令和6年9月終盤某所にて

「御屋形様、最近食事の質が質素に過ぎませんか」

「どうした急に」

「もしや物価上昇やお米の買い占め騒動が関係しているのでは」

「関係ないぞ。そもそも忍者の食事は質素で済むようにしているからな。兵糧丸ひょうろうがんとか芋がら煮とか」

「兵糧丸じゃ腹はふくれないんですよ! せめてグミをくれ!」

「学生か」

「芋がらとか草じゃないですか! 埼玉県民じゃあるまいし食ってられるか!」

「埼玉の皆さんに謝れ」


「とにかく、お腹がペコちゃんなんですけど」

「それが忍者の鍛錬の一つなんだけどな。まあ、いいや、じゃあ何が食べたいんだ。思いつく最高のご馳走言ってみろ」

「ツナ缶」

「即答でそれって本気かお前。漁港にいる猫か何かか」

「ほ……本気じゃないですよ! 嫌だなあ御屋形様。ツナ缶に……」

「……」

「マ……マヨネーズを和えた奴です! ウッヒョオオオオ! パーティだぜ!」

「そんなに目が輝かせてまで言う食い物なのか。……なんかすまんな」


「でも御屋形様、ツナとマヨネーズって合うとおもいませんか?」

「まあなあ」

「ツナを一番おいしく食べるならマヨネーズ、マヨネーズを一番おいしく食べるならツナ。そういう互いにとって最高のパートナーなんですよ!」

「そこまで言うか」

「ホームズとワトソン、ウッディとバズ、マリオとルイージ、星野源と綾野剛、そんな関係なんですよ! ツナ&マヨは」

「ユニット名みたいに言うな。じゃあお前がツナだとしたらマヨはなんなんだよ」

「私にとってのマヨ……? それは、お……お……」

「なんだ? まさか俺だとか言うんじゃねーだろうな」

「いえ、御屋形様はおしょう油くらいです」

「まあまあいい線行ってるじゃねーか。それで、何なんだ」

「お……お米です!」

「だから学生か。わんぱく中学生か」


「ああ、もう我慢できません。失礼します! ツナマヨご飯いただきます!」

「ええ……。お前人ん家で……。まあ好きに食えばいいけど」

「ツナ缶あった! これを開けてあとはマヨを……あれ?」

「ん? どうした?」

「御屋形様! マヨネーズがありません!」

「あー、切れてた? ごめんごめん。そういや買わなきゃなーって思ってたんだわ」

「なんてことを……。なんてことを……。腹を切れ!」

「そこまでの事か。てか忍者は切腹しちゃダメだろ」



「すっかりツナマヨ気分だったのに……」

「なんかすまんな。そこまでガッカリされると責任感じるわ」

「心のプルトップをふいに引っ張られて、胸にパカンと大きな穴が開いた気分です。ツナ缶だけに」

「やかましいわ。割と余裕あるじゃねーか」


「この喪失感は私だけじゃない! 御屋形様はツナ缶の気持ちを考えて無いんですか!」

「また変な事言い出したな」

「いつも一緒に戦ってきたマヨネーズが今はもういない。俺の右隣にいたマヨが。ああ、マヨ……。どこにいってしまったんだ」

「スーパーにいるぞ。コンビニにも」

「マヨへの想いを込めて歌います。聞いてください。プリンセス プリンセスで『M』」

「MはマヨネーズのMじゃねーよ! 岸谷香さんに謝れ」

「いつも一緒にいたかった……」

「プリプリのファンの方にも謝れ」


「私も~」

「フルコーラス歌いきってんじゃねーか。クソッ、俺がマヨネーズを切らしていたばっかりに名曲が……」

「スッキリしましたー。ツナ缶も歩き出せるといいですね」

「いいですねじゃないが」

「ああ、歌ったら余計にお腹が……」

「自業自得だ。仕方ないな。メシ食い行くか。なんか悪いことした気分だから、今日はお前の好きなとこ連れてってやるわ」

「本当ですか! ファミレス! ファミレス! あ! ドリンクバーが無きゃダメですからね! うおおおお、ちょっと着替えてきます。ではドロン!」


「ドロンてお前……って、ああ、もう行きやがった。……腕はいいのになあ」

「それにしても、ファミレスでそこまで気合入るのか」


「……デザートもつけてやるか」


おしまい

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くノ一探偵帖 吉岡梅 @uomasa

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