逃避行の行き着く先
早瀬茸
第1話
どれくらい逃げてきただろうか。
少年は、ふとそう思い後ろを振り返って見た。そこには何万キロメートルの砂漠地帯が広がっているだけだった。草木も無く、生物もいない。ましてや、液体と呼べるものがあるはずもなかった。なのに、少年が村から持ってきた水筒には水が一滴も残っていなかった。
「僕、ここで死んじゃうのかな…。」
少年は自分でも気づかぬうちにそう声を発していた。
「…もっと、色々やりたいことあったのにな。」
少年は仰向けに寝そべりながらそう言っていた。
「村のお医者さんや先生、商人、…それから父さんがやっていた本を書く仕事もやってみたかったな…。」
少年はそう言いながら、村での生活を思い出していた。村は活気にあふれ、それなりに繁栄したところだった。お偉いさんがたびたび村に現れ、親たちと話していることもあった。皆、楽しく過ごしていて、笑いの絶えない村だった。…なのに、どうしてこうなってしまったんだろう。
「…ある日、外で友達と遊んでいるところに見たことの無い背の高い人が現れたんだよな。」
その背の高い人は「この村で一番偉い人は誰かな?」と聞いてきた。ので、僕たちは村長がいる場所に案内した。
「…あれが、間違いだったのかな。」
村長と背の高い人は長い間話し込んでいた。1時間、2時間くらいだっただろうか。
そのくらい経った後に、急に大勢の兵士が村に攻めてきた。そして、その兵士たちは見たことも無い武器を使い次々と村人たちを殺していったのだった。
「…初めて見る武器だったな。」
それを見たお父さんは裏口を指さしながら僕に、「いいか?お前はこの方角にまっすぐ逃げるんだ。少しでも左右に振れるんじゃないぞ。分かったか?」と言い、僕はその言葉にうなずきを返した。
それを見たお父さんは「よし、良い子だ。」と、頭をなでながら言った。が、その瞬間家の中にその兵士たちが入ってきていた。
それを見たお父さんは、「早く行け!」と、僕に叫んだ。
「…お父さんのあんな声は初めて聞いたな。」
その後、僕は一目散に逃げていた。聞いたことのない何かが破裂するような音、村人の泣き叫ぶ声、何かが倒れるような音、などを背後に聞きながらそちらを向かないようにして、ひたすら逃げていた。
「…見ていた方が良かったのかな。」
あの時、なぜか見てはいけないと思い、逃げている最中に村を見ることはなかった。…恐怖心が好奇心に勝っていたからだったのかもしれない。それか、ただ単に逃げることで頭がいっぱいだったからかもしれない。
でも、音や声だけは確かに聞こえていた。
「…まあ、今更考えてもどうしようもないけど。」
そして、時間も忘れて逃げているといつのまにか、この砂漠地帯に着いていたという訳である。
「…砂漠ってこんなに広いんだなあ。」
少年は村からこんなに遠くに来たのは初めてだったので、その広さに驚いていた。
「…友達に自慢したいなあ。僕はこんなに遠くまで行ったんだぞって。こんな景色を見たんだぞって…。…ぅぐ…ぐす…」
少年は泣いていた。…もう、体の水分はほとんどないはずなのに。
「…もう少しだけ歩こう。そしたら一旦、休もうかな。…もう、疲れたし。」
そう決意して少年は再び歩き始めた。
しかし、少し歩いたところで少年は膝から崩れ落ちてしまった。
「あれ、おかしいな…。もう体が動かないや…。はは…。」
少年は意識が遠のいていくのを感じながら、自分の行く先を見ていた。
何か動く生き物を目に捉えながら、少年はまぶたを閉じた。
逃避行の行き着く先 早瀬茸 @hayasedake
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