ひとり静かに勇者の到来を待つ姫君のもとに、誰よりも早く到達せんと、互いに競い駆け行く運命の元に生まれた数多の猛者どもの物語。
寓話です。いや寓話なのか? こう、何かジャンル的な呼び名でもいいのですけれど、ちょうどひとことで表せる言葉がないような感じ。そういう意味で、この作品のジャンルとして指定されている「詩・童話・その他」というのはなるほどと思いました。童話に近いその他という感じ。
タグの「マッチョ」が好きです。必見というか、読み始める前に必ず見ておくべきタグ。いや戦士たちの競争を描いた物語ということもあり、思想や信条としてのそれの意味もあるのですが、でも別の意味の方が強いと思います。筋肉美という意味のマッチョ。もちろん作中でしっかり戦士の描写はあるものの、でもこの単語を先に頭に入れておいた方が絶対イメージの助けになるというか、実際なりました。数億の空飛ぶ筋肉ムキムキマッチョマン。なにこの絵面のパワー。最高。
紹介文にある「創世記」というのが言い得て妙というか、このお話自体がひとつの壮大な寓話のようなものなのですけれど、それを世界の成り立ちになぞらえる(というか創世の物語として描く)ところが面白いです。文字通りの大スペクタクル。己が宿命を果たさんと危険な道のりに挑む、その男たちの悲壮な覚悟を描いたお話で、世界の理のような大きな物語であるはずなのですが、でもストーリーそのものはミクロな個人の描写に立脚しているところが魅力的でした。姫と英雄、それに老兵と、そして若者。
単純に英雄譚や創世の物語として読めるのですけれど、たぶん真剣に読み解いていくといろいろな解釈ができそうで、その場合のキーワードが先述の「マッチョ」なのではないかと思います。さっきは一旦置いておいた思想・信条の方。
逃れることの叶わぬ戦場の中、名も実も残すことなく、ただ生まれて死んでゆくだけの無数の男。それを狭い鳥籠の中、できるのはただ眺めることだけで、手出しどころか身動きすら許されない女。それぞれに役割が固定されていて、交代も分担もまったくできない不自由さ。それを乗り越え辿り着いた先、彼や彼女の出した答え。説得力というかなんというか、厚みのある感動がありました。はっきりした『ゴール』の実感。
凄かったです。ここが終着点で、そして新たな世界の始まる瞬間だというのがわかる、壮大なハッピーエンドのお話でした。いろいろ語りましたがやっぱりムキムキの男たちが好きです。ナイスバルク!
タイトルの『種』といい、『宮入り』といい、オブラート薄めなのに下品な感じがしなくて、そこに高い技量を感じる。これって世界観を抜きにしてもまさに『運命』だし、『同朋を新たな世界へと!!』なんですよね。そこに和~オリエンタルなテイストの世界観をぶち込んで、正しく死生観が語られるにふさわしい雰囲気を与えている。
特に好きな表現が、『私たちは新たな世界になる』という部分ですね。世界が再構築されるという概念そのものがSF的で、かといってSF臭がするわけでもなくむしろ情緒に訴えてくるので、やっぱり良質のSF(あくまでSF)ってこうでなくちゃと思いました。そして、このシチュエーションで新しい世界が生まれていくのを見送る言葉はやはり『おめでとう』がふさわしい。
モチーフとアイディアと表現が上手く噛み合って、とても読み応えのある作品でした。
序盤からこれが何をモチーフに物語ろうとしているかには察しがつく。ただそれを修飾するイメージが「戦い」となっていて戦士達と彼らが苦難の先に目指す聖域として立ち現れる。言葉のもじりが絶妙ゆえかそれをそれとしてどこかで認識しながら読み進めることになるが、その中で戦士同士の会話であったり蘭の君による内省が響き渡り物語自体に深みを持たせている。
短編という制約の中でストーリー性を重視しながら世界観や個々の役割を説明までこなすやり方として既存のイメージをスライドさせるのは上手いし、それが押しつけたようないやらしさもなく見事だと感じました。老戦士の無骨さが良かった。モチーフ的に過去が気になるところ。見てみたい。