私は対戦ダイアグラム1:9の悪役令嬢になってしまったようだ。

郁美

石臼挽くまで、あと何日?



「なんてことですわ……なんてことですわ……]



 16の夜に彼女の記憶はフラッシュバックした。

 彼女はこの世界において傲慢かつ超金持ちを鼻にかけた存在。

 そして、弱者を虐げるのが大好きな……所謂、悪役令嬢だった。


 名を『ダイア・スカーレット』。

 

 フラッシュバックしたのはこことはまるで違う世界の記憶。

 普通の女子大生……恐らくは普通の女子大生だった記憶。

 ただ普通の一般人と違う点を挙げるとするならば……



「まさか、やり込んだゲーム世界の……しかも、前作の時代のキャラクターになるなんて……」


 

 彼女はこのゲームのシリーズを一作目からやり込んでいた。 


 彼女がやり込んでいた女性向け恋愛シミュレーションゲーム『エンドスウィーパーズ』。

 多くのイケメン達と剣と魔法の世界で恋愛するゲームであった。

 『であった』のである。そう、一作目までは。

 二作目以降からは制作陣がトチ狂ったのか、路線変更が行われた。


 恋愛シミュレーションから対戦格闘ゲームへと路線変更が行われたのだ。


 結果としてこの路線変更は大成功。

 老若男女、初心者から上級者まで楽しめるゲームとして一大ムーブメントとなった。

 今やこのシリーズと言えば格ゲーと答えるのが一般的だった。

 恋愛シミュレーションゲーと言えば、「ああ、あのルート分岐とかフラグ管理とかが面倒なゲームの」。

 そう、言われる始末だった。


 その中でダイアと言えば当初はぶっちぎりの最弱キャラ。

 『ランク・ダイアさん』とか『ダイアさんを選ぶ奴は自殺願望者』等々酷い言われようだった。


 具体的には全キャラにダイアグラム1:9が付くくらい最弱キャラだった。

 制作陣も意図してやったのだ。

 それは一種の愛であり、悪意でもあった。


 しかし。しかし、だ! 


 彼女が使うダイアさんは違った。


 ある人曰く『世紀末悪役令嬢』。

 ある人曰く『石臼の錬金術師』。

 ある人曰く『ガンマ線を浴びたダイアさん』。

 ある人曰く『ダイアさんは本当は頭のいいお方』。

 ある人曰く『全キャラ相手にダイアグラム9.5:0.5』


 ダイアさんを使い世界大会を制覇するほどのゲーマーだった。


 ちなみに『石臼』とは一作目のエンディングにおいて没落したダイアさんが回しているものであり。

 そのあまりにもシュールな絵面、妙に耳に残る音楽、「なんで石臼……?」等々の理由で、

 多くの音MADやコラ画像が作られる等でネット掲示板や動画サイトで一部コアなファンにムーブになった。


 それはさておき、彼女はこのままでは確実に没落する。

 彼女は石臼を回すルート一直線である。


(確か公式ファンブックによるとダイアさんは地下送りで戦いのスキルを手に入れた。

 ……つまり、今の私はただの一般悪役令嬢!!! クソッ!!!)


 一作目の時点では本当にただの悪役。

 愛されているんだが、それは完全にネタキャラとしてである。


 それがなんとなくだったが生前の彼女はなんだか嫌だった。


 だから、この「ダイア・スカーレット』を使い続けたのかもしれない。

 ゲームは一日一時間……ではなく、やりたいだけやる。

 最初はほんとにクソ雑魚ナメクジ格ゲーマーだった。

 最弱のCPU相手だろうが、何度も負けた。

 乱入されまくって、何度も負けた。

 台パンしたら、出禁になりかけた。

 時に店の開店から閉店まで同じ台でやり続けた。

 徐々に上達して行き、いつしか大会にも出るようになった。

 

 そして、彼女は……世界大会の帰りの飛行機事故で死んだ。


(これはもう彼女の物語ではなく私の物語ですわ。

 なんとしてもこのスカーレット家の没落を阻止しなければなりませんわね)


 彼女が新たに決意をした。

 そんな時であった。

 

「お邪魔しますぜ~~」

「あ、貴方は街一番の不良のウォッカくん!?

 一体、どうして私の家に……?」

「いやぁね、ちょっとした相談があって来たってわけですよ」


 窓から突如乱入してきた青年。

 名を『ウォッカ・ギムレット』。

 所謂、不良キャラであり、一作目では攻略対象の一人だった。


 このダイアとウォッカは原作では特に絡むこともない。

 二作目での掛け合いも汎用台詞だけ。

 これは三作目以降で改善されたが、それでも関連性は薄い。


「貴方、何をしにきたのですか? まさか私を誘拐しに……?」


 街一番の不良。

 その異名に違わず殺人以外の犯罪を犯したという噂が立つくらいに不良だった。

 だが……


「いやいや、待て待て、オレはこれ以上罪を重ねたくない!!!」

「…………はい、どういうことですって?」

「信じてもらえないと思うが、小さな罪を積み重ねた結果、最終的にオレはエンディング後に地下送りになってしまうんだ!」

「…………………エンディング後、ちょっと何を言っているか、分からないですわね」


 これは(公式で)最弱と罵られた少女と(公式で)最悪と付けられた青年の物語。

 

 主役たちはとても弱くて、とても悪い。

 

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