雪の夜、森のそばに足を止めて

十二月三十一日 十三

雪の夜、森のそばに足を止めて



 おかあさんはぼくをあいしてくれているはずだと、リョウは灼熱の車内で蹲りながらぼんやりと思っていた。

 その時、リョウは五歳だった。リョウは真夏の晴天の下、容赦無く照りつける太陽の白光に灼かれるパチンコ屋の駐車場の、黒い軽ワゴンの中にいた。その日は特に気温が高い日だった。母親は彼に「車の中にいてね」と言い付けて店に入った。車のエンジンキーを抜いて、ドアのロックも忘れずに掛けて、店に入っていった。それからもう数時間が経っている。

 車内は酷く熱い。フロントガラスとダッシュボードの隙間に置かれたシリコン製のマスコットは溶けている。リョウは随分前に泣くのをやめて体を丸めていた。ぐったりとしたまま僅かな呼吸を繰り返す。すーー、はーー、と微かな息の根以外に音がしない車内で、幼いリョウの意識は朦朧としていた。

 おかあさんはきっと、もうすぐかえってきてくれる。かえってきて、ごめんねって、ぼくのあたまをなでてくれる。きっと、きっともうすぐ。

 おかあさん、とリョウは目を瞑る。影が彼の顔に掛かったのはその時だった。「かえってきたのかな」と、どうにか目を開ける。リョウがいる後部座席の窓を見知らぬ男が覗いていた。逆光で顔は見えない。半袖のシャツを着た、体格の良い若い男だ。男はリョウを見て首を傾げていた。

 だれだろう、とリョウが思っていると、男はおもむろに腕を振る。男は手袋を嵌めた手にパイプレンチを握っていた。大きな音がして窓が割れる。空気が入れ替わる。

 男がドアを開ける。大きな手がリョウの胴に回される。抱え上げられて車外に連れ出される。

 くるまのなかにいてっていわれてたのに、おかあさんとのやくそくやぶっちゃった。

 リョウは男の腕の中でそんなことを思いながら気絶した。






 春夜の七時を回った頃。十八にもなると夕飯の支度も手際良く済ませられるようになる。リョウは台所で包丁をリズミカルに動かしてキャベツを刻みながら、そんな風に自分の成長を感じた。今日の夕飯は鶏カツにほうれん草と豆腐の味噌汁、レンコンのきんぴら、キュウリの酢の物、昨日作って余ったポテトサラダ。もうすぐ帰ってくる世帯主の好物ばかりだ。

 はやく帰ってこないかな、と千切りにしたキャベツと鶏カツの皿に盛り付けていると、ガチャリと玄関の鍵を開ける音がした。リョウは濯いだ手をエプロンで拭いながら玄関へと向かった。五年前に越してきた2LDKの廊下は短い。数歩歩けばすぐに玄関だった。

 玄関の三和土では、待っていた相手が靴を脱いでいた。がっしりとした大きな体を折り曲げて靴を整えているスーツ姿のその男は三十半ばくらいに見える。リョウは彼の年齢を知らない。

「おかえり斯波さん。ご飯出来てますよ」

「ただいま。いつも悪いね、リョウ君」

「上着と鞄預かりますね・・・・・・あっ! シャツ汚れてる!」

「えっあっ」

 斯波が自分のシャツを見て慌てて手で隠す。リョウは色の白い眉間に皺を刻む。

「し~ば~さ~ん~」

 分かり易く怒って見せるリョウに、斯波は背を丸めて身を縮こめる。

「ち、違うってリョウ君。今日は何となく入った店がぼったくりだったってだけで、」

「どうせ喧嘩したくて入ったんでしょう? いっつもそうじゃないですか! 洗濯するの俺ですよ!」

 斯波は短く刈った頭を掻いて「ごめんて」と笑って謝る。リョウはむっとした顔をしたまま、彼に風呂に入ってくるよう言った。


 怒られて大人しく風呂に入り、出てきた斯波をむくれた顔のリョウが整えられた食卓で迎えた。

「悪かったって、ホント」

 席に着いた斯波のグラスにリョウは「別に良いですよ」と栓の抜いてビールを注ぐ。斯波は話題を変えようと食事を褒めた。

「リョウ君は料理が上手になったよねぇ。今日の夕飯は豪華だし」

「毎日豪華でしょうが」

「スイマセン」

 冷ややかな年下相手に斯波は二の句が告げなくなってしまう。静かになった斯波の世話をリョウは甲斐甲斐しく焼く。茶碗に白米を盛り、味噌汁を装る。斯波は彼が自身の分を用意し終わるまで待っていた。気を取り直して二人は食事を始める。

「リョウ君、今日はどうだった?」

「洗濯機回して、掃除して、午後のロードショー見て昼寝しました」

「熟練の主婦っぽいじゃん。リョウ君が色々してくれるから助かるよ」

「斯波さんはどうでした?」

「うーん・・・・・・取引先行って、外回りして、飲み屋行って、で、今日は終わり」

「正直に言うと」

「組事務所行って売人から売り上げ回収してぼったくりバー行きました」

「やっぱり確信犯じゃないですかぼったくりバー」

 「全くもう」とリョウは鶏カツを頬張る。斯波は苦笑して「根深いなぁ」とビールを飲む。きんぴらを摘まんでいる彼は向かいに座るリョウが暗い顔をしていることに気付いた。

「ん? どうかした? お腹でも痛いの?」

 斯波の問い掛けに力の無い声が返ってくる。

「最近、服に血を付けて帰ってくるようになりましたよね」

 「ストレス溜まってるんですか?」と彼に言われて斯波は曖昧に返事をする。煮え切らない返答にリョウは両手で顔を覆う。

「やっぱり俺のせいなんだ・・・・・・」

「ちっ違うって」

「じゃあなんで喧嘩して帰ってくるんですか」

「それはホラ、なんていうか、その、なんとなく?」

 それを聞いてリョウは仰け反って呻く。

「斯波さんはいっつもそうじゃないですか~! 俺が何聞いてもロクに答えないのマジでムカつく~!」

「ねぇ今日ちょっと情緒不安定過ぎない? ホラーかなんか観たんじゃないの?」

「『ブラック・スワン』」

「ホラ怖い映画じゃん。今日はもうご飯食べたらお風呂入って寝なよ、片付けは僕がやるから」

「『ブラック・スワン』はホラーじゃない・・・・・・」

 リョウは落ち込んでいても食事はきちんと食べる。そういうところは美点だと斯波は思った。



 就寝前。寝間着に着替えた斯波はベッドに入って文庫本を読んでいた。それは短編集で、一編読み終わることには睡魔が姿を見せる。そろそろ読み終わるので明日は本屋に寄ろうと思った。短編集を閉じてサイドテーブル代わりの椅子に置いた彼は眠ろうと体を倒し掛けて、控えめなノックの音に気付いた。

「リョウ君?」

 声を掛けるとドアが開いた。彼は寝間着にしている量販店のスウェット姿で居心地が悪そうに立っていた。斯波は穏やかに「どうかしたの?」と訊ねる。リョウはそろそろとベッドに近付いてきた。

「あの、斯波さん」

「うん」

「・・・・・・一緒に寝ても、良いですか?」

 幼い子供のような願いに斯波は「いいよ」と彼のために寝台の上にスペースを空け、掛け布団と毛布を捲った。「おいで」と掌で其処を叩けばリョウは恐る恐る寝台に上がる。斯波と共に横たわり、室内の灯りを彼が消すのを見ていた。斯波に寄り添ってリョウは体を丸める。斯波は彼を包むように抱いて、その大きな手が頭を撫でた。

「大きくなったね、リョウ君。前に身長測った時は中学生の平均くらいだったのに」

「何年前の話ですか、それ」

 斯波の含むような笑い声が聞こえた。背中を撫でる男の手を感じた。リョウが斯波と暮らし始めた時からずっと変わらない。優しくて冷たい手の感触。普段その手から香るのは整髪料と煙草のにおいだった。それとたまに血の臭い。男の手にはそんなものが染みついている。痩せているリョウに比べて、斯波は巨躯で背が高い。ボディビルダーとまでは言わないがアクション俳優みたいだ、とテレビの中以外では片手で数える程度しか人間を見たことがないリョウは思っている。映画であれば敵のボスか、その側近で、主人公に叩きのめされて最後は死ぬ役だろうな、とも。

 安い上下二枚組のパジャマを着た男の胸に耳を当てれば、安定した心音が遠いところで聞こえる。リョウは斯波の心臓が動いているのを聞くのが好きだった。生きていることを感じられる。自分の知らないところで斯波の心音が途絶え、それに気付かないままでいるのが怖かった。リョウには他に安心出来る場所の心当たりが無かった。

「今日は怖い思いでもしたの?」

 優しい囁き声がリョウの耳朶へと落ちてくる。リョウは自分の不安をそっと彼に教えた。

「貴方はすぐに物を捨てる人だから、俺も同じように捨てられたら、どうしようって思って・・・・・・俺がストレスとか重荷だったら、どうしようって・・・・・・」

 斯波が宥めるようにリョウの背を撫で続けている。言葉の先を促すように、「うん」とだけ返事をする。リョウは抱えていた疑問を吐き出す。

「俺のこと、捨てる?」

 斯波は「捨てないよ」と間髪入れずに答えた。

「折角世話をしてきたのに、捨てたりなんてしないよ。それに君、僕が捨てたら死んじゃうんじゃない?」

「うん」

「だから捨てないよ」

 斯波はリョウを安心させて眠りに導こうとしている。徐々に瞼が落ちてくるのを感じながら、リョウは彼に訊ねた。

「斯波さん、好きな食べ物ってなんですか・・・・・・?」

「食べ物? そうだなぁ、ハンバーグとか好きだし、沢庵も好きだよ」

 一昨日、リョウは同じ質問をした。今日返ってきた答えは丸っきり違っていた。リョウは斯波の正確な年齢を知らないし、生まれ故郷も知らない。誕生日は聞く度に違う日付を教えられる。リョウは共に暮らす男のことを何も知らない。十三年も一緒にいて、何も知らなかった。

 斯波には何を訊ねても嘘しか返ってこないことがリョウには分かっていた。それでも彼には斯波しかいない。






「パチンコの願掛けでさぁ、真夏にガキを車ん中に放置すれば当たるってのがあるんだよね。子供が苦しむほど大勝ちするんだって、子供がパパとかママの為に頑張ってくれるからなんだって」

 君も難儀だよねぇ、と灼熱の車内から幼いリョウを助け出した男は笑って煙草を吸っていた。リョウは男に運ばれて病院で治療を受けることが出来た。彼のお陰で熱中症で死ぬのを免れた。男は「斯波 優作」と名乗った。病院の清潔なベッドの上に寝かされているリョウはまだ頭がぼんやりしていて自分の名前を言えなかった。リョウは自分を助けた男の顔がワニに似ていると思った。父方の祖父母が買い与えてくれた絵本の中にワニが主人公の絵本があった。挿絵のワニは少し怖い。男はそのワニに似ている。物語のワニはお風呂が好きで毎日楽しそうに暮らしているが、自分の目の前にいるワニは酷薄そうで情を持ち合わせていないように見える。リョウは恐ろしくて布団の中で身を固くした。

 ベッドの傍に座っていた斯波に白衣を着た老人が近寄ってきた。医師は彼が病室で煙草を吸っていることを咎めた。

「おい。此処は禁煙だぞ馬鹿野郎」

「うるさいなぁ。闇医者のクセにこんなことで怒るなよ」

「闇医者じゃない。変な患者が来ても警察に通報しないだけだ」

 そんな遣り取りをしている二人にリョウはどうにか口を動かして「おかあさんは?」と訊ねた。途端に医師は口を閉ざし、踵を返して病室を出て行ってしまった。「厄介事に関わりたくない」と言わんばかりに。

「ああ、お母さんね。君のお母さんは来ないよ」

「なんで?」

「君が此処にいるって知らないから」

 なんてこと無いように斯波は言い、白煙を吐き出す。窓の向こうに広がる青空には雲一つ無く、空調の音が僅かに聞こえてくる。冷たい冷気がリョウの顔を撫でていく。「どうして」とリョウは思った。リョウは斯波に「おかあさんにあいたい」と言った。すると斯波は眉を片方持ち上げて首を傾げた。それから嘲るように言う。

「君のお母さんは君よりパチンコのほうが好きだから、君には会いに来ないよきっと。まだ閉店時間じゃないから」

 男の言葉をリョウは幼いながらもどうにか理解して母親が迎えに来ないことを理解した。悲しくて涙が出てきた。静かに泣き出した小さな子供に興味が無くなったらしい斯波は携帯電話を取り出して何処かに電話を掛け始めた。

「もしもーし、僕だけど。あのさ、子供欲しいって言ってたから一匹都合付けたんだ。幾らで買う?」

 軽い調子で電話をしている斯波は段々顔を顰めていく。電話口の相手が気に入らない返事をしているようだった。そして最後は「あっそ」と言って通話を切った。

「うーん、どうしようかな。困ったな」

 斯波は溜息を吐いて子供を見た。子供が鼻を啜っているのでティッシュの箱を渡してやった。それから「ちょっと相談なんだけど」と話し掛けてきた。

「僕はね、君みたいな子供を攫ってきて売り飛ばす悪い奴なんだ。で、君を拾ってきたわけだけど」

 リョウはまだ泣いていたが斯波のほうへ顔を向けていた。

「おうちにかえりたい・・・・・・」

「無理かなー。だって僕がしたことバレたらマズいんだよ色々と」

 「というか家に帰ってもまた車中蒸しにされるだけじゃないの?」と斯波は幼い心を踏み躙る。リョウはまた泣き出す。無感動に「泣いてるなぁ」と斯波が子供を眺めていると先程の医師が病室に戻ってきた。

「なんで子供泣かしとるんだお前は」

 呆れる老人に斯波は肩を竦める。医師は手にしたカルテを見ながらリョウに問診する。簡潔かつ手短に問診を済ませていく。その時になってやっとリョウは「岡江 玲」という名前なのだと斯波と医師は知った。布団の中で丸まって泣いている幼子を眺めて医師は斯波に訊ねた。

「買い手は付いたのか?」

「もう俺以外の奴から買ったって。無駄働きになっちゃった」

「だったら子供を親元に返すべきだ」

「別に返さなくても良くない? てかそんなことしたら僕捕まっちゃうでしょ」

「子攫いなんてやめて厚生しろ。それが世のためだ」

「楽でワリが良いんだよね。パチンコ屋に子供連れてくるほうが悪いんだって」

 カラカラと笑った斯波は「ホントどうしようかなぁ」と呟く。医師が子供の買い手のことを訊ねると男は首を横に振った。

「買い手も見付からない、親元に返す気もない。ならお前がどうにかするしかないだろう。死体が出たら通報するが」

「やっぱりそうなるよね。いいよ、僕が連れて帰る。僕の家はペット禁止だけど人間なら犬とか猫じゃないし大丈夫でしょ」

 斯波は「昔から犬とか飼ってみたかったんだ」と嘯いて短くなった煙草を携帯灰皿に入れる。医師は「聞かなかったことにする」と言って、また病室を出て行った。二人が話している間にリョウは泣き疲れて眠ってしまっていた。

 斯波は大きな背を丸めてベッドに頬杖を突き、涙に塗れたあどけない寝顔を眺めた。それから「飽きたら多分殺しちゃうんだろうなぁ」と呟いた。






 リョウは斯波と共に暮らし始めてから、十歳になるまで映画もドラマも、ニュースも見たことが無かった。リョウがねだるまで斯波は「別に見ないから」とテレビを持っていなかった。パソコンは今でも持っていない。斯波はあまり私物を持っていなかったし、服も家電も「使わないな」と判断すればすぐに捨てていた。新聞も取っていなかったのでリョウは読んだことが無かった。それどころか、外へ出たことも無かった。いつも部屋の中にいた。今までに三度引っ越したが、斯波は家に固定電話を置かなかった。だからリョウは誰かに電話を掛けたことが無い。十三歳の時から持たされている携帯電話は所謂「キッズケータイ」と呼ばれる子供向けのもので、斯波以外とは通話が出来ない。

 斯波がリョウに「家から出るな」と命じたわけではない。ただ彼の家に連れて来られて、どうすれば良いのか分からず、リョウはじっと部屋の中で彼が帰ってくるのを待っていた。部屋から出たら、二度と入れてもらえないのではないかと不安だった。あの真夏の炎天下が彼の小さな脳に焼き付いて、部屋の外は灼熱の晴天が広がっているように思えて怖かった。

 斯波は本だけは捨てずに沢山持っていたので、リョウはそれを読んで自分を攫った男が帰ってくるのを毎日待っていた。帰ってきた斯波に漢字の読み方を教わり、彼の家事や炊事のやり方を真似て自分が出来る仕事を増やした。そうして今まで生きてきた。斯波はそんなリョウを「何処でも生きていける」と評した。

「君って結構神経が太いよねぇ。泣いてばっかりになるんじゃないかって思ってたよ」

 斯波は優しかった。出掛ける時はきちんと食事を用意していってくれるし病気になれば医者へ連れて行ってくれた。生活に必要なものは仕事の帰りに調達してくるし、「欲しい」と言えば大抵のものを買ってくれた。斯波がリョウを連れて行く医者はいつも同じだった。其処は小さな医院だった。攫ったリョウが熱中症であることに気付いて斯波が連れて行った医院で、其処の院長が斯波と顔見知りだった。以来、医師はあまり歓迎しないもののリョウの掛かり付け医になった。どうして自分の診察をしてくれるのかと大きくなってからリョウは訊ねた。すると医師は「断ると斯波に殺される」と真顔で答えた。殺される不安を抱える老医師は診察室で煙草を吸う斯波を怒る。それを見てリョウはアンバランスな印象を受けた。

 リョウの母親は彼を愛していなかったわけではない。大手建設会社で働いている夫と不仲だったわけでもない。ただ夫が海外の現場に駆り出されてしまい、近所には友人がいないし自分の実家とは折り合いが悪い。夫の実家は飛行機で行くような距離だった。専業主婦だった彼女は暇を持て余していた。一通りの趣味や遊びをやって見て、一番楽しかったのがパチンコだった。少し愚かな母親は息子がとても大人しく世話をしやすい子供だったために、子供にあまり気に掛けなくなった。パチンコ屋に入り浸るようになった。大人しいリョウは留守番が出来るようになる頃になるとひらがなが読めていた。母親を待っている間、リョウは絵本を読んでいた。リョウはその頃から一人で誰かを待っていた。

 ある夏の日に母親は隣の台で打っていた客から「必勝法」を聞いた。子供がいるなら子供に助けてもらうと良い、と客は言った。母親はとても良いことを聞いたと喜んで翌日になると早速実践した。久し振りに母親と外出出来ることを喜ぶ幼いリョウを、彼女は炎天下の車中に放置した。息子が自分のために頑張ってくれると信じて。

 そして母親は息子を失った。


 リョウは斯波と暮らし出してから、初めての外出は夜の水族館だった。リョウが十二歳の時だった。本や映画で見る動物園や博物館や水族館を見てみたいと思った。

 斯波に「水族館に行ってみたい」とリョウはねだった。その時の男の顔を彼は忘れることが出来ない。斯波は彼の願いを聞いて、いつも愛想の良さそうな顔を歪めた。「え、なんで?」と彼はリョウに聞いた。飼っていたペットが突然喋り出したというような顔で見下ろされ、不愉快なことを言われたような声色で問われた。リョウはそれに萎縮して息が詰まった。そして彼にとって自分が何なのかを読み取り、理解した。男は気紛れで自分の世話を焼いているだけに過ぎないのだと。気に入らなくなったらすぐに捨てるのだろうと。十二歳のリョウは俯いたまま理由を口にした。

「ちょっと、見てみたかっただけです。斯波さんと一緒に、鮫とかシャチとか、見たいなって、思っただけ」

 嫌なら良いです、と言った途端に堪えていた涙がリョウの目から落ちた。床にぱたぱたと、数滴落ちて止まった。斯波は少しの間沈黙して、溜息交じりに「泣くほど行きたいんだ」と言った。

「ごめんね、別に怒ったわけじゃないんだよ。今の仕事はまだ掛かるから、すぐには連れて行けないなって思っただけ」

 男の言葉を聞いて「ああ嘘だな」とリョウは思う。だが口にはしなかった。代わりに約束を取り付けた。

「お仕事が終わってからで良いから、連れてってくれますか?」

「うん、良いよ」

 大きな手がリョウの頭を撫でる。そして数日後には約束通り水族館へと斯波はリョウを連れて行った。大きな仕事を終えて纏まった時間が出来たのか、斯波は水族館へ向かう道中で「数日はのんびり出来るから、他に行きたいところがあったら明日とか明後日にでも連れて行ってあげるよ」と言った。リョウはあれこれと候補を考えて、結局水族館だけにした。

 水族館を二人が訪れたのは閉館時間を二時間ほど過ぎた時だった。斯波が運転するクラウン以外に車が停まっていない駐車場は嫌に広く感じた。リョウは車から降りて入口に足早に向かう。斯波はのんびりと後を追い掛けてきた。受付で二人を出迎えたのは中年の館長だった。

「悪いね、急にお願いして」

 斯波が館長に言うと館長は強張った顔のまま「アンタに言われたら開けるしかないだろ」と言う。

「斯波さん、館長さんと知り合いなんですか?」

「ちょっとね。お金とか貸してあげてるんだよ。だから融通が利くんだ」

 館長は斯波が連れてきた子供を見て首を傾げる。

「アンタ、子供いたのか?」

 中年の問いに斯波は手を振って「あー違う違う。甥っ子みたいなモン」と言う。リョウは取りあえずお辞儀して挨拶する。

「今日はありがとうございます」

 館長は子供好きなのか「良いよ、楽しんでいってね」と笑った。受付で二人が出て来るのを待つというので、リョウと斯波は順路を歩き出した。

 夜の水族館は本当に海の中を歩いているようだった。他に人はいない。魚と水と、二人だけしかいない空間だった。リョウは展示を一つ見るごとに感嘆し目を輝かせ、斯波に解説を読んでもらったり自分の知っていることを聞かせたりした。斯波は嫌がることなく彼に付き合っていた。

 いつまでも歩いていられそうなリョウだったが、長い間部屋の中だけで暮らしていたせいで足の筋肉が殆ど発達しておらず、二十分もすれば疲れて蹲ってしまった。斯波は彼を抱き上げてやる。

「ちょっと重くなったけど、まだ軽いね」

 小柄な子供の体を軽々持ち上げる斯波はそんなことを言う。体格の良い斯波にしてみればそうだろう、とリョウは思った。斯波はリョウが展示を見逃さぬようにゆっくりを歩いた。

 水族館には大きな展示室があった。館内で一番大きな水槽があり、その前にソファが置かれていた。リョウはその柔らかく体が沈み込むソファに座らされた。

「ちょっと休憩しようか」

「うん。斯波さんは?」

「僕はちょっと電話掛けてくる。なんか着信入ってた。少し待っててね」

「分かりました」

 斯波は携帯電話を取り出して通路のほうへと歩いて行った。リョウは大きな水槽を見上げた。二階建ての家くらいあるな、と眺めた。厚いガラスに隔てられた水槽の上部にはライトがあるのだろう。水槽の中を泳ぐ生き物達がよく見えた。小魚の群れや、眠っているらしい大型の魚、流れに身を任せるウミガメ、悠然と泳ぐ鮫達。気付けばリョウはぽっかりと口を開けて見上げていた。

 鮫がガラスのすぐ傍まで来る。鼻面を揺らして牙を口から覗かせている。斯波さんぽい、とリョウは思い、彼はまだ戻らないのだろうかと辺りを見回した。斯波は既に電話を終えて戻ってきていた。何故だが水槽の傍の、暗がりにいて彼を見ていた。影の中に立っていた。まるで知らない男のように見えた。

 斯波はリョウを見詰めていた。顔は見えないが、自分を見ていることはリョウには分かった。彼に何の思惑があってそんなことをしているのかは理解出来ない。もしかしたら隙を見て逃げるのではないかと見張っているのかも知れない。リョウはあれこれと考える自身の思考を止めて、笑顔を作って男に手を振った。恐怖や不安を見ないようにして、自分を攫った男を呼んだ。

「斯波さん、早く来て」

 リョウはこの日のことを、成長した今でも夢に見る。




 斯波の寝室で目を覚ましたリョウは時計を見て驚いた。もう昼を過ぎている。こんなにも寝過ごしたのは久し振りだった。色々とすべき家事があったし、何より斯波に朝食を作れなかったことに思い至って頭を抱えた。世帯主の世話を焼くのが彼の仕事だった。それを殆ど果たせなかった。水族館に行った日の夢を見ると不思議と気分良く目覚めるが、寝過ごした日はまた別だった。

 斯波さんが帰ってきたら昨夜のことも合わせて謝ろう、とリョウはのそのそと起き上がって自室に戻って着替え、起床後の身支度を終えてリビングダイニングに入った。四人用のダイニングセットと二人掛けのソファがある十六帖程度の部屋は少し手狭に思える。だが引っ越しするのかどうかを決めるのは世帯主で、リョウではない。

「お、今日は起きるの遅かったね」

 リョウにそう声を掛けたのはソファで本を読んでいた斯波だった。

「うわっ! なんでいるんですか、仕事は?」

「酷くない? 今日は休んでも構わないって言われたから休むことにしたんだ」

 本を閉じて斯波は立ち上がり台所へ向かう。

「コーヒー飲むけど、リョウ君は?」

「あ、お願いします。ご飯はもう食べました?」

「うん、適当に。あ、ごめん皿洗ってない」

「良いですよ。夕飯の支度の時についでに洗いますから」

 リョウはあまり腹が減っていないので、夕食まで我慢する代わりに時間を繰り上げることにした。斯波に淹れてもらったインスタントコーヒーを冷ましながら立ったままで飲んでいるリョウは、ソファに戻った斯波が自分を見ていることに気付いた。

「どうかしましたか?」

 リョウが訊ねると「髪が随分伸びたなって思って」と返される。確かに最後に髪を切ったのは何時だったかリョウは覚えていなかった。自分の髪を摘まむ。黒い髪を一房持ち上げればそれに付随して毛先が広がる。頬骨の辺りを擽るほど伸びていた。

「伸びましたね。そういえば」

 「斯波さん、髪切ってください」とリョウは頼む。斯波は「床屋に行ったほうが良いよ」と言いながらも透明なゴミ袋を取りに立ち上がった。斯波は何枚かのゴミ袋を切り開いてビニールシートのように広げた。その上にダイニングテーブルとセットの椅子を一つ持ってきて置き、リョウを座らせた。彼の着ているTシャツの首回りにもゴミ袋を巻いて散髪の準備を終える。

 散髪の時、普段は紙を着るための鋏で髪を切っている。斯波は鋏を持ち、開いている手で数度リョウの髪を梳いてから切り始めた。ちょきちょきと単調な音がする。ぱさぱさと髪が落ちる。初めは遠慮がちだったのが、段々自信過剰になっていく。

「変な頭になっても怒らないでね」

 斯波の台詞は彼の手と噛み合っていない。いつも言われるその台詞にリョウはいつも返す言葉で応える。

「貴方しか見ないんだから構いませんよ」

 頭上で嬉しそうな含み笑いが聞こえる。リョウはそれを聞いて安心する。まだ彼は飽きていない。そんなことを思って安堵する。気に入る答えを口にすれば斯波は喜ぶ。リョウが出来る唯一の「芸」だった。家事も炊事も芸のおまけでしかなかった。

「今日、起きるの遅かったね。やっぱり昨日具合悪かったの?」

「夢見が良かったんです」

「夢?」

「斯波さんと水族館に行った時の夢」

「ああ、あったねそんなこと」

 斯波が「なんで行きたいって言いだしたんだっけ?」と聞く。リョウが「斯波さんの顔が鮫に似てるかなって思って」と答える。斯波は「そうかなぁ」と首を捻るが、手を止めることは無かった。

 暖かな日差しが窓から入ってくる。気持ちの良い陽気であることは窓を開けなくても分かった。麗らかな春の午後。部屋の中には髪を切り落とす音が響いている。それがふと止んだ。リョウは何も言わず、頭を動かすことはしない。冷たい金属が自分の耳殻に触れて止まっていても目立った反応をしなかった。

 斯波はリョウの左耳に鋏を当てている。丁度、指を動かせば彼の耳を切り落とす形で、刃が当たっている。リョウは黙っている。散髪を頼むと、斯波はいつもこの仕草をする。男はリョウを傷つけようかどうか、少し悩んでいる。斯波は堪らなく彼に傷を付けることを望んでいる。だがそれを自制している。リョウはその理由を知りたいと思った。

 リョウの項を太い指がなぞる。頸椎を辿り、動脈を探すように指は動く。斯波の大きな手であれば簡単にリョウの首を絞められるだろう。彼は目を閉じて頭を垂れたまま斯波の指の感触に執着する。

 ちょき、と鋏を動かす音が再開される。リョウの耳は無傷だった。リョウは鋏の音を聞きながら、男に耳を切り落とされても構わないと思った。










 真夏の晴天はあまり好きじゃない。リョウはそう思ってベランダへと繋がるガラス戸から離れた。冷房の効いた部屋は涼しいはずなのに、掌にじっとり汗を掻いていた。良く晴れた夏の昼下がり。洗濯物を干そうとしていた彼は踵を返して室内乾燥機へと向かった。気分が悪いような錯覚に襲われるが、乾燥機が回るのを眺めていれば気が紛れた。

 ごうんごうんと回る洗濯物達を眺めていると、ズボンのポケットの中で携帯電話が鳴った。斯波からしか掛かってこない携帯電話。リョウは電話に出た。

『あ、リョウ君? 今ちょっと大丈夫?』

「大丈夫ですよ。どうかしました?」

 斯波は帰宅時間や明日の予定が急に変わる場合に電話してくることが多い。今回もそれだろう、とリョウは予測した。

『仕事が押しちゃってさ、今日は帰るの遅くなりそうなんだよね。夕飯、僕の分はいらないから』

 斯波の声の後ろで男の絶叫が聞こえた。斯波が後ろのほうへ『電話してんだよ、静かにさせとけ』と怒鳴る。

「大変そうですね」

『え? あ、ごめんね。そういうわけだから、先に寝てて良いから』

「分かりました」

 おやすみ、という言葉を残して斯波は電話を切った。仕事中は人格が変わる人なんだよなぁ、とリョウは苦笑いしてしまう。斯波がどんな仕事をしているのかはよく知らないが、「善いこと」で無いことは確かだった。深く追求したいと考えることは無かった。

 最近の斯波はずっと帰りが遅い。夕食を最後に二人で食べたのは五月の終わりだった気がする。忙しい期間が続くことは今までに何度かあったが、此処まで長いのは初めてかも知れない。リョウは漠然とした不安に襲われる。だが不安の正体は分からず、気を紛らわすために家事をする。

 夏物の整理をしようと思い付いた。極論、ずっと部屋にいるリョウは衣替えをしなくても良い。外へ働きに出ている斯波はそうではない。本人があまり服に頓着しないので、リョウがやらなければ彼はずっと裏地の付いたスーツを着て仕事へ行く。下手したら季節ごとにスーツを買い換えている。そして最後にクローゼットは圧迫され、年末に着ないものを纏めて捨てる羽目になる。

 リョウは斯波の部屋へと向かい、クローゼットを開ける。何着かスーツが掛かっているが、全て冬物だった。念のために先週リョウが掛けて置いた一着の夏用が無かった。今日はそれを着て出て行ったらしい。今朝はリョウが起きる前に出て行ってしまったので朝食も一緒に食べることが出来なかった。

 スーツを全てベッドの上に出して奥の衣装ケースを引っ張り出す。半袖のシャツを出しておけば斯波はそれを着ていく。洗濯して、アイロンを掛けておけば十分だろう。冬用のスーツは斯波に頼んでクリーニングに出してもらおう。

 スーツのポケットに何か入っていたら困るのでリョウは遠慮無く探る。早速ポケットから何かが出てきた。派手な色の名刺だった。裏面には事細かにメッセージが書かれている。読んでみると、風俗店らしく生々しいキャストの感想が書かれていた。それを見て固まったリョウだが、一枚だけなら耐えられた。しかしその手の名刺は全てのスーツから複数枚出てきた。そして名刺は全て同じ店のものだった。リョウは混乱した。

 斯波が外で何をしているのかを、リョウは知らない。このところ帰りが遅いのはこの店に通っているからだろうか、と彼は考えた。リョウは斯波に対して家に帰ってきて生活を保障してくれる以上のことを求めてはいない。リョウが心配しているのは、斯波が特定の誰かに心を寄せることだ。斯波が誰かに懸想したとして、リョウの存在が「荷物」になることは明白だった。そうなった時に自分はどうなるのだろう。放逐されるのだろうか。殺されるのだろうか。

 堂々巡りの頭のまま、リョウはクローゼットを片付けてクリーニングに出すスーツや洗濯する必要のあるシャツを持って寝室を出た。乾燥機が仕事を終えたと音を鳴らして知らせている。酷く耳障りに感じた。




 斯波の仕事は人がやりたがらない仕事だった。ヤクザでもやりたがらない仕事を斯波はしている。彼の仕事は派遣の現場監督のようなものだった。呼ばれて行った先で仕事をして帰る。媒酌人のようなこともしたことがあるが、専ら制裁係か身内間の借金の徴収など、幅広く行っている。今は客分として一つの組で働いているが、それも期間限定だ。仕事が終わればまた何処にも属さない嫌われ者に戻る。彼の仕事は酸鼻を極める。


 今日は拉致班が遅れたせいで仕事の時間が押していた。ただでさえ時間の掛かる仕事なのにまた午前様になってしまう。斯波は苛立ちながら山奥の廃墟となったペンションで待っていた。通勤時間が長いのもネックだった。朝食を同居人と一緒に食べられない日が続いている。

 予定の時間より三時間ほど遅れて拉致班が斯波の仕事相手を連れてきた。縛って連れてこられた敵対する組の幹部だという。

「遅い。時間くらい守れよ」

 部屋住みの青年達で構成された拉致班の面々は萎縮してペコペコと彼に頭を下げる。手早く終わらせたかった斯波は手伝い役だけ残るように言って残りは帰らせた。スーツの上着は汚れないように遠くの作業台に置き、シャツの袖を捲る。最近熱くなってきたが服に頓着しない斯波は「衣替え」という単語が思い付かない。両手には医療用のゴム手袋を二重に嵌めた。手伝い役として残ったのは二人の青年と、彼等のリーダーである若いチンピラだった。彼等に命じて男を椅子に縛り付けさせた。

「えーっと、それで、どうするの? 何処までやれば良いの?」

 斯波はチンピラに訊ねる。青年達が椅子に固定された男を交互に殴っている。チンピラは彼に「最後までお願いします」と言った。時間が掛かる、と思った斯波は彼等に男の足の指を全て切り落とすように指示した。そして電話を掛け始める。相手は十年以上の時間を共に過ごしている同居人だった。彼はすぐに電話に出た。

『斯波さん』

「あ、リョウ君? 今ちょっと大丈夫?」

 背後で洗濯機か何かの動作音が聞こえた。

『大丈夫ですよ。どうかしました?』

「仕事が押しちゃってさ、今日は帰るの遅くなりそうなんだよね。夕飯、僕の分はいらないから」

 彼の背後にいる男が絶叫した。斯波は彼等に向かって「電話してんだよ、静かにさせとけ」と怒鳴る。チンピラ達は慌てて男の頭にビニール袋を被せて口を密閉した。

『大変そうですね』

「え? あ、ごめんね。そういうわけだから、先に寝てて良いから」

『分かりました』

「おやすみ」

 リョウは『おやすみなさい』と返す。通話を終える。通話を終えて仕事に戻る。チンピラが「女ですか?」と斯波に訊ねる。斯波は宙を眺めて唸る。

「どっちかって言うとペットかな。最近どんどん僕の好みになってくんだよね」

「見た目が?」

「考え方とか受け答えの仕方。あー、潰したくないなぁ」

「大変ですね」

 斯波は悩みながら電動ドリルドライバーを手に取る。顔のビニール袋を外させて男の顔を眺める。以前、斯波に仕事を依頼してきた男だと気付いたが彼にはどうでも良かった。



 斯波が仕事を終える頃には既に辺りは夜だった。仕事が終わる度に手伝い役はぐったりと消耗しているので、その後のケアをしてやる必要もあった。斯波に頼まれる仕事は普通の人間がやると精神を止む類いのものばかりだった。彼は元から歪んでいるのか、仕事が原因で精神を病んだことが無い。

 慰労会はいつもキャバクラだが車で帰る斯波は酒が飲めないので楽しいと思ったことが無かった。チンピラは手伝い役の青年達に高い酒を飲ませて手っ取り早く酔わせる。後は店の美人に任せておけば良いだろう、という雑なケアの仕方だ。斯波にはどうでも良いことなのでのんびりウーロン茶を飲んでいる。

 柔らかい肉の女が斯波の体に撓垂れかかってくる。甘い香りを纏った女だった。何か喋り掛けてくる彼女に斯波は適当な相槌を打つ。彼女は彼の好みから外れている。

「あんまり楽しそうじゃなーい」

「まあ酒飲んでないしね」

 斯波は無性にリョウの顔が見たくなった。小さな頃は自分で自分の世話が出来る手間の少ないペットだった。彼が時折見せる、居場所を失う不安と恐怖が斯波の胸を打つ。なんだか握り潰したくなってくる。斯波に合わせるように物事を考え、正解を探るように受け答えするリョウがとても好ましい。いじらしくて踏み躙りたくなってくる。

 斯波には生まれついての衝動がある。お気に入りのぬいぐるみは手足をもいでしまう。積み上げた積み木は壊してしまう。好きだ、と思った相手を傷つけたくなる。傷ついて、恐れを持って見上げられたい。相手が死ぬ瞬間、自分の姿をその網膜に焼き付けて欲しい。彼の衝動を向ける今の対象は、幼い頃から見ているリョウだった。

「そろそろ出るか」

 斯波がそう言うと「またあの店に行くんですか?」とチンピラが言う。ホステスが「別のお店って~?」と聞いてくる。チンピラはニヤニヤしながら青年達を叩いて起こすだけだ。ホステスが纏わり付いて引き留めようとしてくる。斯波は立ち上がって彼女達の問いに答えてやる。

「店の子を殴って骨折させても良いような、NG無しの風俗」

 柔らかくて白い手がどんどん離れていく。斯波は誰にも自身が受け入れられないことを知っているので、特に感傷も無かった。



 斯波は結局、家に帰ることにした。もう夜の九時過ぎだがリョウは起きているだろう。仕事帰りは慰労会と風俗で深夜になるが、今日は彼と話がしたかった。彼と話していると孤独が埋められていくような錯覚が出来る。寄り添う飼育動物を可愛がりたかった。

 玄関の鍵を開けて中に入ると、灯りは点いていた。リョウはまだ寝ていないらしい。

「ただいま」

 斯波は声を掛けるが返事が無い。少し進むと脱衣所に灯りが点いているのが見えた。風呂か、と脱衣所の戸を開けて覗くと浴室の扉も開いていた。シャワーや浴槽に満ちる湯が揺れる音が聞こえない。不可解に思った斯波は浴室へと入る。リョウは空の白い浴槽の中にいて、派手な色の名刺を眺めながら煙草を吸っていた。

「コラ」

 斯波はリョウの頭を軽く叩いて煙草をその手から取り上げた。

「ストックしてる僕の煙草を勝手に吸わないでよ。てか、煙草吸っちゃ駄目でしょ」

 君ってたまにこういう悪さするよねぇ、と斯波は煙草を握って消す。試し行動かな、と考えている彼にリョウは冷えた目線を向ける。リョウは名刺を持ち上げて彼に見せた。「店の子を殴って骨折させても良いような、NG無しの風俗店」の名刺だ。

「このお店、どういうお店なんですか?」

「・・・・・・リョウ君にはあんまり関係無いお店」

「いかがわしいお店の名刺、なんでこんなに沢山あるんですか?」

 リョウは「好きな人でもいるんですか?」と言って膝を抱える。

「でも、無節操過ぎませんか? 男の人もいるんですね」

 斯波はやさぐれているリョウに「怒らないで聞いて欲しいんだけど」と前置きしてから言った。

「それね、全部リョウ君の代わりだよ。君に似てる子を選んでた」

「そ、それは、あの、お、俺と、その、そういうことがしたい、ということで良いんですか?」

 リョウの問いに「うん、まあ、そんなとこ」と斯波は返した。挙動不審になるリョウを彼は浴槽から引っ張り上げる。

「夕飯はもう食べた?」

「いえ、まだですけど・・・・・・」

「僕も」

 頭の中が混乱しているリョウは斯波に言われるがまま食卓へと向かった。


 今日の夕飯は冷凍食品のオンパレードだった。餃子に唐揚げ、インスタントのわかめスープ。ご飯を炊いていなかったので冷凍の炒飯を出した。無言が充満するテーブルに気まずくなって斯波はテレビを点けた。運悪く、犯罪特番だった。この時期になると決まってやっている三時間の特番。その中で取り上げられるのはリョウのことだ。

 テレビの中では当時のニュース映像が流れる。悔やんで泣き叫ぶ母親、声を震わせる父親、近隣の人々。リョウはそれに対して反応しない。子供の頃は観た後に怯えて斯波に引っ付いていたが、もうそんなことはしない。「ああまたか」という顔をするだけだ。斯波はぼんやりと眺め、そしてビールを一口飲み、静かに告げた。

「君が出て行きたいって思うなら、出て行って良いよ」

「・・・・・・は?」

「そろそろ君を手放さないとなぁって、最近思うようになったんだ」

 年かな、と斯波は言う。先程から男はリョウと視線を合わせない。それが酷くリョウの勘に障る。斯波は手の中のグラスばかり見ている。

 リョウは荒げそうになる声を抑えて言う。

「なんで、そんなこと言うんですか」

 斯波は少し逡巡して言いたく無さそうな顔で答えた。

「この頃毎日、君に酷いことしたくなっちゃって」

 いまいち意味が良く分からなくてリョウは「えぇ?」と困惑する。胡乱な斯波の目が漸く彼を見る。

「僕、砂の城が完成したら壊す奴なんだよね」

「どうしてですか?」

「嬉しいし楽しいから」

「こ、怖・・・・・・人格歪み過ぎでしょ・・・・・・」

 斯波がロクな人間ではないと思っていたリョウだが、改めて開示されると嫌悪が募る。「僕もそう思うよ」と斯波はビールを飲んで嘆息した。

「最初は懐いちゃって可愛いなーって思ってたんだけど、なんかどんどん僕の好みになってくんだもん。そんなの、欲しくなっちゃうじゃないか」

「今まで俺は貴方にとって何だったんですか」

「犬かなんか」

 あっさりと答える斯波の顔にリョウはコップの中の麦茶を掛けてやりたくなったが我慢した。堪えて冷静に話そうとする。

「貴方、俺のこと手放したいんですか?」

 低く硬い彼の声に斯波は困った顔で笑みを作る。

「一から作った好みの相手を手放すのは凄く惜しいけど、君が僕を嫌いになったなら仕方ないよね」

 その斯波の言葉に、とうとうリョウは自制を止めた。堪えていたものを噴き出した。目の前に座る男を、初めて睨みつけた。

「俺を見捨てるんですか? 今更? 俺をここまでにしておいて、放り出すんですか?」

 今にも口から火を吹きそうなリョウに斯波は「君は何処でも生きていけるから大丈夫でしょ」と宣う。リョウは立ち上がって彼に詰め寄った。自分より体格の良い男の肩に何度も平手を振り下ろす。

「俺が! それを許すと! 思ってるんですか!? 馬鹿じゃないですか!? 今更捨てるなよ! 俺が欲しいって言えよ!」

 無抵抗で叩かれていた斯波はリョウの手を掴んで止めさせる。力が強くて痛みが走る。斯波は腕力に物を言わせて彼を跪かせる。それから獣のような顔をしてリョウに問うた。

「僕が『欲しい』って言ったら、君は僕のものになってくれるの?」

 これが斯波の「素の姿」なのだとリョウは理解した。人を跪かせて見下して、他者の命を握っていたい男なのだと。恐れよりも怒りが勝るリョウは彼を睨み上げる。

「良いですよ。元々そうだったでしょうが。忘れたんですか?」

「君に酷いことしたいって、言ったよね?」

「程度にもよりますが、ある程度なら俺は構わないです」

「僕のことが嫌いになるんじゃないかな」

「好き嫌いのレベルなんかとっくに越えてるじゃないですか。そもそも、俺を攫ったのは斯波さんなんだから」

 斯波は「そうだね」と言い、力を緩めた。リョウの手首には痣が残った。リョウは床に座り込んだまま赤黒い痕を摩る。

「酷いことって、具体的にどういうことですか?」

「そうだなぁ、取り敢えず君の痛がってたり苦しそうだったりする顔が見たいから、殴るとかかな」

「・・・・・・日常生活に支障を来さない程度に留めて欲しいんですけど」

 リョウの希望に斯波は「うーん」と唸る。「なるべく傷にならない方法を考えなきゃね」と真剣に言う。「この男は本当に性根から歪んでいるのだな」とリョウは思った。

「じゃあお店の子みたいに、別の方法でしよっか」

「別のことってなんですか?」

 リョウの質問に斯波は答えなかった。

「ご飯食べてから話すよ」

 斯波の手が彼の頭を撫でる。いつもの優しさだけとは違う、頭蓋の固さを確かめるような撫で方だった。



 薄々気付いていたが、リョウは斯波の寝室で、暗い部屋の中で彼の寝台に座らされて、遂に確信した。食事を終えて片付けもして、入浴も済ませれば寝室に呼ばれた。斯波の行っていた店は風俗店で、自分も同じようなことをする必要がある。その手のことは創作の中でしか知らないリョウは頭の中が真っ白だった。寝台に座った斯波に背後から抱え込まれて身動きが取れない。斯波は着替えもしていないから、彼の着ている服から雑多な匂いと共に血の匂いがしていた。

「ひっひどいことって、これですか?」

「まあね。これも相手の酷い顔見られるし」

 「これも嫌だって言われたらどうしようもないんだけど」と斯波が言う。リョウは「たぶん、平気です」と返した。

「どうしたら良いのか、分かんないんです」

「別に良いよ。泣いたり叫んだりしてくれたら僕は満足だから」

 メロドラマ風に言えば今から「肌を重ねて愛し合う」ことになるのだが、斯波の言動が不穏だった。リョウは彼の妥協を無駄にする抵抗はすまい、と硬直する。斯波は彼の様子に喉を鳴らすように笑った。

 顔の輪郭を辿るように斯波の唇がリョウに触れる。首筋にも軽く歯が当たる。息が肌に当たると変に心臓が跳ねた。「しばさん」と不安げな声がする。「どうしたの」と斯波は答えながらも手を止めない。リョウが「こわい」と言えば「だろうね」と返す。

 リョウは服を脱がされて、ベッドに仰向けにされる。ぐに、とリョウの口唇に男の親指が当てられる。軽く力が込められたので大人しく口をそっと開けた。指が口の中に入ってくる。歯列を確かめ、下顎の骨の形を確かめるように斯波は指を動かす。リョウの舌が控えめに彼の親指を舐める。真上にある斯波の顔は愉しげだった。

 斯波の空いているもう片方の手はずっとリョウの肌を撫でていた。その手が徐々に下へと降りていく。性器に触れられてリョウの体は思わずびくりと跳ねた。リョウは自慰をしたことが殆ど無い。家の中で過ごしていてもその手の話題は創作物の中にしかない。処理の仕方が分からない。自分でも殆ど触れたことの無い場所に他人が触れている。冷たい手の感触に呻く彼の顔を斯波は観察している。

 口から指を抜いて代わりに口付けが降ってくる。正解が分からないリョウは彼を受け入れて、手を大きな背に回す。どうして自分だけ服を脱がされているのだろうと思った。斯波のシャツの襟を引っ張る。軽く触れていた唇が離れて「なに?」と聞いてきた。

「なんで、俺だけ裸なんですか」

 貴方も脱いで、とリョウは言う。仕方が無いと斯波は一度体を離して服を脱いだ。再び唇が触れて、手を回せば筋肉が隆起する肌に触れた。

 キスが深くなっていくにつれて性器に触れる手も熱を帯びてくる。緩く立ち上がった性器を扱きながら斯波はリョウの舌を甘く噛んで吸う。吐息混じりに自分が変に高い声を上げていることに、リョウは気付いたが止め方が分からなかった。

「う、ぅあ、は、あっ、あっ」

 ゆっくりと彼が絶頂に向かっていくのを斯波は面白そうに眺めていた。日に当たらないせいで血色の悪い彼の肌が赤く紅潮していく。羞恥と快楽が綯い交ぜになって顔に出ている。

「もうそろそろでイきそうだね」

 耳元で囁く男の声にもリョウは喘ぐ。先走りで斯波の手は濡れている。指の腹で亀頭を擦られて、短い悲鳴を上げてリョウは果てた。薄い腹を引き攣らせて激しい呼吸を繰り返す。斯波は「溜まってたね」と笑っている。彼は満足したのだろうか、とリョウがぼんやり考えていると「よいしょ」と声がした。斯波がリョウの足首を掴んでいた。筋肉が殆ど付いていない彼の足は棒のようだった。きょとんとしていると斯波は自分の体を開かせたリョウの足の間に入れる。そして濡れた手で彼の性器を撫で、その下に触れた。自分の体内に指が入れられることにリョウは戸惑った。

「えっ、ちょ、斯波さん!」

「こっから本番だから、もう少し頑張ってね」

 ぐう、と後穴に入り込んでくる指の圧迫感にリョウは目が回る。馴らすように指が動き、性急に二本目の指が入ってくる。嘔吐く彼を斯波が笑っている。くつくつと愉しげな男を睨みつけるリョウだが、三本目が入ってきた時は苦悶の悲鳴を上げてしまった。斯波が声を立てて笑う。リョウの目から出た涙を斯波は舐め取り、痛がる彼の口に口付ける。舌や唇が触れる感触だけが斯波に与えられるもの中で唯一気持ち良くて、リョウは縋り付いた。

 酸欠と痛みで咳き込んでいるリョウの中から指が出て行く。股の間に大きな穴が空いている気分だった。息も絶え絶えに彼が男の名前を繰り返し呼ぶとその度に「うん」と返事が返ってきた。指の代わりに何かが其処に当てられる。斯波の陰茎だと気付いてリョウは「うぅ~」と泣き出す。陰茎は構わず彼の隘路に押し込まれた。リョウは背を反らして痛みに喘ぐ。「いたい」と訴える度に斯波の興奮が増していくのが分かった。長大な陰茎が全て押し込まれる頃になると、リョウはぐったりとして殆ど反応を返さなくなる。

 斯波の両手が骨の浮いたリョウの腰を強く掴んでいる。陰茎を引き抜き、再度押し込まれても鈍い悲鳴が上がるばかりだった。リョウは苦しくて堪らない。彼の性器は萎えていて、顔は体液に塗れて酷い様相を呈していた。斯波の律動で内臓を圧迫されて息が苦しかった。

「リョウ君、今にも死にそうだね」

「うぅ、うぇ、ゲホッ! は、ぎッ、い、いたい・・・・・・」

「痛くしてるからね」

 深く陰茎を突き入れられてリョウの口から長い悲鳴が飛び出す。斯波の笑い声が聞こえた。ボロボロと涙を流して顔を顰めているリョウを宥めるように、斯波は柔らかい口付けを短く何度も繰り返した。硬い腹の中はどうしても軟化しなかった。

「リョウ君。悪いんだけど俺、酷くしないとイけないんだよね」

「え、ぁぎ、あ、な、なに、今、し、してるじゃ、ぐぇ、ない、ですかっ」

「そう言わず、僕に付き合ってよ」

 斯波が大きく口を開けたのが、涙に煙るリョウの視界でも見えた。肉食獣のように見えた。斯波はそのままリョウの肩に嚙み付く。かなり強い力で。歯が皮膚を食い破る音が聞こえた。リョウは絶叫する。斯波の手が爪を立てる。内臓を突き破る勢いで犯される。リョウは抵抗し、斯波の背を引っ掻いたが逃げられなかった。腹の深いところに精液が掛けられたのを感じた。漸く、斯波はリョウの肩から口を離した。血が出ていた。

 漸く終わった責め苦にリョウは疲れ切っていた。寝台の上に伸び切って、体の不快感に眉を潜める。斯波は陰茎を引き抜き、体を離して彼の頭を撫でた。

「僕のこと、嫌いになった? リョウ君」

 彼の問いにリョウは掠れた声で答える。

「俺が許したんだから、嫌いになったりしませんよ」

 斯波は「良かった」と言い、彼の体を拭うためのタオルを取りに行った。リョウは寝返りを打つ。腰に鈍い痛みがある。後を引く痛みの中でリョウは安堵する。これで居場所を失わずに済むと彼は思い、戻ってきた斯波に微笑んで見せた。




 夜明け前の、夜闇が一番深くなる時間。ふと目を覚ましたリョウは斯波の腕の中からそっと抜け出し、寝台からゆっくりと降りた。衣擦れの音がしたが斯波は目を閉じたままだった。リョウは床に落としたタオルケットを体に巻いて寝室から出て行くとひょこひょこと不安定な足取りでベランダを目指した。薄暗い廊下は灯りがなくても歩いて行ける。ベランダと室内を隔てたガラス戸のところまで行く。そして鍵を開けて、ベランダへ出た。

 暗闇の中に広がる街並みが見える。人の営みが疎らな光となって所々に見える。夜の遅い時間帯で、古いベッドタウンで暮らす人々は眠りの中にいる。夜の空は晴れているのに星が見えない。不思議だなと思うリョウの素肌を温い風が撫でていく。斯波が残した痕に塗れた肌に湿度の高い外気が染みる。

「『・・・・・・森はまことに美しく、暗く深い。だがわたしにはまだ、果たすべき約束があり、眠る前に、何マイルもの道のりがある。眠る前に、何マイルもの道のりがある』」

 少し前に映画を観て知ったアメリカ人の詩を諳んじてみる。映画も面白かったし、その詩も気に入ったリョウは詩集を買って貰って何度も読み返して覚えた。これは自分達のことだと、リョウは思っていた。自分と斯波のことだと。

「風邪引くよ」

 優しくて無機質な斯波の声が背後から掛けられる。振り返れば眠たそうな顔で男が立っていた。斯波もベランダへ出てきて、リョウの隣に立った。

「窓辺で詩を口遊むって、映画の中でしかやらないと思ってた。やる人いるんだね」

 斯波が茶化すような言い方をしてもリョウは気にしなかった。リョウは自分達の末路がどんなものなのか想像して、あまりにも酷い末路しか思い付かなかったので胸のうちが穏やかで冷たい諦念に満たされた。きっと自分とこの男は幸せな結末を迎えることは出来ない。そんな気持ちで満ちていた。

「この詩の、さっきの部分しか覚えてないんです。なんだかすごく、俺達に似合ってる気がして」

「そうかな。そんな綺麗なの柄じゃないと思うけど」

「俺達もおんなじじゃないですか。俺も斯波さんも、死ぬ時はきっと酷い死に方をするって決まってて、でもそれはまだ先にあるんです。償わなきゃいけないことも、罰も、きっと俺達にはある」

 「まだ先でしょうけどね」とリョウは笑う。斯波はそれに欠伸混じりに返事をする。

「よく分かんないけど・・・・・・その長い何マイルの余命を楽しむことだけ考えて生きていくほうが、多分有意義だよ」

「それもそうですね」

 斯波がリョウを寝台へと促す。彼は男に従い、連れ立って寝室に向かう。深い夜の中へと戻っていく。二人しかいない、二人だけでしか分かち合えない暗がりの中へと戻っていく。

 窓の外に広がる遠い生活の光は、もしかしたら自分の本来の居場所なのかも知れない。そう思っても、リョウは最早懐かしむだけだった。


















終わり



文字数:21,700字


引用

川本皓嗣 編 (2018). 対訳フロスト詩集 アメリカ詩人選(4) 岩波文庫

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雪の夜、森のそばに足を止めて 十二月三十一日 十三 @nicola731

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