第184話 女奴隷、裏事情を知る
※今回はジケッド村から連れてこられた女奴隷リエン目線の話です。
ユキという名の女は、人の皮を被った化け物だ。
外見は私と変わらない年頃の少女にしか見えないのだが、幼馴染のニナムの首を片手で掴み、軽々と吊り上げてみせた。
ユキの握力は尋常ではなく、道端に転がっている石を平然と握り潰して砂に変えてしまう。
ニナムが全力で叩き付けた鉈も、素手で受け止められてしまった。
鉈の刃が当たる前に掴んだのではなく、刃が手の平に当たっているのに切れないのだ。
その上、ユキは指二本で刃を抓んでいるだけなのに、ニナムが両手で鉈の柄を掴んで引っ張ってもビクともしなかった。
ユキの肉体は人に似て作られた化け物の体だが、頭の中身は悪魔だった。
ニナムが捕まった夜、私はキジマと共にユキに呼び出された。
異様な姿で床に転がされたニナムに言葉を失っている私に、ユキが命じて来たのだ。
「あの男の命を助けたければ、身も心も木島に捧げなさい……これから私の言う通りになさい……」
ユキの要求は、私の想像を絶するものだった。
村では年上の女性から、性についての知識を教わる。
女と男の体の違い、どうすれば子供が生まれるのか、どうすれば男は喜ぶのか、どうすれば自分も快感を得られるのかなど、時には自分の体を使って教わる。
だから私は女と男について知った気になっていたし、キジマとの行為に痛みと嫌悪感しか抱かなかった理由も分かっているし、改める気もなかった。
だが、ユキの要求は私の……いや、村の女達の知識の知識の枠から大きく外れたもので、行為を想像するだけで恥ずかしくて死にそうだった。
「嫌ならべつに良いわよ。あなたが失敗する度に、村の子供を一人殺してあげる。村の未来を守るためなら本気になれるでしょ?」
私がユキの要求を満たせなければ、村で一番若い命が失われる。
最初は二週間前に生まれたばかりのメーゼルさんの赤ちゃん、次は先月生まれたオデットさんの赤ちゃん、次はもうすぐ生まれそうなノーマさんの赤ちゃんかもしれない。
お産がどれほど大変で、どれほど危険を伴うのか、私ぐらいの年になれば知っている。
それだけに、授かる子供の大切さも良く分かっている。
尊い小さな命を守るために、私は自分の心を殺すことにした。
着ていた服や下着を脱ぎ捨てながら、自分で自分に言い聞かせる。
「私は淫売、村一番の……国一番の淫売、喜ぶの、恥ずかしく淫らな自分を喜ぶの」
幼馴染のニナムが見守る前で、キジマというゲスに犯され、私は歓喜の叫びを上げた。
何もかもを忘れ、気を失うまで、ひたすら性の悦楽に溺れた。
その日を境に私は、昼は従順、夜は淫らな女奴隷となった。
ゲスのキジマは、さぞや喜ぶかと思いきや、毎晩私を犯しながら、すまない……すまない……と繰り返し謝罪を口にした。
謝るぐらいなら村に帰してほしいし、薄っぺらい謝罪は私が淫売に変じるのに邪魔でしかない。
抱かれる度にキジマが嫌いになり、そのキジマに犯されて喜ぶ自分に酔うしかなかった。
村を出てからも、ユキは顔を合わせる度に囁きを残していった。
「私の部屋に聞こえるぐらいよがりなさい……」
「一晩に一度なんて許さないわよ……」
「気を失うぐらい達しなさい……」
まるでキジマとの行為を見られているように囁かれる度、ニナムの前で犯された夜を思い出させられた。
いっそ気が狂ってしまえば楽になるのに……なんて思っても、正気を失えずにいる。
村を離れて、ワイザールという街の駐屯地に着くと、キジマの仲間の男が私の体を求めてきた。
いよいよ、何人もの男達に犯されるのだと思いきや、キジマが烈火のごとく怒り、私の貸し出しを拒絶した。
意味が分からなかった。
奴隷とは人の形をした道具で、貸し借りされるのが当たり前だと思っていたのに、キジマは貸し出しを拒否しただけでなく、四六時中側にいるように命じて……いや、頼んできた。
それでいて、夜になると快楽に憑かれたように私を犯すのだ。
ワイザールの駐屯地に着いてから、少しずつキジマ達の置かれている状況が分かってきた。
初めは竜の討伐を命じられた傲慢なエリートだと思っていたが、そもそもこの国の軍人どころか、この世界の人間ですらないらしい。
女王が竜を倒すために、違う世界から魔法で呼び出した者達のようだ。
竜を倒さなければ元の世界に戻れないが、それすらも本当かどうか疑わしいそうだ。
これまでに、既に三人の仲間が命を落としているそうで、キジマ自身いつ死ぬかも分からないらしい。
「怖い……仲間が死んだ様子を何度も何度も夢に見るんだ……帰りたい……日本に帰りたい……家族に会いたい。自分が苦しんでいるのに……君を同じ目に遭わせてしまって申し訳ない……」
激しい行為の後で、眠りに落ちる前の微睡に揺られながら洩らしたキジマの本音で、ようやく謝罪の意図が分かった。
そして、キジマにとってもユキやサイゾーは化け物で、逆らえない存在らしい。
「あの二人は、竜なんかよりも危険だ……機嫌を損ねれば人が死ぬ……」
キジマは、もう一人の私だった。
逆らえない化け物に支配されながらも、それでも可能な限り私を守ろうとしていた。
たぶん、キジマが本物のゲスだったらば、今頃キジマの仲間たち全員に犯されていたのだろう。
ニナムの前で犯されたような屈辱的な行為を毎晩のように強いられていたのだろう。
それならば、私も演じ続けるだけだ。
キジマに犯されて喜ぶ、国一番の淫売奴隷を……。
ゲスモブ - 異世界召喚に巻き込まれたけどアイテムボックスに引きこもって日本へ帰る準備中。ギャルが居候してるけど何か質問ある? - 篠浦 知螺 @shinoura-chira
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