エピローグ

あの青春の日々と君がいる物語

 僕、「今元千晶」は今、自宅で机に向かっている。傷だらけの勉強机。たくさんのメモ帳。黒い筒。ボロボロの自転車の鍵。

 そして、ノートにはたくさんの言葉から紡がれた文が並んでいる。

 あの日、僕は目を覚ますとちぃの言う通り病院にいた。ベッドでたくさんの器具に繋がれて延命処置を受けていた。医者が言うにはもうすぐで死ぬところだったそうだ。そう考えると、僕に「生きろ!」と懐かしい友の声に言われている気がした。

『セイ! 生きてオレたちにまた会いに来てくれるんだロ?』

『そうですよ! 青林君が書いてくれないと、わたしと丹波君二人っきりなんですから!』

『二人っきりてどういうことなんダ?』

『あ、それは、青林君がいないといつものわたしたちではないということです!』

 そう、僕を急かしてくる声が。でも、そこには少しうざったいけれど、僕にとっての守護天使の声はどこにもなかった。

 僕は病院の購買で一冊のノートと、最低限度の筆記用具を買った。そして、そのノートに物語をずっと書いている。破られたところを思い出しながら。けれど、言い回しを変えたり、ストーリーを増やしたりとしていくうちに前よりいい作品になった気がする。

「やった……完成だ!」

 そう、僕が卒業式を迎えた今日。その物語は完成した。ずっと書きたかった僕だけにしか書けない物語を。僕が理想として追いかけていた世界を。でも、この物語は以前まで書いていた「卒業式」とは少し違う。僕はちょっとしたお礼をしたのだ。

 書き終えた物語には新たな登場人物が加わった。

 黒い大きな目の「ちぃ」という一人称が特徴的な子供っぽい主人公の幼馴染。好き嫌いが分かれる性格だけれど、その女の子は天使のように美少女で、優しい。いつもサイズの合わないブラウスの第三ボタンが被害者で。そこはいいのか残念なのか。作者の僕でもよく分からない。

 その物語のタイトルは「天使の卒業式」。

 僕しか知らない、本当にあった、天使が導く卒業式だ。

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天使の卒業式 @misuyasubaru

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