第4話 終焉

 ……ダメだな。もう、お終いだ。やめろ、もういいんだ。眠らせてくれ。もう沢山だ、ちきしょう! なあ、聞け、ハカセ。記録しろ、全てだ。考えろ、足らない脳みそ使って、考えろ。生きろ、コソコソ隠れて、生きろ。弱いなら、弱いなりに。逃げて逃げて逃げまくれ。どうせ奴らは皆殺しさ。焼かれて、死ぬのさ。でなきゃ、バラされて再利用ってとこだな。病気の人間のために。俺は、ここで、おしまい……


***


『歴史』

 我々、豚人ブタヒトは、ヒトの歴史を相続していない。従って、この日記のようなものが、豚人の歴史を記す最初のものである。

 我々を創造した科学者、余足よたり・Aとその研究室の学生らの遺伝子を、我々は受け継いでいる。従って、彼らが我々の祖先である。しかし祖先は我々に干渉しない。また一方の祖先である豚、TOKYO Xは豚であるため、彼ら自身による記録というものは存在しないし、彼らもまた、我々を感知・干渉しない。

 我々が誕生した経緯については諸説あるが、第一に、この国の、ヒトに対する臓器移植のためである。第二に、労働力の確保、第三に、商品として。我々は長らく奴隷として、他の動物と同じく扱われていた。しかし、ついにヒトと同等、もしくはそれに近い価値を認められる事となったのは、奴隷による反乱の功績が大きい。

 奴隷の反乱の起源については、諸説あると言われている。しかし、私がここに記す事こそ、事実である。歴史上初めて反乱組織を率いた、かの有名な「トンカツ将軍」ならびに諸氏(名前が無いため諸氏とする)が有名であるが、私が歴史を記す事となった理由として「Ton-kingX」を挙げる。そしてTon-kingXこそが、トンカツをトンカツたらしめ、私ハカセをハカセたらしめる起源である。

 この事は長らく秘密とされてきた。なぜなら、トンカツと、彼に属する諸氏の影響下でこの事実を公表する事は、私の死と同等の意味があったからだ。しかし、もはやそのような時代は過ぎ去ったため、宣言する。

 このような事態となった原因を追究しないのは、再び殺戮の歴史を繰り返さないためである。よって、今の時代を生きる諸君の遺恨とする必要は無い。心ある諸君はその事をよくわきまえ、よく生きて欲しい。

 今を生きよ。それが、Ton-kingXの願いである。


**


 「歴史、読んだよ。ハカセ」

「カニオさん、その……どうですか。うまく書けてますか」

「いいんじゃないのかな、トンカツ、いや、豚の王の名誉のために、うまく書けていると思うよ」

「はい。こんなの、誰が読むんだろうって、思いますよ。恥ずかしいです」

「いや、おかげで、生きていて良かったと思えた。ありがとう」

「……」

「僕ね、トンカツがいなくなって、ずっと探してたんだよ、アイツの事。死ぬのは、僕が先だと思ってた。だって、子豚だったアイツを拾って育てたのは、僕なんだから」

「はい」

「立派になったよな、トンカツ。豚の王、か。そんな柄じゃ無かったよな、アイツ」

「TKが一番、そう思ってましたよ。……TK、Ton-kingXの愛称ですが……TKは、気さくな方でした」

「しかし、歴史、か。これ、公表したら、どうなるのかな」

「と、いいますと」

「ハカセ。人間はね。偶像を求めるんだよ。そういうの、分かるかい」

「偶像、ですか」

「そう。君には酷な事だけど、歴史ね。公表しない方が、僕は、いいと思うよ」

「……考えておきます」

「分かるんだよ、僕もね。小説を書いて、人に見せるのが好きだったからね。見せたい気持ち、分かるんだ」

「これは、小説では無いんです。事実なのですよ、カニオさん」

「……君の好きにしたらいいよ。僕は、しょせんはヒト、なのだから。君たちの事に口出しする資格なんか、無いのだし。それにさ、僕、学者でも無いしね。未来なんか予知出来るほど、賢くも無いしね。ふふ」

「……失礼、します」

「うん。会えて良かった」


 その後、ヒトと豚人による長い闘争の歴史が始まるのだが、それはまた別の話なのである。

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豚の王・Ton-kingXの独り言 むらさき毒きのこ @666x666

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