第2話 立ち位置

公立中学校の入学式は、私が知っている入学式とは違っていた。何が違ったのかというと、1番は出席している両親または母親の派手さだ。私立の入学式に来ていた両親は、入学式らしいスーツなどだが見るからに高そうな高級ブランドのスーツやバッグ、指輪やネックレスなどの金品を身につけていた。入学式から親同士の品定めのようなものが始まっているのだろう。「〇〇さんのお母さんのバッグはどこどこブランドのもの。」など、品定めかつお互いを牽制しているにもかかわらず、それを見せないしたたかなバトルの始まりだ。それが普通だった私の母が1番派手だった。「公立だもの、控えめで行くわよ。」と言っていた母だったが、それでもあとレベル2ぐらい控えめでも良かったのだと思う。

実際「あの子のお母さんすごいねー。」と噂されていたと思う、どれだけ気合いを入れてきたんだと失笑さへ浮かべられていたかもしれない。

この入学式で、私は今までとは違うということを痛感した。1年2組、担任田中進のクラスになった私には、全く知り合いなどいなかった。みんな経験があるように、公立は同じ校区の子供が集まるので入学式の時点で知り合いや友達がいる子が多数いる。

私の中学校は、2つの小学校が校区になっておりクラスの中に知り合いがいる子同士がほとんどだった。私の立ち位置は1人、つまり今で言う

「ぼっち」で、出席番号8番の佐々木菫として自己紹介の時を待つしかなかった。周りでは、どちらの学校の生徒達にも「見たことがない子」として認識されていた。

担任の田中が生徒達に席に着くよう促すと、担任自身がさほど面白くもない冗談を交えながら自己紹介を始めた。担当科目は社会で、自分がいかに生徒を大切にしているか、クラスの雰囲気を大切にしているかなどを「何でも気楽に話して欲しい。」で締め括り、熱く語ったような記憶があり、この人は自分が話すのが大好きなんだと私は思った。

そして「出席番号1番の安藤さんから名前とあとは趣味や好きな科目など何でも軽く自己紹介をしともらおうかな。」と、お決まりの自己紹介タイムが始まった。出席番号1番の安藤茜さんから始まった自己紹介は、同じ学校出身の子が目くばせをしたりクスクスと笑ったりと、子供ならではの雰囲気の中ですすんでいき、出席番号7番、私の前の佐川太輝君が私と同じ校区外から引っ越しできた「ぼっち」生徒であることがわかった。彼と言葉を交わした訳ではなかったか、同じ「ぼっち」生であると言うことがわかり、私の緊張は和らいだ。

「出席番号8番の佐々木菫です。小学校まで校区外の学校に通っていたので知り合いは居ませんが、宜しくお願いします。」それが精一杯だった。

クラスの生徒数は31人で全員の自己紹介が終了すると、担任がプリントや諸々を配り、その日は完全なる「ぼっち」立ち位置で終了した。別に悲しかったわけでも寂しかったわけでもないが、サッカーで言うアウェイに居るのだと認識した。

帰りに同じクラスや他のクラスの子が「誰と同じクラスだった?」「同じクラスで超嬉しい!」などと集まっているのを見た時に、私はなんとなく佐川君を見ていた。

どうにかなるとは思っていたし、幼稚園、小学校でも友達がいたのだから焦らなくても大丈夫だと言う妙な自信があり、その中で私の次の出席番号だった佐山美咲ちゃん、何番かは覚えていないが金山沙耶香ちゃん、福田優ちゃんと後に仲良くなることとなった。彼女達3人は同じ小学校出身で、美咲ちゃんと優ちゃんは仲良が良く、沙耶香ちゃんはそこまでだったが、そのグループに私が入っていく様な形になった。仲良くなるきっかけは、後ろの席だった美咲ちゃんとプリントの受け渡しや、グループ学習の様なもので一緒になったり、お弁当の班が同じになったりと徐々に会話をするようになったことだった。

大人になるにつれて人は初めて会う人にも緊張を見せない様に、恥ずかしさを悟られない様に、自信がある様にと自分を繕おうとするが、あの時のようにもう少し相手に緊張や恥ずかしさが伝わる方が相手も安心することがあるのではないかと私は思う。

あの頃の妙な自信と緊張と不安はみんなが感じていたもので、今では感じられない胸が躍る、はやる気持ちでもあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

躊躇なく @heibon-nonki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ