11

『わかりました。私たち、お友達になりましょう。椿』

「え?」

 少しの休憩のあとで、再び暗い雨上がりの湿気を帯びた森の中を歩き始めた椿に薫は言った。

「本当に!? いいの!?」

 その元から大きな目をさらに大きく(もちろん、喜びの感情で)見開いて、薫を見て椿は言った。(薫は、なんだかその透明で大きな椿の黒い瞳の中に、私はこのまま吸い込まれてしまいそうだと思った)

『はい。本来は二つの異なる世界に暮らしている私と椿は『なんの強いつながり』も持つことはいけないことなのですけれど……、これも私たちの運命、あるいは『なにかの縁』なのかもしれません』とにっこりと笑って薫は言った。

 きっと、すごく喜んでくれるのかと薫は思ったのだけど、椿は無言だった。

 ……どうしたんだろう? と思って薫がそっと椿の顔を覗き込んでみると、どうやら椿は無言のまま、黙って喜びをかみしめているようだった。(なんて可愛らしい子なのだろう、と薫は思った)

「私と友達になってくれて、どうもありがとう。じゃあ、これから私たち、ずっと友達だね、薫」にっこりと笑って椿は言った。

『はい。私たちは友達です。これから宜しくお願いします、椿』とにっこりと笑って、人間の言葉をしゃべる黒い猫の薫は言った。

「あ、そうだ。実はね……」

 と言って、椿は自分の中学校の担任の先生が薫と同じ『藤野薫』と言う名前の女性の先生であることを薫に言った。(それとね、名前だけじゃなくて、二人の声もそっくりで最初、すっごくびっくりしちゃった、とそんなことも付け加えて、言った)

「ね、すごく珍しい偶然もあるものでしょ?」

 少し興奮した様子で椿は言う。

『なるほど。『向こう側の世界』にいる、もう一人の私と同じ名前とそっくりな声をした藤野薫さんですか。……確かに珍しいこともあるものですね』と、対して興味もない様子で薫は椿に言った。

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山の子 雨世界 @amesekai

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