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森田椿と内田楓。
二人の生まれた町は、緑色の山々に囲まれたとても田舎の場所にあった。山と森と、田んぼの風景が広がっている、ほかにはなんにもない(少なくとも近隣にある年に比べれば)田舎の町。
秋には黄金の稲によって、大地が金色に染まって、赤い大きな夕焼けがそんな町の風景を真っ赤な色に染めて、紅葉がすごく綺麗で、動物たちがいて、……そんな田舎の山奥にある町を、森田椿は結構気に入っていた。
もちろん、都市に住みたいと思った。
高校を出て、大学に行くときは、都市部の大学を受けようかな? とか思ったし、就職も、できれば都市でしたいと思った。(もし可能なら、東京に行きたいとも思った)
そんな話を赤とんぼを捕まえながら、蝉の鳴いたり、遠くでからすが鳴いたりしている、そんな田んぼ道の上を歩きながら椿が楓に言うと、楓は「私は、あんまり大きな町には憧れないな。ずっとこの町にいたい」と椿に言った。
「どうして? こんなところにいても、遊ぶ場所もないし、ずっとつまらないまんまだよ」と椿は自分の正直な気持ちを、いつものように楓に言った。(故郷の町は気に入っているけれど、それはそれとして、なんにもないこと、この町がつまらない場所であることは間違いないと思っていた)
「そんなことないよ。この町は、……ううん。この場所はとてもいいところだよ。自然がいっぱいで、みんな優しくて、そりゃたまには大変なこととかもあるけれど、ちゃんと私たちが『安心して暮らせる場所』なんだよ。つまり、『私たちの大切な居場所』なんだよ。きっとこの町はね」
にっこりと笑って、真っ赤な色に染まっている麦わら帽子姿の楓はいう。
「楓ちゃん。難しいこと言うね。すごい」感心した表情をして椿は言う。
「お父さんの受け売りだけどね」
にっこりと笑って楓は言う。
「なんだ。そうなんだ。いきなりすごく難しいこと言うから、びっくりしちゃった」
同じようににっこりと笑って、その髪をポニーテールの髪型にしている椿は言った。(椿が顔を動かすたびに、ポニーテールの髪の毛は猫の尻尾のように左右にゆらゆらと揺れていた)
「……いつか、椿ちゃんはこの町を出て行っちゃうの?」
そんなことを小さな声で楓が言った。
「え? なに? ごめん、今、よく聞こえなかった」
楓の顔を見て、椿は言う。
すると楓は「……ううん。なんでもない。ただの独り言だよ」とにっこりと笑って椿に言った。
金色の大地の上には、二人の大きな黒い影が伸びている。
……それは、去年の秋の終わりごろの二人の思い出の風景だった。
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