第8話:隠棲
「凄いです、聖女様」
「シーラの言う通り凄いです、聖女様」
正直あっけないほど簡単に闇の者を斃すことができました。
魔力もほとんど使っていませんし、反動もありません。
近辺に先程のような嫌な気配もありませんし、拍子抜けしてしまいます。
「じゃあ、聖殿に案内してくれるかしら」
「「はい」」
二人に案内してもらった場所は、掃除の行き届いた神殿でした。
私を心配して後を付いてきてくれたアメリアと、アメリアに唯々諾々と従うドライドが一緒なので、生活に必要な物はすべてそろっています。
神殿なので、馬小屋などの家畜を飼う場所もありますが、全部丈夫な石造りです。
これなら少々の攻撃を受けてもビクともしないでしょう。
「こっちだよ、聖女様」
「そうだよ、こっちだよ、こっちにこの地を封印する魔法陣があるんだよ」
「この地を封印する魔法陣とはどういうものなの?」
「それはね、聖なる魔術でフェアリーを護ってくれるんだよ」
「そうだよ、フェアリーに悪意を持つ者や闇の者は、聖なる魔術で滅ぼされるんだ」
口々に教えてくれる二人の話を信じるとしたら、莫大な魔力と引き換えに、この地を世界から切り離し、フェアリー以外の者が絶対に入り込めないようにする魔法陣のようです。
恐らく空間魔法のようですが、その空間魔法を破ってでも侵入しようとする者には、問答無用で聖魔法を放って滅し滅ぼす情け容赦のない魔法陣でもあるようです。
ただ問題は、起動するのにも維持するのにも、莫大な魔力が必要なので、今生き残っているフェアリー全員が死力を尽くしても、魔法陣を起動できない事です。
私にそんな膨大な魔力があるかどうかは分かりませんが、起動できれば追手の心配をしなくてすむという事です。
別に煩わしい人付合いがしたいわけではありませんし、贅沢がしたいわけでもありませんから、ここで心静かに暮らすのも悪くはありません。
私の責任ではない、この身体の前の持ち主に所為で、王太子に追い回されるのも、刺客を放たれるのも嫌です。
王太子は正義感の強いヒーローのような方ですが、強すぎる正義感は時に厄介な存在で、妥協を許さず融通が利きません。
ここに隠棲できれば、狭量な所のある王太子からも隠れられるでしょう。
王太子ももう少し清濁併せ吞む度量があればいいのですが、探し続けても私の足取りがつかめなければ、いずれ諦めるでしょう。
気がついたら乙女ゲームの悪役令嬢でした、急いで逃げだしました。 克全 @dokatu
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