第4話 廃都に響く歌声

例によって暗い部屋。

GMは一人でパソコンをいじっていた。

参加予定のプレイヤーの一人が用があって参加できなくなってしまったのだ。修正するところはそれなりにいっぱいある。

とはいえ、このようなハプニングはよくあることだ。

シナリオに黒い線を引きつつ、調整する。


「あ、今度のシナリオもし3人目が必要なら紹介しますよ!」

「マジかっ!」


とはいえ、こういう嬉しいハプニングもあったりするのだが。

……ちなみに今回と次回のシナリオはまだ2人である。



GM:さて、今回は公開用にハンドアウトと今回予告を作ってきました。

リオ:前の回のハンドアウトと今回予告失くしてたよね……。

GM:それは言わないお約束で……。 




今回予告

ーーアルディオンの亡国。ベルリールと呼ばれた国があった場所の一角。

そこには、かつて歌姫と呼ばれる人間が謳った舞台があるという。


そこに生きる人間を失い、主すらも喪失してなお。その舞台は静かに待ち続けている。

ーー新たなる、歌姫が現れる日を。



春川リオ用ハンドアウト

コネクション ベネット

「よくやったでやんす!やっぱりあっしの目には狂いが無かったでやんす!」

そんな手紙が、君の元にやってきた。

……破り捨ててやろうか。




エリシア用ハンドアウト

コネクション ナナ

かつて、歌姫が謳った舞台がある。

そんな情報が君達に舞い込んできた。

しかし。その場所はベルリール。今では廃墟と化し危険なゴーレムなどが跋扈する地だ。

そんな君はとあるツテ(ミク)からある人物の情報を聞かされた。その名はナナ。腕利きのトレジャーハンター。その名もナナという。彼女に会って話をきかなければ。



エリシア:ナナさん……!

リオ:ミミミンミミミン♪……はっ、僕は何を。

GM:ベネットには触れないのね。

リオ:いや……オチが見えるし……。

GM:ひどいでやんすっ!?

リオ:その扱いにしたのGMだからなっ!?



プリプレイ

リオ:とりあえずもらった経験点でごっそり成長させました。《プロテクション》伸ばして《ファイトソング》と《クイックヒール》と《ジョイフルジョイフル》を取りました。HPもMPも増えたのでかなり安定するかと。

GM;《エフィシエント》はないですが、その分バードスキルで安定させている感じですな。

リオ:アイドルだからね。ここからも頑張っていきます!……あ、あと『癒しの衣』買いました。

GM:了解です。エリシアさんは?

エリシア:《バッシュ》を+2レベル 《ボルテクスアタック》1レベル 《ステップ:アース》+1レベル 《ダンシングヒーロー》1レベル 《スマッシュ》1レベルと言う感じですわ。それと武器に『ヘヴィスピア』、全身の防具として『スケイルアーマー』や『ファインポイントアーマー』を買い込んだので、また貧乏になりましたわ。

リオ:……お、お金持ちなのに……。

エリシア:防御力があったほうが大事ですわ……。

GM:では、準備が終わったところで、シナリオに入っていきましょう。




※ ※ ※



GM:初ライブから一週間。君はプロダクション内の割り振られた部屋で過ごしていた。

リオ:「ふぅ……異世界生活。大分落ち着いてきたかな」


この世界に来てから、だいぶ慣れてきた。

元の世界と違って衛生とか大丈夫かなって不安だったけど。

錬金術の技術があったりするから、意外と普通に過ごせている。

この辺りは『中世ヨーロッパ』というより『中世ヨーロッパ風世界』ってことなんだろう。


ただ、一つまだまだ慣れないことがあって……。


リオ:翼の身体っていうことは、意識しちゃうんだよね……トイレとかは、今でも恥ずかしいし……

GM:さて、そんなふうに君が黄昏ていると、二階の窓の外から黒い猫が窓を叩いていた。

リオ:「猫……?」使い魔とか、ですかね。頭撫でたら喜ぶかな……。

GM:「にゃあ」(若本ボイス)

リオ:「ぶはぁっ!?」(女の子が出していいものではない声)

GM:そんなリオを無視して、猫はぺいっと口にくわえていた手紙を投げてよこすよ。

リオ:「手紙……う、うん。ありがとう……」変な鳴き声の猫だな……。

GM:「任務、完了だにゃ」(若本ボイス)

リオ:「喋るのかよ!?というか渋いなやっぱり!?」

GM:「ふぅ……仕事帰りにミルクでもひっかけるとするか――」(若本ボイス)

リオ:「ずいぶんと仕事帰りのサラリーマンみたいな言い方だなぁ!?」

GM:猫は言いたいだけ言うと部屋からひょいと出ていってしまう。

リオ:「あ、朝から変なの見たなあ……」そう言いながら、一応手紙を開けます。

GM:では、手紙を開いた君が見た一文目は--


『よくやったでやんす!やっぱりあっしの目に狂いはなかったでやんすな!』


リオ:……や、やっぱりか……。いやハンドアウトに書いてあるからそうなんだけど。とにかく爆発でもしない限りは一応読みます。

GM:「そんな上司みたいな爆発は出来ないでやんす。自爆はするけど」

リオ:「するのかよっ!?というかなんだこのリアルタイムで入力したみたいな文章はっ!」

GM:「はっはっは、気のせいでやんす」

リオ:「嘘つけぇ!そのリソースを少しでも翼を探すのに使えやぁ!?」

GM:「努力はしてるでやんす。それと次のマスターピースのありかはベルリールでやんす」

リオ:「ぐ、手紙に切れてもしょうがないか……それにしてもベルリールってなんだ?」

GM:「エストネルの北、すでに滅んでいる国家でやんすな。『国民すべてを生贄にする』儀式をバルムンクが行ったため、誰一人として生きる者のいないネクロポリスでやんす」

リオ:「……随分と、残酷な話なんだな」そう言いながらも、驚きはない。いや--異世界に来た時点で。そういう話があるのは、覚悟していたから。

GM:「戦争は、どこの世界でも変わらないでやんすよ。爆弾で死のうが、戦って死のうが、勇敢に死のうが、無様に死のうが、知らずに死のうが、結果は--変わらない死でやんすよ」

リオ:「そう、だな。それはその通り……なんだろ。その滅んだ国の、どこにあるんだ?」

GM:「かつてマスターピースを歌った歌姫。彼女が生きていたころに使っていたとされる舞台があるでやんす。そこを目指すでやんすよ」

リオ:「分かったよ……やりゃ、いいんだろ」そう言って手紙を読み終えます。

GM:「PS」

リオ:?

GM:「この手紙はそろそろ自爆するでやんす」

リオ:「おい、ちょっ……まてっ!?」急いで窓を開けて手紙を投げる!

GM:どぉん……!一瞬遅れて巨大な火柱が上がる。

リオ:「はぁ……はぁ……あの、駄女神めぇぇぇっ!!!」(女の子が出してはいけないような声で)

GM:幸い、外には誰もいなかったようだ。

リオ:「……っ。とりあえずタケウチさんとエリシアさんに、ベルリールって国のことを詳しく聞きに行くしかないな……」




「--まだ、何もわからないのに。翼の--ことも」


ため息をつきながら、階下に降りていく。

あれから、翼からのメッセージは来ていない。

一体、何がどうしたのか。

分からないこと、だらけだった。




※ ※ ※



GM:次は共通のオープニングになります。

エリシア:わかりましたわ!

GM:リオが持ってきたベルリールと言う情報を、タケウチさんが調べた感じですね。「リオさんが持ってきた情報についてですが--確かに、ベルリールに『マスターピース』の断章がある可能性は高いですね」

リオ:「本当ですか!?」

エリシア:「リオさん、良かったですわね!」

GM:「ええ、マスターピースは『名もなき歌姫』と呼ばれる歌い手ともにありました。彼女が公演した舞台が、かつて存在していたと」

リオ:それにしても、僕がどうしてベルリールの名前を出したのか、きかないんだな……。

エリシア:信頼しておりますから。

GM:「早速、向かいましょうといいたいのですが……」

エリシア:「国、ですものね。なかなか難行ですわ」

GM:「ええ、そこで案内を行ってくれる腕利きのトレジャーハンターに先導を頼もうかと」

エリシア:「トレジャーハンター。というとミクにゃんさんですわね!見つかったんですの?」

GM:「前回のライブを終えてから、すぐにやってきてくれました。『私もライブに出してほしいにゃ!』と」

リオ:「あはは……」

GM:「兎も角、ミクさんに聞いたところ。とても腕利きのトレジャーハンターの方を教えていただきました……なんでも、ナナというヴァーナの兔族の方だそうです」

リオ:ど、どっかのソシャゲというかソシャゲ原作アニメを思い出すネーミング……っ。

エリシア:「つまり、そのナナさんを頑張って探すところがスタート地点。というわけですね!」

GM:「ええ、頑張りましょう」

リオ;色々気になることはあるけど--幸い、やることがいっぱいある。だから、今は--大丈夫。

エリシア:頑張りましょうね、リオさん!




※ ※ ※



GM:では、ここから調査のシーンとなります。『ナナについて』や『ベルリールについて』などですね。

エリシア:知力判定が多いですわね……とはいえ《ヒストリー》や《ミュトスノウリッジ》で頑張りますわ!まずはナナという方の調さですけどね。《ダンシングヒーロー》を使って聞き込みをしますわ(ダイスを振る)12!頑張りましたわね。

GM:はい、では成功となります。

エリシア:ダンスを使って耳目を集めながら情報を聞き込みますわ。

GM:「お、この前ライブやってた子じゃないか。どうしたんだ?」と、声をかけてくる人がいる感じですね

エリシア:「ナナという人を探しているんです。凄いトレジャーハンターと聞いているのですが……」

GM:「ああ、ナナさんか。『伝説のトレジャーハンター』とか『永遠の17歳』と呼ばれている人だな」

エリシア:「永遠の17歳……まさか不老不死……」

リオ:絶対ちがうっ!!

GM:「ああ。10年前も17歳だったっけ」

エリシア:「……?と、とにかくここに来たこともありますの?」

GM:「ん、この前ここの傭兵御用達の酒場でビールを飲んでいたぞ。落花生をつまみにしてな」

エリシア:「17歳で……ビール……?若いうちからお酒は良くないと料理人から学びましたわ」

GM:「まあ、トレジャーハンターは死が近い職業だからな。好きなことくらいやらせてあげたほうがいいだろ」

リオ:落花生……。千葉県……(ぼそっ)

エリシア:「そう……ですわね!依頼をしたいことがあるのですが、居場所に関して教えていただけませんか?」

GM:「ん?ああ、いいぜ。失礼のないようにな」というわけで地図を書いて渡してくれます。

エリシア:「はい!分かりましたわ!」そう言って店から出ますわ。

GM:了解です。ではシーンを切ります。



※ ※ ※


リオ:今度は僕が歌姫について調べるね【知力】だけど楽したいので《アンプロンプチュ》を使って判定します(ダイスを振る)……よし、クリティカル!

エリシア:ダイスが3つ振れるだけで強いですわね。

リオ:クリティカルが出やすいからね。

GM:--では歌姫について調べて分かったことですが、はるかな昔の人間です。初代統一帝ウルフリックとともに戦った勇士の一人。と伝えられています。

エリシア:勇士、もしかして並んで戦えるほど強かったとか……。

リオ:僕みたいな支援役の可能性もあるけっどね。

GM:統一を果たし、戦いを終えた彼女は、ウルフリックの元を離れ、世界に歌を伝え続けた。とされています。そういった--伝承ですね。

エリシア:成程……。凄いお方だったのですわね。

リオ:似姿とかはありますか?

GM:はい、残されています。1話でエリシアがあった歌姫の姿――黒髪のおとなしそうな女性の姿だね。

エリシア:あの遺跡で出会った方ですね。

リオ:僕は見たことがない……。

GM:ただ、今リオが見ると--気が付くことがある。

リオ:……。

GM:転移する前の、リオに似ている気がする。

リオ:……!?これは……僕……?でも、僕は、男で。(顔が青くなる)


「そんな、まさか……」

 調べていた本を取り落としそうになりながら、僕は唇をかんだ。

 メッセージカードに残っていた名前は『翼』だった。

 だから、違うはずなんだ。

 けれど、時間軸の違いや、時空のねじれ。

 そういったものを考えると。

 僕には--何も否定できなかった。



※ ※ ※



エリシア:では、今度はわたくしがベルリールについて調べますわね。

GM:了解です。《ミュトスノウリッジ》の使用は可能としましょう。

エリシア:わかりましたわ!(ダイスを振る)成功ですわ!

GM:では、ベルリールについて調べていると、ミクが帰ってきます。割とボロボロになりながら。

エリシア:「どうしたんですの!?ミクさん!」

GM:「ちょっとベルリールに行って調べてきて。ベルリール内部に、かつて歌姫が歌った舞台があることがあることが分かったにゃ……」

エリシア:「ミクさん……無理させてしまって、ごめんなさい」

GM:「いいってことにゃ。ただ、次にライブをやるようなことがあったら連れていってほしいにゃ」

エリシア:「ありがとうございますわ!」

GM:「面と向かって言われるとてれるにゃ……。ただ、注意するにゃ。あの辺りはもうアンデッドの宝庫だにゃ。エリシアちゃんも、リオチャンも気を抜いたらダメにゃ」

リオ:うーん、《アンデッドペイン》でも覚えたほうが良かったかなあ。

エリシア:知力判定ですから、難しいところですわね……「ご忠告痛み入りますわ。今度ハンバーグを作ってあげますわ」

GM:「前エリシアちゃんが作ったハンバーグは、完全に野菜まで潰れてたにゃ……」

エリシア:「だ、大丈夫ですわ!今度はイワシを使って健康にいいハンバーグにしますわ!」

GM:「そ、そーゆーのはやめるにゃ!?ミクは魚が苦手なのにゃ!」

エリシア:「美味しいですのに……」


 ミクの傷を癒すべく、医療箱を出しながらエリシアは考える。

 ベルリールという国のこと。

 一夜で滅ぼされたという国に住んでいた人は、最後にどのようなことを考えたのだろうか。

 一瞬だけ、自らの母国がそうなることを想像してぶるりとエリシアは震えるのだった。




※ ※ ※


GM:では、満をじしてナナに会いに行く。でいいですな?

リオ:僕はそのつもりですー。

エリシア:お願いしますわ!



「結構遠くまで来たね、本当にこんな場所であってるのかな?」

「伺った地図ではこちらで問題ないはずですが、なかなか辿り着きませんわね」

「ええ、地図上はまだエストネルの筈です。……大分外れではありますが」


 エリシアと、リオ、そしてタケウチの三人はエストネルの外れに来ていた。

 人があまりすまないような、どこか長閑な空気が漂う平原。

 馬車で揺られながら数時間。

 落花生の畑の近くに、小さな小屋が建っているのが見えるのだった。


エリシア:「あ、あの建物ですわね!いざとなればわたくしが前に出ますわ!」

リオ:「た、頼もしい……」

GM:そんな会話をしていると、建物の中から声が聞こえてきます。「た、たすけてくださぁーい……」と。

エリシア:「!?開けますわ!」真っすぐに言ってドアを開けます!鍵がかかっていたらぶち破りますわ!

GM:ではドアを破ったエリシアが見たのは……。


 そこは、不思議な空間だった。

 畳という東方特有の床材が4枚敷き詰められた部屋。

 中央には、背の低い机が置かれている。

 机の上には、飲みかけのビールと、剥いた後の落花生の殻。

 ……つまりは、四畳半の部屋であった。


リオ:きゅ、きゅうに馴染み深い空間に……。で、声の主はいますか?

GM:はい、端の方で倒れて痙攣する兔族の女性が。

エリシア:「大丈夫ですの?しっかりしてくださいまし!」

GM:「こ……腰が……」

リオ:「腰……」

GM:「まだまだ17歳のつもり、でしたが……やはり世界は厳しいですね……」

リオ:「……ヒール、要ります?」

GM:「ナナはまだJKですけど、出来れば欲しいかなーって……」

エリシア:JK……ジャックナイフ……高名な暗殺者だったのでしょうか。

リオ:多分違うと思います。《ヒール》(ダイスを振る)25点回復ですね。

エリシア:地味にクリティカルしてますわね。

GM:ではその回復を受けた彼女は一気に立ち上がって「ナナ復活!エナジー注入ありがとうございますっ!キャハッ☆」とポーズを決めて見せるよ。

リオ:い、色々元ネタが透けてる……!

エリシア:「回復してすぐにそのポーズ、凄いですわ!」

GM:「……っ!?」また倒れそうになる。

リオ:「だ、大丈夫ですか!?」

GM:「いきなり立ち上がったから、また腰が……」

リオ:む、無茶すんなー!?(笑) もう一度ヒールしましょうか?

GM:「だ、大丈夫です。まだJKですから……!」

リオ:「そ、そうなんだ……」とにかく、事情を説明します。かくかくしかじかー!

GM:うさうさみんみんと理解します。

エリシア:(元ネタが完全にすけてる……)

GM:「成程、ベルリールにある歌姫のいる遺跡--すなわち『歌姫の舞台』ですね」

リオ:「なにか、知っているのですか? 危険という事は、承知してますけど」

GM:「ある程度は、ですけれど。案内も可能です。とはいえ、簡単に死地に送ることは出来ません」

エリシア:「それは、腕利きの冒険者でも厳しいという事でして?」

GM:「いえ、それとは違う事情がありまして……あなた達は歌やダンスが得意ですか?」

リオ:あ、アイドルですから。多少は。

GM:「『歌姫の舞台』には多数の無念が封じられているのです。ベルリールの舞台で歌う事を夢見たまま、死してしまった少女たちの想いがアンデッドとなってあの舞台の周囲を覆っています」

リオ:「夢破れた少女たちの残響。ですか」

GM:「……自らの実力ではなく、理不尽で夢を断たれた彼女たちの無念は。相当のモノでしょう。そしてそんな少女たちを想い続けたファンたちの想いも、あの場ではアンデッドとなっているのです」




「そしてナナは。彼女たちの念を前に。--長くあの場にとどまることは出来ませんでした。歌と踊りを見せればきっと鎮まるかもしれませんが--ナナ一人には、難しかったのです」

「腰をやってしまったわけですわね……」

「……国一つなくなったのであれば、当然の量だと思います」


 不謹慎だけど、少女の念とファンだけと聞いて。僕は少しだけ安堵のため息をついてしまった。

 そんな僕に、少しだけナナさんは寂しそうな眼を向けてくる。


「たしかに、この大陸ではいまだに戦乱は続いています。死者も絶えることはないでしょう」

「……はい」

「ただ、人が死んだという事は。量で語ってほしくないのです……」


 悲しそうな声だった。

 確かに、多くの人が死ぬのは。悲劇だ。

 けれど……量で語るのはきっと間違ってる。それだけは僕にも理解できた。

 ……本当に、思い返すと。

 僕は異世界転生した時から、きっとこの世界に足がついてなかったのだろう。

 まるで、他人事のようだ。


「な、なんちゃって」


 暗い顔をする僕を気遣うように、ポーズを決めるナナさん。

 それが、余計にいたたまれなくなって。


「ごめんなさい」


 そんな言葉が、口をついて出てきた。


「ナナさん、リオさんは悪意があって言ったわけでは……!」

「いえ……言う通りです、ナナさんの」


 フォローしてくれるエリシアさんにも、頭を下げる。

 確かに、悪意はなかったと。僕も思う。

 けれど……それでも、人を傷つけるものだったから。


 平和を求める。


 口で言うのは簡単だけど。

 求めるってことは……それだけ、人が死んでるってことだ。

 エリシアさんの槍捌きも、きっと普通の姫であれば。世界に戦が無ければ。

 きっと、必要がなかったものなのだろう。

 でも、それも遠い国の歴史を学んでるようで。どうしても当事者意識が、出て来ない。

 そう考えると、心が沈んでいくような気持になった。


リオ:静かに頭を下げます。

GM:「……意地悪でしたね。ナナも」同じくしゅんとした後。ぱん、と顔を叩くナナさん。

エリシア:「……リオさん……」

GM:「だから、意地悪ついでに。お二人を手伝って差し上げます。『マスターピース』を求めてベルリールに向かうのでしょう?ナナが案内しますよ!」

エリシア:「本当ですのっ!?」思わずナナさんの手をぎゅっと握りますわ!

GM:「キャハッ!ナナには二言はありません!」

リオ:「ありがとうございます……!」もう一度頭を下げます。

エリシア:「永遠の17歳で腕利きのトレジャーハンターでもあるナナさんが居れば100人力ですわ!」

GM:「あ。あはは……体力持つのは……一時間」(小声で)

リオ:そこも元ネタ準拠なんだ……。


「じゃあ、皆さん着いてきてください! ばっちり案内しちゃいますよ!」


 大きな背嚢を背負いながら部屋を出るナナさんに。僕たちはついていく。

 ベルリールに待っているものの存在を想いながら。





※ ※ ※




 廃都ベルリール。

 そこは、静かな空間だった。

 --いや、静か過ぎた。

 国民すべてが生贄に捧げられた、とあの女神は言っていた。

 言葉で聞いて、むごいことだと思った。

 けれど、耳で聞くのと。目で見る事は。五感で感じることは全然違う事だった。

 アイドルはライブもみに行かなきゃ全部知ったことにはならないなんて言ってたのにな。僕は。


「--人がいたんだよな。ここ。それは……わかるのに、誰も。いないなんて」

「ええ、寒気がしますわ……恐ろしいほどに」


 

 生きて、息をしている人間は僕たちしかいない。

 家が立ち並んでて、商店が残ってて。

 腐るようなものは流石になくなってるけど、布とかの商品は朽ちぬままそのまま置かれていたりして。

 人が、いたのに。いない。

 違和感が、背筋をぞっとさせていたんだ。


「行きましょう。この空間は寂しすぎます」


 長い兔の耳を揺らしながら先導するナナさん。

 彼女は以前もこの空間を超えてきたのだろう。

 一流のトレジャーハンターというのは、心も強いんだろう。

 けれど……僕も、まだ駆け出しとはいえ。翼の体とはいえ。アイドルだ。

 ……だから、アンデッドを鎮めるという仕事は。

 頑張ろうと思ったんだ。



GM:さて……そうして暫く『何もいない空間』を歩いていくと。石造りの劇場が見えてきます。

エリシア:もしかして、わたくしが遺跡を探検した時の空気は--ありますか?

GM:ご明察。同じような清浄な雰囲気がする。古びており、若干朽ちかけてはいるものの。それでも--劇場だと分かる程度に形が残っている。

リオ:「すごいな、これ……空気が、違う」

エリシア:「ここに、歌姫が……?」

GM:「そうだ。歌姫と呼ばれる仲間が、ここに居た」ナナとは違う、低い男の声が聞こえてきます。

エリシア:「誰ですの!?」

GM:その言葉にこたえるように、劇場の中から一人の男が出てきます。どこか古い樹を思わせる、静けさを纏った男性。そして剣をその腰に差していた。

エリシア:--アンデッドではなさそうですわね……。セインでしょうか。

GM:「鋭いな、君は。……ご明察だ。私の名はレムナント。エルウォーデン王の臣下にしてセインの一人だ」

リオ:「エル・ウォーデン王……?」

エリシア:「と、するとここに居るのは陛下の意志という事かしら」

GM:そのエリシアの言葉には首を振ります。



「いいや、ここに居るのは私の意志によるものだ。そしてその理由に歌姫は関係はない」

「……ならば見逃す。というわけではなさそうですわね」

「ああ。陛下より。この地で『マスターピース』を得ようとするものの力を試せ。と」

「陛下はいったい何を考えているのかしら……」

「私に全てを見通すことは難しい。だが--」


 レムナントと名乗るセインの一人は剣を抜いた。

 ……正直それだけで圧倒されそうだった。


「力のない人間が平和を唱えたところで、潰れてしまう。夢物語であったとしても、語るのであれば力がいる。守るにしても……だ」

「……本当に、この大陸らしい流儀ですわね。悲しいくらい」

「力なきものが、護れなかった地が。ここにあるのだからな」


 けれど、彼も寂しそうだった。

 直感的に思う。

 彼は、レムナント(古代からの遺物)は--。この地を、護り切れなかったんじゃないか。と。


「あの奥には、多くの死者たちが。歌姫の歌の元、静かに過ごしている--。その眠りを覚ますのに足るものかどうかを試すことも、必要だからな」

「……エリシアさん」

「ええ、リオさん。行きましょう。それとナナさんも」

「試練が多いのは分かりますが、案内するのがナナの仕事ですから。だから--通してもらいますよ」



GM:では、戦闘に入ります。ちなみにナナの扱いですが……

リオ:(察する)

エリシア:?

GM:「行きますよ--ナナの全力コンボ!」《タイムマジック》+《ピンポイントアタック》+《ダッシュアタック》に《ジャグリングアタック》+《ゲイルスラッシュ》!

エリシア:さすがの上級クラスですわね!

GM:(ダイスを振る)「137ダメージ……です!」と見事な短剣の一撃を決めるものの……

エリシア:あっ

GM:「こ、腰がっ……」戦闘不能です(笑)

リオ:やっぱりな!?「無理しないでください!あとは僕たちが!」

エリシア:いきなり戦闘不能とは、大変ですわね……

GM:ちなみに一撃を受けたレムナントはたたらを踏む。「ぐ、やるな……だがまだまだだ!」

エリシア:「ここからは、わたくしたちの時間ですわ!」


行動値

レムナント 13

リオ 3

エリシア 0


リオ:行動値0になったんだエリシアさん……。

エリシア:回避も捨てましたわ。避けられなくても鎧で耐えますわ。

リオ:男らしい……!

エリシア:あ、アイドルですわよ!?


GM:セットアップはこちらは宣言ありません。

エリシア:《ステップ:アース》、地面の精霊から力を借り受けますわ。

リオ:僕もなしかな。

GM:ではこちらのターンからです。マイナーアクションで《スマッシュ》、メジャーで《バッシュ》!(ダイスを振る)命中22!

エリシア:受けて立ちますわ(ダイスを振る)当然回避は失敗!

GM:ダメージは(ダイスを振る)54点となります。

エリシア:「っ!?」防御は25点ありますが、それでもかなり来ますわね……!

リオ:《プロテクション》!4レベルで持ってるから(ダイスを振る)よし17点止める!

GM:とすると総計ダメージは12。「ぐ、硬いな君は……!」

エリシア:「助かりましたわ、リオ」

リオ:「それが僕の役目だから、大丈夫!」さらに自分のターンで《ヒール》(ダイスを振る)23点回復です。

エリシア:「お任せですわっ!」わたくしも《スマッシュ》+《バッシュ》--さらにここで《ボルテクスアタック》も使ってしまいますわ(ダイスを振る)15ですわ!

GM:ぐ、回避は6ゾロのみ。(ダイスを振る)無理。

エリシア:ダメージは57点ですわ!「たとえセインでも……わたくしの魂が届かない相手とは、思っておりませんわ!」

GM:「……細腕だと思っていたが、成程。よい力を持っているようだ」

リオ:まだまだ余裕って感じか……。

エリシア:それでも認めさせなければなりませんわ。

GM:では次ラウンドに入ります。

リオ:次ラウンドの頭で《ファイトソング》を使うのは忘れてませんからね。

エリシア:頭が下がりますわ。

GM:ではレムナントのターンとなります。


「--君たちの力は見せてもらった。だからこそ。私も本気を見せるとしよう」

 ゆらり、と剣を持ち上げるレムナント。

 彼からは、今までとは比べ物にならない剣気が放たれていた。

 さっきの攻防なんて、本当に本気じゃなかったって分かるほどに。


GM:マイナーアクションで《死神の手》を宣言します。

エリシア:ルールブックに載ってないスキルですわね……!?

GM:いえ。スキルではありません……『パワー』です。この効果でダメージ+187

リオ:……ひぇっ。

GM:さらにメジャーアクションで、《ブランディッシュ》。範囲攻撃で二人を狙います

エリシア:「!?」

リオ:「エリシアさん!ヤバいのが来る……っ!」

GM:命中は(ダイスを振る)おっと3d分クリティカルした。なので《鬼の爪》でダメージ+60して。

リオ:ヤバい……ヤバい……!?(ダイスを振る)避けられないってっ!?

エリシア:(ダイスを振る)わたくしも避けられませんわ。けれど--ここで《カバーリング》しなければ、騎士ではありませんわ!《カバーリング》!

GM:では--ダメージは(ダイスを振る)457点をカバーリングなので914点ですね。

エリシア:「させる--ものですかっ!」



 凄まじい一撃だった。と思う。

 思うって言ったのは、僕の目にほとんど映る速度じゃなかったからで。

 それに、反応できたのは。

 僕の前にエリシアさんが割り込んでて。

 このままだとエリシアさんが死ぬのがわかって、それでもエリシアさんがかばってくれたから。

 だから、僕は--。


「《アフェクション》!!」


 あの魔法を唱えられたんだと思う。


リオ:新しく覚えた《アフェクション》でダメージを0に変更!一度だけだけど使える、絶対防御壁だっ!

エリシア:「守るつもりが、護られてしまいましたわね……」

リオ:「とっさに庇ってくれなかったら無理だったよ」あんなことは、僕には絶対に、出来ないから。

GM:「今のは、本気だったんだがな」

エリシア:「これがわたくしたちの力ですわ!」とはいえ。もう一度アレをされたらおしまいですわね。ですから……リオさん、待機していてください。そして、あの特技を。

リオ:わかった!

エリシア:さあ、このラウンドで認めさせますわ!お母様との特訓を思い出して--!《スマッシュ》+《バッシュ》で(ダイスを振る)また15ですわね。

GM:ぐ(ダイスを振る)回避失敗。

エリシア:(ダイスを振る)35ダメージですわ!「--リオ!」

リオ:《ジョイフル・ジョイフル》!「エリシアさん、もう一度!今一度の一撃をお願いします!」

エリシア:「これで、決めますわッ!!」《スマッシュ》《バッシュ》に《ボルテクスアタック》ですわ!(ダイスを振る)命中は18!

GM:クリティカルのみ……無理!

エリシア:ダメージは(ダイスを振る)54点!

GM:……こちらの残りHPは、17。防御点は10。

リオ:よし……っ

GM:「強いな、君たちは」そう言って、レムナントは武器を下ろした。と言うところで戦闘終了です。



「はぁ、はぁ……お、終わった……?」

「ああ、君たちは十分に力を示した」

「やりましたわ!リオ!」

「う、うん……」


 いつも通りのエリシアさんの笑顔に思わずへたり込む僕。

 ナナさんじゃないけど、気が抜けちゃって腰に全然力が入らなかったんだ。


「歌姫への道を開こう……とはいえ、その前に一休みしたほうがいい。私の小屋を貸そう。一晩も寝れば回復するはずだ」

「その心遣いに感謝いたしますわ」


 でも、やり遂げた。

 ぎゅっと拳を握りしめて。僕は余韻に浸っていた。


GM:では、レムナントさんは倒れているナナさんを担いで運んでいくよ。

リオ:《ヒール》なしで大丈夫なんですか!?

GM:「ちょ、もうちょっと優しく、プリーズ!? 痛っ!?」

リオ:いりますね!分かりましたっ!?(一同苦笑)

GM:「ヒールありがとうございます……面目ないです、私も」

リオ:「いえ、貴女のちからも、きっと必要だったと思います」たとえ《死神の手》の火力調節イベントだったとしても

エリシア:GM……(笑)

GM:(そっぽを向く)

エリシア:「さて、リオも立てますか?おぶってあげますわよ」

リオ:あ、あはは……エリシアさんってこういう時、ワイルドだなあって……上品だけどダイナミックで。これがこの世界の人ってことなんだろうか。

GM:違います。

エリシア:断言しましたわね……わたくしはこうだというだけですわ。久々に屋根の下で寝られるので。すこしわくわくしますわね。

リオ:……やっぱり、強いよなあ。




※ ※ ※




GM:では、一晩明けたところで。皆さんをレムナントさんが案内してくれます。

エリシア:やはり、あの石造りの建物ですわね。

GM:はい。そして--一歩踏み入れると。静かな歌声が聞こえてきます。




 石造りの建物は、清浄な空気を保っていて。

 誰もいないのに、どこか暖かい気持ちになれた。

 そして、聞こえてくる歌声。

 本当は、誰もいないはずの場所から聞こえてくる歌声なんて、ホラーなのに。

 心が癒されるような、そんな歌声で。僕たちはふらふらと吸い寄せられるように歩いたんだ。


エリシア:「……綺麗」

リオ:「そうです……ね」

GM:そうつぶやく君たちの周りには、いつの間にかアンデッドモンスターたちが居た。

エリシア:……。

GM:けれど、彼らも襲ってこない。ただ静かに歌を聴いてゆらゆらと身体を揺らしていた。

リオ:これが、歌姫の力……。ナナさんはどうして襲われたんだろ……むしろ。

GM:それに関してはレムナントから一言。「宝を取りに来たからだろうな」と。

エリシア:なるほど、そういう事ですの……。

GM:「うう、面目ないです……」


 アンデッドの観客を避けながら、ゆっくりと舞台に近づいていく。

 そして、石造りの舞台に、彼女はいた。

 天井が崩れ、降り注ぐ月光の中。

 黒髪の歌姫が、ただ歌い続けていた。


リオ:「……君が、歌姫……」


 その時、僕は。

 僕に、今の姿になる前の僕によく似た彼女に。

 ……。

 もしかしたら、という思いが隠せなかった。

 

リオ:でも、僕は。男だったから……違う。筈なんだ。こんな風に可愛くなんて。なれない。

GM:歌姫は、君たちに気が付くと歌うのをやめ。君たちを見る。黒曜石のような黒い瞳だ。


「ユーステス……いいえ、レムナント。貴方が連れてきたという事は」

「ええ……彼女たちには『マスターピース』を所持する理由がある。と判断した」

「……そうですか」


 静かに、少女は微笑んだ。

 レムナントと、二人に向かって。

 その笑顔は、どこかリオのものにそっくりだった。



エリシア:見た目は異なるはずなのに……リオに、よく似ていますわ。何故だかは、分かりませんが。

リオ:「君は……翼なのか?」

GM:その言葉に、首を振る歌姫。「--私に、名前はありません」


「私は--『マスターピース』という歌の力によって存在しているだけの影法師に過ぎません。だから--名すらも、思い出せないのです」

 静かに、歌姫は語る。

 その身体は、月光が透けて見えて。

 彼女が儚いものだと、いやがおうにも伝えてくれた。


エリシア:「マスターピースの力によって、存在している……ということは。まさか、わたくしたちがマスターピースを受け取れば……」

GM:「ええ、私は消滅するでしょう」

リオ:「……!?」

GM:「ですから、私は『マスターピース』を求めるあなた達に頼みたいことがあるのです」

エリシア:「……伺いますわ」

GM:「歌を、歌ってはくれませんか? ここで眠る死者たちは、きっと私がいなくなったら寂しがりますから」

リオ:……なんで、そんなに。淡々としてるんだ……。それをしたら、消えてしまうのに。

GM:「私は、影法師の様なものですから。未来に送られた手紙が開かれただけなのです」

リオ:わからない……そんなの。


 それでも、それ以上。

 僕は口をひらけなかった。

 マスターピースが、必要なのは。間違いがなかったから。

 そして、透き通った彼女の姿を見て。

 僕たちが来なくても、このまま消えてしまいそうだと思えてしまったから。



エリシア:「歌を歌えば--死者たちは安らぐのですか?」

GM:「ええ、私の様な記録ではなく。生きたあなた達の歌こそが。彼らを救えると思うのです」

リオ:「……やるしか、ないんですね」

GM:「それと、私はあまり踊りを踊れませんから……踊りでも、良いかもしれません」

エリシア:「踊りは、わたくしが少しできますわ。歌は--リオさん、いや--ハルカが」

リオ:……うん。



GM:--ではクライマックスフェイズに入ります。FS判定『死者たちを鎮魂せよ』です



※ ※ ※



この世界に来てから、分からないことがたくさんある。

僕の体のことも。

翼がどうなったかってことも。

マスターピースが、どんなものなのかも。

僕には、分かってない。

さっきの歌姫さんも、なにも教えてくれなかった。


「すぅ……はぁ」


一度深呼吸をして、目を上げる。

リオから、ハルカへと僕を変革する。

観客が違っても、やることは変わらない。

あの歌姫の声に、僕は、届かないかもしれない。

けれど、翼の力があれば。きっと。


GM:では進行値は10。難易度11の【呪歌】判定からスタートです。制限ターンは4。

リオ:「--歌います」(ダイスを振る)達成値12。……あ、危ない。

エリシア:ダイス目112でしたわね……。

リオ:ダイスを増やすことの大切さが良く分かったわ……。


 もともとの歌姫の声にあわせるように。

 ゆっくりと音を紡いでいく。

 初めて歌う曲なのに、なぜか。心の中に歌詞が浮かんでくる。

 時折つっかえながらも、それでも。

 僕は、歌い続けた。


GM:次は舞踏の判定となります。難易度12。

エリシア:「わたくしも、負けていられませんわね……」《ダンシングヒーロー》を使いますわ(ダイスを振る)達成値14ですわ。

リオ:よし、余裕をもって成功。+2ですね。

エリシア:危なかったですわ……。


 自然な動きで、エリシアさんが舞を踊り始める。

 歌に、あっていて。

 緊張で時折動けなかったなんて後で言っていたけれど。

 信じられないくらい、滑らかな動きだった。


GM:では、次はリオのターンです。二人の動きを見た歌姫の声が少しづつ小さくなっていきます。それは『あなたが歌うべき』と言う意味なのか。それとも『力を使い果たした』と言う意味なのかは--分かりません。

リオ:(歌姫さん……)。とにかく、判定します。フェイトも込めて(ダイスを振る)達成22!

GM:はい、素晴らしい成功となります。

リオ:よしっ。

GM:……そして、判定が変わります。それは死者たちの想いです。


 辛い、苦しい。

 どうして、死ななければならないのか。

 どうして、私たちは舞台に立てなかったのか。

 理不尽に対する無数の「どうして」が。

 心の中に、伝わってくる。


 歌にすがる、死者たちの想い。


GM:呑まれないための判定。難易度は11で【精神】となります。

リオ:「……っ!?」中々……厄介な客だな……。

エリシア:けれど、これを受け止めてこそ。『マスターピース』を継承すると言えますわ。使えるフェイトを3点使って(ダイスを振る)クリティカルですわ!


 そんな想いを。

 エリシアさんは鎮めていく。

 世界は理不尽で、残酷なものであっても。

 それでも、救うものは存在する。平和を願うものは存在すると。


エリシア:クリティカルのダイス目は2。残り2点ですわ。

GM:では--リオ。最後の判定です。

リオ:……うん。


「貴女の歌は、とてもきれいです。とても」

「……は、はいっ」

「心が、伝わってきます--だから。貴女が、歌ってください。私の、『歌』を。この方たちの安寧のために」

「歌姫……さん」


 想いが、流れてくる。

 自分の名前も、なにもかもを失っても。

 ずっと歌い続けた、彼女の心と、歌が。


「私を、『マスターピース』を。今」


 今にも月光にとけてなくなってしまいそうな。彼女にこたえるために。

 僕は--歌を続けるんだ。


GM:【呪歌】判定。難易度は30です。

エリシア:……やはり、高いですわね。

GM:『マスターピース』を受け継ぐという判定ですから。

リオ:ここに眠る魂のために、そして。歌姫の気持ちにこたえるために……《アーシアン:召喚》と残ったフェイト全部をつぎ込んで(ダイスを振る)達成値40!!

GM:--成功です。


 歌い上げる。

 彼女の分も、全力で。

 一小説が過ぎるたびに、目の前に光が満ちていく。

 観客たちを見れば、ひとりひとりゆっくりと消えていくのが見える。

 最後に残った未練が、浄化されていったのが、分かる。


 そして、当然。

 僕の隣にいた、歌姫の姿も、消えていく。

 ただ、安らかに。彼らが眠れるように。


GM:--成功。FS判定終了となります。石造りの舞台に、君たちだけがのこされる。

エリシア:……消えて、行きますわ。

リオ:……。


「ありがとう。貴方に--久々に会えてよかった」


 そんな声を残して。

 歌姫の姿は消えていた。


リオ:!?ちょっと、まって……そんな、君は……やっぱり……!?


 手を伸ばす。

 何も、いなくなった場所に。

 届かないって、分かっていたのに。


エリシア:「--どうしたんですの……!?」

リオ:「なん……で……」


 ライブが終わった疲労感と。

 それと、ぐちゃぐちゃになった感情のまま。

 僕は……伸ばした手の行先を失って、地面を見ていた。


GM:では、クライマックスフェイズを終了します。



※ ※ ※




 それから、どうやってプロダクションに戻ってきたのかは覚えていない。

 ただ、しばらく。僕は舞台にひとりでいさせてもらったんだ。

 たった一人で、歌い続けた歌姫は、何を見ていたんだろうか。

 それと、あの歌姫は……僕の知っている彼女なのだろうか。


GM:では、エンディングフェイズです。

エリシア:「……リオ、何があったのかはわかりませんが。彼女を救ったのは貴女ですわ。それは、間違いないでしょう」

リオ:「……はい」

GM:「アイドルの凄さ、よくわかりました……」

リオ:普段だったら、ナナさんに「それはアイドル関係ないから!」って突っ込めるんだけど……今は。無理かな。……目が、合わせられない。

エリシア:「……。いつか、話せる時があったら。わたくしはいつでも聞きますわ」いつか--話せる日があれば。

リオ:「……ありが、とう」


 それだけ言うのが、精いっぱいだった。

 見上げれば、星空が見える。

 けれど、人の生きる灯なんて、ほとんど見えない。

 誰も住んでいない、寂しい廃都の姿だ。


リオ:「みなさん、先にいっててください……僕は。少しだけここに居ます」


 心の中には、二つの旋律が残っている。

 どちらも、歌姫の残したマスターピースの欠片だ。


リオ:「少しだけ、風に当たりたいんです」

エリシア:……その言葉を聞いて、退席しますわ。

GM:では、ナナとレムナントも静かに頷いて退席します。

リオ:では、誰もいなくなったところで--叫びます。


「……ベネット、見てるんだろ!!」


 全力で叫ぶ。

 手紙を見る限り、多分ずっと僕たちの事を、彼女は見ているだろうから。


「お前が……黙っていた理由、やっとわかった……!」


 あらん限りの力で。


「僕は、もうこの体を返せないっていうのかよ……昔にいった、翼に……!」


 そこまで、叫んだところで。

 耳元に声が聞こえた。


「それは……君次第でやんす」

「まだ、何かあるって……いうのか?」

「それは『語れない』のでやんすよ。--マスターピースをすべて、集めるまでは」

「結局、だんまりなのか……」

「身勝手ないい分なのは、分かってるでやんすよ」

「……っ」

「あっしが、代われるなら。とっくに代わってやってるでやんすよ!!!」


 聞こえる叫び声に。

 僕は、答えられなかった。

 全部押し付けたクソ女神だと思ってたのに。

 その言葉の重さは--本物だと分かったから。


「……分かってるよ。そのくらい。マスターピースを集める。今は、それしかないんだろ」

「すまないでやんす……」

「大丈夫、『マスターピース』を集めることを。投げ出したりなんてしないから」


 わからないことが、たくさんある。

 けれど、一つ。

 怖い事があったんだ。


 歌うことが、楽しくて。アイドルが楽しくて。


 この身体を返すのが怖いって、一瞬でも思った、自分が。


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