「僕たちのルーツ」
小箱エイト
「僕たちのルーツ」
『カタログの中にパパはいたんだって。それってね、秘密の場所にあるんだよ』
はじめは、妹のレイが話すことなんて、友だちから聞いた、作り話だろうと思っていた。
今日、クラスメートのキヨミの家に行かなければ、思い出すこともなかっただろう。
僕とレイとママとママ。これが僕の家族だ。
ママたちは大恋愛の末に結婚し、やがて僕とレイが生れた。僕の家族は仲がいい。
パパはいないけど、特に問題なんてないと思っていた。
キヨミの家には、ママがいて弟がいて、そしてパパがいた。
キヨミのママはお腹が大きく膨らんでいた。もうすぐ新しい兄弟が生まれるらしい。
キヨミがパパとママの愛の結晶だなんて笑うから、じゃあ、僕とレイもママとママの愛の結晶だね、と答えた。
「本気でそう思ってるの!?」
怒るような、責めるようなキヨミの声に、僕は黙って頷いた。
「あのねー」
キヨミは溜息をつくと、決心したように僕の目を見て言った。
「友達だから、ちゃんと教えてあげる。いい? 一度しか言わないわよ」
キヨミは僕に耳打ちをした。
キヨミの家からの帰り道は、とても、とても長かった。
頭のなかが混乱していたけど、何か聞き間違いしていたかもしれない。
明日もう一度、キヨミから話を聞いてみよう、と気持ちを強く持ち直した。
思いっきり元気に「ただいまー」とドアを開けた。
「おかえりぃー」
「おかえりなさーい」
「おっかえりーな」
三種類の声が返ってきた。
みんなはキッチンで夕食の支度をしていて、芳ばしい匂いに包まれている。
二人のママから頬にキスを、妹のレイからは、ぎこちないウインクをもらった。
陽気な Jママは、鼻歌まじりでスープを仕込み、 Nママはサラダのためにトマトを均等に切り分ける。
レイはステーキの皿をカウンターに並べる。それはいつもと変りない光景だ。
僕は上着を脱ぐと、洗面所で手を洗い、うがいをした。
僕とレイは年子で、 Jママは僕を、Nママはレイを産んだと聞いている。
そして僕たちは、ママとママの子供。
僕の家にはパパがいない。写真もない。思い出も、ない。
だけど、キヨミのいうことが本当なら、僕とレイにもいるはずだ。
『カタログの中のパパ』
そう言ったレイは、もう理解しているんだろうか。僕のなかに引っかかっているものを。
JママとNママは愛し合っている。キヨミはパパとママが愛し合って生まれた。
JママとNママとカタログのパパ……。
僕は頭痛がしてきた。
「リュウキ! ゴハンだよ~」
Jママが僕を呼びにきた。鏡に映る二人。つい、目を反らしてしまった。
「みんな、おなかペコペコ」
屈託のない笑顔で、僕の顔を覗き込んでくる。
彼女の琥珀色の瞳は、僕と同じだ。
僕は、とりあえず夕食をとることにした。
「僕たちのルーツ」 小箱エイト @sakusaku-go
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