輪舞曲は続くよ、どこまでも。


「なるほどね……殺人以外の罪を犯したってのはマジな話だったのね」

「こんな公式設定の奴を攻略対象にしたスタッフ、大馬鹿野郎だよ!」


 ウォッカ・ギムレット。

 原作の『エンドスウィーパーズ』においては主人公が不良に絡まれた際に出会う青年だ。

 そこから、個別ルート以外ではラスボスとの最終決戦時に颯爽と助っ人にくるだけの男。

 そして、個別ルートでは彼のこうなってしまった経緯が詳細に描かれる。

 とにかく他の攻略キャラに比べても暗いストーリーだった。

 しかし、そのシナリオの完成度は高く中々の好評なものだった。

 

 だが、二作目以降の彼は……高機動、低火力、紙耐久の三拍子そろったコンボキャラ。

 開幕無敵突進技さえ決まれば平然と10割コンボを叩き込んでくるような奴だった。

 キャラランクも常に上位に来るほどの人気キャラだ。


 ダイアとの相性? まあ、普通なら1:9付くよ。

 だが、この状況では違う。


「……で、何をしに来たの?」

「オレは今夜ここで起こるであろうお前さんの親父さんの暗殺イベントを阻止する」

「ああ、そのイベント今夜か……今夜なの!?」

「俺の覚えている限りは……」

「いや、今夜であっている」


 ダイアの脳内には全ルートのタイムチャートが入っている。

 その知識量は歩く攻略本と言っても過言ではない。

 それくらいやり込んだのだから。

 

 そして、どのルートでも通るスカーレット家没落の原因。

 ダイアの父、『タキオ・スカーレットの暗殺事件』である。

 

 この暗殺事件。

 終盤に明かされるのだが、真のラスボスの尖兵よるものであることが判明するのだが……

 家の没落を阻止しようとした原作ダイアは石臼を回すルートに行くことになるのだ。


「お父様の暗殺を阻止してどうなるの?」

「今までの犯した罪を帳消しにする。

 悪役令嬢が悪役令嬢たる所以……それは権力と金だ」

「一理ある……私よりもお父様の方が政治的手腕は上ですわね」

「だろ?」


 と、なればさっさとお父様の書斎に向かうべきだろう。

 事件が起こる前に犯人を捕まえる。

 

 ウォッカはスライディングを使って移動する。

 1Fの無敵が発生し、ダッシュするよりも移動速度が早くと移動距離も長い。

 

「オレはRTAリアルタイムアタック勢だった……バグも使用するタイプの」

「それは初代の? それとも2作目以降の?」

「両方だ、主人公ネームも『あ』でやるくらいだ」

(私とは違うタイプのゲーマーですわね)


 ゲーマーとして理解がないわけではない。

 重要なのは彼がこのゲームをどれだけやり込んでいるかだ。

 これから起こる悲劇が回避すれば、そのあとに起こるイベントに少なからず影響するだろう。


「ここですわ、カギは……」

「必要ない」


 ウォッカが取り出したのは何やら金属の細い棒らしきもの。

 先端はモザイクが掛かっているように見えてどうなっているかわからない。

  

 ガチャガチャと鍵穴に差し込んで手元を素早く動かす。

 完全に手慣れている。



 ガチャリ、とカギを外す音が聞こえた。


「時間は?」

「まだ少しある!」


 ダイアはドアを開ける。


「ダイア、何用だ? それよりもその男は誰だ!?」

「へぇ、アンタそういう顔だったのか」

(立ち絵あるの、公式ファンブックでしか描かれてなかったからな……)


「おっさん、その窓から離れろ!!」

「何?」


 外から飛んできたナイフをスライディング接近して蹴り上げる。

 そういえば、そういうルートのコンボでボーナスステージをクリアする最短ルートがあったはずだ。

 

 暗殺を阻止したのか?

 いや、まだだ。

 

 ウォッカに『黒い影』が迫る。


「来いや、遊んでやるよ」

「………………!?」


 ラウンド1 ファイト!!


 開幕無敵スライディング。


「せりゃっ!」


 接近して回転からのナイフでの斬りつけ。


「せりゃっ!」


 回転して、上段蹴り。


「どりゃっ!」


 回転して、延髄蹴り。


「どりゃっ!」


 回転して、腹蹴り。


「どりゃっ!」


 回転して、上段蹴り。


「どりゃっ!」


 回転して、延髄蹴り。


「どりゃっ!」


 回転して、腹蹴り。


「どりゃっ!」


 回転しすぎな気もするが、ウォッカはそういうキャラなのだ。

 無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きに見えるが最適解なのだ。


「ダイア、彼は一体……?」

「私の同級生ですわ」

「お前の学校、あのような柄の悪い男が通っているのか?」

「ええ、そうらしいですわ」

「……娘を入れる学校間違えたかな……」


 そこからも一方的にウォッカによる連撃が続く。

 コンボが途切れたら、終わる、そういう紙耐久キャラなので。


 次第に夜が明けて、朝になったがウォッカの連撃は止まらない。

 その間にダイアは学校に行き、タキオは出勤した。

 午後になって、帰宅したがまだやってた。


 まだグルグル回りながらコンボを続けていた。


「おい、大変だ!」

「どうしたの?」


 ウォッカは近づいてきたダイアに向かって回転しながら叫んだ!





「コイツ、HPが0にならないタイプの奴だ!」





「いや、朝になった時点で気付いたらどうですの?」


 そして、ダイアはその部屋の扉を閉めた。


 こうして、タキオ・スカーレット暗殺事件は未遂に終わり。

 スカーレット家も没落せず、ウォッカも投獄されないルートが開拓された。

 ただ、今日もスカーレット家のとある一室から妙な打撃音が鳴り響続けるのであった。


 完


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私は対戦ダイアグラム1:9の悪役令嬢になってしまったようだ。 郁美 @Iku3M44

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