保険契約
ツヨシ
第1話
還暦が近いが驚くほどに健康体な男が生命保険に入った。
病気保証もなくいわゆる死亡保険だ。
掛け捨てで積み立てもない。掛け金も高く、死亡時の受け取り金額も高い。
つまり大型契約だ。
私は保険の営業をしているが、当然ノルマはある。
今月は苦しかったので助かった。
審査が通ったときに受取人である男の息子がひどく嬉しそうだったのが、気になった。
あの顔はあまり見たくないほどに、にやけていた。
その男は一人暮らしだった。
妻に先立たれ、息子夫婦は別居。
私は妙に気になっていたので、月に一度程度、何かしらの理由をつけて男に会っていた。
いつ会っても男は元気だった。
「死んだら息子が喜ぶだけだからね」
と真顔で言う。
親子とはいえ良好な関係でないことは、容易に想像できる。
ところがある日突然、男が契約を解除するように言ってきた。
保険者本人の申し出なので、問題なく解約することができた。
「息子が悔しがるだろうな」
男はにやけた顔で言った。
それは息子とそっくりだった。
私はこの二人が親子であることを確信した。
そしてその二日後に、男は死んだのだ。
終
保険契約 ツヨシ @kunkunkonkon
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