇ、やるもんだ!」


アベルは、本当に心の底から――はじめての笑みを浮かべた。


「……いい歌だな」


静かにエレイシアはつぶやいた。


「ふふ、良いですね」


ライブ会場に近い路地で、グリンダは静かに目を閉じて。歌を聞き入っていた。


GM:--というところで、FS判定終了となります。

リオ:フェイト全部つっこむの楽しかった……。

エリシア:ふふ、そうですわね。

リオ:良かった--『私』の歌は、届いたんだ--。



※ ※ ※




GM:ではエンディングフェイズ。ミカから演出していきましょう。

ミカ:はい。


 ライブの興奮冷めやらぬ中、ミカの耳朶に小さな声が聞こえる。

 魔術によって届けられた声。

 声の主は、グリンダだった。


「ライブ、良かったですよ」

「ありがとうございます」

「……アイドルというものがどういうものか分からなかったのですが。ああいったものなんですね」

「ええ、ああいったもの。みたいです」


 先日までアイドルという存在について分からなかった二人だが。

 それでも、ライブの良さだけは、共有が出来た。


GM:「シュピーゲルさんは、楽しかったですか?」

ミカ:「私……ですか?私は……」そう言いながら、少しだけ笑顔になります。

GM:「ふふ、その笑顔が何よりの答えですね」

ミカ:「私、笑っていましたか?」

GM:「ええ、貴女の父上に見せたくなるくらい」

ミカ:「……それは少し。いや、かなり困りますね」

GM:「ふふ。黙っておいてあげます。それと私はこれから別の仕事に向かいます。この手を血で濡らすことは、もう決まったことですから」

ミカ:「……そう。ですか」

GM:「ただ--そうですね。このライブのことは。忘れないでおきます」

ミカ:「グリンダ、貴女は」そこで、言いよどんで。首を振ります。

GM:「ヒューバード様にお仕えする。私はそう決めていますから」

ミカ:「……。また、聴きに来てくれますか?」

GM:「ふふ、嬉しいお誘いありがとうございます。ただ、恨みますよ?そんなことを言われたら……また聴きたくなってしまいますから」そうして、彼女からの連絡が途切れる。遠くで、グリンダは帽子を軽く振っていた。

ミカ:「……ええ」



※ ※ ※



GM:では、次はエリシアですね。ライブ後にお母様が会いに来ます。

エリシア:「お母様……!」

GM:「エイリスツィア、良いライブだった。私も鼻が高い」

エリシア:「ほ、本当ですか!?やりましたわ!」

GM:「私が来たのは余計な気遣いだったようだな。グラスウェルズの貴人がここに居ればゴーダもしばらく躊躇すると思っていたからな。いざとなればこの手で守るつもりだった」先日の刺客については予想外だったようですね。

ミカ:だから、来たんですね……良い親だ。

エリシア:「お母様、ありがとうございます……」

GM:「とはいえ、お前たちは自ら戦えることを証明してくれた。そして自分の足で歩けていることも。分かった」

エリシア:「……」

GM:「エイリスツィア。お前は自分の足で歩いている。--どこまでも。お前の思うままに進むが良い」

エリシア:「……ええ。ハルミシアの、皆様と共に。進んでいきますわ!」


 強く宣言するエリシア。

 そんな彼女を見つめるエレイシアはほほ笑んだ後、不意にいたずらっぽい顔を作って見せた。


「ただ、そうだな」

「えっ?」

「勉強は忘れるなよ? 旅に出ていても学ぶことは多いのだからな」

「あ……、あう。わかり。ましたわ」


 項垂れる愛娘の頭を軽くなでた母は。


「そうだな、今度会うことがあれば。私の本当の槍を渡すとしよう」


 全身を蝕む痛みを黙殺し、優しい声をかけたのだった。

 

「ええ。わたくしも。二人の子であることを。誇りに思いますわ」


 ほほ笑む娘に、不調を気取られぬように。




※ ※ ※



GM:では、最後はリオのターンです。

リオ:……やはりアベルさんかな?

GM:はい。その通りです。



 ライブが終わった後。僕はノルウィッチの御城に招待されていた。

 エリシアさんやミカさんには早く戻るように言われていたけど。アベルさんの招待を断るわけにはいかなかったから。


「すごい演奏だったよ。本当に歌に力があると知ったのは初めてだ」

「ふふ、アベルさん。その節はお世話になりました」

「いやいいってことだよ。だってこんなに良いものを見せてもらえたんだ。こちらもそれなりのもので払うのが筋かなって」

「……それなりのもの?」


GM:「ついてきなよ」そう言って、再びアベルは城の奥へと案内してくれます。

リオ:……?とにかく、ついていく。

GM:そして、奥にあったのは。転送用のゲートでした。

リオ:「……転送用ゲート……?」

GM:「ついてのお楽しみだよ」アベルは先にゲートをくぐっていくよ。

リオ:「は、はい」とにかくついていくしかない。


 そうして、ゲートをくぐった僕を待っていたのは。

 小さな庭だった。

 ただ、中央にある巨大な枯れかけた樹から。

 どこか、近寄りがたい強い力を感じるのだけは分かる。そんな場所だった。


GM:「ここは、『偉大なるヒース』の間。歌姫の知り合いだよ」

リオ:「そ、そんな……僕があっても、いいんですか!?」

GM:「いいんだよ。王族である僕が許したんだ。……ま、他の王族に言わなきゃ大丈夫だよ」

リオ:あはは……そんなに気に入ってくれのか。僕の歌を……。

GM:では——ヒースに話してみますか?

リオ:はいっ。歌姫……翼につながる手がかりだと思うから……!

GM:では、ヒースの老木。に近づいた時だった。


「……うた……ひめ……か」


 ざりざりと、ラジオのチューニングがあっていくような音。

 そんな中に、確かに僕は声を聴いたんだ。


「いいえ、私は歌姫では……あなたが、ヒースさんですか?」

「……エリカ……と、いいます……」


 確かに、声じゃないとは思うんだけど。

 心の中に、響く声。

 僕は必至に耳を澄ませて、話を聞こうとしたんだ。


「エリカさん……?」

「マスターピースを、集める……ものよ……」

「……」

「その、歌は……世界を、破滅……」

「え……っ!?」


 ざりざりと、チューニングが合わなくなる音。


「エリカさん……!?」


 何度も呼び掛けたけど、答えは帰ってこなかった。


リオ:「っ……くっ……!!」

エリシア:な、なんなんですの……?世界の……破滅……?

ミカ:うわぁ……。

GM:では、必死に呼びかけようとするリオにアベルが話しかける。「無理だよ」

リオ:「えっ……?」

GM:「その樹は適性のあるものしか話さないんだ。むしろさっき通じたのにビックリするよ。僕が……ほんの少しだけ聞こえる僕が翻訳するつもりだったんだけどね」

リオ:「適性……ということは。僕以外にも話が聞けた人が……?」

GM:「それが、ヒースの巫女というやつだからね。僕もほんの少し適性があるだけさ」

リオ:「じゃ、じゃあ。さっきの声も……」世界の、破滅……?

GM:「ああ、聞こえてたよ。僕は信じないけどね」

リオ:「……そう、ですか」


「あんなにきれいな歌が、世界を破滅させる?--僕は見たものを信じたい人だからね」

「僕も……信じては、いません」


 世界の破滅。

 そんな言葉を聞いて動転した僕の心を落ち着かせるように、アベルさんは声をかけてくれた。

 ……まだ、動悸は収まっていなかったけれど。


GM:「ごめんね、まさかそんなことを言われるとは思ってなかったから」

リオ:「いえ……お話をしたいと言ったのは。僕だから」


 信じるも何も。

 僕は、何も知らない。

 集めろって言われたから集めているだけで。

 どんなものなのか、僕にはわからなかったんだ。


GM:「さて、戻ろうか。君たちはすぐに発つんだろう? もう少しメルトランドでゆっくりしてもいいんだけど。歓迎するよ?」

リオ:「いえ……すぐに戻ります。二人にも言われてますし。僕たちの歌を待っている人が、きっとたくさんいますから」

GM:「そっか、そりゃ大変だ」

リオ:きっと、翼もその先に居ると……思うから。

GM:「けど、僕は君たちのファンになっちゃったからさ。またいつか歌を聴かせてほしいんだ」

リオ:「ええ……もちろんです」


 アベルさんに微笑んで見せて。

 僕は、二人の戻る宿に戻っていく。

 明日にはもう。僕はメルトランドから出ていくんだ。

 ……また、ライブが出来たらいいなって。そんなことを思いながら。



それが、メルトランドが滅亡する1ヶ月前の出来事だったんだ。

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アリアンロッドサガ・リプレイ ラストソング @kikurage47

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