第56話 終焉の鐘
深くまでフードを被った誰かが、猛スピードでナイフ刃の柄を両手で持って突き刺しに来ている。
一撃に最大の威力を込めて仕留めに来ているのだろう。
しかしそれは、外せば大きな隙を生む諸刃の剣のようだった。
身長は小柄で子供のように見える。
暗殺としては付け焼き刃で教えられたような未熟さが伺える。
とは言え、一般人の暗殺ならば十分のスキルである。
刃の矛先は二人に向いているが、照準を定めているのは第一王女だった。
アレクは第一王女の前に立ち、照準を王女に重ねた。
相手は一瞬ためらうかのような仕草が見えたが、それでもそのままナイフの軌道は変わらない。
刃はアレクの腹部を目掛けている。
アレクは刃の柄を握っている暗殺者の手をその上から自分の手で押さえつけた。
そして相手の力を打ち消すかのように刃を反対の力で押し返した。
数歩後ろにずり下がったが、刃はアレクの腹部を突き刺す寸出のところで静止している。
相手は腹部に刺し込もうと柄をさらに押し込んでいるが、その刃はただ「カタ、カタ、カタ...」と震えた音を静かな路地裏に奏でているだけに過ぎなかった。
やがて力尽きたかのように、空しいその音は消え、相手はナイフを地面に落としたのだった。
落ちたナイフはレンガの地面と反響し、絶望している相手の前で終焉の鐘を鳴らしているかのように甲高く鳴り響いていた。
異世界最強の強さを隠すために弱いふりをするのは間違っているだろうか 木ノ葉丸 @chichimal
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