第35話 遠征前日

「テントも買ったことですし、遠征の準備をしますよ! 遠征にいけば街に帰れないのでそれをしっかりと覚えて置いて、各自必要だと思うものを用意してください!」


 テントと装備を整えた俺たちは部屋へと戻り、遠征の話をしていた。


「んーまず遠征するならいいベットが必要よねぇ、まずはコカトリスベットを持って行って、あ、後お酒が必須だわ樽を三つくらい買って、あとはそうねぇ」

「ベットは許容範囲だが酒は却下だ!! 酒に酔ってるときに襲われでもしたらどうする」

「あんたは勘違いしてるわ。私はお酒は飲んでも飲まれない派だから」

「どの口が言ってんだよ。いつも歩けないくらいベロンベロンに酔い潰れてるだろ」

「そうですね、確かに酒は控えた方がいいです。リンシアタの超高性能【敵意感知】があるので不意をつかれる可能性は少ないと思いますが、咄嗟の時に酔ってると逃げ遅れる可能性があります」


 いつにもまして真剣な様子のシルビア。今日は真面目モードのようだ。

 イザベラは口を尖らせて不服をアピールしているが、こいつはコカトリスの一件がある。おそらく酒の持ち込みはしないだろう。


 でも、敵意感知のことを聞くと、あの事件を思い出しちょっとばかし、モヤモヤする。リンも悪びれもせずこっちをニヤニヤ見つめてるしな。


「私は何もいらないかな〜、シルちゃんと一緒にいられればそれで満足!」

「私も必要なものはもう買い揃えてあるネ」

「私ももう揃っていますが、ユウタはどうなんですか?」

「どうって言われても、俺とイザベラは行ったことがないからな。なんか目安を設けてくれたら決めやすいんだが、そう言うのを教えてくれたら助かる」


 なんの情報もなしにただ準備だけしろなんて言われてもできるはずがない。職場体験ですら『仕事に必要なもの持ってきて』とだけ言われてもわからないのに、異世界でそれをされたら死ねと言われているようなものだ。


「ユウタは前衛なので武器のスペアと、あとできれば防具のスペアも持って行った方がいいですね。それくらいあれば問題ないと思います」

「そうかわかった。イザベラも装備買っといた方がいいよな? この辺りなら大丈夫だが流石に遠征だとちょっと危ない気もするし」

「ですね」

「んじゃ、必要なものを買い出しにいくか」


 お金を入れている小さい方のマジックバックを手に取り、「これが私のデフォなのに!!」と渋るイザベラを連れて部屋を出る。

 俺たち2人は装備を買いに前行ったところとは別の武器屋にきた。


「つか、さっき道具屋行った時に『スペアもあった方がいいですよ』とか一言言ってくれればいいのにさ、シルビアも」

「常識をいちいち説明するわけないじゃないの」

「まぁそれもそうだよな」


 確かに常識をいちいち言ったりはしないわな。異世界人の俺たちにとって、それはもしかしたら時として致命的な弱点になるかもしれない。


「お前、武器とか新しいの買っといたがいいんじゃないか? 高い方が性能は高いってシルビアも言ってたし、金はそこそこ溜まってるんだからちょっとくらいいいもの買ってもバチは当たらんと思うが」

「腹たつわねぇ」


 え、どこに腹たつ要素あった?


「あんたに言われなくてももちろん買うに決まってんじゃない。当たり前のことをいちいち言わないでくれるかしら? 常識よ!」

「多分それがいけないんだと思うわ。この世界の常識と俺たちの常識が違うかもしれないんだから絶対この世界の人にそんなこと言うなよ」


 そう言いながら棚に並ぶ装備に目を通す。

 装備のスペアはあっても困らないとして、武器のスペアはいるのか? あの剣もどきは切れば切るほど強くなるなんて受付嬢さんが言ってたし、壊れないと思うんだがなぁ。


 そう思いながらも俺はなんの変哲もない鉄の剣を二本程購入し、胸当てなどの軽量化されたミスリル装備ももう1セット買った。

 魔法が使えないので、リンが使っているような魔力伝導性に優れた武器なんかを買っても意味がない。俺にはこれで充分だ。


 イザベラも装備を2セット買い、300万ギルドほどする柏に魔硝石を埋め込んだような、うねった杖を購入した。


 合計で420万ギルドほど。つくづく俺は安上がりな男だ。

 そうして店を後にし、ギルドへ向かって歩いていた。


「なぁ、この世界の魔物とか人以外の生物で話を理解できるようなのっていないのか? いるなら教えて欲しいんだが」

「そんなのいたかしら? うろ覚えだけど精霊なんかは人間の言葉を理解できたはずよ」

「ダメもとで聞いてみたが、いい情報をもらったな。ついでに精霊ってこの世界ではどう言う立ち位置なのか教えてくれ」

「その言葉引っかかるんですけど! 覚えてないわね。喋れるくらいなんだから多少の知性はあるんじゃない?」


「使えんなぁ」とぼやいたのが聞こえたのか、早速杖の試運転をしようとしたので全力で謝罪した。杖を収めたイザベラが俺の方をみる。


「にしても、なんでそんなこと聞いてくるのよ? まさか人外もハーレム要員にしようとしてんの?」

「いかがわしいことは考えてねえよ。つか俺現在進行形でハーレムしてないがな。俺の思う魔王と勇者の違いって手駒の数だと思うんだよ。勇者ってほとんど個人プレーじゃん? 対する魔王は四天王だったり十戒だったり、まぁ魔王にたどり着く前にいろいろいるわけだ。つまり俺が魔王になるために必要なのはその仲間を集めることではないかと」

「なるほど、つまり戦いたくないから仲間増やして他力本願するってわけね」

「そゆこと」

「はぁ、情けないわねぇ。プライドはどこ行ったのよプライドは」

「お前だけには言われたくねえよ!」

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【4章完結】魔王になるには早すぎる! @サブまる @sabumaru

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