第7話 変わりたい


高台にやってきた.

高台といってもほんの少し段が高くなっているだけだ.

奥の方に目を向ける.


ため息が出る.素晴らしい景色だ.

四方を山々に囲まれた市が一望できる.

山の稜線がくっきりと見える.

夏なのに空が霞んでいないなんて珍しいな.

市内を流れる大きな川や,国道や高速の車の流れが小さく見える.

雲の切れ間から太陽の光が線のようになって差し込んでいる.


意外とちっぽけなものなんだな


独りでに口を衝いて言葉が出る.

悩むだけ悩んだが,自分なんて世界からしたら小さなものだ.

失敗した思い出も,歳を取れば良い思い出に変わるかもしれない.

過去の思い出を引きずって,今の生活まで惨めになる必要はない.


何よりもちょっとした幸せで気分なんてすぐに変わるのだ.

私は確かに空洞だ.でもその中を何で満たすかで生き方は変わる.

そんな気がした.


なんてクサいことを考えて少し恥ずかしくなる.

でも,たまにはこんな気分になってもいいじゃないか.


帰ろうと思った時には,既に日はかなり傾いて赤に近いオレンジ色だった.

ヒグラシの声が大きく響いてくる.

世界は暗闇に変わり始めてしまった.


何か変われただろうか,今度はどこに行こうか.

なんだか咄嗟の行動も悪くないな,後悔なんてしないな.


衝動的に変わろうとした夏の話.

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変わる夏 神田椋梨 @SEA_NANO

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