第34話 小銭稼ぎ!

「うーん。常設のオークとかオーガでも倒しにいくかな……」


 酒場に戻った俺は、冒険者たちの視線に晒されながら早速掲示板を吟味していた。

 しかしここに貼られているものはランクが高くてこの辺りにはいないような魔物ばかりだ。

 やっぱり常設で稼ぐしかないかな。


「イザベラとリンシアタ呼んできました」

「おお、ありがとう」


 2人が目を擦りながらシルビアの背後から現れた。昼間だと言うのに今の今まで寝ていたようだ。頬にベットの跡がついてうっすらと赤くなっている。


「で、今思い出したがお前、出る前とんでもないこと口走ってくれたらしいじゃないか。おい、目を逸らすな」

「……反省してますよ! 少しくらいは……」

「まぁいいんだ。でも、あとで受付嬢さんの誤解だけは解いとけよ」

「あれ? もう終わりですか? なんだか今日は優しいですね、いつもなら、と言うか一昨日までなら私の体をまさぐってきたはず、」

「おい、それをやめろと言ってんだよ!! ほら……他の冒険者から白い目で見られてるじゃないか!!」






「なんでまた討伐なんかにやる気出したのよ? 金があればもう働かなくていいなんて言ってたのに、頭でもうった?」

「俺をどんな目で見てんだよ。違うよ遠征というものをしてみたいなと。端的に言えば遠征に使うテントを買う為の資金を貯めるためだ。お前もあの古いテントは嫌だろ? それで頑張って1億ギルド貯めるって話だ」


 俺たちは三手に別れて森の中を歩いていた。シルビアとユエル、俺とイザベラ、そしてリン。シルビアが買ったマジックバックが無駄にならなかったわけだ。シルビアペアは便利な魔法があるので小さいマジックバックを。そしてリンには中位を。俺たちは大きめのを持ってきた。


 1億ギルドくらいならランクCやランクBにとって、確かに大金ではあるのだがそこまで貯めるのに苦労する金額ではないらしい。5人もいるんだから、頑張れば1週間もかからないはずだ。


「一億ギルドもいるの……? まぁ無駄はないんだしいいんじゃない? 戦えばステータスも上がるんだし。魔王に一歩近づくわ」

「ちゃんと魔王になること覚えてんだな。あ、それより俺ランクDに上がったぞ。魔法は確実に使えないみたいだがな。お前言ってたよな、魔法使えるって」

「またその話? はぁぁぁめんどくさ、ねちっこい男は嫌われるわよ。魔法使えないなら使えないで剣持って戦えばいいじゃないの」

「それじゃ死ぬ前と変わんねえじゃねえか! 俺は魔法が使えると思って楽しみにしてたのに!! ここは俺の望んだ異世界じゃねぇのかよ!」


 転移前のこと思い出したらなんか無性に腹が立ってきた。俺が使えないのにこいつは使えるという事実がどうも気に入らない。


「知らないわよ!! 私だってこんな世界に落とされて苦労してるんだから!!」

「苦労? ダンジョンでただ後ろで突っ立って俺が大怪我してる間に美味しいところだけ持っていって自分より弱いやつをいたぶって得たお金で毎晩豪華な飯食って……おい、どこが苦労してんだ。しかもお前、初めからランクDでお金に困ったのは最初の三日だけだろ」

「あんたは元から悲惨な人生だったじゃない。だからそこまで落差はないわよね? 私は充実した生活してたんですけど!! 事故物件製造機のあんたに苦労どうこう言われたくないんですけど!! 前の世界と変わってないでしょほとんど引きこもりしてるんだし」

「……言われてみれば悲惨な人生だった」

「でしょ」

「だから余計に納得いかねぇ。なんで第二の人生でも苦労しないといけないんだ。チートは? ハーレムは? ご都合展開は? この前なんかダンジョンで剣がおれて追いかけまわされたんだぞ。流石にかわいそうだと思わないか?」

「泣き言なら後にしなさい」


 半泣きになりながら、イザベラの視線を目で追った。


「オークの群れか、相変わらずの眉目秀麗だな。殺意が湧いてくる」

「やっておしまいなさい!!」

「アイアイサー!」


 茶番を済ませ、リュックから剣もどきを取り出す。1週間ぶりに握ったが、握り心地は最高だ。ダンジョンで1週間使い続けたとは思えないほどに刃こぼれはおろかくすみもしていない。

 おままごとの剣だと揶揄していたが、今や立派な短剣へと変貌を遂げていた。


 よし、弱いものいじめ……もとい俺の無双譚の始まりだ。


 武器を片手に地面を蹴り、10体ほどの群れに突っ込んだ!

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 ところまでは覚えている。

 そして、そこからの記憶がない。


 それから俺はどうしたんだろう……確か、突然の強襲に驚いたオークたちが慌てて武器を構えたのは覚えている。驚いたくせに顔面が崩れないことにムカついたから私怨に任せて剣をふるったんだよな。


 空が青い。そよ風が頬を撫でる。適度に柔らかい地面。端々に葉っぱが見える。あぁ、鳥が飛んでるなぁ。俺、倒れてるのか。


「あんた、早く起きなさいよ。いつまでそうしてるつもり? なっさけないわねぇ」

「あれ、俺は……いったい?」


 体を動かそうとすると鈍い痛みが走った。


 やばい! 何これ!! 痛い! 全身痛い!!


 悲鳴を上げる体を叩き起こし周囲を確認すると、あの時……俺が初めて戦いに同行した時のような惨状が広がっていた。


「バカねぇ、強くなったからって戦い方もろくに知らない素人が魔物の群れに突っ込んだらボコボコにされるに決まってるじゃない。いるのよねぇ、仲間に手を貸してもらってるからまともに戦えてるのに、それを自分1人で戦えてるって勘違いしてイキっちゃうやつって」


 え……言ってることはわからんがなんか胸が痛い。


「いてて……記憶が飛んでるからアイアイサーの辺りから教えてもらっていいですか……?」

「聞きたければオークの死体回収しなさい」

「鬼かよ?! みろよ! 見るからに怪我人だぞ……?」


 みれば身体中青痣だらけだった。

 と言っても助けられた感じなので仕方ない。体に鞭を打ち、オークの肉の回収を始めた。

 マジックバックは一番大きなものを持ってきたので入れ方さえ工夫すればそのまま突っ込める。


 しかし……ひどい有様だ。骨は折れていないようだが、全身打撲している。こりゃ帰ったらユエルに魔法かけてもらわないと。


「それで……」

「そうそう、あんたど真ん中に突っ込っだくせに前しか見ないから後ろから殴られて気絶した後囲まれてリンチされたのよ。で、しばらく観察した後私が颯爽と現れて助けてあげたってわけ」

「気絶した瞬間に助けてくれればこの全身を木刀で殴られたような痛みはなかったと……」


 オークに襲われ、強い人に助けてもらう展開……確かにテンプレではあるなぁ。

 そして仲間が居なくなったことでその優秀さに気づく展開も、主人公がパーティーから追放されるあれに似てるな。


 ………俺が後悔する側みたいだが。


「もぉ少し早く助けていただくことはできませんでしたかねぇ……」

「あら? 素直に感謝することもできないのかしら」


 聞き覚えのあるセリフだなぁ……デジャブか?


 そんな感じで、1週間ほど俺たちは討伐に尽力した。




「思ってたよりも集まりましたね! はぁはぁはぁ……」

「おぉぉ! 全部で1億と2000万ギルドアルカ!」


 俺たちは5人揃って部屋でここ1週間分の収入を精算していた。

 しかしよく集まったものだ。1日1400万ギルド以上稼いでいたことになる。これだけの稼ぎがあるのなら冒険者稼業も悪くない。


「ねぇ、ちょっと怖いんだけど……」

「気にするな、いつものことだろ」


 イザベラがシルビアとユエルの様子を見て耳打ちしてきたが、軽くあしらう。

 シルビアは部屋の真ん中に綺麗に積み重ねられた硬貨の山を見て、先ほどから恍惚の表情で喘いでいた。その隣でシルビアを見て同じように喘いでいるユエル。

 この2人は一体なんなんだ。

 まぁそんなことはどうでもいい。


「ちょっと俺から頼みがあるんだが」

「なんネ?」

「テントを買った余りで装備買っていいか?」


 ダンジョン最終日。ドラゴンに服ごと燃やされてから俺は装備をつけずに戦ってきた。

 冷静に考えれば革の装備が燃え尽きるほどの炎を浴びて生きていると言うのは、現実で考えればとんでもないことだ。


「必要アルカ?」

「必要に決まってるじゃないですかリンちゃん……と、今のは冗談あのでそのレイピアをおろしてください。」

「あんたもばっかでー。何がリンちゃんよ? きもいにもほどがあるわ。ここは夢の世界じゃないんだら現実見なさい」


 俺の見たハーレム異世界ではこんな辛辣な言葉を言われる展開はなかったはずだ……!


「まぁ、買いたいなら買えばいいヨ。このパーティーのリーダーはおそらくお前かイザベラ。好きにするネ」

「私よ」

「いやお前は俺に拾われた身なんだから自重しろ」


 イザベラが掴みかかってくるが無視して。


「リンは装備という装備をつけてないよな? いつもそのチャイナドレスだけだし。買わなくていいのか? イザベラもそうだが」

「これが装備ネ。魔法も物理も対抗できる超高級品アルヨ!」

「なるほど。値段は聞かないでおくよ。というか、今更だが1人で1週間稼ぎまくってたのになんでパーティーに入ろうと思ったんだ?」


 魔剣士ならどこからでも引っ張りだこなはずだし、よくよく考えれば魔法の反動もそこまでひどいものでもないし。1人で生きていけるだけの力もある。


「またそれ聞くアルカ。もう正直にいうけど、魔剣士はパーティーに入ってないと勧誘がめんどくさいアル」


 ホーンなるほど。どこもパーティーに入れてくれないって言ってたのは半分嘘だったわけだ。

 ………つまりは、嫌われ者の俺たちのパーティーなら誰も関わってこないだろうと、そう踏んで入ったわけですか。




 しばらくたち、会議も煮詰まった。


「じゃ、明日テント買いに行って、それから装備かって、遠征にいく形だな」

「調子乗ってオークの群れに突っ込んでリンチにされた男がいるんだけど、この話聞きたい?」

「ぜひ聞いておきたいアル」


 俺の方をニヤニヤと見ながらそう2人で話す。なんとも陰険な雰囲気だ。僕はなんでこんなにいじめられやすいんだろう。悲しいな……


「お前達いい加減にせぇぇよ!!」

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