秋の遠足 - 栗拾い -

宇佐美真里

秋の遠足 - 栗拾い -

バスの、ちょうどまん中ほどの座席に、

きんちょうしながらボクは座っていた。今日は遠足。

秋の遠足はバスに乗ってのクリ拾いだ。

春の遠足には歩いて、学校のそばの河原に行った。


本当のコトを言うとバスは苦手。

乗っているうちに、いつも気持ち悪くなる。

でも今日は、そうもいかない!


となりの座席に、サクライさんが座っているからだ。

サクライさんはクラスでも、スゴくおとなしいオンナのコで、

あまりボクも話したコトはない。


サクライさんも、ボクといっしょでバスが苦手らしくて、

去年の秋のバス遠足で、気持ち悪くなっちゃったので、

バスの席順を決めるトキに、

みんなイヤがっているのがよく分かって、かわいそうだった。

でも、ボクにとってはラッキー!

本当はカッコ悪いけれど、

ボクはいつも乗り物に弱いって言っているから、

ボクと座りたがるヤツもいない。

いつもいっしょに遊んでいるタケシも、

とっととマツイのとなりに座るコトになっていた。


バスが発車して一時間も経つと、

サクライさんはもう具合が悪そうだった。

ただでさえまっ白な顔が、どんどん白くなってすき通るみたいだった。

「だいじょうぶ?」ボクは聞いたけれど、

「うん…平気。ありがとう」

小さくそう答えるサクライさんの声は、全然だいじょうぶじゃなかった。


「しゃべっていた方が、気持ち悪くならないよ?」

そうボクは言ったけれど、やっぱりサクライさんは辛そうだった。

残念だけど、ボクはだまって

サクライさんの向こうがわの窓ガラスに

映っては消えていく景色をながめていた。

ボクも本当は、全然平気というワケじゃなかったから…。


サクライさんはじっと目を閉じたまま、時々小さくせきこんだりした。

「本当にだいじょうぶ?」

そう聞こうかと思ったけれど、ボクはだまったままでいた。


それからしばらくして、ようやく目的地に着いたけれど、

サクライさんは「気分が悪いんです…」と先生に言って、

バスの中で休んでいるコトになった。

心配だったけれど、ボクはサクライさんをバスに残したまま、

クリを拾いにみんなと一緒にバスを下りた。


クリはそこいら中に、いっぱい落ちていた。

みんなはしゃぎまわっている。

「いが」のついたクリを友だちに投げるヤツ…

落ちている毛虫をぼう切れの先に引っかけて、

イヤがるオンナのコを追いかけて喜んでいるヤツ…。

おっかなびっくり、「いが」からクリを引っぱり出そうとするヤツ…

みんな楽しそうだったけれど、

ボクはやっぱりバスの中にひとりで休んでいる

サクライさんが気になった。


どうしても気になったので、

ボクはバスの方にひとりでもどって行った。

バスの中ではバスガイドさんと運転手さんが笑いながら話をしている。

ボクがバスの入り口の階段を上って行くと

「おや?どうしたんだい?」と

運転手さんが先に気がついて聞いた。

「あなたも具合が悪いの?」

続いてバスガイドさんも声をかけてくれた。


「だいじょうぶです」

ボクは、クリでいっぱいになった袋をかかえて、

落とさないように注意しながら、バスの奥に進んで行く。


バスの座席でサクライさんは

ぼーっとしたまま窓の外をながめていた。

窓の外では、遠くでクラスメイトのみんなが走りまわっている。

「サクライさん…」

声をかけるまで、サクライさんは全然気がつかなかった様子で、

ボクの声に小さくビクッと肩をすくめた。


「バスの中じゃ、つまらないかなぁ~と思って…。

 せっかくだからクリいっぱい拾って来たよ?!」

そう言って、ボクはかかえていたクリの袋を差し出した。


「えっ?」

サクライさんはおどろいた様子で聞き返す。

「クリ拾ったんだけど…あんまり好きじゃないんだよね…。

 これサクライさんにあげるよ…せっかく来たのに

 一個も持って帰らないなんて、つまらないでしょ?」

ボクはウソをついた。クリは大好きだった。


少しの間、サクライさんはだまったままでいたけれど

「ありがとう…。チバ君ってやさしいね」とニコッと笑って言った。


ボクは自分の顔がまっ赤になるのが分かって下を向いてしまった…。

サクライさんのまっ白だった顔も、

少しだけ赤くなっていて、元気を取りもどしたみたいだった。


ボクはとなりの席に座って、二人でしばらく話をした。

今まで教室では、おとなしくてほとんどしゃべったコトがなかったけれど、

サクライさんって、意外とよく笑うオンナのコなんだと初めて分かった。



「これ、クリのお礼にあげる…」

サクライさんはリュックの中から、何かをボクに差し出した。

それは…。




帰りのバスでは、また少し辛そうだったけれど、

それでもボクと話しながら、何度もサクライさんは笑っていた。



ボクは拾ったクリを全部サクライさんにあげてしまったので

「あんた、何しに行ったの?」と帰って、お母さんに言われたけれど、

ポケットの中には…、ボクの好きな、

イチゴ味のキャンディーが、三つも入っていた…。



-了-

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