今時のあの界隈

@HasumiChouji

今時のあの界隈

「じ……ぐぇ……るぁ……るぇ……りゅ……ろ……ぼ……の……づぁ……ぐぁ〜〜〜っ‼」

 俺はスマホで警察に助けを求めたが聞こえてきた声は、それだった。

 どうやら、「逃げられると思ったか」と言いたいらしい。

「ああ、やっぱりね……」

 俺達を「心霊スポット巡り」に誘った大学のサークルの阿呆先輩パイセンは、真っ青になってるらしい俺の顔を見てそう言った。

「『やっぱり』って何ですかっ⁉」

「どうも、心霊現象では、よく有る事らしんだよ。原理は良く判んないけど……悪霊だか何だかが、電子機器を狂わせたり、自由に操ったりするなんて、結構、ありふれた事みたいだ」

「あの……まさか……」

「そうそう。心霊モノの映画やドラマの御都合主義展開で良く有るだろ。『心霊現象が起きてるんで、助けを求めようとしても、何故かスマホが通じなくなる』ってのが……。あれは……ある意味で真実を描いているんだよ」

「冗談じゃない。みんな、俺の車で逃げるぞ」

「ボクはいいよ。ボクは、この興味深い現象を最後まで観察するとしよう。君達だけ逃げな」

 元凶の先輩パイセンは、呑気にそう言った。

 ああ、そうするよ。土下座して頼まれようが、金を積まれようが、あんたのせいで、こんな目に遭ってる以上、あんたなんか助けるか。


 俺達は車に乗った。

 ホラー映画に有りがちな展開とは違い、スムーズにエンジンがかかり……。

 そこそこは走ったけど、逃げ切れた自信はイマイチと云う中途半端な辺りで、スマホの着信音。

「はい」

『あ、そうだ、言い忘れたけど……君の車って新車だっけ?』

 元凶の先輩パイセンからだった。

 でも、何で、今回は普通に通じてんだ? まぁ、いいや。

「はいはい。悪うございましたね。クソ金持ちの親に買ってもらった新車で」

『ところで……最近の車って、実はコンピュータ制御だって知ってた? ハンドルやアクセルやブレーキも……実は、一度、電気信号に変換してるって……』

 何が言いたいんだ、この人は?

「それが、どうかしま……えっ?」

 アクセルを踏んでないし、ハンドルも変な操作なんてしてないのに、車がデタラメな方向に急加速。

「テメェ、悪霊と先輩パイセンのどっちだ?」

『もうすぐ死ぬのに、そんな事を気にして何になる?』

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