第48話 『骨身に沁みゆく』 いいの すけこさん

〇作品 『骨身に沁みゆく』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927861677216148

 

〇作者 いいの すけこさん


【作品の状態】

 完結済。


【作品を見つけた経緯】

 以前、当作品『問わず語りに作品紹介(カクヨム作品を読んだ感想文)』に、作者さんの『竜を追う人』を紹介したことがありました。その続編ということでしたので、気になって読んでみました。


前作:『竜を追う人』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894150636


【ざっくりと内容説明】

 主人公は、「竜追い」という職業に就いていた八神という男。


 彼は竜を捕らえ、肉や骨を売り、自分自身もその肉を食べることで生活をしていました。しかし、竜の肉を食べることを否定するイサナという少女と、わけあって共に生活することになり、今は「竜追い」をしない生き方をしています。


 そんな日々を送っていたある日、八神たちは過去に竜の肉や骨を売り買いするなどして、交流のあった家族と再会します。そこで彼らは「竜を狩ること」「竜を食べること」について、再び考えさせられるのです。


【感想】

 【作品を見つけた経緯】にも書きましたが、『骨身に沁みゆく』は『竜を追う人』の続編です。前作の『竜を追う人』を読んだ際は、異世界ファンタジーなので一見私たちが生きる世界とは別の話かと思われたのですが、よくよく読んでみると「食文化」や「捕鯨」「動物愛護法」などに繋がることを感じました。


 今回はその続編と言うことで、どんなお話になるのかと思ったのですが、前回感じた私たちの世界とのぴったりと当てはまる感じから離れ、異世界の話だからこその内容だなと思いました。


 八神は「竜追い」という職についていました。竜を狩って、肉を食べ、骨などは薬などにするなど、竜を余すことなく使っていたわけですが、イサナという少女に出会いそれを辞めます。イサナは人間の姿をしていますが、竜の子。つまり、竜を食す者たちにとっては食べ物というわけです。


 これを読んでいたとき『あらしのよるに』という絵本を思い出しました。

 嵐の日に出会ったガブとメイは、オオカミとヤギ。食う者と食われる者でした。でも二匹は共通することがあって、次第に仲良くなっていきます。しかし種が違う二人は、周囲の目からすると異質。ですからずっと秘密にしていました。

 食う者と何故仲良くなれるのか。食われる者と一緒にいて何故食べないのか。「友情」がない者にとっては、オオカミとヤギの関係は、食う者と食われる者でしかなく、仲良くなれるなど到底考えられない話なのですから、話せるはずもありません。


『骨身に沁みゆく』もそれと構造が似ていますが、内容はより複雑です。


 八神とイサナの関係は、『あらしのよるに』のガブとメイのように他の人には言っていません。

 竜を食べて生きている者たちにとってはイサナは食料ですし、八神は元々狩る方の立場の人間です。それが仲良くしているとなれば、周囲の人間がどう反応するのか。

 当然簡単には理解してもらえないことを、八神もイサナも分かっているのです。


 八神は、イサナと共にいるようになってから竜追いを辞めましたが、「竜追い」という職種自体はなくなりません。竜を狩ることによって収益を得ている人もいますし、生かされている人もいるからです。


 この物語では、八神とイサナが竜の骨を使った薬を作る親子と出会う話が描かれていて、複雑な思いがあります。親子には罪はありませんし、彼らと距離を取るような態度を見せるイサナに対しても寛容で優しいのです。その優しさに触れたイサナの複雑な気持ちはいかほどのものだったでしょう。


 解決する先が分からず、どうしていいか模索し続ける生き方を選んだ八神とイサナ。この二人が、少しでもよい未来になることを祈りたいものです。


 今日は『骨身に沁みゆく』をご紹介しました。

 それでは次回、またお会いしましょう。

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