晴れのち雨、のちに晴れ

おーすい

晴れのち雨、のちに晴れ

晴れは嫌いだ。立派に働いている太陽に、なんだか責められているような気がするから。だから僕は、晴れた日には外に出ない。でも、今日はそうもいかない。

なぜなら家の食糧が尽きてしまったからだ。


よりにもよってこんな晴天の日に…。


今日は我慢しようとも考えたが、体が警告している。カロリーが不足して若干めまいがする。

僕は外に出る決心をした。さっと行ってさっと帰ろう。


外に出ると、夏の日差しが容赦なく僕の肌を焼いてくる。真っ白で誇らしげな様子の太陽は、いつまでも立ち止まっている僕に、前に進めと言っているようだ。


一番近くのスーパーまで約400m。並みの陸上選手なら60秒かからずにここまで来れるのだろうが、僕にとってその距離はマラソンコースのように果てしなく感じられる。


ああ、やっぱ明日にしよう。ちらっとそんな考えが脳裏に浮かぶが、僕のわずかに残っている自尊心がそれをさせない。


家から一番近いスーパーに到着した。飲食コーナーで一休憩する。普段なら寒いくらいの冷房が気持ちいい。自販機のコーヒーを飲みほし一息つくと、ふと冷静になる。

今は平日の昼間。働き盛りの男がスーパーで一休み。それも、たかが買い物のために。そう思うとまた嫌な気分になる。さっさと用を済ませてしまおう。


レジは比較的空いている。店員はかわいい女の子とおばちゃんのどちらかを選べたが、おばちゃん店員のほうにしておいた。何となくかわいい女の子に自分のことを見られたくないからだ。早く帰りたい。そう思っていた時、突然おばちゃん店員に話しかけられた。


「あんた、こんな時間にどうしたの。」


一番聞かれたくない質問だ。体中から冷や汗が噴き出してくる。


「い、いや、ちょっと買い出しに…」


「こんな時間にかい。外めっちゃ暑いやろ。あんたも大変やな~。」


早く逃げ出したい。足が今にも出口へ向かいそうだ。しかし足はとどまったまま動かない。僕のわずかな自尊心がそれを許さないのだ。


「ほ、ほんと暑いっすよねー…」


何とか言葉を絞り出す。


おばちゃん店員はニコニコして、バシッとぼくの肩を叩く。


「まあ、頑張りや」


叩かれた勢いそのままに、店を出る。


いつの間にか、自分の部屋の玄関にいた。家を出る前にクーラーを消したおかげで、暑くなりつつある部屋。扇風機の風に当たり、汗が引くのを待つ間、さっきまでのことを振り返る。


ニコニコしながらおばちゃん店員は言った。


あんたも大変やな。

まあ、頑張りや。


おばちゃんに叩かれた肩は、未だにその感触を覚えている。

昼食をとり、一息ついて時計を見る。時刻は午後1時30分。いつもなら、暇つぶしにパソコンに向かっているところだ。


ちょっと出かけてみよう。

ふとそう思った。


なぜ僕はこのように思ったのだろう。おばちゃん店員に励まされた気になったのだろうか。それとも久しぶりに飲んだコーヒーが僕の脳みそを目覚めさせたのか。


思い立ってからは早い。カバンに財布とスマホと飲み物を入れると、僕はすぐに家を出た。

どこか行き先があるわけでもない。電車で遠くまで行こうかとも考えたが、それは今の僕には重すぎる。とりあえずぶらぶらと歩いてみることにした。


1時間くらい歩いていると公園についた。見知らぬ公園だが、どうやらそこそこも広さがある。平日の昼間だから、子供とその母親くらいいるかと思っていたが、人気は全くない。少し不思議に思いつつも、誰もいないとわかると少しほっとした。


屋根のある、木製のベンチと机を見つけると、そこに腰掛ける。1時間歩いたのでさすがにへとへとだ。


特にすることもないので、自然と思考がめぐる。今までのこと、そしてこれからのこと。どうにかしなきゃ。とにかく動き出さなきゃ。そんなことはわかってる。でも体は動いてくれない。そんなことを考えているとまた気がめいってきた。


空が曇ってきたかと思うと、そこそこ強い風が吹き始めた。汗だくの体には心地いい。僕はベンチで昼寝をすることにした。


目を覚ますと、公園の木々が風に揺られているのが見える。それに大粒の雨が横殴りに落ちている。雨は、僕の体にも降りかかっていたようで、服はところどころぽつぽつと濃くなっている。


傘は当然持っていない。通り雨であることを祈りながらスマホで天気を確認する。どうやら台風らしい。普段外に出ないのでお天気情報などを確認しないのだが、それが悪かった。


この台風は一晩中続くようなので、全身が濡れてしまうことを覚悟して家に帰るほかない。風も強いので店まで走ってレインコートを買うのが最適だろう。


そう思ったのだがもう走るだけの気力も体力もない。ついでに言えば店のレジで店員と応対するだけの気力もない。どうせ風邪をひいても社会に何ら影響を与えない人間だ。雨に打たれながら帰ることにした。


体には大粒の雨が打ち付けられる。暴風がフラフラな僕の体をあおってくる。


みじめだ。

でも、どうしてか心地いい



理由があるとはいえずっと動けずじまい、いや、動かずじまいだったという僕の罪。

なぜだかこの台風は、そんな僕への罰のように感じられたのだ。

そしてその雨によって清められる感覚。

つまりは禊、雨の禊だ。


気が付くと風がやみ、雨が上がっていた。太陽が僕の冷えた体を温めてくれる。

あれだけ嫌いだった太陽の温かさに気づかされる。

太陽の温かさを感じていると、ふと両親のことを思い出す。

家に戻ると軽く体をふき、実家に電話をする。



「ああ、母さん?僕、明日家に帰るから。」

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