第5話 新たなるアイドルは
「どうしたものか」
再び、暗い部屋。
一人パソコンを叩くGM。
当初想定したプレイヤーは3人。
もしくは4人であった。そのためこのまま二人で回す、というのはキャンペーンの進行に若干の支障が出る。
タイマンでも出来ると息巻いていても、予定を先に立てるとこういったことが発生する。
キャンペーンと言うのは後半にキャラクターを追加すると、その分そのキャラクターがついてくるのが大変になってしまうのだ。
後悔先に立たず。
そんなGMにかかって来るPC①からSkypeの連絡。
「あ、PC③候補みつけました!」
「まじかっ逃がすな!」
かくして、新たなキャラクターを入れた導入を始めるべく、GMはその場でシナリオを書き始めるのだった。
……なお、PC②のプレイヤーが忙しかったため、導入シナリオはPC①とPC③のプレイヤーの二人プレイであることをここに追記しておく。
GM:と、言うわけで急な話ではあるのですが、お願いします。
PC③:どうも初めまして……、実は私もアリアンロッド初めてなんですよね。
GM:大丈夫です。他のプレイヤーさんも全員初めてなので……。
PC③:いえいえ……しかし、どういうキャラクターにしましょうか。少なくとも他のお二人を見る限り私はマジックユーザーが求められていることは分かったのでとりあえずメイジだとは思うのですが……。
GM:そうですね、初期作成で行くのであれば。サブクラスは「セージ」か「サモナー」あたりが安パイでしょうね。
PC③:それとハンドアウトを合わせるとヒューリンが妥当でしょうな。
以下がPC③に渡されたハンドアウトである。
ハンドアウト PC③
コネクション:ヒューバード
君はレイウォールの王子ヒューバードによって生み出されたピアニィのクローンである。
与えられた任務は既に断章と化したセインの遺産「マスターピース」の捜索。
同じクローンであるグリンダによると、エストネル王国の一角にそれを集める一団がいるらしい。
なんとしても任務を達成しなければ。
ちなみにヒューバードとは、アリアンロッドシリーズにおける黒幕的な立ち位置を長く続けたキャラクターであり、バルムンク・ノヴァの首領でもある。
また、妹であるピアニィのクローンを多数作り、彼女たちを大陸の影で暗躍させてきた。
彼の孤独な戦いの顛末は、アリアンロッド無印シリーズに詳しい。
PC③:うーん、ここは《サモンファーブニル》を主軸で行きます。いつもはデータガチガチなのですこし遊びを持たせてみたい。
GM:了解です。装備はどうします?
PC③:サンプルキャラクターの全部そのまま写せばいいかなと。初期のお金は変わらないから……。
GM:ですよね(苦笑)
普段からPC③はTRPGをやっていることもあり、サクサクと進むキャラクターメイキング。
やがて、ライフパスを振る段がやってくる。
PC③:出生は「闘士」で、境遇は「傷病」。目的は「運命」ですね。
GM:ふむふむ、闘士の産まれで、ピアニィのクローン……ということは。
PC③:拾われっこにしましょうか。
GM:了解です。それと、お試しでセッション用のシナリオもできていますので、やりますか?
PC③:はい、大丈夫です。
ちなみにそのシナリオは彼が来る30分前に書き始めたものである。
良い子はマネしてはいけない。
PC①:唐突に召喚された……!?
そしてプレイヤーを召喚するときは前日にはちゃんと話をつけておこう。
これも良い子はマネしてはいけない案件である。
※ ※ ※
マスターピースのうちの二つを手に入れたアイドル達。
しかし彼女達の前に新たな課題が浮上する。
それは、人数の不足。
たった二人ではやはり長時間のライブもままならない。戦いもある事を考えるとこれ以上の仲間が欲しい!
それを受けて武内Pは新たな仲間を求めてオーディションをはじめることにしたーー。
果たして新しいアイドルは見つかるのか!
そんな一方で、新たなピアニィのクローンがレイウォールに産まれ出でようとしていた……。
GM:そんな感じの予告となります。
リオ:ようやく火力要員が来るんですね……(感涙)
GM:エリシアさんもどちらかというと防御役ですからな。
PC③:よろしくお願いします。--ところで時系列はどの辺なんです?
GM:無印開始前--つまりフェリタニアが建国される直前となります。
PC③:了解です。ここから歴史にかかわっていく、ということですね。
GM:はい、そうなります。では、シナリオに入っていきましょう。
リオ:先に一言だけ、「エリンディルにようこそ!」
GM:「アルディオンでやんす」
リオ:うわあああああんっ!?
PC③:基本ルールに載ってないですからね……。
※ ※ ※
「私は、ミカ・ノーザンゲート。バルムンクとしてのコードネームは水鏡--『シュピーゲル』と名付けられている。
呼びづらければ、ミカと呼んでもらって構わないわ。育ての父は、そう呼んでいるから。
剣闘士で、何も知らない私を拾って育ててくれた彼は、今、病院のベッドの上でずっと寝たまま過ごしている。
そんな父と私に目をつけたのはヒューバード様
彼は父の治療を約束したわ。私が、バルムンクとして戦う事を引き換えに」
GM:では、最初のシーンはシュピーゲルことミカからです。
暗い部屋だった。
レイウォールの王都、ノルトグラムにそびえたつ王城。
その一室は豪奢ではあったが、どことなく陰湿なまとわりつくような空気をおびた空間だった。
それは、部屋の主によるものなのか、それとも、この国の歴史故か定かではなかった。
「よく来てくれたな、シュピーゲルよ」
部屋の主が口を開く。
若々しい見た目を裏切る、どこか枯れ木の様な、それでいて芯を感じさせる声だった。
声の主の名は、ヒューバード。
アルディオン大陸最大の版図を持つ国家。レイウォールの第一王子にして、王位継承権1位を持つ男性であった。
彼は、けして妹には見せることのなかった。影の深い顔で、一人の部下を待っていた。
ミカ:「ご機嫌麗しく、ヒューバード様」
GM:「……そうかしこまらなくても良い」
ミカ:「仰せのままに。では、ヒューバード様。私に何をお求めでしょうか」
GM:「シュピーゲル。お前はこのアルディオンに『マスターピース』と呼ばれる伝承があることを知っているか?」
ミカ:「はい……世界に平穏をもたらす詩。ということは伺っております」
GM:「その認識でいい」
「かつてこの大陸を統一したウルフリック。彼と共に戦った『名もなき歌姫』が遺した歌。それが『マスターピース』とよばれる存在だ」
一度言葉を切るヒューバード。
彼の目には深い疲れが刻まれている。
その理由は判然としない。
ただ、国一つを背負うというだけではない重責が、彼にのしかかっていることだけは理解できた。
GM:「彼女の死後、『マスターピース』は断章として分割され、今では伝承として残るのみ。シュピーゲルには『マスターピース』の捜索を行ってもらうことになる」
ミカ:「承知いたしました」
GM:「シュピ―ゲル。お前の父上は私たちが責任をもって面倒を見る。『約束』であるからな。--ゆえに気にしなくて良い」
ミカ:「ご厚意、感謝に堪えません」
「それと、もう一つ」
そんな、苦し気な顔をしていた男が、ふと声色を変える。
妹に向けるような、何かを夢想するかのような声音だった。
「任務を終えたら、私に世界を教えてほしい。私は--このレイウォールから出ることはないからな」
「……私の見た、私の心を通した世界で構わないのでしたら」
「それでいい。……ティナ様が語った世界も、オーギュスト王が戦った世界も。私はこの目で見ることは、適わないだろうから」
GM:「--マスターピースの一部に関しては、すでに情報をつかんでいる。エストネルに向かうといい。供の者としては私の側近である
『仕込み刀』のグリンダをつけよう」彼の後ろには、いつの間にか仮面の少女が現れていた。--彼の言っているグリンダだろう。
ミカ:「了承いたしました」
GM:「では、向かうのだシュピーゲル。君の旅路に幸があらんことを」
シュピーゲル:「ええ、行ってまいります。貴方様にも赤竜アインソフの加護があらんことを」
「よろしくお願いしますね、グリンダ」
「はい、こちらこそ--お願いします」
金髪の少女をつれ、退室するミカ。
彼女の後姿を見ながら、一人ヒューバードはつぶやく。
「……ピアニィ、私は、お前を……」
彼の、妹の名前だった。
透き通った青い空の日の事だった。
※ ※ ※
GM:さて、次はリオ君のシーンです。
エストネルにある小さな事務所。
それが、僕の今の居場所だ。
初ライブ、二回目のライブは成功したし、経営も軌道には乗ってきている。
けど、一つ大きな問題があって……。
リオ:急に日常になったな!?
GM:アイドルものですから。
リオ:さっきのシーンのどこにアイドル要素が……。ともかく問題って何?
GM:PC②が居ないことです。
リオ:メタいなおい!?
GM:実際には、父親から手紙が届いて、しばらく父とやりとりしなければならないことが出来てしまったから。と言う感じです。
リオ:成程……。エリシアさんが居ないことが問題なんです?
GM:いえ、それだけではありません。
「うう、まだ傷が……」
「こ、腰が……」
GM:そう、アイドルとして過ごそうにも。みくはベルリールで大けがをし、同じくアイドルになってくれたナナも、腰の調子が悪いままなのだ。
リオ:死屍累々……っ!?いや、前の話が終わってアンニュイ気分に浸ろうと思ってたのに……っ!?
GM:その様子にタケウチさんが重い口を開きます。「--由々しき事態です」
リオ:「タケウチさん、どうしましたか?」
GM:「このままでは、マスターピースどころか、アイドルを続けることも、難しいかもしれません」
リオ:「ど。どうしてですか!?僕ならまだいけますよ!?」
GM:「--リオさん。貴女は4時間ぶっ通しで歌えますか?」
リオ:「うぐっ、それは……」
GM:「通常のライブであれば、それくらいの時間を必要とします。前回まではエリシアさんのサポートがありましたが……」
リオ:「……つまり、ライブをするためにもアイドルを増やそうってことですよね」
GM:「ええ、緊急でオーディションを行い、在籍するアイドルを増やそうと思います」
リオ:「オーディション、ですか……集まるでしょうか」
GM:「分かりません。ですが、私たちが以前貴女に出会えたように。手を差し伸べてくれる人が居るかもしれませんから」
リオ:「……」
GM:「手伝っては、いただけませんか?」
そう言いながら首のうしろをかくタケウチさん。
彼を見ていると、最初に出会ったときの頃を思い出して、苦笑してしまう。
もう一度くらい、奇跡を願っても悪くはないかもしれない。
僕も、そう思えてきたから、全力の笑顔で答えたんだ。
「任せてくださいっ!」
※ ※ ※
「やっとたどり着きましたね、ミカ」
「ええ、グリンダ。まずは情報収集をしましょうか。それとも、宿の確保を行いますか?」
「そうですね……まずは宿を確保するといたしましょう。暫くは私の料理で飽きてしまったでしょう?」
レイウォールを立って数日。
グリンダとミカの二人は、エストネルの土を踏んでいた。
涼しげな高山の空気の中、二人の金色の髪と、緑色の髪がなびく。
GM:「エストネルの料理は、美味しいですからね。おそらく私のものより」
ミカ:「……そうなんですか」
GM:「平和の味、でしょうか。1000年にわたる戦乱で、一度も傷ついておりませんから」
戦乱の世において、食と言うのは根幹となる。
食事が無ければ兵は戦わないからだ。
しかし、『味』ともなると話は変わってくる。
平和な世、人が文化的に暮らせる世でなければ。庶民に美食は根付かない。
故にエストネルで食べるパンの味は、大国レイウォールのそれを上回っているのだった。
ミカ:「あなたの感情は分かります……ですが、だからこそこの場で口にするのは控えてください」
GM:「失言でした--少し冷静さを失っていたようです」
ミカ:「部屋を探してから、ゆっくりと話しましょう。そのためにも、宿を取らないと」
しばらくエストネルの街を歩く二人。
そんな彼女たちの前に、一枚の紙がひらひらと舞っていた。
GM:「……この紙は……アイドル、募集……?」
ミカ:「どうしました?」
GM:「幸運ですよ、ミカ。我々の探し人が見つかりました」
ミカ:「……長丁場も想定していましたが、随分とあっさりですね」
GM:「ええ。この紙に書かれているハルカという女性が、以前この町で『マスターピース』を演奏していたという情報は手に入れています」
ミカ:「成程……しかして、この……」
「『あいどる』とはなんでしょうか」
「私も……わかりません。『偶像』……?ともかく、行ってみましょう、紙に書かれている場所に行けば何か掴めるはずです」
「グリンダ。まず他に書かれていることも確認してからでもいいと思います」
「……う、また冷静さを欠いていましたわね、ごめんなさい……」
グリンダ、後のバルムンク=ノヴァの幹部であり。世界を敵に回す女は。
ほほを真っ赤に染めてうつむくのだった。
リオ:急にぽんこつになったな……。
ミカ:旅芸者ならわかるんですが……。
ちなみに旅芸者は公式シナリオ、ベルリールの竜輝石を参照すると分かりやすい。
今手に入れるのは難しいかもしれないが……。
※ ※ ※
GM:では次はオーディションのシーンとなります。
いつもより、ちゃんと片付けた事務所。
僕とタケウチさんは、あるアイドル志望の人のオーディションを行っていた。
まあ……参加者は、一人しかいなかったんだけど。
リオ:「みなさーん!今日は私たちの事務所に来てくれて、ありがとうございまぁす!」
GM:「……」
リオ:あはは……タケウチさんが睨んだだけで、全員帰っちゃったからなぁ……。
GM:「善処します」
ミカ:ではそろそろ登場しますね。部屋のドアをノックし、静かに一礼をします。
リオ:「……!」すごく、綺麗な動きの人が来た……。エリシアさんみたいな。
ミカ:「本日はよろしくお願いします」
「--ミカさん、と申しましたか」
「はい」
「我々はアイドルとしてライブなどを行うと同時に『マスターピース』という歌の収集を行っております」
「ええ、ミカさんには。僕たちと一緒に。それを手伝ってほしいと思ってるんだ」
……それから、しばらくの時間。
僕たちはオーディション、というより、いろんなことをその人……ミカさんに喋ったんだ。
リオ:では「かくかくしかじか」と説明します。
ミカ:「まるまるうまうま」……成程、世を救う目的で働く旅芸者のようなもの、と。
GM:ええ、そういう感じです。
リオ:……ってそれでいいんか!?
ミカ:煩雑ではないほうが楽です。それはそうと、グリンダは今どうしていますか?
GM:プロダクションの前で『受かりますように』と一生懸命祈っています。彼女自身は別の任務もありますから一緒にアイドルを行うわけにはいきませんしね。
リオ:ほ、保護者か何かか……?
GM:気に食わない相手に丑の刻参りする人ですから。
リオ:……。
グリンダが丑の刻参りをするリプレイ、『デスマーチ』シリーズ。現在電子書籍にて好評発売中である。
ミカ:「--幾つか、質問をしてもよろしいですか?」
GM:「ええ、大丈夫です」
ミカ:「では、まず一つ。……私は芸子の真似事一つやった事ない素人ですが、それでも構いませんか?」
GM:「構いません。練習を行えば補える部分ですから」
リオ:「それに、今の動きを見るだけでもミカさんは基礎がしっかりしてると思います。練習すれば、すぐ伸びますって」
ミカ:(頷きながら)「二つ。これから契約等が取り交わされるに当たって、不明瞭な部分は話し合い突き詰めていく事になりますが、それでも宜しいですか?」
GM:「仕事の話です、明瞭にした方がよろしいでしょう」
ミカ:「ええ、ありがとうございます」
GM:「最後に、そうですね。たった一人の参加者である貴女に。私から一つ課題を与えたいと思います。アイドルとして。とても大事なことです」
ミカ:「……課題、ですか」
「ええ--あなたの、笑顔を見せて下さい」
タケウチさんは、真剣な顔だった。
そういえば、僕を選んだ時も、エリシアさんを選んだ時も。
笑顔が決めてだった、と聞いていた。
戦乱の大陸に置いて、無垢な笑顔が何より難しいと、言っていたことを思い出す。
僕にとっては、簡単なことだけど。
その問いに、ミカさんは凄く難しそうな顔をしたんだ。
ミカ:「--笑顔、ですか。成程。それは難しい」
リオ:「楽しかったこととか、ないですか?それを思い出して……こう」
ミカ:「……楽しかった、こと」
そのまま、深く考え込んでいたミカさんは。
ふと、顔を上げて。小さな笑顔を作っていた。
「……今の私ができるのは、これくらい、ですか」
小さな花の様な、そんな笑顔だった。
少しだけどきっとしたのは。僕がもともと男だったからなのだろう。
GM:「……いい、笑顔です」
ミカ:「……ありがとうございます」
リオ:「じゃあ、合格ってことですか?」
GM:「ええ……とはいえ、このまま舞台に出るのは難しいでしょう」
ミカ:「つまり、訓練を行うと」
GM:「理解が早くて助かります。この近郊にかつて歌姫が遺した『訓練』のための遺跡があると聞き及んでいます。こちらのリオさんと一緒に行っていただければ、と」
リオ:急ですね!?「ミカさん、突然ですけど大丈夫ですか、心の準備とか……」
ミカ:「……わかりました。装備の確認等の準備は構いませんか?」
GM:「ええ、問題ありません。貴女が戻り次第出立とします」
リオ:「心の準備早いですね……」戦士の人か、何かなんだろうなと思っておきます。
GM:「急な話となって申し訳ありません。しかし--エリシアさんの話が本当であれば『メルトランドのマスターピースは早急に集めなければならない』筈ですから」
リオ:「エリシアさんが……?一体、何を」
GM:「確度の高い情報が手に入り次第、お伝えします」
リオ:「……わかり、ました」
ミカ:では、そこに戻ってきます。グリンダに受かったことだけ伝えた感じです。「--準備完了しました。遅れまして申し訳ありません」
GM:「今は、お二人の技量を上げることに集中してください」
判然としないまま、僕は言われるがままに遺跡へと向かう。
ただ、一つだけ後でわかったことは。
僕は、戦争というものを。ちゃんと理解してなかったことだった。
※ ※ ※
GM:では、ここから軽めのダンジョンシーンとなります。
リオ:軽いんだ。
GM:さっき作りましたから。
ミカ:……そんな簡単にダンジョンって作れたっけ……。
一本道ワンルームマンション形式のダンジョンの作成に手間はかからない。
時間が縛られるコンベンションなどではオススメな方式である。
GM:では、エストネルの郊外。君たちは遺跡の前に来ていた。リオには、以前ベルリールで感じた、どこか心安らぐ気配を感じるよ。
リオ:「この感じは……翼……」
ミカ:では、ダンジョンという事で全方位警戒だけはしておきます。誰か人影はあったりしますか?
GM:はい、遺跡の前でグリンダが立って待っている感じですね。
ミカ:「……来ていたんですね。グリンダ」
GM:「見送りは必要かと。……私はこれからレイウォールに戻らなければなりませんから。ですから--貴女の旅路に幸運があることを祈っています」
ミカ:「ええ、ありがとうございます--グリンダの旅路にも幸運がありますように」軽く一礼をします。
GM:では、それを見た彼女ははにかむように笑うと、姿を消します。
ミカ:「では、行こう。リオさん」
リオ:えっと、今の人は……異世界の魔法なのかな……本当にファンタジーみたいだ……!
ファンタジーです。
ミカ:それでは第一階層に入りましょうか。
GM:では、ダンジョンの入り口。第一階層に入ると。広い空間が見えます。具体的には500mほどの奥行きが見えるレベル。
リオ:ひ、広いな……!?
GM:そして、リオにはその部屋にあるものが……なんだかわかってしまいます。
リオ:「っ……これは、まさか……!?」
小さなドアを開いて、階段を降りた僕が最初に見たものは、広い空間だった。
しかも、見覚えのあるものが。僕の目の前には広がっていたんだ。
GM:1500mトラックです。
リオ:「な、ん、でっ!?」
ミカ:見たことのないものですね……地面の材質は分かりますか?
GM:アンツーカーです。
ミカ:アンツーカー。
リオ:ふぁ、ファンタジーはどこに……。
GM:そしてトラックの真ん中に当たる部分には、小さな台座があります。
リオ:「とりあえず、行ってみますか……」
ミカ:「そうですね」
そして、台座に近づいた僕は。
上がる爆炎と……。
「もっと、もっと熱くなれよおおおおぉ!!」
聞き覚えのあるフレーズに、頭の痛みを抑える羽目になったんだ。
GM:台座から爆炎が上がり、全身に炎を纏った妖精さんが現れる。
リオ:すっごく見たことあるな……!?
GM:「俺の名前はシューゾー。この遺跡の管理を任されたものだ」
リオ:あの、この世界本当に僕の世界とは違う世界なんだよな!?
GM:大丈夫です。美少女な妖精です。
リオ:……どんな……見た目なんだよ……。
ミカ;理解しました。
リオ:……。
「君たちは、『マスターピース』を集めているものだな」
「……!?」
「その気配でわかる。彼女が歌っていった歌の魔力。その残滓だ」
「知っているんですか、歌姫の事を……!?」
「ああ、彼女は凄いアイドルだった……」
一度、言葉を切る炎の妖精。
僕の疑問を全部答える気がなさそうな気配だ。
「故に君たちに問おう。アイドルに大切なものは何か、分かるか?」
リオ:急にまともな設問来たな……。実際アイドルで大切なのって、可愛さだと思うけど趣旨が違う気がするし……。
ミカ:……。(無言で考えている)
リオ:み、ミカさんお願いします。
ミカ:「シューゾー殿、アイドルに大切なもの……それは」
リオ:……
GM:(待っている)
ミカ:「――皆を照らし、時に自らも対象として奮い立てる、心の炎、ではないでしょうか」
リオ:アイドルの事を知らないはずなのに、綺麗な答えだ……。
知らない人に答えさせるリオであった。
GM:「うむ、綺麗な答えだ。合格--と言いたいが、もう二つほど大切なものがある」
ミカ:「……二つ、ですか」
GM:「ああ、それはプロとしてやり抜くだけの体力!そして隣の人間を信じ切りやり通すだけの絆だ!君たちは細い!ちゃんと米を喰ってるか!」
リオ:お米食べろって言いたいだけかいっ!?
ミカ:「米……芋ではないんですね」
リオ:そこツッコミどころじゃない……!?
GM:フェリタニアでは米とめざしをくっていましたよ(デスマーチ参照)
ミカ:成程……。
リオ:ついて行けない僕が悪いのか……?
GM:「こほん」一旦咳ばらいをする妖精さん。説明が始まるよ。
「ここには1500mのトラックがある」
「あの、まさか……」
「ここを、28周してもらうだけでいい」
「……フルマラソンですよねえそれっ!?」
「マラソン……何か騎士の名前なのでしょうか……」
「そこは、反応、しなくて、いい……!」
このダンジョンに入ってから。もうすでに突っ込みすぎで、過呼吸になりそうだった。
あと、一つ分かったことがある。
多分……ミカさんは、天然だ……。
リオ:「あの、休憩は……ないんですか……?」
GM:「片方が走っている間はもう一人は休んでいい」
ミカ:有情ですね……。
GM:というわけでルールの説明をしますね。
二人合わせて総計1500mのトラックを28周する。
一周走るごとに1d6点のHPロスが発生する。
走らなかったキャラクターは1周につき2点HPが回復する。
交代の宣言は走っていないキャラクターの方が行う。
お互いの最大HPを教え合うことは出来ない。
回復は1回までお目こぼしされる。
ミカ:二回目の回復をした場合は……?
GM:試してみます?(笑顔)
ミカ:止めておきます。とにかくダイス目2以下が出ることを祈りましょう。
リオ:……行くしかないか。僕から行きます。
かくして、28周の戦いが始まった。
5周の時点で6を2回も出してしまうリオ(GM:「やろうと思えば絶対出来る!」リオ:「うるさいわっ!!」)
即座に交代を宣言するミカ。
タスキが渡される(リオ:「タスキだったんだ……」)
リオ:「はっ、はっ……お願いします、ミカさん……」死ぬ……魔法より……遙かに死ぬ……!?
ミカ:(ダイスを振る)6……「この地面、思ったより走りなれない……!」
GM:「もっと熱くなれよぉ!!」
一度目に6を出し、いきなり顔面蒼白になるミカ。
しかしその後はある程度安定したダイス目で順調に周回を重ねていく。
リオ:そして12周の時点で《ヒール》!
ミカ:助かった、ありがとう……。
リオ:19回復……消費分が、これで一度になおせた!
GM:「麗しい友情だが……次はないぞ?」
リオ:ぎくっ……「ははは、ばれてましたか……」
その後18週まで走ったところで交代するミカ。
残された10周を睨みながらリオが走り始める!
リオ:ダイス目……5.5.5.2.5……。
ミカ:っ……!?交代します!
リオ:助かります……(男が出しそうな声)
ミカ:「いきます……!」
その後、ミカも5を連続して出しつつも無事完走したのだった。
ミカ:残りHP6でした。
リオ:死ぬところだった……。
GM:さて、そんな君たちの様子にシューゾーは満足げに頷くよ。「君たちの覚悟、体力。素晴らしいものだった」
リオ:「……げほっ」
ミカ:「ぜぇ……ぜぇ……」
GM:「自ら仲間のために身を削り、そして全力を尽くす。それこそみなに希望を与えるアイドルの姿だ」
リオ:「はぁ……はぁ……」
GM:「理想のアイドルを目指す君たちには、プレゼントを贈呈しよう」
ぱちり、と指を鳴らす妖精。
彼女の後ろには、見事な料理が広がっていたんだ。
白く輝くコメに、ほどよく香ばしい香りを放つ肉。そして、しじみの味噌汁。
僕は……なんでしじみで、米なのかは考えないことにした。
あと、間違いなく言えることは。
リオ:「後で……たべ……る……」
全身疲れ切っててご飯どころじゃなかった。ということだった。
GM:二人には『すごい料理』の相当品として特製料理をお渡しいたします。料理なのでこの場の回復だけですけどね。
ミカ:魔術職だったから、身体が……。
リオ:後で食べたことにして……とりあえず、ダイスだけ振っておきます……。
ミカ:これが米料理……。
GM:「ここから先に進むのであれば、絶対にあきらめんなよ!」
「100回叩いて壊れる壁でも、99回であきらめてる奴がいる!さっきのマラソンだってそうだ、出来ないことを『出来ない』と自分に蓋をしてしまったらもったいないぞ!」
「……!」
「それが、人に夢を見せる『アイドル』だからな!」
「成程……」
頷くミカさんに、僕も頷いた。
方法は兎も角、彼女が伝えたいことは分かったから。
さっきのマラソンは『先が見えた』からできたことだけど、実際の『アイドル』に先なんてない。
けど、仲間が居れば。このくらい大変な試練だって超えられることが、分かったから。
「……行きましょうか、ミカさん」
「ええ」
ミカさんに頷いて。次のフロアへと進む。
ちょっとだけ、疲れのせいでふらついたのは恥ずかしかった。
※ ※ ※
「やあやあ、お待ちしておりました!」
第二階層にたどり着いた僕たちを迎えたのは、背の低い妖精さんだった。
さっきよりはまだ妖精という感じがする。
ただ……なんというか。冒険者を嵌めてきた。そんな雰囲気がありありと伝わってくる。なんとも言えない雰囲気を纏ってたんだけど……。
GM:第二階層も妖精さんがいます。具体的にはサガシリーズだけじゃなくてルージュシリーズにも出てきたような雰囲気の。
リオ:……。
ミカ:……奴ですか。
GM:「私はリドルの妖精でございます。そして、こちらのアイドル志望の方々には、これから我がリドルに挑戦していただきますっ!」
リオ:「親しみやすそうな子だ……」ただ、英知ってアイドルに関係あったっけ……。
ミカ:(頷く)
GM:「ぶっちゃけアイドルに英智とか関係なさそうなんですが、たまたま住みやすい迷宮があったので住み着いてみました」
リオ:いきなりぶっちゃけましたねぇ!?
GM:「とはいえ理由なしはアレなのでアイドルに大切なのは『平常心』だと理由をつけてみました。今」
ミカ:……、今。
GM:「たとえトラブルがあったとしても冷静に対処してこそのプロ!舞台根性!ということでリドルです!」
「というわけでそこの金髪!」
「は、はいっ!?」
「キャンパスと10回いってみてください」
「キャンパスキャンパスキャンパスキャンパスキャンパスキャンパスキャンパスキャンパスキャンパスキャンパス」
言われるがままに10回言う僕。
いや、何をさせられるかは大体わかるんだけど……。
英知……?
「角度を測るのは?」
「コンパス…………あぁっ!?」
「分度器ですね。というわけでバラエティにぴったりなリアクションをとってしまった貴女にはタライのプレゼント!」
「いや、そんなお笑いみたいな……へぶぁ!?」
妖精さんはいい笑顔で紐をひくのと同時に落下してきたタライをまともに喰らってしまった僕。
目の前がくらくらする……。
GM:2d6のHPロスです。
リオ:へぶぁっ(7ダメージ)「頭痛い……」
GM:「くくく、人間というのは意外とこういったものに脆いという事は知ってるでやんす……!」
リオ:それはキャラが違うっ!
GM:おっと「今度はそちらの無表情ガール!」
ミカ:「……はい」
GM:「将棋、と10回言ってください」
ミカ:「将棋、将棋、将棋、将棋、将棋、将棋、将棋、将棋、将棋、将棋」
GM:「線をまっすぐ引くのは?」
ミカ:「羽ペン」
GM:……。
ミカ:……。
GM:「す、すばらしぃ! すばらしい英知ですっ!」そして妖精さん(HP10)の頭にタライが落ちる(ダイスを振る)6ダメージ。
ミカ:「……あ、人間か。正確には」
GM:「そ、想定していない答えを出してくるとは……」追加で(ダイスを振る)2ダメージ。
リオ:これが、現地人の強さ……?
GM:「ぐ……ならばそちらの金髪ガール!作麼生!」
リオ:「はいっ!」……作麼生?
GM:「この問題はとっておき……異世界の問題です!」
リオ:なんで異世界について、知ってるんだ……。
GM:「日本最北端の県は?」
リオ:「青森県」
GM:「ぐ、ぐはぁ!?」(ダイスを振る)8ダメージ。妖精さんは倒れる(笑)
ミカ:青森ってなんだろう……。
GM:「な、なぜ……バラドルのあなたなら北海道と答えてくれると思ったのに……!」
リオ:「『県』をきく問題だろ?北海道じゃだめだ」い、一応天才設定だからね!?(0話参照)忘れてる人いそうだけど!
GM:「お、お見事……素晴らしい英智です……扉を開きましょう……」
リオ:「というかお前、なんで異世界について知ってるんだよ……」
GM:「ベネットさんから習いました。ファンブック参照です。買いましょう」
リオ:……なん、でや……。
GM:「こらこら、アイドルならそんな連載終了したジャンプの漫画みたいなリアクションしちゃだめですよ?」
リオ:メタだ……メタすぎる……(天を仰ぐ)
ミカ:兎も角、先を急ぎましょう。「……リオさん。試練は終わりましたよ」
リオ:「う、うん……」
誤魔化すように笑って、僕は先を目指すことにしたんだ。
このままだと、絶対また叫ぶのが目に見えていたから。
……この先のファンブックで、どうせこの妖精さんも酷い目にあうのが、見えていたからね。
GM:メタでやんすな。
リオ:いまさらだよっ!?
※ ※ ※
GM:では、最終階層にたどり着きます。ミニダンジョンですからね。
なんとか、心を落ち着かせ終えた僕がたどり着いたのは。
美しい歌が響く空間だった。
歌っているのは、ベルリールで見たばかりの少女。
「--お疲れ様です。こちらが。最後の試練の間となります」
かつての僕が、可愛い女の子になったら。こんな風だったのかな。そんな気持ちになれる見た目をしていた。
向こうが透けて見えるのは、変わらなかった。
GM:以前も見たことのある、歌姫が君たちをまっていた。
リオ:翼……なのか……?
GM:「つばさ……?」首をかしげる少女。
リオ:「え、えっと……僕が知っている人に顔が良く似ていたんですけど……」
GM:「すみません、私に。そういった情報は残されていないのです……ただの、残滓に過ぎませんから」
リオ:「そう……ですか」
項垂れる僕の頭を、優しくなでた後。
彼女は再び顔を上げてこちらを見たんだ。
「--『マスターピース』を集める者たちよ」
「はい……」
「私の力は、確かに--世界に平穏をもたらすことが出来るかもしれません。さきほどまでの試練で『覚悟』も『心』の両方を持つ貴女方なら、きっと使いこなせるとも、思います」
真剣な瞳だった。
歌で世界を救えるかもしれない。
そんな夢みたいなことを、まっすぐに信じている顔だった。
「けれど、力には。責任が伴います。言われるがままに、誰かに命じられるがままに力を乱用すれば。もたらされるのは平穏ではなく--混乱と、悲しみでしょう」
「なら、何を試すというのですか?」
ミカさんの疑問に、頷く歌姫。
さっきまでの試練で覚悟を見ていたなら。今見るべきものは……?
「あなた達が、力を持つのに最低限の強さを持っているのかを、試すだけです。あとは、あなた達の実力を。見せてもらいます--この大陸の流儀で」
「分かりやすいですね……」
「歌姫は、それほど強い戦士ではありませんでした。しかも、その残滓である私に残された力なんて、たかが知れている--けれど。そんな私に勝てないのであれば」
舞のように、動く歌姫。その華麗な動きに、戦闘の素人の僕は殆ど隙をみつけることなんてできなかった。
以前翼が言っていたことを思い出す。
一芸は、万の芸に通じる。
彼女にとって、舞こそが。戦闘に通じる『芸』だということなのだろう。
かくして、戦いが始まるのだった。
GM:ではクライマックスの戦闘。敵は歌姫(影)一人!
リオ:僕は相変わらず戦うのは得意じゃない……ミカさんがどこまで戦えるかに、かかってる。
ミカ:同意します。でも、後ろで--助けてくださいね。
行動値
歌姫:12
ミカ:6
リオ:4
GM:では、歌姫から動きます。
リオ:っ、早い!?
GM:セットアッププロセスで《ポルカ》。即座に戦闘移動を行います。本来バードのスキルは自分を対象にすることは出来ませんが、オリジナルスキル《影の歌い手》の効果で自らを対象にしています。
ミカ:「これは……旅芸人の……!」
GM:歌声が響くと同時に、彼女はリオの前に立つ。そしてメインプロセス。《ソードダンス》+《エアリアルレイヴ》で狙うのはリオ(ダイスを振る)命中24!
リオ:(ダイスを振る)っ、避けられない!
GM:ダメージは(ダイスを振る)40点。舞うような動きで君の身体を拳で撃ち抜く。
リオ:「げほっ……!」《プロテクション》で10軽減して、なんとか立ってる……。
歌姫さんの拳を受けて、蹲りかける。
……今までエリシアさんに庇ってもらってたから大丈夫だったけど。こんなに、攻撃は痛かったんだ。
ああして、立っていられる彼女の強さと、頼っていた自分が。
どうしてもわかってしまう。
GM:「ここまで……衰えているんですね。私は」静かに歌姫がつぶやく。
ミカ:今度は、私の手番ですね。《サモンファーブニル》で歌姫さんを攻撃(ダイスを振る)19です。
GM:回避は……当然出来ない。舞の動きを先読みするようにファブニールが攻撃する。
ミカ:「『時が止まったまま、色褪せないでいて--』」《マジックフォージ》を入れて(ダイスを振る)29ダメージです。
GM:ぐ、魔法防御は0なのでそのまま入ります。幽霊みたいなものですからね。
リオ:それで、僕の手番か。「負ける……もんか……!」《クイックヒール》で自分を回復……23点回復してから、《ジョイフルジョイフル》でミカさんを再行動させます!「ミカさん、もう一度お願いします!」
ミカ:「了承!……『風の便りに泣き、思い遠く――』!!」(ダイスを振る)命中は17です!
GM:ではそれを見た歌姫は《アンプロンプチュ》で回避を試みます(ダイスを振る)達成値29。
ミカ:……っ
「『世界は こんな ありふれた 音楽に 似ている』」
竜のあぎとが迫る直前、歌姫さんがしたことは歌を歌う事だった。
それだけで、ゆっくりと魔力で出来た竜の動きが止まってしまう。
動きが鈍った竜の頭を撫でながら。
「--平和をもたらすなんて夢を信じるなら、これくらいは。できますよ」
静かに歌姫さんは笑っていたんだ。
GM:では次のラウンドのセットアップ。こちらは《クイックソング》《ララバイ》《フォルテ》で全体に抵抗不可で【スタン】+15点のHPロスを与えます。
リオ:HPロスだと、《プロテクション》も無理か……!
GM:歌姫の歌をきくだけで、身体がずしりと重く、眠くなっていく。
リオ:「体が動かない……っ!」
GM:そして《ソードダンス》+《エアリアルレイヴ》でミカを狙う!(ダイスを振る)命中26!
ミカ:「ぐっ……!」回避のダイスが1個しか振れないから回避は出来ない……!
GM:ダメージは(ダイスを振る)40点!
リオ:《アフェクション》!「絶対に、防いで見せる……!」彼女の歌を遮るようにさらに歌を歌って拳をそらします!
GM:では。歌姫の拳が、ミカの鼻先3cmのところで止まります!
ミカ:「たす……かりました……」
リオ:「はぁっ、はぁっ……!!今がチャンスです、ミカさん!!」
ミカ:「ええ……!『――少年は、もう、全て知ってしまった。世界を作る戯れは、続いていく――』!!」
GM:回避は……惜しい、ダイス目11。
リオ:あぶなっ……。
ミカ:ここでフェイトも使って、ダメージを増やします。叢雲を背負ったファブニールが、飛翔する!(ダイスを振る)44ダメージ!「『神を超えて--”命”となれ――』」
GM:……此方のHPは60。累計ダメージは73。
リオ:ということは……。
GM:はい、13点のオーバーキルです。
「見事、です……」
そんな言葉と共に、ゆっくりと歌姫さんは倒れていく。
彼女を構成する『歌』が薄れていくのが、見えた。
糸の切れた人形のように倒れる彼女を見て、僕は思わず駆け寄っていた。
「あなたも……相当強かったです」
自分の身体をすりぬける、彼女の体に寂しさを覚えながら。
僕は精一杯の、声をかけていんだ。
※ ※ ※
GM:では、エンディングとなります。「--貴女の力と、心を見せてもらいました」
ミカ:「……ありがとうございます」
GM:「以前来た、男のように。美しい心だと。思いました」
リオ:「男……!?まさか、その人って……」つば……さ……?
GM:「その人が、貴女の探し人かどうかは。わかりません。--ただ、一つ言えることは」
「あなた達が、私の力。『マスターピース』を継承する力があることが、わかりました」
静かに消えながら、彼女は微笑んでいた。
わからないことが増えていくけど。
それでも、歌を集めることが、前に進むことだと。僕は信じたい。
だから、継承する力があると言われた時。たしかに嬉しかった。
GM:「また、別の私があなた達に会えますように、祈っています」
ふわり、と花の香りを残して。
彼女は消えていた。
落ち着く――いい香りだった。
リオ:「帰ろう、ミカさん」
ミカ:「……ええ」
GM:では……次が最後のシーンです。
リオ:えっ、まだあるの!?
GM:ええ、大切なシーンがあります。
※ ※ ※
事務所に戻ると、どこか忙しそうな雰囲気が強くなっていた。
タケウチさんはひっきりなしに書類と向き合ってるし、ミクさんもナナさんも、びっくりするくらいそわそわしている。
何より、部屋の中でうつむいているエリシアさんが、印象的だった。
GM:では。戻ってきたミカに、タケウチさんが手紙を渡してくれます。「--貴女の連れの方が、戻って来たら渡してほしいと」
ミカ:「……?ありがとうございます」
そして、ミカさんも。
その手紙を見て、表情を固まらせてしまったんだ。
『初仕事--お疲れ様です。上手く行ったでしょうか。
こちらは、大変なことになってしまいました。
グラスウェルズの黒幕、オスウィン・ゴーダ伯がついにメルトランドに開戦することを決定したからです』
ミカ:「なっ……!?」
『もしメルトランドが落ちてしまえば、無政府状態となったかの地でマスターピースを手に入れることは不可能に近いでしょう。
私は、開戦を遅らせる工作をしますが、戦争の発生自体は不可逆です。ゴーダ伯の子飼いの部下『ファントムレイダーズ』がメルトランド入りしたとの情報もあります。
故にメルトランドのマスターピース回収に関して早目の対処を、お願いします』
GM:手紙はそこで終わっている。急いで書いたのか、筆跡は綺麗だけど--字は乱れているね。
ミカ:「グリンダ……」手紙を握りしめながら、タケウチさんにその内容を伝えに行きます。おそらく--グラスウェルズの貴族であるエリシアさんも知ってるから、こうなっているのは分かるけど。
リオ:「ミカさん……一体、何を……?」
ミカ:「大変なことが、はじまろうとしています」
平和を願う者たちの心とは別に。
大陸は今まさに--動乱の時代を迎えようとしていた--。
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