「意識高い系」はもうダサい!! これからは「意識無い系」!!

@HasumiChouji

「意識高い系」はもうダサい!! これからは「意識無い系」!!

「センセ……『新しい事に挑戦したい』って、何、意識高い系みたいな事を言ってるんですか?」

 俺の担当編集は半笑い気味でそう言った。

 たしかに、俺が若い頃に流行った「意識高い」なんて言葉には、うさんくささを感じてはいたが……だが、漫画家として「新作を描きたい」ってのは、そんなに「意識高い」モノなのか?

「『意識無い系』の読者には、今の連載が好評なんですよ。わざわざ、リスクを取る必要が有りますか?」


 不思議な言い方だが、「意識が有ると同時に意識が働いていない」状態は結構有り得る……らしい。

 心理学上の意味での「意識」と一般的な意味の……例えば「意識を失なった」などと言う場合の……「意識」とは微妙に意味がズレている……そうだ。

 心理学的な意味での「意識」は「本能・直感・これまでの経験で対処出来ない」場合にのみ働くもので、本能や直感や経験に基く思考・行動に比べて、「意識」は状況に応じた柔軟な対応が出来る代りに、情報処理速度が遅くなる……と言われている。

 そして、どこかの、とんでもない天才か……さもなくば狂人が、こう提唱した……。

「『意識』は効率が悪い」

「『意識』と同じ役目をするが、『意識』より効率が良い『何か』を生み出す事が出来れば……仕事も人生も社会も、より効率が良いものになる筈だ」

「人間の『経験』の量が十分に大きければ、『意識』無しでも支障のない人生を送れる筈だ」

「これからの時代は『意識無い系』」

 そして、気付いた時には、先進国の人口の半数以上が「経験」を共有する為のマイクロチップを脳に埋め込んだ「意識無い系」の人間と化していた。


 編集者との打ち合わせを終えた後、近くのファスト・フード店で食事をした。

 ここ10年以上、新メニューは無い。

 店のBGMも、何年も同じモノが使われている。

 飯を食いながら、スマホを取り出してニュースを見る。……そう……スマホに代る新しいデバイスは、結局、出現しなかった。

 人間を「意識無い系」に変えるマイクロチップが普及し始めて20年近く……若者の間では、逆に「意識無い系」を古くてダサいと見做す風潮が有るが……結局、社会に出れば、仕事に必要になるので「意識無い系」に変ってしまう……。そんなニュースが目に入った。

 ところで、ニュースアプリのUIが、ずっと変ってないのも……「意識無い系」が社会の主流になった事と、何か関係が有るのだろうか?


「だから、言ったんですよ……」

 結局、俺の新連載は不人気のまま打ち切りになった。

「『意識無い系』の人達はね……要は『テンプレ』から外れた作品を理解出来ないんですよ」

 やれやれと言う感じで、担当編集者は俺に説明……もしくは説教をやっていた。

 そう言えば、長い付き合いなのに、こいつに関して知らない事が有った。

 ……こいつは……「意識無い系」だっただろうか?

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