第33話

「おほほほ、そうですか、それでしたら生徒たちと魔法の練習をしてみますか?」

「是非お願いします!」


 魔法を使いたいと言う話をしたところ、ちょうどいいタイミングで先生が帰ってきた。

 魔法適性検査は年に一回と決まっているため俺だけが受けることはできないらしい。残念だが仕方ない。


 これでようやく異世界転生の醍醐味である魔法が使えるようになるわけだ!!


「じゃあ、まずはこの魔石を握ってどんな魔法が使えそうか感じてください」

「……お前が先生なのか」

「なにか文句でも?」

「説明が下手そうなんだよ」

「まぁ天才と凡人とでは感覚が全く違いますからね」

「そう言う意味じゃない!!」


 シルビアが俺の指導をすると言うことに不満を抱えながらも机に置かれた魔石を手にとる。ダンジョン十階層の魔物程度の大きさだ。


「……なんも感じないなぁ」


 おかしいな、ダンジョンでイザベラは魔石を手に取ったとき不思議な感じ何するって言ってたのに、俺にはただの石ころを握ってる感覚しかない。

 握り方がダメなのか? 魔法が使えないってことになったら俺の異世界生活が……


「残念でしたね! 魔法適性はないみたいです!」

「ああああああああああああああああ!!!!! 俺の異世界生活がぁぁあああ!!」

「ユウタ、静かにしろ」


 嘘だろ。魔法が使えないとか……!!


「魔法適性がないならもう前衛として頑張るしかないね!」

「そうですね、魔法適性がなければ魔法なんて使えませんし。まぁ、私たちもそろそろ帰るので用事が済んだのであれば帰りましょう」


 うすうす気づいてはいたんだ。ダンジョンで全員が感じてるっていう魔力の流れを感じられないあたりから。まさか本当に魔法が使えないなんてな。俺は継続して前衛で痛い思いをしながら戦わないといけないのか……。


 先生と子供たちに挨拶し、俺とシルビアとユエルは孤児院を後にした。


「残念でしたね! わざわざここにきたのが徒労に終わって!」

「うるせーよ。魔法が使えないとわかっただけでも収穫だ。無駄に希望を抱く必要もなくなったしな」

「まぁ、パーティーメンバーのほとんどが魔法使えるからいらないんだけどね、魔法が使える人だけのパーティーてのも問題あるし。それより!」

「「ん?」」

「そろそろ遠征に行きませんか?!」

「遠征ですか、確かに遠征が可能な時期になりましたもんね」


 遠征か、確かにそれも異世界と冒険者の醍醐味だ。

 それより、魔法使える人間ばかりのパーティーのどこが問題なんだろう。メリットしかない気がするが、もしかしたら俺の知らないこの世界特有のルールがあるのかもしれない。


「無理じゃないか? 流石にあのテントで5人寝るのは流石に狭すぎるだろ。イザベラだって言うと思うぞ。風呂が入れないとかイヤよ! って」


 あいつのことだ。もうあのモンゴルの遊牧民が使うようなテントを使うなら1人でお留守番すると言いかねない。


「テントなら新調すればいいじゃないですか?」

「5人が泊まれるテントなら5000万ギルドで売ってるんじゃないかな?」

「と言うか、5人入れるテントを買うんじゃなくてもう一つ小さいテントを買って二手に分かれれば良いじゃないですか」

「あー! シルちゃんあったま良い!!」


 確かに小さいテントを買えば良い話だが、問題はどちらを誰が使うかだ。誰もが新品のテントに泊まりたいと言い出すのは当の然だろう。


「いやいや、誰があの古い方に泊まりたいって言うんだ? 俺はイヤだぞ。イザベラは言うまでもないが、リンも新品がいいって言うだろうし。そしてお前ら2人も新品の方がいいんだろ?」

「まぁ確かにそうですね。それは盲点でした」

「ぐぬぬ……シルちゃんより賢いなんて許せません」

「なぜ敵意を剥き出しにされなきゃならんのだ……?」


 ユエルが半目で俺をみてくるが無視だ。

 まぁ、そうとなればかなり金が必要になってくるな。5000万ギルドは痛い出費だ。

 シルビアとユエルはダンジョンの分け前の半分ほど寄付したと言ってたから今俺たちの手持ちは3000万ほど、全然足りない。


「とりあえず道具屋に見に行こうよ! まだ時間もあるし、ある程度目星が着いたら昼からはクエストをこなして!」





 てなわけで、俺にあのクソ武器を売ってくれた道具屋に来た。


「お久しぶりですねぇ! このクソオヤジ」

「いらっしゃいませお客様、本日のご注文は刺殺ですか?」

「あんたが刃こぼれしないって言ってた武器、この通りダンジョン一階層の魔物を切ろうとしただけで折れたんですけどねぇ!」


 シルビアのリュックからいつか叩き返してやろうと思っていた真っ二つの剣を取り出し、カウンターに叩きつける。


「使い方が悪かったんだろ、自分の腕不足を武器のせいにしてんじゃねえよ」

「へぇ!! 楽なお仕事だこった!! 折れれば客のせいにして、いい評価は独り占めってわけですかい!!」


 店主とガチんと額を付け合わせて声を荒げる。

 シルビアはどこ吹く風で店内の装備品を吟味しているが、みかねたユエルが俺たちの間に割って入った。


「まぁまぁまぁ……落ち着いてよお互いに! それよりテントみよ! 好きなの見つけようよ!」

「それもそうだ、もう武器をここで買うこともないしな!! こんなボロ武器」


 店主の顔を睨み付けながらカウンターを離れてテントを並べてある大きな倉庫へと向かった。


「あれ、早かったですね? もう気は済んだんですか?」

「俺は大人だからな」

「どの口が」


 しばらく半目で見つめあった後、本格的にテント探しを始めた。大型家具店みたいに所狭しと並べられており、サイズが大きくなると基本高くなるらしい。安いものだと5000ギルドで買えるものもあるが、5人以上入れるサイズとなるとどれも4000万を超えている。

 その中に一つ1億ギルドほどするテントがあった。見かけはそこまで大差はないようだが……。


「この一際高いテントはなにか特別な機能があるのか?」

「おそらくお風呂が着いてるんだと思いますよ」


 ホーンなるほど。


「決めた。これにしよう!!」

「「1億ですよ!?」」

「いや、絶対これにする。そうと決まれば早速クエストを受けに行くぞ!」


 かくして、俺たちの新たな冒険が始まろうとしていた。

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