童貞三昧

モダンヌ

第1話 初風俗

 初めてといっても本番なしの風俗での経験である。


 高校時代の友達の弟がデキ婚したことを知り、時間の流れの速さと共に23にしてまだ女を知らない自分に愕然とした。


 サイトから電話をかけると、関西風の気の抜けたしゃべりをする男が出てきて、なんだかつまらない気分になった。午後の6時半に予約を入れた。


 シャワーと歯磨きを済ませ、体を清潔にした。まだ実感はないが、これから女と触れ合うという事実が体の芯をほのかに熱くする。ポーチだけを肩に回した軽装でバスに乗り、店に向かう。


 バスの中には老若男女が乗っていた。その中にはカップルもいた。これからこのカップルと似たようなことをするのかどうか考えたが、よく分からなかった。


 バスを降り人混みの中を一人店に向かう。自分一人だけこの人混みの集団で浮いた存在のように感じる。流れに沿って人混みの中の1つになってはいるが、自分だけ違うところに行き着くと思った。


 日が傾き、空はオレンジ色を帯びている。光る店の看板が見えた。人通りの多い道に面しており、予約をしていなかったら入らずに素通りしただろう。平静を装い店に入ると階段があった。上には男がいて、半分登ったところで「いらっしゃいませ」と声をかけてきた。階段を登ったすぐのところに受付があり、コースを選らばされた。手元には1万円だけがある。指名なしの30分コースで9000円程だったのでそれを指摘したが、30分では短く十分に楽しめないという。40分コースにすると丁度1万円程度になるのでオススメと言われ、それに従った。


 待合室のような所で待つように促された。客は他に一人男がいるだけだ。テレビがおいてあり、野球が放送されている。窓は空いており、薄暗い夜の始まりの色を見せていた。雑踏がほのかに聞こえる。あと数分後には初めて女の体を見て、触れて、触れられて、絶頂を迎えると思った。少しモヤモヤしたが、平凡なものだと思った。


 店の男に呼ばれた。いよいよだった。奥の部屋に通されると女がいた。薄暗い中、顔がはっきりしなかった。金髪ショートで、少し老けた印象だった。思ったより顔が大きいとも思った。キレイだとも思った。簡単な会話をしながら、小さな部屋に通された。


 部屋は4畳くらいで、床の上にマットレスが敷かれており、あとはシャワーくらいしかない。会話をしながらが私は違和感を覚えていた。緊張もあった。でもそれ以上に実感が無かった。緊張は人と交流することへの緊張であり、女に裸を見せることや、女の裸に見て触れることはなんでもないような気がした。空間がそういう風な思いを起こさせるのか、そもそもそもこのような行為は私の肉体にとって、私が想像していたより平凡なものなのかも知れない。女と話しながら私は裸になった。女の前で初めて裸になった。今度は女が裸になった。乳房が露出した。私は女の乳房を初めて直接見るが、こんなものかと思った。部屋が薄暗いせいかもしれない。シャワー室に入り、裸の女と密着した。


 女は私の体を洗った。そのまま私のペニスに触れた。突然だったので驚いた。触られているという感覚は思ったより薄っぺらいものだった。大きくならなかったのは想定外だ。


 その想定外が虚しさを感じさせた。寂しさを紛らわすため私は女にハグを求めた。女は快く引き受け、裸の男女が密着した。だが女は空洞のように実態のない塊だった。焦っていたのかもしれない。緊張もあった。温もりのある情緒はなく、捉えがたい塊を抱いているだけにすぎない感覚だけがあった。シャワーを終え、体を拭いてもらった。促されるままに隣のマットレスの上で横になり、すぐさま女が私の上に跨りキスをした。数分間だろうか。私は頭を地面に当てたまま、口を動かしたりベロを出したりした。機械的な動作の繰り返し。女とタイミングを合わせるのが難しく、正解が分からない困難な作業だと思った。総じて無味無臭で味気のない体験だった。その後女は私の乳首をなめた。乳首の皮が動く感覚はあったが、興奮はない。「キモチいい?」と聞かれたので、二つ返事で肯定した。このときの自分の顔はさぞかしヘンテコなものだったと思う。


 女は私のペニスに触れた。手で触れて、動かした。この時にはすでに大きくなっていた。だが興奮は下半身だけのものだった。私は首を起こし女を見た。女は私のペニスを弄っている。この視覚の情報と体の感覚は結びづけがたいものだった。これも部屋が暗かったせいかもしれない。


 女は私のペニスを舐めた。金玉から舐め始め、やがて本体を口に咥えた。これは確かな興奮を伴った。再び首を起こすと、女の顔が股間を覆い、動く。動くたびに快感が広がる。液体をすするような音も興奮を呼ぶ。その後女は、私の体の横で伏し、乳首を舐めながら手でペニスを弄った。私の興奮の頂点は突然訪れ、「逝きそう」と言った。女は私のペニスを再び口に加え、私は女の口の中に精液を出した。


 終わった。女は、「突然だったね、敏感なのね」と言った。やはり私は早漏だった。だが女の前で勃たないという最悪の状況は免れることができて良かったと思う。その後余った時間で女と他愛ない会話をした。私は上手く会話ができなかった。早く帰りたいと思った。女は口数少ない私に対し会話を上手く繋いでいた。終わりの時間を告げるアラームがなり、最後にシャワーを浴びた。この頃には私のペニスは豆粒ほどになっていた。シャワーの間、女は何度か私の豆粒を触った。

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童貞三昧 モダンヌ @montana44

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