10
大きな荒れ狂う川を渡りきった椿は、再び暗い森の中に入り、その中を奥へ、奥へと歩き続けた。
『椿。あなたはどうして、こんな真夜中の時間に、こんな危険な暗い森の中にたった一人でやってきたりしたのですか?』
椿の肩の上にいる薫が言った。
「秘密。でも、薫が私と友達になってくれたら、特別に教えてあげる」
にっこりと笑って椿は言った。
そんな椿の笑顔を見て、薫は『うーん』とちょっとだけ悩んだ顔をした。
「ふうー。疲れたから、ちょとだけ休憩」
そう言って、椿はその辺りにあった大きな木の根元に座り込むと、ずっと背負っていたリュックサックを背中から降ろして、その中からおにぎりを三つと飲み物の入っている水筒を取り出して、軽い食事を始めた。
「美味しい。薫も食べる?」
にっこりと笑いながら、口をもぐもぐとさせて椿は言った。
『いえ、大丈夫。入りません。お腹は空いていないんです』
薫は言う。
「そうなんだ。せっかくの私の手作りのおにぎりなのにな。もったいない」そう言いながら、椿は少し不器用な形をした大きめのおにぎりを三つとも全部ぺろりと平らげてしまった。(ずっと森の中を歩いて、実際にはかなり疲れているのだろう)
「ごちそうさまでした」
水筒の中にある冷たいお茶を飲んでから、椿は言った。
それからすぐにまた出発するのかと薫は思ったのだけど、椿はしばらくの間、その場所にじっと座り込んだまま、森の木々の間から見える、明るくて美しい、とても綺麗な星空をぼんやりと眺めていた。
その星を眺めている椿の大きな瞳は薫が驚くほどに、とても澄んでいて、……そして、夜空に輝く星々よりも、綺麗で美しい輝きを放っていた。
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