第5話:暗殺

「何の心配もいらないからね、直ぐに不安の素を断ってあげるよ」


 兄はそう言うと独りマイラン王国に乗り込んでいきました。

 王国軍もレストン公爵家の領軍も動員することなくです。

 兄のような傑出した戦士には、余計な部下は足手まといになるだけのようです。

 兄が選び抜いた極少数の配下だけが、サポート役として同行しているようです。


 ただ、兄上は私を溺愛しているので、国内に不安要素を残すような事はされず、王太子とその一味は出て行く前に処刑されました。

 私はおぞましいモノを見るのが嫌なので、晒し者を見に行ったりはしませんでしたが、見に行った侍女たちの会話を耳にしてしまい、嫌な思いがしました。

 兄上らしいと言えばらしいのですが……


 晒し者にする以上、被害者や民に替え玉だと思わせるわけにはいきません。

 本人だと分かるように、奇麗な顔のまま晒さなければいけません。

 でも、顔以外はどうでもいいので、極刑の場合は、身体に苦痛を与えるのです。

 私を傷つけようとした王太子を、楽に死なせる兄上ではありません。

 私が想像するのも嫌だった拷問を、王太子を苦しめるためだけに行ったそうです。

 自白させるための拷問ではないので、兄上が満足されるまで終わる事のない、無限地獄のような拷問なのです。


 大嫌いな王太子の事ではありますが、ほんの少しだけ同情しました。

 私が同情しなければいけないくらい、兄上は私を溺愛してくださっています。

 こんな状態では、もう私に縁談は来ないかもしれません。

 社交界で兄上の私への溺愛ぶりは有名ですから、気の弱い男性は後の祟りを恐れて、私の側に近づくのも嫌がります。

 世間話という名目の尋問は、若い貴族令息の間では有名ですから……


 そんな兄上を本気で怒らせた、マイラン王国のジャスパ国王とミネルバ王妃がどんな殺され方をするのか、想像するのも恐ろしいです。

 ミネルバ王妃は稀代の悪女で、色仕掛けで一国を乗っ取多と評判の女ですが、その色仕掛けが兄上に通用するのか、少々興味もあります。

 

 今まで星の数ほどの貴族令嬢から求愛を受けてこられた兄上ですが、その全てを断り続けておられるのです。

 口さがない宮廷スズメは、兄上の事を男色家だとか、私と近親相姦しているとか、根も葉もない噂を広めていました。

 男色の噂には笑っておられた兄上ですが、私との近親相姦の噂には表情を消されて、翌日多くの宮廷スズメが事故死されました。


 それ以降、近親相姦の噂は二度とされなくなりましたが、私の縁談がなくなったのも確かですから、口にはせずとも疑っている貴族が多いのでしょう。

 兄上にそんな厭らしい性癖がない事は、当の私が一番よく知っています。

 兄上は肉親に対する情が深いだけなのです。

 その兄上と悪女の戦い、ちょっと興味がありますね。

 まあ、どうせ、兄上の武勇伝が増えるだけなのですが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

公爵令嬢が王太子に婚約破棄され、妹を溺愛する聖騎士の兄が激怒した。 克全 @dokatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ