3ー6
赤井はカップの水を飲み干し、制服のスカートのポケットから出したミンティアを開いた口の上から流し入れ、それを噛み砕いた。
『せっかく入部したんだし、役割がないってのも可哀想だろ?ちょっとそこに座って読んでみろよ』
赤井は黒川先輩が座っている席に向かって顎をしゃくる。いちいち動作が粗雑で不快である。
「そんなこと言ったって、マイクはそれひとつしかないだろ。
あ、でもふたつあれば喋りますよという話ではなくて」
俺が反論する前に、黒川先輩はどこかで見たことがあるような黒と銀のケースから、2本目のマイクを取り出し始めていた。
「なんでそんなに準備がいいんですか」
「最初から九条には話してもらおうと思ってたからな。赤井のライブ観に行ったんだろ?ノリノリでコールまでしてたらしいじゃないか」
「待ってください」
俺は今、冷静さを欠こうとしていた。
ノリノリでという言には語弊がある。それではまるで俺が自主的にライブを盛り上げようとしていたみたいではないか。
「アマゾンの奥地に住まう部族の祭事にムリやり参加させられたみたいなものですよ」
「なんだと?」
赤井は、そんな俺の失礼な返答に眉を顰める。
「アマゾネスのお祭りみたいで興奮したなんて、さすが武蔵国の種馬だな」
「古風なら蔑称が許されるわけじゃないからな」
ちなみに我らが父は球界のお騒がせスタリオンと噂されているため、二代に渡ってとなると、もうそれはそういう血統だということになってしまう。
「インブリードぎみだしな」
「ぶっ殺すぞ混雑種。というかなんで考えてることがわかんだよ。───もしかして思考盗聴か?」
「おお、お前もあたまにアルミホイルを被る側のだったんだな。よしよし、九条こそこの陰謀論者のコーナーを背負うのにうってつけじゃないか」
しまった。赤井の巧妙な罠、心理誘導だった。
「んじゃ決まりだな。嬉野、音声の設定はそのままでいいから」
急にテキパキとしやがって。当てつけか?
「すご、まさか九条家からラジオパーソナリティが排出されるなんて。ほら、先輩たちも期待してくれてるんだから」
グッバイ・ベースボール 七つ味 @nvs6exvs42n
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